第100話 魔物を狩る魔物
ずんずん増える魔弾の雨をぼーっと見ていたら外で理珠さん達と戦闘していた魔物の魔力が消滅しました。まあ、理珠さんが居るってわかってて藤御簾対策をして乗り込んできた魔物でなければ負ける要素はありませんからね。
なんか、カァオ!カォオ!っていう耳慣れたエネルギーライフルの発射音が聞こえた気がしますが気の所為でしょう、多分。
うーん、こちらも勝ちは確定してるんですけど手詰まりでも有るんですよね。
魔物を中心に乱舞する魔弾をイルミネーションみたいに眺めて楽しむぐらいしかやることがありません。
流石に十分だと判断したのか、咫村崎さんも念の為ザミエルくんは小脇に抱えつつシアちゃんの傍の椅子に座って休憩を始めてるぐらいです。
私もスマホゲーの周回でも始めてしまいましょうか?
って、魔物に電波妨害されてるんで出来ないじゃないですか。がっでむ!
そんな、戦闘中であるにも関わらずだらけた空気が流れ始めていた時、それは現れました。
降り注ぐ魔弾を防ぎ続けている反射の魔物のバリアの内側。
一番無防備であろう空間を裂いて、可愛らしい桜色のドレスを身にまとった少女が、足首に届きそうな長く美しい黄金の髪を靡かせる少女が、『最初の魔法少女』そのものの姿をした少女が、本人の証明とも言える輝く魔法の杖を持って現れました。
ただ、その顔だけは凹凸も装飾も一切存在しない、右目の部分にだけ穴の空いた仮面によって隠されています。
初見の印象?そりゃ当然、「また初代さんの姿の魔物ですか、芸が無いですね」って感じでしたよ。魔力自体は魔物の魔力でしたからね。
ところがですよ?
そいつ、『最初の魔法少女の魔物』は過度に可愛らしい装飾を施されたその杖から光の刃を生やすと、反射の魔物に斬り掛かったんですよ。
魔物を狩る魔物が居るなんて想定してませんし、そんな魔物が居たとして『最初の魔法少女』の姿であるなんて想像の埒外です。
最初の魔法少女の活躍をほとんど見ていない私ですら摘んでいたクッキーを取り落とすぐらいには驚いたんです。
最初の魔法少女の相棒の、かの魔物を見た時の咫村崎さんの感情はいかなるものでしょうか?
「サっちゃん!?」
魔法少女の魔物、魔物を狩る魔物は斬り裂いた反射の魔物の傷口から何かを抜き取ると、再度空間に裂け目を作って去ろうとしています。
消えゆく残骸に着弾する魔弾の雨をすり抜けるように最初の魔法少女へと手を伸ばしますが、相手が空間の裂け目へと逃げ去るのが僅かに早そうです。
「待って!止まって!ねえ、
この瞬間まで、私はアレは結局魔物だろうと、何かの拍子で最初の魔法少女の姿を写し取っただけの敵なんだろうと思っていました。
しかし、ソレは、咫村崎さんの、魔弾の魔法少女の、相棒の声に対して振り向いて、手を振ったんです。
いやまあ、最初の魔法少女の姿を写し取った意志を持つ魔物ということならそこまでは有り得る話ではあります。本物っぽい挙動で混乱させるための姿でもあるでしょうし。
でも……。
「みなみん、美人さんになったね!私とは大違い。でも、今日は待てないの。だから、またね?」
なんて、親しげに声をかけて来るなんていうのは想定外です。
少なくとも、理珠さんの心臓をぶち抜いてくれたクソ魔物とは違う何かです。
「沙璃耶ぁ!」
咫村崎さんも懸命に駆け寄りましたが、身体強化の魔法の出力が低さが災いし僅かに手が届きませんでした。
あとに残るのは消えた裂け目の前で泣き崩れる最初の魔法少女の相棒と、反射の魔物の残骸……残骸っていうか、コイツなんで塵にならないんですか!?
ちょっと、魔石と純魔結晶が一緒の物体なのか調べに来ただけなのにアホほど色んな出来事が起こって完全にキャパオーバーなんですけどぉ!?
