第107話 別れの手紙と幽き希望

 「セヴンスさん……。ちょっと話があるのだけど、よろしい?」

 ザマさんブチギレの会議をなんとか〆て、私達も次の予定を処理しましょうかと立ち上がった所で、咫村崎センパイからお声がかかりました。

 これ、声音からして絶対厄介事ですよ。私の面倒は嫌いなんだセンサーにこれ以上ないレベルでビンビン来てます。

 「それは、セヴンス様だけにしか聞かせられないお話でございますか?」

 「セヴンスは今からミラ達と開発部に用事があるの。急ぎじゃないならミラ達の用事の方が先約なんだけど?」

 と、私が返答を返す前に両サイドから腕を取られました。

 なんか、咫村崎センパイに対してやけにガードが固くないですか?

 ちなみに、同じく開発部に用事がある邪神わんこコンビは私の様子を気にする雛わんこの手を引いてシアちゃんがそくささと脱出したのが見えます。

 おい邪神、そういうとこですよ?

 「とりあえず、私だけにしか聞かせられない話というのでなければ歩きながらでも話しましょうか。そもそも、咫村崎センパイだって戻る先は開発部でしょう?」

 まあ、そういう事になりました。


 「まず、こちらを見てほしいのだけれど、よろしい?」

 開発部へ向けて歩く私に向けてセンパイが差し出したのは3通の封筒でした。

 差出人はとある地方都市の市役所、別の過疎地域の図書館、更に別の地域の消防署と統一感は無いですね。

 宛先は の魔法少女フラウ・フライシュッツ様宛て……。

 ……あれ?センパイ、引退してるのでこの宛先おかしくないですか?センパイ宛なら伊豆の魔石研究所に送らないと届かないのでは?

 「あれ?日本の郵便物って必ず切手とケシインが押してあるはずよね?ミラ、この封筒に切手が貼られてない様に見えるんだけど」

 おー、ミラさん目の付け所が鋭い。確かに切手が無いです。となると、郵送で届いたのではなくお役所内の書類のやり取りを通じて届けられた封筒でしょうか?

 「……もしかして、中身はあの仮面の、セイクリッド・スター様からのお手紙でしょうか?」

 え?いや、まさかそんな……。


 「……そう思った理由を聞いてもよろしい?」

 今、ちょっと返答に迷いましたよね?ということは正解なんです!?え?マジで?

 「まず、あの仮面の魔物がセイクリッド・スター様本人であり、何らかの理由でつい最近やっと自由の身になれたものであると仮定致します。自分が知っている時より7年も先の未来。原因は不明ですが、自らの身体も魔物と成り果てている。となれば、最初に頼るのはやはりかつての相棒であった咫村崎様であろうと予想したのです」

 そう言いながらチラっと私の方に視線を向ける理珠さん。

 これは、そういう時が来てしまったら自分も頼りますからねという意味と、同様にそういう時は自分を頼ってくださいというメッセージ?忠告?脅迫?ですね。

 「そして、セイクリッド・スター様が魔物発生時の通信妨害を利用した警戒システムの開発に深く関わっていたという話も聞いたことがございます。つまり、セイクリッド・スター様本人であるならば警戒網の穴をついて他者へ手紙を託すことは可能であると推測いたしました」

 

 あー、なるほど私にも読めましたよ。

 手紙の差出人住所が過疎地ばかりなのは多分、ある程度以下の人口の地域からの通信障害は一定時間経過しないと魔物発生のアラートが適用されないとかそういうのなんですね?

 まあ、確かに田舎だと基地局も少ないでしょうし、偶然何台か同時に障害が出て止まっただけとかの可能性も考えられますからね。それを考慮したシステムの穴を突いた形でしょうか。

 で、手紙を託した……いや、置き手紙か何かにしたんですかね?流石に人の目にさらされた状態で手紙を渡したりしたら即日大騒ぎでしょうし。で、置き手紙にした為にいたずらとして処理される可能性を考えて複数の手紙を出したと、そんなところでしょう。

 で、受け取った人も書き置きか何かで最近噂の初代様絡みと理解して「こりゃ大事だ、郵送なんて怖くて出来ん!」って感じで処理されて今に至る感じでしょうか?

 

 「最近の魔法少女はすごいのね。少なくとも、私の現役時代だったらそこまでの推測は組み立てられないでしょうね。素直に賛辞を送りましょう」

 真面目な表情で手をたたき理珠さんを褒めるセンパイ。

 ……なんでか私も誇らしくなってるんですがほんと、なんででしょうね?

 「で、差出人がわかったとして、どうしてその件の相談を私に持ちかけたんです?」

 だって絶対重要な事が書かれてる奴じゃないですか。なんでこんな、初代魔法少女と一番関わり合いが無さそうな私に水を向けるんですか?

 

 「それは単純に、セヴンスさんとミラさん、エラさんはサっちゃんに対して何も思い入れが無いでしょう?だからこそ、主観の入りこまない冷静な意見が聞けると思って。よろしいかしら?」

 あー、はい、なるほど。確かに初代さんに思い入れとか一切ないですね。なにせ最初期の活躍をTVでみた事がある、以上の接点が無いですからね。強いて言うなら、その姿にボンテージを着せて現れたクソ魔物をぶち転がしたぐらいでしょうか?

