第110話 概念型魔物のパーティ
空中に武器だけが浮かび、かつ整列して規則正しい歩幅で進軍していく様子は流石にちょっとシュールですね。
いや、目を凝らすと鎧姿のほぼほぼ透明な騎士達が武器を構えて進軍している様子が見えるんですが。
何でそっちへ向かっているかわからない……ということは、敵が偽藤御簾で隠れている方向がそちらなのでしょう。
悪意も敵意もなく、機械的に目的を果たそうとするが故に藤御簾内で芋って居ても見つけられてしまうと。実に単純にして理にかなった攻略法ですね。
そして、カルト教団がその攻略法を真似ようにも魔物の在り方そのものが魔法少女への害意で創られているようなものなのでどうしようもないと。
「……そういえば、魔物の魔力を持つ相手に対して無差別に斬りかかるんですよね?仮面の魔物があの御簾の中に居たら一緒に斬り掛かっちゃいません?」
ミラさんの魔法が良い出来だったので忘れてましたが、あくまで今回の目的は邪神に仮面の魔物を追尾させてあちら側を見てきてもらう事ですからね。
「えっと、ミラ程度の魔法で簡単に倒されるような魔物なのなら、きっと本物の初代魔法少女さんじゃないと思う。セヴンス達が正体を見極めようとしてるあの魔物、そんなに弱いと思う?」
む、たし蟹、沢蟹、タラバ蟹。
「それに、今はミラ達が認識できなくされてるから無条件での攻撃を命令してあるけど、姿が見えるなら個別に戦う相手を指定することも出来るの。だから、今はその辺りを考える必要はないと思う」
なるほど、私の杞憂だったようです。
ただ、ミラさんちょっと初代もどきさんに対してというか、今回の仮面の魔物騒動に対して乗り気じゃない感じなのが気になるポイントだったりします。
今度、理由を聞いてみましょうか。
おっと、騎士団というか武器の群れが次々と見えなくなっていきます。
そっか、例え自分達の使役してる魔法であろうがなんであろうが、あの御簾の中に入ってしまえば中に入ってる存在が全部味方でもない限り見えなくなってしまうんでした。
まあ、プログラム通りに動く騎士達はサボったりしないでしょうから別に良いんですが……。
「これ、ミラさんからも戦況が見えなくて実は微妙な状態だったりしません?」
「うん……。順調に戦闘してるっていうのは感じるんだけど、確かに何も見え無いのは問題かも。──対象変更!自分たちを除く、最も近くにある魔力構造物!」
ミラさんの命令変更で、対象を魔物から藤御簾そのものへと騎士達の矛先が変わりました。多分。
……だって見えないんですもーん。
それから数分でしょうか?
仮想の騎士達にボロボロにされた藤棚が効果を維持できなくなったのか、魔物達の様子が見えるようになってきまし……、なんか人数多くないです?
私達が藤御簾の中を見通せないからって、中に魔物を追加で呼び集めてましたね?
その数なんと5体!しかも、きっちり全員概念型で揃えてきてやがります。
……いや、真面目にちょっと勘弁してほしい戦力なんですが?
というか、藤御簾の展開自体コレを隠す為の戦術だったわけですね?
魔物の1体が手近にあった藤の花を手折り、何かの魔法で火を付けました。
同時に炎に包まれる理珠さんの展開した藤棚。
で、こちらの展開している藤御簾対策もしっかりしてあると……。
なるほど?同調の魔物とでも呼びましょうか。見立てで攻撃してくるのは中々に厄介ですね。
というか、共通点を見立てて同じダメージを与えるとしたら、あの騎士団の魔法なんてカモでしか無いと思うんですが、何で無事なんですかね?
あ、ほらなんか攻撃されてますよ?
「大丈夫。あの騎士達、実は剣を持ってる手しか存在してないの。それ以外の部分は全部幻で、気が付かないと延々と無駄な攻撃をし続けることになるの。ほら、あんな感じで」
ミラさんに指さされた方を見てみれば、ハルバードを振り回す騎士に向けて同調の魔物が炎の弾丸浴びせ掛けますが騎士の方は一切の反応を見せていません。
「弾が全部奴の身体を突き抜けてしまうぞ!?」
ほら、思わず藤花と静謐の魔物さんが驚いて叫んじゃってるじゃないですか。
ん?今喋りましたよね?
なるほど?5体も魔物が居るなら指揮官は必要でしょうからね。恐らく、例の死体が残った超能力芸人と同じく服を引き剥がせばどこかで見た顔をしているのでしょう。
ということは、もしかして今回死体が残るケースです?
