第114話 頑張ってきた理由
「うわー、すごいねみんな!私の戦ってた頃よりめちゃめちゃ強くなってるよ!」
完全に身動きが取れなくなった
正直、今回は相性の問題で完封できただけで、もっとこう、物理攻撃力高めな能力で攻められたら厳しかった可能性が高いです。
あの
え?私もネットでエース級扱いされてるって?私はシアちゃんが弄った謎の神造ゾンビなので別枠ですよ。
「うん、前に見た魔法少女も強かったし、もう私が頑張らなくても皆簡単には連れて行かれなくなったんだね……」
……寂しそうな表情で、でも嬉しそうに言葉を紡ぐ初代さんもど……いえ、わかってるんです。彼女が初代魔法少女そのものの人格と記憶を持ってるって。
シアちゃんと共有してる魔力感知能力のせいで魔物の魔力を色濃く感じ取ってしまっててどうしても初代魔法少女……と呼べなかっただけで……。
しかし、そうでしたか。
何らかの拍子でこちらの世界へやってこられた初代魔法少女が、なんというか見境なく魔物を狩り、助けに来るのは他の魔法少女達が心配だったからという単純な理由だったんですね。
……いや、毎回純魔結晶も回収してましたし生存の為の道具も回収できて一石二鳥ぐらいな感じだったんだとは思いますが。
そりゃ、魔法少女と魔物の関係が7年前の情報で止まってるんですもんね。当時は魔生対も発足して間もなく、魔法少女の運用も魔物への対応も上手くやっていたとは言えない状況だったのは想像に難くないです。
そこから、ザマさんがトップに座り、転移の魔法少女が加わり……で、つい最近私が加わったと。
分析班もデータの蓄積によって魔物の脅威度判定をしくじることは滅多にありませんし(無いとは言ってません)、ローテーションもしっかりしていて特定の魔法少女に負担が押し付けられることもありません。
当時の基準での強敵が現れる度に必死で現場に駆けつけてくれていたんだと思いますが、現在では普通に対処できる脅威度の魔物ばっかりだったんですよね。
「これなら、うん、私はもう居なくても……大丈夫かな?」
……だけど、そんな今にも泣き出しそうな表情で俯く貴方を必要だって、二度目の別離なんてしたくないって思ってる相棒が居ること、わかってますか?
「咫村崎センパイと一緒に、手紙、読みましたよ」
私の言葉に、清嶺さんは停止ボタンでも押したようにピタッと動きを止めました。
……あれ?なんか思ってた反応と違いますね?「私がもうすぐ消えるってこと、知ってるんだー」みたいな返しが来ると思ってたんですが。
「なんっ、な、なんでみなみん宛の手紙を魔女さんが読んだの!?さ、最後の奴まで全部読んだの!?」
あ、なんか最後に咫村崎センパイに向けてお別れの言葉が書いてありましたね?えっと確か……。
「……一緒に居た3年間は最高の日々でしたとかなんとか」
あ、耳が真っ赤になってます。
いや、そんなに恥ずかしがるセリフでしたアレ?布団に入った後に今私の後ろで控えてる2人から掛けられる言葉のほうがよっぽど恥ずかしいですよ?
いや、ガチで凄いんですよ、色んな意味で。
両サイドから競い合うように私のどこが好きなのかとかどういう所がかっこいいorかわいいとか耳元で囁かれる気持ちわかります?面映ゆくて居心地が悪いので即座に口を塞ぐ以外に取れる手段が無いんですよアレ!
……どうやって口を塞ぐか?両手に抱きつかれてる状態でですよ?取れる手段なんて一つしか無いじゃないですか言わせんな恥ずかしい!
あ、えっと、まだ手は出してませんが理珠さんだけにするとミラさんが拗ねるのであの、ちょっとだけ、はい……。
それは置いておくとして。
「もうすぐ消えてしまうと書かれていましたが、それは本物の清嶺沙璃耶さんの命が尽きかけているから、と言うことで間違いないですか?」
私の問いかけに魔物の清嶺さんは驚いたように顔を上げました。
「貴方は清嶺沙璃耶さん本人が、自分が居なくなっても魔物を倒せるように、魔法少女達の助けになるようにとの想いから生まれた魔物であり、魔物として生存するのに必要な魔力は本物の清嶺さんから吸収することで生きている。けど、本物の清嶺さんは幾度も行われた魔力吸収の影響かなのか魔力を生成する能力が消えつつある。それが、貴方が、魔物である写し身の清嶺沙璃耶も存在を保てなくなると考えている理由……であってますか?」
多分ですけど、魔物の方の清嶺さん。もう既に魔力的には結構な勢いで枯渇しつつあるんじゃないでしょうか?