とりあえず、人間の死体に見える反射の魔物の検死をいたいけな少女達にやらせるわけにもいかないので私がやるしかないでしょう。たまに忘れそうになりますがこちとら中身アラサーの社会人ですからね。こういうのは大人がやらないとダメですよ。
いや、放置して魔生対の担当者とかに任せるのも手ですが私自身もちょっと何事なのか気になるので……。
理珠さん達が駆けつけたら何を言っても手伝おうとするでしょうしサクっと先に終わらせましょう。
身にまとうボロ布を鎌の先でちょいちょいっと引っ剥がしお顔を拝見します。
出てくるのは驚きの表情で固まった男性の顔。土気色ではなく、なんか真っ白で死体っぽさは無いです。断末魔の苦悶の表情とかじゃなくてちょっとホッとしました。
というか、なんかこの顔見覚えがありますね?
最近見た顔ってわけじゃないですし、もっと昔の、ブラック企業時代にTVかなにかで見た気が……。
あ!名前は思い出せませんけど、アレです、なんかいわゆるオカルト系の番組で超能力者だって言って出演してた胡散臭い人です!
……いや、ここで超能力絡みの話とかやめて欲しいんですけど。
服も適当にはだけさせてみますが、外見上は普通の中年おっさんボディですね。あまりにも中年おっさんボディすぎてちょっと股間部分は何が有るか確認したくないレベルです。
一つだけ差異をあげるなら、というかその一つがとてつもなくどでかい差なんですけど、内臓が無いです。ダジャレじゃないですよ?
断面というか、魔弾の貫通した穴から覗くのは白っぽい色の何かがみっちり詰まった明らかに肉ではない物体。
まあ、魔物ですからね……。とは言えなくなってるのが現状なのでちょっとどういう事なのか判断に困ります。
っと、足音が聞こえてきましたしそろそろ服を戻して離れましょう。
「セヴンス様、ご無事ですか?」
「絶対もう終わってるって、ウィス姉さまは心配しすぎ!」
「しすぎー!」
ほら、
わかっていましたがあちらも全員無事なようですね。
……あの特徴的なカァオ!って効果音についてはエラさんを問い詰めたいところではあります。
問題はこの現状をどう伝えるかなんですよね。
咫村崎さんはしょうがないんですけどしばらく使い物にならなそうですし、全部私が説明するんです?流石に色々起こりすぎて私の中でも整理がついてないのに?
いやまあ、やりますけどね?やればいいんでしょう!?
あ、監視カメラとか無いですかね?映像が有ればそっちのほうが楽なんですが……。
とりあえず、監視カメラは設置されていたので避難から戻ってきた職員さんにお願いして映像を再生しながら説明しました。
最初の魔法少女登場で理珠さんがややげんなりした表情をしていたのがちょっと面白かったです。
逆にミラさんとエラさんは関わりがありませんでしたからね、魔法少女姿の魔物とかめずらしーって感じの感想だけでした。
逆に難しい顔をしてたのがシアちゃんですね。
私が反射の魔物の残骸から離れた後に駆け寄ってきて、反射の魔物の純魔結晶を探していたみたいなんですが……。
どうにも、あの魔法少女の魔物が抜き取って持ち去ったものが純魔結晶だったらしくてですね?
「ラフィーネン特殊結合状態の魔力で構成されておる魔物は純魔結晶を自らの魔力で染めることが出来ぬはずなのじゃ。なのに何故持ち帰った?そもそも、ラフィーネン特殊結合魔力だけで構成されておるはずの魔物が姿を残して死んでおるのもわからんのじゃが?というか超能力とかいうのもやつがれの知識にない謎のぱうわーじゃし、なんなんじゃほんとにこの星ぃぃぃ!」
と、頭をかきむしってのたうち回ってます。
んー、これは雛わんこを呼んで色々検証とか仮説の作成とかやんないとダメなやつですね。
あと、咫村崎センパイの状態が本気で不安定なのでちょっと魔生対で保護とかしたほうが良いと思います。ここの研究所の純魔結晶と一緒に。
少なくとも、また純魔結晶狙いで謎の喋る魔物が現れたり、あの魔法少女の魔物が悪意を持って咫村崎センパイ狙いで現れたりしたら恐らくまともに対処出来無さそうです。
おかしいですね?今朝出発する時はこんな、問題山積でどっから処理すればいいかわからないみたいな状態じゃなかったはずなのに……
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初代さんの相棒を出したのなら、初代さん絡みの話になるのは必然ですね?
なお、初代さんの名前は沙璃耶さん、さり「や」です。サリアじゃないです。
ライン生命の7000m上空から自由落下しても生きてるオペレーターでもなければ、非生物呪文に1マナ課税するヘイトベアーの申し子でもないです。
あ、あと魔弾の魔法少女はマスケット銃使ってる先輩魔法少女ですが、3話でパクっとやられたりする立場ではないので安心して大丈夫です。
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