第89話 輝く季節へ

 夜明け前。

 最初に目を覚ますのはいつもミラ。

 両隣で眠るユーキとリズ姉様の頬に軽く唇を当てて、二人が目覚めるまで幸せな温もりを堪能する。

 一人用のお布団に3人並ぶのは狭いと思うのだけど、姉2人もミラもコンパクトサイズなのでなんとか成立してる。

 寒くなる前にもっと大きなお布団にしようねって昨晩は話してた。

 エラ姉さんがメンテナンスで帰ってこない日はいつもこうやって新しく出来た姉2人に甘えて眠る。

 妹であるミラが一番背が高いのにちょっと笑ってしまうけど、そこは遺伝的な問題だししょうがないと思う。

 夜が明ける頃にはリズ姉様が目を覚まして、トレーニングへと出かける。

 ユーキを起こさないようにそっと静かに、寝たフリをしてるミラの頭を撫でて……。


 二人っきりになってしまったらユーキはミラが独り占め。

 ほっておくと昼まで起きてこないだらしのない姉は、リズ姉様が起こしに来るまでミラ専用の抱き枕。

 こんな身体になってしまった事情も、羽佐間室長との関係も、ミラが聞いて良い事全部を知った今でも、今だからこそ、自分を殺した組織の人間を助けて、愛して、救ってくれた事が信じられない。

 何度話しても自分の根源は中二病だって言い張ってるけど、こんな、聖人じみたお人好しが救世主じゃなくて何だというのだろう。

 目覚まし時計が騒ぎ始めるまで後1時間。

 愛しい姉の温もりを抱きながら微睡む幸せな朝。


 朝食を取って、ユーキと一緒に外出用の服装に変身したら教材の詰まったカバンを持って準備は完了。

 変身ついでにお化粧が一瞬で終わってずるいなんてリズ姉様は拗ねるけれど、ユーキにお化粧しもらってご満悦な時があるのミラ知ってるんだからね?

 3人共準備が整ったら、ユーキに抱きついて魔生対までひと潜り。

 数学の小テストが憂鬱だけれど、日本でちゃんとした大学に行くためには勉強頑張らないと。

 何をしたいかなんてまだわからないけど、やっと未来のことを考えられるようになったし、沢山迷って、悩んで、決めていこうと思う。 



 昼。

 昼食時は、魔生対の食堂で皆とおしゃべりをしながらゆっくりご飯を食べる。

 シェフのおじさんとはもうすっかり仲良くなって、メニューにはいくつかルーシャ料理が並んでる。

 泣きながら美味しいって食べてた姿が忘れられないって今でもイジられるけど、貴方の料理がすごく美味しかったからお母さんの料理の味を思い出せたの。感謝してるんだからね?

 せっかくだから、今日は久しぶりにとんかつ定食を食べようかな?


 ユーキの……間違えた、お外じゃセヴンスって呼ばなきゃね。

 セヴンスの隣がミラの定位置。

 エラ姉さんの正面で、リズ姉様の斜向い。

 エラ姉さんは最近ゼリー飲料の味がわかるようになったんだって。ヒナと手を取り合ってはしゃぎ回ってた。

 ここのご飯の味を早く味わってほしいから、ヒナと技術部の人たちには頑張ってほしいと思う。

 


 夕方。

 授業が終わればあとは自由時間。

 昼下がりに魔物が出現したらしいけど、ミラの出番は無かったみたい。

 かぼちゃの魔物だったって。ハロウィンに乗り遅れたのかな?

 今日は皆で古いゲームで遊ぶって話になったみたい。

 セヴンスの持ってきたサムライが斬り合って一撃で勝負が決まるゲーム。

 ねえ待って?なんで銃持ってるキャラが居るの?当然のようにそれで即死するのはおかしくない!?

 

 お腹が痛くなるほど笑って、異様に上手いセヴンスと羽佐間室長に驚いて、子供みたいな罵りあいを始めた二人にまた笑って。

 気がついたらとっくに日は落ちていて。

 エラ姉さんは今日も実験でこっちに泊まりみたい。

 じゃあ、うちへ帰りましょう?