そうでなければ、どんな魔法でも自由に使える最強の魔法少女が奇襲の際に消費の少ないであろう魔力刃形成の魔法だけで攻撃する理由がありません。
というか、私が別に本気にならないで倒せる程度の魔物に初代魔法少女が苦戦するのはおかしいんですよ。
「すごいね、最近の私の行動とあの文面だけでそこまでわかっちゃうんだ?」
生存方法やらはともかく、現在の状況に関しては私と咫村崎センパイの推論で概ね正解していたようですね。
「もう私はあの環境に適応しすぎて人間としての生活が出来ない身体になってるし、あちこちコワレちゃってて本当にもう無理なんだ。だけど、たった3年で居なくなっちゃったせいで、犠牲になった子も苦労した人もたくさんいるだろうからって、頑張って……みたんだけど……」
まあ、今の魔生対ありきの環境の整った万全な状態の魔法少女と、省エネ戦闘を余儀なくされてる上に衣食住全てが足りていないセイクリッド・スターでは前者に軍配が上がるケースも多いでしょう。
かといって、ここで貴方は強いですとか、本来の実力が出せてないだけですとか慰めても意味はないですね。その状況込みでも自分の力は助けになるはずだと思って戦闘していたはずなので。
「あの、一つ質問させて頂きたく思うのですが。初代魔法少女の人格を持つ魔物に対してであれば魔法少女の皆は喜んで魔力を提供するとわたくしは考えるのですが、清嶺沙璃耶様本人以外からの魔力は受け取っていただけないのでしょうか?」
む、確かに、別に本体からの魔力だけで生きてる必要って無いんですもんね。
現状の魔物の清嶺さんの命を維持するためと言えばみんな、特に咫村崎センパイなんて全魔力搾り取ってくれという勢いで魔力を提供しますよね。
「ありがたい申し出だと思うんだけど、それはやめておいたほうがいいかな。今だってね、貴方達がすごく美味しそうに見えてて……、我慢するのに必死なんだ。私が私以外の魔法少女から魔力を吸っちゃったら、多分もう我慢ができなくなっちゃう気がして」
人間の味を知った熊みたいな話ですね。
まあ、納得は出来ます。本体から吸う魔力は自分の魔力だから大丈夫だと言い聞かせて吸収してるのだと思いますが、進んで吸われに来た魔法少女のものであってもそのへんの言い訳が効かない行動を取ってしまうと
完全に人に害をなす魔物となった清嶺さんを魔法少女に討伐させるのもかなり酷な話ですし、これはやめておいたほうが良さそうですね。
「あ、ごめん。こっちに居るだけでもそれなりに魔力使っちゃうからそろそろ私は引き上げるね?だって、ここで消えちゃったら暗い空気になっちゃうでしょ?だから、バイバイ!」
あ……。
なんとか、魔物である自分を生かそうとする空気に居心地の悪さを感じたのか魔物の清嶺さんは空間を裂くとあっさりとあちら側へ消えてしまいました。
まあ、想定通りではありますね。
「シアちゃん?」
私の呼びかけに、はじめからそこに居たかの様に視界に現れる座敷童系邪神。
「うむ、全部見ておったので説明はいらんのじゃ。さて、早速魔物の世界とやらを覗きに行くのじゃ!」
あ、コイツ良くわからない生物の良くわからない世界を見に行けるっていうのでテンション上がってますね?
というか、あっちの世界で本物の清嶺さんの周囲にたくさん転がってるであろう純魔結晶目当てですね?
「重要なのはあちらの次元の本物の清嶺さんの状態とあっち次元そのものの詳細ですからね?『純魔結晶がいっぱい転がっておる!おひょーなのじゃー!』とか言いながら採集活動するのが目的じゃないですからね?」
「わかっておるのじゃ。ついでにアレじゃろ?あの魔物か元となった人間か、どちらかもしくはどちらも助ける手段を見つけろというのじゃろ?このシアシャル・グラゼに任せておくがいいのじゃ!」
自信満々でそう宣言すると、シアちゃんは魔物の清嶺さんが消えた裂け目と同じ位置をすっとなぞって再度空間の裂け目を作り出しました。
……何気にこれ専用の根源とか無いと私達には真似できない技術ですよね。
「それでは行ってくるのじゃ!」
買い物にでも行く気軽さでそう宣言すると、邪神はぴょいっと魔物の次元へと飛び込んでいきました。
なんか、不安しか無いんですが大丈夫なんでしょうか?
遠くで、「ところでオレはいつまでこのまま放置されるのだ?」と嘆く声が聞こえましたが気にしないことにします。
☆★☆★☆★☆
セヴンスさん、ミラさんに手を出すまで時間の問題では?というアレ
というか、手を出されたがってる相手なのでしょうがないと言えばしょうがないんですが。
ということでシアちゃんがあちらの次元へ突入しました。
魔物の次元がどういう仕組なのか判明しますね。
次回 空間全体を覆う触手が不快なので感覚遮断魔法を展開したのじゃ!!
アレ、出どころとなる作品は自分で魔法を展開してるのに最近だと穴の方に感覚遮断魔法が付いてるんですよね。まあ、そのほうが誰でも穴に落とせて話が作りやすいんでしょうね。
更新予定は5月25日21時の予定です。
よろしくお願いします。
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