第91話 宇宙一値の張る女

 「のっじゃっじゃっじゃっじゃっじゃーっ、その驚いた顔がたまらんのじゃー!へぶしっ!」

 ドヤ顔しながら器用にくしゃみをぶっ放す精神生命体。

 あー、この早朝の寒い時間にそんな布1枚みたいな格好で仁王立ちするから……。

 「はいはい、とりあえず服を着てから色々話しましょうね?身体は人間なんですよね?この時期にそんな格好で居ると体調を崩しますよ?」

 と、ちょうどいいタイミングで水流崎家の家政婦の方がミニサイズの着物を複数携えてやってきました。

 

 「あら、懐かしいですね。これ、わたくしの子供の頃のお着物ですよ?お母様ったら、もう着られないっていうのに大事に取っておいていたのですね」

 おー、これが理珠さんが昔着ていた着物。可愛いじゃないですか。

 「とりあえず、シアシャル・グラゼさん。話の続きはこの服を着てからやりましょう?その間に私達も着替えてくるので」

 「あ、リズ姉様。その間に暖かい部屋にお茶とか用意してもらうのはどうかな?少なくとも、またこの部屋に戻ってきてあーだーこーだやるよりは良いと思うんだけど」

 あ、良いですね。それで行きましょう。さしあたって私は顔を洗って来たいですからね。なにせシアシャル・グラゼのくしゃみの飛沫が思いっきりかかったので……。

 「うぬぅ、よくわからんがわかった……。話し合いをするのにふさわしい場を用意するというのじゃろ?ならば異は無いのじゃ」

 シアシャル・グラゼも納得したようで、そういう事になりました。


 「では、改めて名乗らせてもらうのじゃ!やつがれはシアシャル・グラゼ!この星に魔法を齎した精神生命体が一人である。此度は、とある要件を果たしたいがゆえに肉の身体を創りて来た。存分に称えると良いのじゃ!」

 ばばーんと、炬燵こたつの上に仁王立ちして宣言する紺色の着物に黒髪おかっぱの精神生命体。

 いや、これどう見ても座敷わらしですよね?

 「はい、それは存じておりますのでこちらへ。はい、座ってからお話いたしましょう。炬燵の外は寒いでしょうし、そこは足を乗せる場所ではございませんから」

 ばばーんのふんぞり返った仁王立ちのまま抱き上げられて炬燵につっこまれるシアシャル・グラゼ。

 ははーん?さてはコイツ、何も考えてない系の人種ですね?

 

 「で、そのシアシャル・グラゼ?とやらが何しにここまでやってきたの?貴方が着替えてる間にユーキから聞いたけど、魔力を齎したというのは魔物発生の原因を持ってきたって言うことでしょう?厄介事を発生させておいてなんで偉そうにしてるのよ!ミラ、魔物絡みの事故で両親を亡くしてるんだけど!?」

 「そういえば、わたくしも魔物に心臓を抜き取られて死にかけた事がございますね。……いえ、でも魔物が存在しなければわたくしと優希さんの間に接点は無く出会えていないことを考えると一概に悪いとは言えませんね」

 あー、そうですよね。ミラさんは魔物の発生が原因で起きた交通事故でご両親を亡くしてるんですよね。……理珠さんはそれで良いんですか?良さそうな顔してますね。嬉しいなちくしょう!


 「というか、魔物が居なければユーキだって拉致されて殺されることもなかったのよ!?なーに自分は別に何の被害も受けてませんからみたいな顔してるの!?」

 ……はっ!言われてみればそうですね。

 魔物が居なければあの、ふぁっきんブラックだった元職場に辞表を叩きつけた後に貯蓄を切り崩しながら数ヶ月休んで求職活動をして、順調に出世していくザマさんをすげーなーって思いながらオタク活動を続ける生活を送っていたはずです。

 ……あれ?実質若返って、美少女2人両手に花状態になって潜影操手カルンウェナンで全国旅行費無料で遊びに行けるようになって水流崎のお家で身の回りのこと何でもやってもらえて。

 うーん、困りました。この点に関しては私は特に不満がありませんね?