 とりあえず、3通とも同じ内容のようなのでそのうち1通を頂いて目を通します。

 

 ──みなみんへ。

 今活動してる私は、本物の私ではないです。何時消えるかもわかりません。

 あの、魔物の次元に囚われている清嶺沙璃耶は、もうすぐ終わります。魔石を集めているのは私が消えないようにするためのあがきで、悪いことには使いません。

 伝えたいことはいっぱいあるけど、この世界に長く居られなくて……。

 だから一言だけ。

 一緒に居た3年間は最高の日々でした。ありがとう!そして、バイバイ!──


 ……これを私に見せてどうしろと?

 いや、違いますね。初代さんと関わりがなくて、湿っぽい部分を完全に切り捨てて考えられる人材だから私が選ばれたんです。期待には答えましょう。

 、これ、逆に言うとこの手紙を書いた時点では終わってないって事ですよね?

 ……そういえば、あのクソ女の魔物も初代魔法少女を殺したとは一言も言ってませんよね?絞り尽くした、とは言ってましたが。

 そして、絞り尽くす際に根源を奪えるとも言ってましたが、魔物ごときに魔法少女の根源が喪失したかどうかなんて確認する術は無いですよね?


 ……もし、私が初代魔法少女と同じ根源を持ち、魔物に拐かされて嬲られる状況になったとしましょう。

 最初に考えるのは自分の生存ですが、魔物は魔力をあらゆる手段で吸い尽くすだけで直接肉体に損傷を与えて来る可能性は低いはずです。

 ならば……、そうですね。「魔法少女」の根源が本当になんでもアリだったと仮定すればを最初に行使するのではないでしょうか?

 そして、その魔法が実際に機能してしまったら?

 根源核とやらが損傷し、そのダメージ分クソ女の魔物に根源が移り、絞りカス認定された時点で放置されたとしたら?

 

 魔法少女は、魔力がある限り餓死する可能性はありません。必要な栄養を魔力で補填するか、代謝を落とすかして変身を解かない限りは栄養失調の危機から魔力が身を守ってくれます。

 失意と悪意と死の魔物、あれ同族食いもしてたと思うんですよね。じゃないと悪意とか死とかの要素あんまり人間向けの根源じゃない要素入らないと思いますし?

 となれば、拘束された異空間に純魔結晶が転がってる可能性もあって……。

 あれ?これ、蜘蛛の糸を掴むような細い細い確率ですが、ワンチャンこっそり生き延びて居た可能性ありません?

 で、私があのクソ魔物を倒したから自由に動けるようになって……。いや、絞りカスと判断されるほどに身体は嬲られたでしょうから動けはしない可能性が高いですね。

 

 うーん?

 ……同一空間にある純魔結晶から非活性魔力が供給され続けて、それが初代さんの活性魔力に触れて変換されて……。

 変換の際にが生じて、他者の意思や思考が一切邪魔をしない空間でに対して自分を投影し続ければが生まれる可能性ってあるんじゃないですか!?

 仮面は、ほら、自分の顔って思ったよりはっきり想像できないじゃないですか。だから曖昧になって歪んでしまったものを隠すために装着していると考えれば一応辻褄は合います。

 あとは、異空間で生まれた魔物がこの次元に来られるかどうかですね。

 他の魔物はこの次元で生まれて、「おうちかえるー」って異空間へ移動していくわけですが、異空間で生まれてしまうとこっちの次元の座標とかわからないんじゃないでしょうか?

 まあ、わからないかどうかも実際はわからないんですが。 


 というか、今やってる推理全部仮定だらけでかつ、理論的な裏付けも一切取れないただの可能性の羅列なんですけど……。これ、思いついてしまえば思わず飛びつきたくなる仮説ではあります。

 そっとセンパイの顔色をうかがってみれば、淀んでいた目に期待を湛えているのが見えます。

 ああ、なるほど。だから私に話を振ったんですね?

 他の魔法少女なら飛びついてしまいたくなるこの仮説に行き着き、かつ冷静に対処できるからと。


 ……いやいやいやいや、謎に信頼しすぎでしょう!?

 正直仮説だらけで実際の可能性とかは一切予測できません。

 というか、私は研究者でも邪神でも無いんですからね!?

 「なるほど、一つ仮説は思いつきましたが、私では判断できないのでシアちゃんに質問してからでいいでしょうか?」

 私の返答に対して、センパイは力強く頷きました。


 おーい!助けてシアえもーん!

 魔物絡みはともかく、魔法少女システムには関わってるでしょ!?実際コレってどうなんですか!?




 

☆★☆★☆★☆

えー、気がつけば☆は2000を超え、作品ひょろわーの数も3000に迫る勢いで

思えば遠くへ来たものです。

いつも応援ありがとうございます。皆様の反応と応援のお陰で書き続けていられます。

本当に感謝感謝です!


で、初代様ワンチャン生存説です。

あ、タイトルはかそけき希望と読みます。

淡く消えてしまいそうなほど の意味ですね。

今はただ、セヴンスさんとみなみんの思いつきの先でしか有りませんが

この仮説にシアちゃんはどう答えるのでしょう?


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