いや、それ以前に……。
「概念型が5体、戦力的には撤退推奨基準を満たしておりますが、セヴンス様どういたしましょうか?」
そこなんですよねー。統率された概念型5体とか正直めんどくさすぎて相手にしたくないです。
というか、どんな概念の魔物なのか選んで作れるあの教団の性質を考えれば今回の集団だって絶対お互いでシナジーが発生する組み合わせなんでしょう?
好きな概念型の魔物を組み合わせて最強のデッキを作ろう!じゃないんですよ全く!
「まあ、とりあえず矛を交えて考えますか。ヤバそうだったら逃げましょう?」
「わかりました。援護はお任せください」
「じゃあ、ミラが撹乱担当ね?」
まあ、そういう事になりました。
「
ミラさんが新たな司令を出すと同時に、亡霊騎士達の動きが明らかに変わりました。
ただ、目標に向かって最速で武器を振り下ろす動きから、対象に対して如何にして大きな被害を与えつつ自らの身を守るかを考えた剣術の動きへと。
……あ、一部例外はありますね。大太刀を持った2人は明らかにコレ示現流です。身を守る術なんて考えちゃいない動きです。
声が出せるなら絶対、
「んふふ、すごいでしょ。ミラ、いろんな剣術の流派を勉強して騎士達がそれを振るえる様にしたの。そりゃ、本物の剣術家の人達から見たらお遊戯みたいなものかもだけど、出来る出来ないで戦力は大違いなんだから!」
いや、確かにすごいです。
私の
それに比べて、この
あ、ほら、同調の魔物が攻撃が当たらず焦っていたところに、後ろからざっくりと袈裟懸けに斬りつけられました。
あれ?この状況に私と理珠さんが支援を入れれば順当に戦力削って行けるんじゃ?
などと思えたのはわずか数瞬でした。
魔物の1体が手を翳すと、時間が巻き戻るように傷口と服が治っていきます。
うぬう、ヒーラー完備とかほんっとめんどくさい編成にしてきやがりましたね。
とりあえず、アレは修復の魔物とでも呼びましょう。
ヒーラーが居るならアタッカーの魔物も居るでしょう。
んー、アレかな?
パァンという破裂音と共にハルバードを持っていた亡霊騎士が跡形もなく吹き飛び、ハルバードが地面に落下して重い金属音を響かせます。
存在しないはずの胴体含めて一気に全部吹き飛ぶのはどういう原理なんでしょうか?
ミラさんが魔力を注ぐと再度空中にハルバードが持ち上げられ……。
はいパァン。
「こいつ!魔力構造にダメージとかそういうの無視して魔法そのものを吹き飛ばしてるみたい!面倒くさい!」
ふむ、名付けるなら破魔の魔物でしょうか?
吹き飛ばされる度に再生していますが、パンチ1発でふっとばされる分再生よりも削られる速度のほうが早くなってきてます。
もう少し騎士達が減ってしまうと私達の方に矛先が向きそうですね。
「面倒くさいのはそっちでしょ!?何度倒せば魔法が消えるのよぉ!?」
藤花と静謐の魔物も戦闘に参加し、破魔の魔物と同じ様に正拳突きを繰り出し……。
パァン。……あれ?アイツもしかして藤花と静謐の魔物とかじゃなくないです?
「こうなれば、まとめて吹き飛ばすまでよォ!同調も借りるからっ!」
今度は、剣を持つ魔物をパァンと正拳突きで吹き飛ばす中の人入りの魔物。
それと同時に、長剣を振るっていた騎士達が同じ様に弾け飛びました。
破魔の概念に同調の概念を乗っけた感じでしょうか?
やっぱこれ藤花とか関係ないですよね?これコピーの概念かなんかでしょうか。
前衛が破魔でヒーラーが修復、なんやかんや絡め手を使ってくる同調に、足りない部分の補強を務めるコピー。
奥でまだ動いていない1体を含めると相当厄介な布陣ですよこれ……。
仮面の魔物さーん、早く来てー。
……いや、それでも人数で負けてるんですけど。
☆★☆★☆★☆
タンクが居ないとシャキらないはずでは……?
なんて戯言はともかく、概念型5体(内1体は中の人入り)という中ボス戦です。
ヒーラーとアタッカーとバッファーは居るのでそこそこいいバランス。
さて、PTを潰すにはまずヒーラーから殺れとはよく言われますが、セヴンスさん達はどの様にこれを攻略していくのか。
次回、ヒーラー即落ち
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