 「むぅ、すまぬのじゃ。それに関してはやつがれとしても想定外の出来事だったのじゃ……。最初こそ、炭素生命体なんぞ短周期で世代が変わる動物なんじゃし1~2世代の間魔物が発生するなど大した事はないじゃろと思っておったのじゃがな」

 ややしょんぼりしながらもぞもぞと炬燵に入るシアシャル・グラゼ。

 「うおっ、温いのじゃぁ……。あ、こほん。イツァナグイやらの端末を通して地球人類の活動を見ていくうちにな、その、情が湧いてしまったのじゃ。なのでミラ・ナツメヴナ・リトヴィンツェヴァよ。お主や、他に不利益を被ったものに対しては申し訳ないと思っておるのじゃ」

 うーん、殊勝な顔して謝罪してますが、多分コレ、アリの巣とかにお湯を流し込んだのを後で「あー、可哀想なことしたかな」って思うぐらいのアレですよね。

 そもそも存在としてのスケールが違うっぽい感じですし。


 「で、そもそもなんですがシアシャル・グラゼ。私の根源に干渉したりイツァナグイを通して様子を見ているだけだった貴方がどうして肉体を作って私達の元へやってきたのですか?」

 救世主呼ばわりとか、お前も中二病かよ!とか聞きたいことは沢山ありますが今はまずそこですよね。

 「あー、そうじゃそうじゃ。忘れるところであったわ。セヴンスよ、やつがれ、そこな妹御を助ける時にいうたよな?『今度直接殴りに行くが』と。貴っっっ重な純魔結晶を炭素生命体一人助けるのに使ってしもうて、これはもう流石に価値をわかっていなさすぎると!」

 あー、そう言えばそんな事を言われた気がします。

 でもどれだけ価値があってもミラさんの命のほうが大事ですし全然期にしてないんですよね。


 「のじゃぁ!その、いやでも同じ場面になってもどうせ使うしーみたいな顔がもうむかつくのじゃぁぁ!衝撃のー、シアちゃんパーンチ!」

 と、視界からシアシャル・グラゼが消えたと思った瞬間、私の右脇腹に小さな拳が突き刺さりました。って、明らかに瞬間移動しましたよね今!

 って、重っ!あまりの威力に身体が拳を支点に折れ曲がったような感覚を受けます。


 痛みに悶絶して蹲る私の頭上からシアシャル・グラゼの声が続きます。

 「良いか、純魔結晶とは魔力を持った生命体が存在した惑星が滅んだ際に魔力的な措置を行うことで取り出すことが出来る超絶貴重な資源なのじゃぞ!?この地球と同程度の惑星を加工して、ようやっと数カラットサイズの純魔結晶が手に入るのじゃ」

 あれ?思ったより貴重っぽいですね?知的生命体が居て、魔力があって、かつそれが何らかの要因で滅ばないとダメって相当入手機会少なくありませんか?

 「それを!見よ、このお主の妹御の胸で光るあまりにも巨大な純魔結晶を!コレほどのサイズ、巨大銀河を純魔結晶に加工してようやく届くかといった大きさなのじゃぞ!?お主のせいで、このミラ・ナツメヴナ・リトヴィンツェヴァはこの宇宙で最も値の張る女になってしまったのじゃぞ!?」

 

 「いやだって、あの時ミラさんを助けるにはそうするしか無かったっぽかったのでしょうがないじゃないですか。大事な人の命ってそれだけ重いんですよ?」

 「じゃーかーら!そうするしか無かったというのが間違いなのじゃ!貴重な、貴っっっ重な超サイズの純魔結晶を無駄に使ってからにぃぃぃ!この純魔結晶を取引の材料に使えばやつがれが、シアシャル・グラゼが炭素生命体の一体や二体サクッと蘇らせてやるわ!精神生命体ヴァタォーゴを舐めるでないわ!」


 あれ?マジです?

 いや確かに事象剪定の瞳バロールズ・オキュラスでそうしたら助かるよって未来けっかは観測しましたが、他に手段が無かったとは言われてないですよね。

 「あ、でも私に、根源を介して声をかけてきてるのがシアシャル・グラゼ……いや、言いづらいし自分で言ってましたしシアちゃんでいいですね?で、その時は、シアちゃんだってわかってませんでしたし、無罪ですよ無罪!」

 「阿呆なのじゃぁ!?お主が後数秒やつがれの声を聞いておればこちらから正体を明かして交渉を持ちかけたわ!その純魔結晶との取引ならなんならそこな妹御の姉の身体までサービスで作り直したわ!」

 

 え?あれ?

 ……確かに、あの時の私、声をかけてくる根源さんが純魔結晶の事を知っているっぽい雰囲気だったのに無視してそぉい!ってミラさんの胸に結晶ぶっ刺してますね?

 これ、もしかして私やらかしましたか?やらかしてますね?

 ああ、命を助けられた側だから文句は言えないけどエラさんも助かる道が有ったと知ったミラさんの微妙な視線がザクザク刺さります。

 「あ、いや、えっと、話を聞かず本当に申し訳ないです……」





☆★☆★☆★☆


はい、現在20時40分。ギリギリ間に合いました。

セヴンスさん、やらかしていた!回です。

最初、シアちゃん褐色ロリの予定だったんですがその、とある有名作品とキャラ被りが発生しそうなアレになりまして。

悩んだ結果座敷わらしスタイルになりました。


 

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