第111話 雷禍の一刃
んー、初代さん早く来てーとは言いましたが、あの人実は良いタイミングで登場出来るように出待ちしてる説があるんですよね。
いや、この表現だと誤解を招きますね。
ピンチに颯爽と!みたいな良いタイミングじゃなくて、相手の隙をつけるタイミングの方です。咫村崎センパイも「サっちゃんはそういう事やる」って言ってましたし。
それがわかってるからこそ、あの奥の1体が戦闘に介入してきてない気がするんですよね。
逆に考えれば、一番奥のアレは仮面の魔物対策の概念を何かしら引っ提げているのでしょう。
となると、私達が動いて状況を打開するしか無いわけですが……。
何も無い空中を破魔の魔物とコピーの魔物が殴りつけた瞬間、破裂音が連鎖して私がこっそり巡らせていた
あの魔法を消し飛ばすパンチ、そこそこ広さの範囲攻撃かつ同調の魔物の能力で同じ魔法全てが吹っ飛んでしまうのがやりづらいんですよね。
何より、ただの魔物なら私の常套手段であるこっそり
中の人入りコピーの魔物、私達の戦術をしっかり勉強して対策を取ってきてる辺りとても嫌らしいです。
同調再臨してしまえば
……逆に言えば、そんな風に攻略法を選り好みできる程度には攻撃性能が抑えめで、私達にとって命の危険を感じるほどの相手では無いとも言えます。
多分ですけど、あのコピーの魔物。アレ、初代さんの根源をコピーして色々やってやるぜー的な感じでこの布陣を組んだんだと思うんですよ。
でも、仮面の魔物が中々出てこなくて魔法がコピーできてない状態で、仕方なく連れてきた魔物の概念をコピーして能力を使ってるんじゃないですかね?
あと、根源が未だに謎扱いされてる私の魔法はコピーが難しいでしょうし、そもそも装備が無いと発動しないミラさんの騎士団も使用は難しそうです。
後は理珠さんの魔法ですが、知覚不能かつ設置型の影藤の絡み根辺りを使われると怖いですが、理珠さんの魔法って基本的に詠唱が入るので何を使って来るか丸わかりなんですよね。
まあ、そんな感じで攻めあぐねていると、一度すたこらさっさと退避したはずの水雷天紅姫さんがいつの間にか戻ってきていました。
「ら、楽勝そうならそそそ、そのまま見てるつもりだったんですが、さ、流石に概念型5体とかと戦ってるの、ほ、放置して逃げ出すのは魔法少女失格じゃないですかぁぁ……」
心底乗り気では無さそうな声で呟いて、魔力を集中させる雷帝の魔法少女。
「だから、い、1発だけですよ?きょ、今日すごく調子がい、良いので、それ以上やると多分、たた、大変な事になりますからぁ……」
……ここまで、態度と纏っている魔力の圧がかけ離れた魔法少女も珍しいですね。というか彼女以外居ないんじゃないでしょうか?
『雷帝剣!』
紅姫さんが眼前にかざした左の手のひらにバチバチと放電するむき出しの
引き抜くにつれて現れるのは刀身が雷で創られた細身の日本刀。
それと同時に、周囲のビルや看板、信号から一切の光が消えました。
「うううう、ごめんなさいー、データ飛んだりしたらごめんなさいー!タイマーとか全部飛ばしちゃってごめんなさぁーい!」
そんな、めちゃめちゃ中二成分あふれるかっこいい刀を抜刀しながら涙目で嘆く紅姫さん。
あー、これ、紅姫さんの魔法で生み出す電気に加えて、周辺の電気も全部吸収・収束して刀にしてる感じです?
流石に生体電流は範囲外の様ですが、確かに街中でホイホイ使って良い魔法ではないですね。今まで、私が来たら即逃走してた気持ちがちょっとだけわかりました。
多分ですけど、彼女、どんな魔法使っても結果的に周囲の被害が酷いことになる感じなんだと思います。
「代わりにぃ、一番めんどくさそうなのは仕留めますからぁー!」
バチバチと放電する刀身を寝かせ、身を引き絞り、泣き顔で構える片手平突き。
ザマさんや私の世代にわかりやすく伝えるなら牙突の構えですね。
「その構え、突っ込んでくるんでしょう?カウンターで魔法ごと消し飛ばしてやる!」
破魔の魔物とコピーの魔物が拳を構え、間違いなく一直線に突っ込んでくる紅姫さんを迎え撃つ体制を整えました。
「あー、消されたら消されたでそのぉ、被害が小さくなるし別に良いかなぁ思うんですが……。そのぉ、貴方達程度じゃ絶対無理ですよぅ……」
それでも、その状況を前にしてすらやりたく無さそうにげんなりした表情を浮かべる紅姫さん。
その程度では止められないと、防げないと確信しているようです。
……いや、構図と魔法のかっこよさを全部台無しにしていく紅姫さんの言動と表情なんなんですかね?
