第105話 転移の魔法少女 比良坂蜜の激怒

 はい、気を取り直してキャンプと称して何をやっていたのか調査していきましょう。

 だからほら、2人共そこでへたり込んでないで立ち上がってください。

 たかだかデコピン1発かましただけじゃないですか、になっていたとは言え……ね?

 「頭皮が消し飛んだかと思った……」

 「わたし、こんな痛い思いしたの初めてー。なんてことをするんだー。我国家機密ぞ?重要人物ぞー?」

 ぐだぐだ言いながらも立ち上がって準備を開始する裏方系魔法少女2人。

 私含めて3人で見やすいように大きめに開かれた空間の穴から木々に囲まれた駐車場が見えます。


 「ここが、最新のなんちゃら体験ツアーで使ってたと思われる駐車場。セピア、後は再現任せた」

 「はいはーい、まかされたー」

 セピアさんが手をかざすと映像が切り替わりました。

 いや、まあ、切り替わっても多少周囲の木々の葉っぱやらの様子が変わってるだけで特に何も無いんですが。

 流石に過疎地域の山中にある駐車場を頻繁に利用する人とか居ないでしょうからね……。

 「ぬー、このへんかな?」

 映像がものすごく早い早送りで切り替わり、バスが停車する場面が映されました。

 「でー、こっから荷物持って山の中に入ってって、設営して、それからなんかやる感じでしょ?そこまで早送りするから、みっちゃん追尾よろしくー」

 「おk、まかされた返し」

 で、えっちらおっちら大荷物を持って草茂る山中へ分け入る映像がしばらく続きました。


 目的地へと到着、テント設営、その後食事の準備を開始したのでそれが終了するまでサクっと早送り。

 食事が終わったら自由時間なのか、各々自分に割り当てられたテントへと入って出てこなくなりました。

 一応テントの中の様子を覗いてみましたが、ゆっくり休憩している感じでした。

  ……いやまあ、確かに荷物持って山の中歩き回ってキャンプ設営してと、だいぶ疲れてるでしょうからね。しかも、テント設営のために木々の間の草を刈ったり石をどかしたりと普通のキャンプ場なら必要ない作業が沢山ありましたし。 

この分だと、なんかイベントが開始されるのは夜とかでしょうか?


 で、日が暮れて真っ暗になる頃に何か動き始めました。

 ライトが設置されて活動するのに不足がない程度の光量が齎された中、全員が黒いゆったりとした服を纏って円陣を組みました。

 中心にいるのは3人。

 一人は30代前半ぐらいの女性。薄暗くてよく見えませんが、そこそこ美人さんだと思います。ただ、目がギラッギラしててちょっと怖いです。

 もう一人は50代……いや、髪がちょっとこう、可哀想な感じなので50代ぐらいかなと思いましたがもっと若いですね。40代前半ぐらいでしょうか?

 だいぶお肉が邪魔な体系なのがこのダボっとした服の上からでもわかりますね。なんとなくですが、さっきデータを盗んだPCの持ち主な気がします。

 で、最後の一人はフードを被っていてよくわかりません。身長は低そうなので女性だとは思います。


 「ここに集まりし覚醒めざめし者共よ、よこしまなる神々に連なる者へ反旗を翻し者よ!再び月の扉が閉じる日がやってきた!妾の使徒たる『なばりの月の巫女』によって新たなる神命しんめいが目覚める日がやってきた!」

 あー、目がイっちゃってますね。

 ……普通の新興カルトだとキョウソサマはお金儲けとかそういう即物的なモノが目的で幹部陣で信者から搾り取ってる的な構図になると思うんですが、これマジモンの狂信者集団なのでは?

 あと、多分邪なる神に連なる者って魔法少女の事だと思うんですが、邪神の使徒って意味では合ってるのが爆笑ポイントですね。

 隠の月の巫女ってのは多分そこのフードの子の事でしょう。

 んー、魔力を感じる……んですが、なんか異質な感じですね。

 例えて言うなら、色が無い?みたいな?


 信者達が地面にひれ伏す様なポーズで祈りを捧げ始め、なんかよくわからないことを叫び続けている演説は絶好調で進んでいきます。

 「此度降臨を願うのはかの者達に自ら死へと歩ませる自死の神命……。さあ、心を空にして妾の歌に耳を傾けよ……」

 最初の力強い声から徐々にトーンを落とし、囁くような声音で演説は終わりました。

 そこから、なんか教祖の人が歌い始めたんですけど、聞いたことのない言語かつアカペラは得意ではないのか微妙に音程がへにゃへにゃしながら歌われるものでこちらの一般視聴者3人は思わず笑ってしまいました。

 多分、あの声に乗せて精神感応テレパスで思考を操ってるんだと思いますがもうちょっとこう、なんとかならなかったんでしょうか?