 

 夜。

 ご飯を食べたら3人でお風呂。

 全員髪が長いから洗うのがちょっと大変で……。

 洗い終わったら湯船でまったり。

 リズ姉様はメリハリの無い自分のスタイルが気に入らないみたいだけど、その引き締まってるのに柔らかい細身の身体はミラの憧れでもあるんだからね?

 気持ちよくてつい長湯しちゃうけど、ミラの肌が真っ赤になったら時間切れ。

 お風呂から出て、皆で髪を乾かし合うの。

 ユーキはお酒を飲みたがるけど、その見た目で飲んだら法にひっかかるんじゃない?

 そもそも、お酒ってそんなに良いものなのかな?


 お部屋に戻ったら眠くなるまでおしゃべりの時間。

 アレが楽しかった、次はコレをやりたい。

 過保護な姉2人は工作員としての知識しか持たないミラに楽しいことをたくさん経験させようと一生懸命頭を悩ませてる。

 エラ姉さんと、リズ姉様とユーキの3人と一緒に居られるだけでこれ以上無いほど幸せなんだから、そんなに真面目に考えなくて良いんだよ?

 それに、きっと時間はたっぷりあるから。


 

 深夜。

 日付が変わる前ぐらい、ミラが眠気を感じたら今日はお開き。

 お布団を敷いて、寝る準備をしたら今日は誰が真ん中になるのかを決めるじゃんけん。

 ミラは二人を感じられる真ん中が良いし、リズ姉様はユーキとくっつきたいし、ユーキは横向きに寝たいって。

 一日の最後で、明日の朝に繋がる大事な勝負。

 この勝負だけは負けられない。


 厳正な勝負の結果、今日の隊列はユーキを挟んで左右にミラとリズ姉様。

 両側から抱きしめられてユーキはちょっとだけ寝づらそうだけど、それだけ好かれてるって証だからね?

 暦の上ではもう冬って言われても一向に寒くならない日本の天候に首を傾げながら、大好きな姉に触れ合おうと出来るだけ身体を密着させる。

 甘えてるって自覚はあるけど、存分に甘えてって甘やかす姉3人が悪いと思う。

 今までの寂しさを、苦しさを打ち消すように甘えて甘やかされて……。

 幸せを感じながら夢の中へと落ちていく。

 これがミラの新しい日常。

 真っ暗な未来を拭ってくれた、皆の与えてくれた希望に輝く日々。

 どうか、この日々がずっとずっと続きますように……。 






 真夜中。

 今の幸せが夢じゃないかと不安になって目が覚める。

 不安を押し流すように、安心を求めてユーキの手に指を絡めた。

 ふにゃふにゃと寝言を漏らす愛しい人の寝顔で夢ではないと確信して安堵する。

 

 姉として、妹であるミラを存分に可愛がってくれるのはとても嬉しいのだけど……。

 いつか、妹としてじゃない、ミラの気持ちを受け止めてくれるといいな。

 姉さんって呼ばないのは、そう呼んでしまったらもう妹としてしか見てくれなくなりそうだから。

 今すぐじゃなくていいから、ミラの気持ちが一時の気の迷いなんかじゃないってわかったらでいいから、その時はミラの思いを受け止めて欲しいとこいねがい。

 

 穏やかな寝息を漏らすその口へ、起こさないようにそっと唇を重ねた。


 おやすみなさい。また明日。

 私の救世主様。






☆★☆★☆★☆


はい、これにて第二期終了となります。

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございます。


後はコメントログ回経由で、プロットが出来上がり次第、第三期を開始いたしますので、どうか今後もよろしくお願いします。



サブタイトルは最近リメイクされた名作ヴィジュアルノベルのED曲から。

古い作品なのでインスト曲ですが、名曲なので一度聴いてみてほしいです。

なお、リメイク版はプレイ時間が取れずに積んであります。悲しみ。



 

 

 

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