第108話 だから、現場を見てきてください

 「だ、だから言ったじゃないですか!全力で動いたら確実に壊れますって!じょ、徐々に負荷を強くしていくわけにはいかなかったんですか!?機械が壊れるのは、えっと、問題ないとは言えないですが、許容します。でで、でも!接続部からこここ、こんなに出血しちゃってるじゃないですか!」

 む?開発部の前まで来た所でおっぱいさん……違いました、札月さねつきさんの優しさあふれるぷんぷん声が聞こえてきました。

 んで、現状機械が壊れる事で怪我をしそうな魔生対所属の人物とか一人しか思い浮かびませんよね。

 とりあえず、修羅場ってる雰囲気でもなさそうなので普通に入室しましょう。

 

 「どうしましたー?何揉めてらっしゃるんですかー?」

 で、入った途端目に入ってくるのは、どたぷんさんがばるんばるんさせながら下半身を銀色のスライム……というか水銀ですね。に埋めたままの右ストレートさんに説教している様子でした。

 傍らには足首部分が砕け、生身との接合部が赤黒く汚れた義足が転がっています。

 開発部隣の実験場への扉が開きっぱなしであることを考えると、まあ、説教の内容通り右ストレートの魔法少女、左さんがやりすぎて義足を壊した挙げ句に怪我をしたのでしょう。

 治療と拘束を兼ねて銀色のスライムに埋まってる左さんがすごくシュールです。

 あと、実験場でエラさんが例の車椅子から高所へ登っていくのが見えたんですが見間違いですよね?

 

 「もうしわけない思いは当然あーりーまーすーがー、あれで私の3割ちょいの機動なんですよー。確かにー?上手く着地しないと衝撃が全部義足と接続部に行くっていうのを忘れてた私も悪いんですがー?3割程度のパワーのジャンプで壊れてしまう義足さんの方にも問題があると思いまーす」

 あー、走る、ステップを踏む、程度ならともかく大ジャンプしちゃったんですね。

 「それにですねー?予備の義足なら後5セット貰ってますしー?この程度なら大丈夫ですよー」

 うーん、左さんケラケラ笑ってらっしゃいますが、多分怒ってるのは怪我したって部分ですよ。ちょっと特大の雷が落ちる前に距離を取りましょう。

 なお、理珠さんは揉め事の原因を把握した時点で他の面子を連れてサクッとシアわんこ側へ移動しています。

 

 で、後ろでぎゃーぎゃー言ってるのを尻目に私も研究者さんチームの方へと向かいました。

 「……そうなると、セヴンスさん達に適用できなくなる。複数持ちの人はどうするの?一つの要素より全体の方が汎用性高いと思う」

 「いや、それはやつがれも理解しておるのじゃ。じゃが、こちらのほうが構造が単純ですぐに試作出来るのじゃ。開発に何年もかかる高性能品より今はすぐに使える単一機能品の方が必要度は高いと思うのじゃが?」

 えーっと、さっき操られていた抜け殻の少女とかそっちのけで話していた強化アイテムっぽい奴の話でしょうか?

 ……とても興味はありますが、シアちゃんには先にこっちの疑問に答えてもらいたいんですよね。

 というわけで、雛わんこの口にザマさんの執務室から失敬した佐賀県銘菓 小城の昔羊羹をぶち込みました。

 外側を硬い砂糖の層でコーティングされた羊羹1本丸ごとは食べごたえがあるでしょう?だからちょっとだけ会話に割り込ませてくださいね?


☆★☆ 


 「は?なんじゃそれ知らんて。こっわ!」

 知ってました。

 いや、その反応は正直予想通りではあるんですが、もうちょっと考えてくださいよ。

 「いや、可能性として存在し得る事象であることは認めるのじゃ。ついでに言うなら本体も魔物の方も遠くないうちに自分たちは死ぬし、消滅すると考えておる理由も推測はついた。じゃが、その状況に当てはまる精神構造に理解が及ばなくて恐怖というか、怖気おぞけを感じておるのじゃ」

 ふむ?その状況を生む精神構造?

 「ごめんなさい、わからないの。説明していただいてもよろしい?」

 咫村崎センパイがガチトーンでシアちゃんに問いかけます。

 そりゃ、まじで相方が生きてる可能性が出てきた上に死期が近いとか言われれば鬼気迫る表情も出るというものです。

 

 「これはあくまでやつがれの推測であって実際にそうなっているかは不明じゃからな?はやまるでないぞ?」

 邪神シアちゃんがわざわざ忠告してから話を開始する時点で嫌な予感しかしないのですが?

