第106話 案の定一番怒ったのは……

 あの後もキレ続け、ちょっと女の子が口に出しちゃいけない暴言を連発し始めた転移の魔法少女さんはとりあえず国家機密さんにまかせてきました。

 ……いや、あの子もあの子でブレーキ掛ける様子が一切なかったのでアレなんですが、まあ、被害を受けるのはあの魔物崇拝者カルトだけだと思うので良しとしましょう。

 というか、ブチギレた後の様子がちょっと近寄りがたくて逃げてきたというのが正解なんですが。

 あ、映像は気を利かせたセピア・フィルムさんが持たせてくれました。

 ザマさんの許可を取って魔法少女たちの前で上映する流れになるんじゃないかと思います。


 で、ザマさんに相談しに行った結果ですが。

 「プロジェクター準備オッケーよ。しかし、なんで彩月さんまで一緒に見る事になってるの?」

 「いや、だって比良坂さんが取り乱すほどの事態になったんでしょう?責任者として、大人として何かあったら皆を落ち着かせる程度の威厳は持ってると思うんだけど?」

 と、なんか会議室で皆と一緒に見る流れになりました。

 一応、先に確認してから皆に見せるって流れの予定だったんですが、なんか今日は忙しくて時間があまり無いらしくこんな流れに……。


 「……ザマさんザマさん、魔生対ここに3年以上在籍してる子のケア重点でお願いします。知り合いが酷いことになってます」

 こっそりと耳打ちするとザマさんがしかめっ面で初雪さんと如月さん、あと依霞さんを呼んで自分の近くの席につくように指定しました。

 特に如月さんはお隣ですね。恐らく、くだんの魔法少女と面識がお有りなのでしょう。

 で、恐らくですがその子とも知り合いなんじゃないかなーと思われる経歴の咫村崎パイセンは私の隣……に座ろうとして理珠さんとミラさんに牽制されたのでその隣に座っています。

 で、邪神とわんこが続くわけですね?

 あの3人が研究者さんチームで仲良しなのはわかるんですが、何で私の隣に座ろうとしたんですか?


 で、上映が開始されたんですが……。

 移動シーンとキャンプ設営は当然カットです。

 そのまま進んで、演説シーンからの再生となったわけですが、「邪なる神々に~」の部分で皆がめっちゃシアちゃんの方を見てたのがおもしろポイントですね。

 いや、その後を考えると笑ってられないんですけど。

 正直、何度も見たい映像じゃないんですよねアレ。

 そのまま、お笑いアカペラが流れて忍び笑いがこぼれ始めましたが、私はもう笑えないです。だいぶげんなりした表情なのを左右の二人が心配そうに覗き込んできてます。

 そしてとうとう例の場面がやってきました。

 

 ……最初に限界を迎えたのは、集団の様子を観察してメモを取っていたザマさんのペンでした。

 バギンッという破砕音に反応したのは私含めて彼女と面識のない魔法少女ばかり、残りの数人は……。

 「へぇぇぇ?なるほど?そういう事をしてしまうのね?それは、魔法少女の尊厳に対する冒涜でしてよ?」

 と、ゾッとするほど冷たい笑みを浮かべて顔の前で手を汲む初雪さん。

 「おk把握。これ、ヒメ相当キレてると思うけど私達の殴って良い相手とりぶん残る?」

 いつもと同じ無表情ながら、アレは処理していい相手だと断定しつつ自分の感情を解消するための当たり先が残るかを心配する依霞さん。

 「ふむ、なるほど?……魔法としての呪いはセヴンスくんが作っているから例外として、これは、既存の呪いを魔力を込めて行った場合のテストにちょうどいいと思わないかい?羽佐間室長」

 そして、メガネをキラーンとさせながら何やら怖い提案をしている如月さん。

 あと、完全にブチギレて顔真っ赤にしつつ年長者の威厳を保つために当たり散らしたりしないように必死に自制してるザマさん。


 結局ザマさんが一番キレるんかーい。

 いやまあ、魔法少女は娘みたいなものだからって心底大事に思ってるザマさんなのでしょうがないっちゃしょうがないんですが。

 そういえば、画面の中の彼女。藤由かなたさんでしたっけ?

 エヴゲーニヤに操られてた時のミラさんと同じく、大量の魔力を扱わされた反動で出血してますが、現状のミラさんって大丈夫なんですかね?胸の純魔結晶なんてあの埋め込まれてる純魔結晶全部足したサイズよりでっかいんですけど。


 ふと心配になってミラさんの方へ顔を向けるとガッツリ目が合いました。

 いや、私の方見てないで動画みましょう?