 歌声に合わせて周囲のランタンが徐々に消えていき……というか、闇に紛れてお腹のおっきなおっさんがコソコソ動き回って消してますね。ご苦労さまです。

 逆に、隠の月の巫女と呼ばれた女性の左胸から肘の辺りまでが薄っすらと光を帯びました。

 そして、最後のランタンが消えるとともにおぼつかない足取りで前に進み出て黒い教団の衣装を脱ぎ去る彼女。

 ……歌声のおかしさに笑っていられたのはここまででした。


 裸身になった彼女の左胸から肘までびっしりと身体に埋め込まれた大小様々なサイズの純魔結晶があらわになりました。

 染められた魔力によって光を放つ純魔結晶は、表現が難しいのですが色のない光を放っています。

 その瞳に光は無く、その動きに意思は感じられず、まだ寒さの残る季節の夜に裸になって尚身じろぎすらしていません。


 直後に、私の背後で吐瀉物がぶちまけられる音と動いた拍子に何かにぶつかったのかそこそこのサイズの物が倒れる音が響きました。

 同時に、空間の穴が激しく歪んで形が崩れていきます。

 「みっちゃん!?大丈夫!?」

 振り返った先には、凄絶……としか表現できないこれ以上無い怒りの表情を浮かべた転移の魔法少女。

 「藤由ふじよしかなた……。根源は月、2年前に魔物に!あたしが!あたしが送り出した魔法少女!!!」

 噛んだ唇から血が滴りますが怒りが勝ってるのでしょう、気にした様子もなく再び安定した空間の穴を睨んで慟哭に近い声で叫ぶ葦亘理宇比売あしわたりそらひめ

 「コイツら!壊されて空っぽになった魔法少女に!あたしのせいで壊された女の子に何をしてやがる!」

 

 映像の中では、純魔結晶を激しく光らせながら左腕に縛り付けられている短杖の様な機械へと魔力を注ぐ少女の様子が映っています。

 恐らく、アレがエヴゲーニヤが造ったの発生装置でしょう。

 ……葦亘理宇比売あしわたりそらひめさんがキレてくれてるおかげで逆に私達は冷静になれますね。

 つまり、魔物に嬲られ、壊れて自我を保てなくなった魔法少女を精神感応テレパスで動かして魔力電池として運用しているということでしょう。

 外道にも程がありますね。どうしてこう、頭のネジが外れた人間は狙ったように邪悪な手段を選ぶのでしょうか?


 が広がり、魔物の発生に足るサイズまで急速に成長してきます。

 それにつれて膨大な魔力を注ぎ込む注入口となっている左腕の血管が損傷したのか少女の掲げた腕が赤く染まっていきます。

 同時に、教祖の方も大きめの純魔結晶……と、賑やかしの水晶が埋め込まれた球を掲げ、念動テレキネシスと思しき超能力で高く浮かべました。

 その後にその球体からも光が放たれますが、これは電気ですね。多分球体の内部にライトが仕込まれていて、念動テレキネシスによる遠隔操作でスイッチを入れたとかじゃないですかね?

 なんにしろ、何も知らない信者達からみればさぞ幻想的な光景でしょう。

 私的には醜悪さで吐き気しか湧きませんが……。


 やがて、が収束して明確な姿をとり始め……。

 ボロを纏った人型の魔物が作り出されました。恐らく、演説の内容から想像するに自死か自殺の概念なんでしょう。

 実体を持った魔物は一瞬、壊された魔法少女へと手を伸ばしかけますが教祖が手を払うと急に興味を失ったかのように彼女を視界から外し……。

 信者の中から4人、肉色の触手で掴み上げると異空間へと消えていきました。

 「データの中にあった選ばれし者って名簿はこれの事ー?確かにるんだけどさー……」

 一連の、あまりに邪悪な出来事にセピアさんもかなり引いています。

 

 まあ、なんにしろ……。

 「アイツら殺す!絶対殺す!社会的に殺して!精神的に殺して!物理的に殺す!絶対許さないからっ!」

 「そうだねー、みっちゃんはそうするよねー。大丈夫、わたしも協力するからサー?みっちゃんがやりたいようにやっていいからねー?」

 この、最凶の魔法少女2人に睨まれた以上、どうあってもこの教団と教祖が生き残る未来が想像できなくなりました。

 んー、一応無茶しないように定期的に様子を見に来ることにしましょうか。



☆★☆★☆★☆

敵の目的も何も、ガチの狂信者でお題目そのままだったというひどい話。


”まったく、ファ◯ナーやアー◯ナイツじゃないんですから”って表現を入れようとしたんですが

思った以上に比良坂さんちの蜜ちゃんがブチギレてて空気と合わなくなりそうなんで諦めました。

トラウマのど真ん中をぶち抜かれ、吐くほど精神を揺さぶられてるキャラの前でネタ表現は出来なかったんじゃ……。


なお、月の魔法少女は現役時代かなり強い方でした。

なにせ、月の力で戦う有名なセーラー服の美少女戦士というお手本が居たので。

最強キャラ議論でも頻繁に名前が出てくる程度にはやべー性能なのであの方。



 

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