 「あの仮面の魔物、ぬしら魔法少女やその当たりの一般人に襲いかかる素振りを一切見せぬであろう?しかし、魔物は魔物であり魔力を他者から奪わねば存在を維持出来ぬ。真っ当な善人としての人格を持つ哀れな魔物が、唯一と考える対象は?」

 「サっちゃん……自身……」

 「であろうな。壊れかけた人間が自分自身の写し身となった魔物に他者を襲わせぬよう、大量の魔力を奪わせておるのじゃ。そこの高価な娘の様に純魔結晶を根源と同調させることで魔力を生むなどという知識は持たぬじゃろうし、魔物の空間内部の魔力密度を上げるためだけに収集しておるのじゃろう。で、最終的には更なる根源核の損傷で魔力が生成できなくなって自分が死に、魔物の方も魔力が得られなくなって消滅すると」

 

 あー、なんかあの教団もやってたんで勘違いしがちですが純魔結晶これを身体にぶっ刺して魔力強化が出来たりするって知識は普通無いですよね。

 というか、そもそも純魔結晶を根源からの魔力で染めないと魔力生成機構にはなりませんし、根源の大部分を奪われてると思われる初代さんに染められるだけの根源要素が残ってなかったりする可能性もあるんじゃないでしょうか?


 「で、この推論が正しいとするならばあれじゃぞ。魔物に負けるまで必死に戦って、負けた後も根性で生き残って、自身が動けなくなったからと今度は魔物を狩る存在を作り出して自身を食わせて魔物を狩ってるようなものじゃぞ?どんだけ魔物を狩りたいのじゃ。例え魔物を狩ることで他者を守るのが目的だとしても我が身を犠牲にしすぎじゃろうてぇ……」

 おおう、なかなかレアなシアちゃんのドン引き顔です。

 

 んー、多分ですが、今の段階では魔物を狩りたいとか人々を守りたい!が目的なんじゃなくて、それをやっている間しか自我が保てないレベルに精神構造が壊れちゃってるんじゃないですかね?

 魔力がどばーっと抜けていく感覚はヤバい薬でもやってるみたいな快感ですし、それと同時に身体にアレコレされてたら、いくら精神保護の魔法があっても耐えきれなかった部分は壊れちゃってると思うんですよね。

 ほら、結構人間の精神ってすぐ変形しちゃいますし。私とかもゾンビになって以降死の恐怖とかほぼなくなっちゃってますからね。

 ……だからホイホイ自分の命を賭けのテーブルに乗っけちゃうんですよね。ちょっと反省。


 「で、結局そうなっていたとしてサっちゃんを助けることは出来るの?」

 真剣な顔でシアちゃんの話を聞いて、深刻な顔で質問を投げるセンパイですが……。

 「いや、わからんて。徹頭徹尾全部仮説じゃぞこれ!?あの樹に生っているりんごが明日地面に落ちたとして、それで作ったアップルパイは美味しいですか?みたいな質問じゃからな!?」

 うん、そうなんですよ。これ、あくまで手紙の内容から私達が勝手に予測した仮説でしかないんですよ。だからですね?

 「じゃあアレですよ。シアちゃんが仮面の魔物の入っていった穴について行ってですね?中身を見てくれば良いんですよ。偉大なる精神生命体ヴァタォーゴ様ですもんね?出来ますよね?出来ないんですか?」

 こうやって、シアちゃんにしておきましょう。


 「は?いや出来るが?舐めるでないぞ?これでも、一部惑星で神と崇められる存在ぞ?……そもそも魔物の作った異空間とか確認したい欲はあるし、これでこの娘どもに貸しを作れるなら悪くないやも……?」

 ほらチョローい。

 あとは魔物が最近の流れ通り、2箇所出現で襲ってきてくれれば……

 

 ──京都、金閣寺付近にて魔物発生。第二種群体・鳥型。魔力保有量から、特殊能力は無いと思われます。解析班からの指名はありません。魔法少女の皆さん、対処をお願いします──

 ──案の定もう一体魔物が出現しました。場所は愛知県セントレア空港近辺。概念型だと推測されます。魔力保有量からの脅威度予測は出来ません。魔女セヴンス及び対応可能な魔法少女の皆さん、対処をお願いします──


 ……なんか、めっちゃ都合よく魔物も出現しましたね。

 もしかして、出待ちとかしてました?

 とりあえず、現場でちょっと時間稼ぎながらダラダラして、が到着してから倒すとしますか。

 しかし、最近のこの単調な二箇所同時出現。

 私なら慣れてきた今ぐらいのタイミングで策を弄するんですが、カルト教団はどう出ますかね?



☆★☆★☆★☆


まあ、議論だけしてても答えは出ませんからね。

せっかくなので邪神に労働の喜びを知ってもらいましょう。


設定に対して推測頂いて、視点が面白かったりありがたいんですが。

色々設定はありますがそれを解答やシナリオ内に記述してしまうと展開上邪魔になる可能性があるため、あえてふんわり処理でやってるケースがあります。

書いてて「こっちのほうが面白いじゃん」になった場合に矛盾が発生したりする奴ですね。

なので、世界設定に関しての質問には曖昧にしかお答えできません。

ご了承ください。


キャラ設定に関して?どうぞどうぞいくらでも質問してください。

好きな食べ物から寝る時の服装まで何でもお応えします。


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