細く息を吸い込んでいた紅姫さんが呼吸を止めると同時に、その魔法は放たれました。
「
そしてそれは、ボソリと呟かれた声が私の耳に届く、その前に全てを終わらせていました。
拳を構えた体の魔物の奥。
修復の魔物の胸にその純白の刀身のみを残し、文字通り
同時に、修復の魔物の胸に刺さった刃がそれを構成する電気全てを魔物へと炸裂させます。
耳を
……というか、威力高すぎませんか?結構な距離が離れているのにここまでビリっとした感覚が来ましたよ!?
で、「やっぱやめとけばよかったぁぁ」とか叫びながら再び逃走する水雷天紅姫さん。
……魔法はかっこいいんですけどねぇ。多分、本人が周囲の被害を気に病んでるからあんな感じなんじゃないでしょうか?
それはそれとして。
「なっ!?」
迎撃体制をあざ笑う速度の一撃で、まんまと修復の魔物を撃破されてしまったコピーの魔物が動揺も
この状況で一瞬でも隙を晒すとどうなるか、それを考えていない不用意な行動です。
ちらりと目を向けると、やたら禍々しい真っ黒な藤の枝が絡まりあった矢を構えた理珠さんと目が合いました。目を見るだけでお互いの狙いを察する辺り以心伝心でちょっと嬉しいですね。
というか、私の
多分、差異は
……あれ?
まあ、そんな魔法でも、修復の魔物がまだ生きていた場合、破魔の魔物で枝を全部除去した後の修復で普通に戦線復帰されてた可能性が高いんですが。
こいつらつくづく耐久寄りのPTですね。
ヒーラーを速攻で倒してくれた紅姫さんには感謝しておくべきだと思います。
で、残りの魔物の脅威度から考えて、恐らく理珠さんの標的は同調の魔物でしょう。
破魔の魔物は現状の情報だと攻撃性能が低そうなので、この奇襲チャンスを使ってまで優先して倒しに行く相手ではないです。
コピーの魔物もコピー先が無ければ何も怖くないですし、破魔の魔物だけしか残ってない状況に持ち込めばそうそう遅れを取る相手ではありません。正直、さっきの魔法を見てしまうと紅姫さんの雷帝をコピーされるのが一番怖いのですが、彼女また速攻で雲隠れしましたからね。
理珠さんが同調を狙うなら私は奥の謎の魔物に奇襲を掛けるのが良さそうですね。
奇襲を掛ける時は初手で全力をぶつけるのが最適解の方針に則って
「根ざし、育ち、広がり、穿て。其はかの宿り木の写し身なり、神を滅する黄昏の戦端なり!貫蝕の
詠唱に反応してコピーの魔物が理珠さんの方へ振り向きましたが一手遅いです。
放たれた矢は全ての認識をすり抜け、同調の魔物の喉へと突き刺さりました。
同時に、私も影から飛び出して謎の魔物へと斬りかかります!
「こっこだぁっ!」
……ちょっと待って、ここで登場!?
更に私と全く同じタイミングで逆方向から現れ、謎の魔物へと魔力の剣を振るう仮面の魔物。
それと同時にものすごく嫌な気配を感じて
後で地面が爆発しそうな気がしますが今はそれを気にしている余裕は無いです。
風に揺れるボロ布の奥で未だ正体の判明しない魔物がニヤリと笑みを浮かべたのが見えました。
あ、これ絶対不味い奴です!
☆★☆★☆★☆
紅姫ちゃん、根源との相性がシアちゃんが引くレベルで良すぎるため
「雷帝」の条件を満たす最低限度の威力の魔法を使っただけで、勝手に威力が膨れ上がって周辺の電化製品がぶっ壊れる可哀想な子なのでありました。
で、今回の様に収束すれば被害が出ないはずと思ったら周囲から根こそぎ吸って結局エライことになるという……。
なまじ、本人が善人で小心者のためあんな感じに。
多分、昭和初期ぐらいに生まれていれば向かうところ敵なしの世界最強魔法少女でした。
まあ、それでも夜の吸血姫は倒せないんですが。
さて、初代さんのタイミングのよろしく無さそうな乱入。
ニヤリと笑った魔物の能力や如何に。
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