第96話 この距離ならバリアは張れないね!
蜘蛛の幻覚を怖がって走り去ってしまったアベンジ・ストレングスさんは、とりあえず放置していいと思う。
概念型の魔物って自分を中心に魔法を使う傾向が強いから、ある程度距離が離れた時点で魔法の効果が切れて正気に戻るんじゃないかな?
とりあえず、ボク達はボク達で戦闘を開始しようか。
さしあたっては……。
『遠距離攻撃、効くかどうか試そう』
うん、やっぱりそこからだよね。
ちょっとでもダメージが入るようなら延々と引き撃ちを続けて安全に倒すことも出来るかもだし、試さないって選択肢は無いと思う。
『私から仕掛ける。合わせて』
言うが早いか、カラスの羽がもさもさっと飾られた杖を掲げて祈祷を開始するココさん。
あ、ココさんの
如何にもこう、メディスンマン!って感じの衣装でこれはコレでいいよね。
あと、体型にメリハリが有るからなんというか、破壊力がすごい。
魔生対の子達ってボク含めてあっちこっちがミニマムだからね。
差がすごいなぁ。
『サンダーボルトレイヴァン・アルファ!』
杖から迸った電気が空中で巨大なカラスを成形する。
これかっこいんだよね!
式神?的な感じで生物モチーフの魔法を使う子はそこそこいるけど、雷で作ったカラスはちょっとズルいと思う。
……でも、前にサンダーバードって呼んだらそれは別物だって注意されちゃった。
サンダーバードはもっと上位の精霊?トーテム?なんだって。
『行って!』
魔物に向かって羽ばたく雷のカラスを援護するようにボクも銃を連射するんだけど……。
「バリア持ちかぁ……」
ボクの発射した魔力の光弾は魔物を中心に半球状に発生した力場に当たって全部防がれちゃった。
でも、遠距離の専門家なココさんの魔法はどうかな?
ボクが銃撃を当てた部分が多少なりとも脆くなってると感じたのか、雷のカラスはその場所めがけて加速して頭から突っ込んでいった。
本当に脆くなってたのか、純粋に威力が高かったのかバリアはぱりーんと砕け散って魔物本体にカラスが肉薄する!
肉薄した!んだけど、魔物に近づいたカラスはアイツが手を掲げると同時に、急に慌てるように方向を変えて明後日の方向に飛んでいっちゃった。
『感情なんて持たせてないはずの精霊が恐怖を感じて逃げた!?ありえないでしょう!?』
これがありえるんだよね、概念型の魔物だと。
うーんとりあえず、遠距離攻撃で引き撃ちとかは無理っぽいかなぁ。
次は恐怖攻撃が連打できるかどうかだよね。
少なくとも、カラスが逃げ出す前に手を挙げる動作をしたから常時発動ってわけじゃ無さそうだしね。
カラスの攻撃に対しての防御で1回使わせて、その直後にボクが突っ込んでみるのはどうかな?
やって見る価値はありそうだよね。
『ココさん、バリア割って、もう一回。直後に突撃してみる』
ボク達が脅威じゃないと判断したのか、恐怖の魔物の方からこっちに近寄って来てるね。でも、一度の攻撃だけでそういう判断すると足元を掬われるんだよ?
『サンダーボルトレイヴァン・アルファ!』
ココさんの雷鎚カラスからちょっとだけ時間をずらしてボクも
さっきの再現のようにバリアを砕いたカラスは恐怖の鳴き声を上げながら飛び去り……。
「フレイムアッパー!」
その影から突っ込んだボクが、銃に2枚のカードをスキャンさせることで使える炎を纏ったアッパーカットを繰り出す。
よしっ!いい感じに顔面に入ったね!
概念型はタフなケースは少ないから一気に畳み掛ければ行けるはず!
ここから追撃を……。
そう思った矢先、ボクの目の前で恐怖の波動が襲いかかってきた。
眼の前に魔物がいる状況なのに、戦闘中なのに、脳内に流れる全く別のイメージが邪魔をして魔物に意識を向けることが出来なくなった。
浮かぶのは、ママの手で次々とゴミ袋へと投げ込まれるボクのヒーロー達……。
やめてよ!テストで100点取れたら捨てないって約束したじゃん!
プチキュアなんて全然好きじゃないんだよ!やめて!ママの理想の女の子をボクに押し付けないでよ!
ああ、ママの冷たい視線が怖い……。足がすくむ、膝が震える、顔が上げられない……。
ダメだよ、こんな所でへたり込んだら魔物に連れ帰られちゃう!
でも、どうしても足が動いてくれない!立ち上がる力が出ない!
