第98話 アクシデントが群れでやってきた。

 とりあえず、立ち話を続けるのもどうなの?って感じの空気だったので座れる場所へ移動しましょうという話になったのですが、ちょっと私達の人数が多くて応接室だと手狭になると言う事で食堂でお菓子でも摘みながらお話することになりました。

 まあ、同じ職場を経験した仲ですからね。純粋な学者さんとか相手じゃない分お互い気楽なものです。


 しかし、ここまで移動する過程で思ったんですが……。

 「歩き方に違和感とかも無いですし、健康そうですし、何で引退しちゃったんです?」

 いや、右ストレートさんはわかるんですよ。そりゃ両足なくなったら引退しますよねって。

 他にも肉体的なダメージで引退する方、一度拐われてギリギリ帰ってこられたけど精神上もう戦えなくなって引退した方、単純に戦力が足りずにこのままだと魔物に負けると判断して引退した方と、そういう人はわかるんですけど。

 もしかして持病とかお持ちなんでしょうか?


 「理由としては単純で、話すと笑われてしまう可能性が高いのだけどね?頑張って我慢すると約束して貰ってよろしい?」

 あまりに神妙な顔で言われたので頷くシアちゃん除く4人。

 ……この邪神はまあ、感情の機微とかよくわかって無さそうなのでまあいいです。

 「私、元から近視で、変身時は魔法を使って視力強化をして長距離狙撃を肉眼でこなしていたのだけれどね?」

 ええ、今もですし、変身前の本人写真でいつもメガネかけてらっしゃるのは知ってます。かつ、魔法少女モードの時に鋭い視線で数キロ先の魔物の目をピンポイントで撃ち抜いたり、凍結する弾丸で手足だけ凍らせて初代さんのサポートしたりと活躍してたのも見たことがあります。


 「数年前から、その、眼が……乱視もね、入ってきてしまって……」

 はい?

 「変身前の状態なら乱視と近視対応のメガネをつければ問題ないのだけどね?視覚強化状態で、数キロ先も鮮明に見える様な強化を施された眼に合う乱視矯正用具は作れないと言われて……ね?」

 あー、多分ですが、元々の視力強化魔法が身体強化系じゃない特殊枠だったんじゃないでしょうか?見たいものだけズームで見せるみたいな。となると、魔法の定義は簡単には変えられないのでメガネやらコンタクトやらをしていると見え方が違ってくるみたいになるんじゃないでしょう。

 超遠距離からの狙撃が持ち味だった魔法少女がそれを失ってしまえば引退するのはしょうがないといえる範囲だと思います。

 

 「それにほら、新しく入ってくる子が皆優秀でね?それなら、私は魔力関係の研究者になって魔生対で勉強させてもらった分を恩返ししようかなってね?……まあ、誰かと違って新しい発想や魔力を使った何かの開発なんて出来なくて地味な基礎研究を支えることぐらいしか出来ないのだけどね?」

 いや、十分以上に偉いじゃないですか。少なくとも適当な大学を卒業してなんとなく入ったところがブラックで世間の役に立つ仕事をしてたとは口が裂けても言えない私よりよっぽど立派です。

 あと、何か知らんけどちょっとヒントがあるだけで新発見や新発明をぽこじゃか生み出す雛わんこが比較対象としておかしいだけです。


 「ミラは、その、すごいと思った。魔法少女として何年も戦って、引退してからも守ってきた人たちのためにまだ何かしようとするのって、本当にすごいと思う」

 うわ、ミラさんのおめめがきらっきらですよ!?

 「……そっか、魔力の研究をするなら魔力が見えてないとだものね。見えてれば、見えないで研究して事故を起こしたアイツみたいにはならないわけだし、研究者っていうのはアリかも」

 んで、小声でつぶやくミラさん。

 あー、なるほど。将来設計について毎日悩んでましたもんね、自分で決めろって言われても選択肢が多すぎてどうすればいいかわからないって。

 いいんじゃないですかね?魔力関係の研究職。まあ、数学が苦手とか言ってるのを克服する必要はあると思いますが。

 あと、邪神のやらかしで寿命が不老不死でマッハなので魔生対関連のとこに就職しないと戸籍とか色々めんどくさい問題が発生すると思うので……。


 「えっと、タムラサキ先輩。ミラ、今後相談する事もあるの思うので連絡先交換させてもらってもいいですか?」

 「あら、素敵な後輩さんが出来るのなら喜んで?」

 と、こちらはすんなり先輩後輩関係が成立した模様です。

 さて、横道に沢山それましたしそろそろ本題に入りますか。


 「で、えっとここに着た目的ってザマさんから聞いてたりは……」

 念の為の確認ですね。ザマさん、相手が私だといろんな作業をめんどくさがって省略しやがりますからね。

 「聞いてますよ?魔石の性質に詳しい方がいらっしゃるとかもね?そこの可愛らしい座敷わらしさんでしょう?」

 そうですね、可愛らしい座敷わらしの格好をした邪神ですね。

 「ええ、こちらのシアちゃんがその、魔法と魔物関連の出来事の元凶というか、こんなはずじゃなかった担当といいますか……」

 ……魔物に初代さんという身内の命を奪われてるわけですから、これを明かすと話がこじれる可能性はあるんですが話さないわけにもいかないんですよね。なんで純魔結晶とか知ってるの?って話になりますし。