 とは言っても、ミラさんにとっては変身後の姿すら知らない他国の赤の他人ですからね、魔物崇拝カルトやべーとはなってもあの子の扱いでキレたりする要素もないのでしょう。というか、扱いだけならミラさんも相当でしたしね。

 で、私が少し下に視線を移すと何を心配してたのか理解したミラさんが答えてくれました。

 

 「えっと、あの子みたいに魔力が過剰に流れ込んで傷ついてやしないかってミラを心配してくれてるの?だったらそれは大丈夫よ。結晶から流れ込む魔力はね?自分の根源と同じ波長を持っているのなら好きにコントロール出来るの。ミラに埋まってる純魔結晶はセヴンスの根源の波長に染まっているけど、ミラの根源もセヴンスの根源が混ざってしまっているでしょう?だから平気、何の心配もいらないからね?」

 あーなるほど、自分の根源と同じ波長の魔力を生む純魔結晶なら自分で制御可能と……。

 ……今視界の端で雛わんこと邪神が「ねえ、純魔結晶を染めて、安全弁は設けるけど、強制的に限界量ギリギリを流す設定にして使ったら凄そう」とか、「なんと贅沢な!とは思うが、確かにこの星には潤沢にある資源みたいなものなのじゃよな。んー、どうなるかは計算してみぬとわからぬが、面白そうなのじゃ。一度作ってみるのじゃ!」とか、楽しそうにヤバそうな会話してるシーンが映りましたが気にしないことにします。というか、ツッコんだら多分実験に巻き込まれて酷いことになります。


 と、ミラさんと話してたら今度は理珠さんからクイクイっと袖を引かれました。

 「はいはいどうしました?」

 振り返ってみれば、やや困った表情を浮かべた理珠さんのお顔が有りました。相変わらず顔面が強い。

 「セヴンス様、恐らく今回葦亘理宇比売あしわたりそらひめ様が凄まじくお怒りだったと思うのですが……」

 はい、とてもとてもお怒りでしたね。恐らく彼女が野菜系の宇宙人だったら髪が金色になって逆だっていたのではないかというぐらいにはお怒りでした。

 ……あの、数メートルはあるであろうクソ長い髪が全部逆立ったらどっちかと言うとFirst comes rock……とか言いながら敵をぶん殴る成長した誰かさんのイメージが近くなりそうですね。

 おっと思考が逸れました。

 「そうですね、ちょっと心配になるぐらいにはお怒りでした」

 と、私の返答に対して理珠さんの形のきれいな眉が更に傾きました。

 

 「そこなのです。セヴンス様、葦亘理宇比売あしわたりそらひめ様が怒りに身を任せて無茶をされていたとしても、それはセヴンス様の責任ではございませんからね?恐らく、怒りに狂った様子を心配なされて幾度か様子を見に行かれるおつもりなのでしょうけど、セヴンス様にその義務はございませんからね?何もかもセヴンス様が抱え込むのは……ダメですよ?」

 基本的に諭すように話しておきながら、最後だけ耳元で囁いたの何でですか!?

 というか、行動パターンが完全に読まれてますね。

 いや、まあ、あちらには国家機密さんも居ますしそこまで心配してないから大丈夫ですよ。とは国家機密さんの関係で言えないというジレンマ。

 「まあ、大丈夫ですよ。あちらはあちらで頼る人が居るようですし」

 とりあえず、詳細は話さずに濁しておきましょう。


 んー、しかし、ザマさんまだ荒れてますね。

 あの状態でこの場を仕切れと言われても難しいでしょうし、私がしゃしゃり出ますかー。年齢もザマさんとの関係も皆さんご存知なので何でお前が?みたいに言われることは多分無いでしょう。

 映像もちょうど終わりましたしね。


 「ちょっと今会話ができなさそうなザマさんに代わって言っておきますね?私達は、あの最悪な魔物崇拝カルト共に最も後悔を与えられる手段で壊滅させる準備をしています。ですので、先走った真似はせずにいつも通り生活しましょう。大丈夫、ぶっ潰す時にはちゃんとみんな呼びますから。こんな許せない奴を襲撃して一撃で殺してしまうなんて、勿体ないでしょう?ちゃんと手間暇かけて、念入りに後悔させる手段を準備しますから!」

 私のまとめに、心底同意して頷く顔見知り組と、ちょっと引いてる白さん含む新人チーム、私の話しなんて聞いちゃいない雛わんことシアちゃん。

 そして、何かを決意した表情で私を見つめる咫村崎センパイ。

 

 あ、更に厄介事がある予感……。



☆★☆★☆★☆

残業との戦いになんとか勝ったので早め更新です。

大型連休?ねえよそんなもん!


ということで、非道映像上映会でした。

非道とか知らんが使えそうな技術だ!と盛り上がるわんこと邪神。

魔法少女パワーアップフラグかなんかですかね?

あと、セヴンスさんはこの後ザマさんをなだめるのにとても苦労しました。


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