『蜘蛛なんて怖くないっての、ファッ◯ン・ジー◯ス・◯ライストだってーの!』
動けなくなったボクを正気に戻ったアベンジ・ストレングスさんが抱えて助け出してくれたみたい。
まだ蜘蛛恐怖症の影響を受けたのか全身震えながらだけどね。
『ありがとう、助かった!でも、これはキツイね。正直だいぶ堪えたよ』
うん、ほんとキツかった。
思い出さないようにしてたトラウマを全力で突きつけてくるとか外道にもほどがあるよね。
『感謝してよ?私だって全身を蜘蛛に這い回られる感触を受けながら突っ込んでいったんだから!』
うわ、それは蜘蛛が苦手じゃなくてもだいぶキツいんじゃないかな?
まあ、でも……。
流石に、いきなり一番のトラウマをぶつけられて動けなくなっちゃったけどヒーローがこの程度で負けてちゃお話にならないよね!
……いや、今ボクが変身してるヒーローは恐怖に叫ぶ無様なシーンとか超有名なんだけどさ!というか、そもそもこのスーツは恐怖心が募るとスペックが下がっちゃう仕様だったりして実は相性悪いんだよね。
だけど、彼だって恐怖を克服して、怒りでパワーアップして強敵を打倒してきたんだ。彼に変身してるボクだってそれをやるべきだよね!
ただ、気合と根性で克服できるようなトラウマ攻撃じゃなかったのも確かなんだよね。
もう一度ママのあの視線を受けて平気でいられるかっていうと多分無理だし。
となると、何か作戦が必要かな?
魔物としては貧弱なのがさっきのアッパーでわかったから、そこにつけ込むべきだよね。
とりあえず、ココさんに足止めをしてもらってその間にアベンジ・ストレングスさんと一緒に作戦考えなきゃね。
とは言うものの、ボクやアベンジ・ストレングスさんの頭で「こうどなさくせん」なんて考えつくはずもなく……。
1つ思いついたやつをやるだけやってみようって話になった。
失敗したら最悪、支援が来るまで距離取って粘ればなんとかなるしね?
攻撃性の高い魔物じゃなくてよかったよほんと。
じゃ、ボクはこの車に隠れるから後はお願いするね!
作戦はもう、単純も単純。
ボクが隠れた車をバリアが割れた直後の魔物に向かって投げて、その後にアベンジ・ストレングスさんが突撃。
アベンジ・ストレングスさんに気を取られてるうちに車から出てきたボクが攻撃するってだけ。しょうがないでしょー?勉強は苦手じゃないけど、頭はそんなに良くないんだから!
ということで、後部座席の下に身をかがめてボクが隠れた車が恐怖の魔物に向かって投擲される。
……正直、雛ちゃんならこの投擲で魔物が吹っ飛んでる気がするけどあの子はまあ、例外だから。
魔物に受け止められる衝撃であちこちぶつけて声を上げそうになるけど我慢。
銃を握りしめてフレームのひしゃげた車からこっそりと這い出る。
『うおああああぁぁ!やめっ!耳の中に入ってくるなァァァ!』
うっわ、想像するだけでゾワゾワする。アベンジ・ストレングスさん正気に戻れるかな?
まあ、ボクはボクの仕事をやるだけだね!
そろりそろりと背後から近づいて銃口をピタリとその身体に向ける。
ふっふっふ、この姿になったからには言っておきたかったセリフがあったんだよねー。
「この距離ならバリアは貼れないね!」
至近距離から銃を連射連射連射!
流石に撃破までは行かなかったけど、ダメージで動きを止めた恐怖の魔物。
ここはもう、必殺キックのチャンスだよね!
銃に3枚のカードを読ませて必殺技を発動させる。
このキック、全キックの中で一番かっこいいと思ってるんだ。
他にこの蹴り方の必殺キックって魔法使いの奴ぐらいしか無いはずだし。
体を捻って飛び上がり、それと同時にボクの身体が分身する。
魔物に襲いかかるのは、空中からナタの様に振り下ろされる2人分のオーバーヘッドキック!
「ブレイジング・ディバイド!」
至近距離からの銃撃で既に大ダメージを受けていた恐怖の魔物はキックの威力に耐えかねるように地面に叩きつけられて塵になっちゃった。
駆け寄ってくるアベンジ・ストレングスさんとココさんにハイタッチを決めて今日の戦闘は終了だね!
この後、アベンジ・ストレングスさんの中の人がマスクドライバーシリーズに大ハマリして日本で買ったグッズを大量に送ってもらうはめになっちゃった。
地味にココさんも興味があるみたい。
音撃戦士のデザインが好き?なかなか渋い趣味してるじゃん!
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前話で変身できない電車の二号に関するコメントがかーなーり多くて愛されてるなぁって思いました。
最期のシーンがまた、印象強かったですからね。
ということで、ダディャーナザンでやりたいことをやっただけの回
恐怖心、オレの心に、恐怖心……は入れたかったけど入りませんでした。
バーニングディバイド、かっこいいんですけどキックの描写がすごく難しいんですよね。
躰道って格闘技?ではある蹴り方みたいなんですけど。
ということで、概念型のちょっとした説明が終わったので
次は研究所訪問回です。
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