 「へぇ……?」

 うっわ視線こっわ。

 シアちゃんの肩を持つわけではないんですが、魔物の発生が想定外だったことやらを伝えてなんとか話を丸く収めましょう。そもそも、他人がキレてる場面を見るのなんて楽しいものじゃないですからね。




 「なるほど?私としては何一つ許せる話じゃないけど、ここで私が怒っても誰も得をしないのね?わかりました。『今、この場』では怒りを抑えますね?後ほど、暇な日にその子をお借りしてもよろしい?」

 アッハイ。シア=チャン、サヨナラ!

 「で、こちらがこの研究所で保管している魔石の一部ですね?シアシャル女史の言う純魔結晶と同一の物か確認していただいてよろしい?」

 そう言って、咫村崎さんはポケットからいくつかのフィルムケースを取り出してテーブルの上に並べました。

 ……ところで、今の若い子ってフィルムケースって言っても通じないんですよ?確かに、フィルム式のカメラなんて見る機会ありませんからね。時代の流れって怖いですね?

 

 半透明な円筒形のケースの中に転がるのは薄っすらと青く輝く、様々なサイズの結晶。小さいものはゴマ粒サイズ、大きいものはナッツサイズってところでしょうか?

 同じケースに入ったラベルにはコレをドロップした魔物の種別と出現日時が記載されています。

 見た感じ、群体型の方が結晶が大きくなる傾向があるっぽいですね。

 ……いや、純粋に魔力量かもしれません。群体型って雑魚が大量って形態の性質上、魔力総量は通常型より大きくなりがちですからね。


 「おっほぉぁ……。こほん。うむ、間違いなく純魔結晶なのじゃ。この青い光も、一切の魔力探知に引っかからぬところも、やつがれ達精神生命体ヴァタォーゴにとって心地の良い波動を発しているところも……」

 こいつ、一瞬オホりかけましたね?

 しかし、やっぱり同一物体でしたか。色んな懸念が一気に現実化して襲ってくる事が確定してちょっとやな気分です。

 

 「そういえば、魔石の研究をしてるって話ですけど、この物体がどんな性質なのかって何処までわかってるんです?」

 流石に数年間研究してるんです、何もわかってないってことは無いでしょう。

 「わかっている性質で主な要素は、砕けても瞬時に再生する……というか、破損そのものを性質、個人の魔力波長に染まるのにその魔力が性質、あとはコレね?」

 魔力が取り出せない?とミラさんの胸の結晶をチラ見した私達の眼の前で純魔結晶の入ったフィルムケースがふわり、と宙に浮かびました。

 「私、実は超能力者でもあるのだけどね?それが強化されるみたいなのね?」

 は?超能力って実在して、魔法と別カテゴリーの能力なんです?

 「ちくとまて、そやつ今、から魔力を取り出しおったぞ!?なんじゃそれ!?」

 え?シアちゃんも知らない話ですコレ!?

 って、あれ、なんか魔力の反応が……。

 『緊急事態発生、緊急事態発生。研究所前に不明現象……ええい!魔物の発生を確認!女性職員は直ちに避難を!男はどうせ狙われないんだから機材を運び出せ!急げ!』

 いや、ちょっと!?一気にいろいろ起こり過ぎじゃないですか!?

 あーもー!なんでこう、トラブルに縁があるんですかね私達!

 「とりあえず、速攻で魔物片付けて話の続きやりますよ!現役の魔法少女が4人も居るんです、瞬殺ですよ瞬殺!」

 

 そう言って私が立ち上がり、理珠さん達も続こうとした直後。

 「魔石を……ヨコセ……」

 食堂内に空間の裂け目が発生してボロ布に身を包んだような人型の魔物が飛び出してきました。外見からして概念型の可能性が高いです。

 というか、喋ってませんかコイツ!?

 もぉぉぉ!考えるのは全部後回し!話がややこしくなるから全力で処理しますよ!

 


☆★☆★☆★☆

目のトラブルは馬鹿にできないですよね

から開始して

超能力からの魔物からの喋る魔物と連続トラブル発生回

次回は、魔弾の魔法少女の戦闘が見られる予定です。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る