第86話 姉を名乗る不死者(アンデッド)
「ミラさん、なんで、その、服がウェディングドレスなんですか?」
とりあえず、直接疑問をぶつけてみるのが一番でしょう。
痛みから復活したミラさんが今度は胸の純魔結晶が邪魔にならないように私の頭を胸に掻き抱いて来てますが、極力普通の態度で対応しましょう。
……理珠さんの目がですね?ちょっとその、怖いんですよ……。
アレは恐らく、「ソレはわたしくしのものですからね?今は貸してあげてるだけですよ?」という視線ですね。理珠さん、笑顔なのにものすごい威圧感を醸し出してます。
「ああ、これ?セヴンスがこの結晶を使ってミラの命を助けてくれたのはその、本当に、言葉で言い表せないぐらいに感謝してるんだけど……。この結晶があると、普通の服がまともに着られないのよね。結局右目はアヤの魔法でも治らなかったから何かで隠す必要もあったし」
ああ、なるほど確かに。心臓の上に握りこぶし大の結晶が突き出してたら軍服とか露出の少ない服は干渉しちゃいますよね。
しかし、右目治らなかったんですか……。あと、私と同じデザインで色違いの白い眼帯がなんというかこう、ヤツの関与を匂わせます。
「で、困っていたら貴方の魔力根源が相談に乗ってくれて……。というか、救世主の魔力根源ってすごいのね!まさか、意思の疎通が出来るなんて!」
やっぱりまたお前ですか!中二病の魔力根源!いや、確かに片目眼帯のウェディングドレス姿で連接剣ぶん回す人形を操って戦うのとかもんのすごくかっこいいとは思うんですが!
……ってあれ?救世主の魔力根源?
「え?いや、私の魔力根源って中二病ですよ?救世主の根源とか、何を言ってるんですか?」
「え?だって、貴方の魔力根源に直接質問したのよ?救世主の根源、すごいですねって。そしたら【それほどでもない(意訳)】って返されたのよ?」
……ゑ?
いや、どうなってるんですか魔力根源さん!?
くっそぅ、こんな時に限って「忙しいから今度ね」ってなんなんですか!
というか、胸元が開いていたらどんな服でもいいのにわざわざウェディングドレスを提案したの絶対面白がってやってますよね!?
グッジョブですが!グッジョブではあるんですが!!!
「そんな事はどうでもいいじゃない。ミラはね、セヴンスにお礼を言いに来たの。魔生対のみんなが、セヴンスとリズがどれだけ私の支えになってくれたか、セヴンスがミラの為にどんな無茶をしたのか。朦朧とした意識の中でだってしっかり見てたし、リズから全部聞きだしたんだからね!」
あ、理珠さん話しちゃったんですね。というか、普通に考えて5日も昏睡してる原因を私のことを心配してる人間に説明しないわけがないですね。
「貴方がしてくれたこと全部に改めてお礼を言わせて?本当に、本当にありがとうございました。ミラには、財産も何もないから、だから……」
言い淀んだミラさんの目に、ちょっとだけ理珠さんの目と同じ色が宿りました。
あ、ヤバいやつですコレ。あえて言葉にするなら、崇拝の色って感じのヤツです。
「だから、ミラの全部を貰って?ミラはこれからセヴンスの所有物。汚れ仕事だって何でもやるし、お金が欲しいならミラが稼ぐし、その、夜の事だって……」
ストーップ!ダメです、それ以上言うと理珠さんとの修羅場が形成され……。
「ミラさん?」
あ、ほら、聞いてくださいよ奥さんこの冷たい声。さっきまで私の胸で泣いてた人の声なんですよ?信じられます?
「ん?ああ、リズはセヴンスのフィアンセなんでしょう?だったら二人一緒にミラのご主人様よ。リズだって、セヴンスの次に大事なんだから」
ミラさん、やりますね!相手の立場を持ち上げた上で、自分は貴方より下ですから大丈夫だと宣言することでちゃっかり私の所有物扱いという立場を黙認させました。
……いや、待って下さい。私の意見が何処にも反映されてません。
真面目にコレ、どうしましょうね。
いや、ミラさんは美人ですしそんな人に慕われるのはそりゃ嬉しいことこの上ないんですが、その扱いが「貴方の所有物です」はちょっと重すぎるんですよ。
そもそも、そんなミラさんの扱いについてお姉さんであるエラさんに相談もせずに決めてしまうのも良くない気がしますし……。
って、そうですよ、エラさんってどうなりました!?
「もー、ミラぁー?エラはまだこの身体に慣れてないんだから、一人で走って行かないでね?それとも、そんなにセヴンスさんが大事なのかなー?エラが話せるようになってからずっとセヴンスさんの話してたもんね?」
と、開きっぱなしだった扉から入ってくる車椅子の少女が一人。
いえ、少女……ではないですね。
あの顔はミラさんの武器であった
いやまあ、人形ではあるんですがどう考えてもエラさんですよね。
自分のことエラって呼んでますし。
どうやら、私が寝てる間に初雪さんが上手いことやってくれたみたいです。
あ、姉妹二人での会話をバラされてミラさん顔赤くなってますね?
それ、私に所有物にしてくれって言うより恥ずかしいことですか?
「えーっと、貴方がセヴンスさんよね?ミラはね?貴方に何が何でも恩返しがしたいんだって。でも、ミラもエラも価値のあるものなんて何も持ってないから、だから、ミラ自身をあげちゃえばいいんじゃないかなって言ったの。ね?受け取ってあげて?」
まさかの姉公認!
それどころか、むしろエラさんの差金ですか!自分の妹を差し上げますって投げてよこすのはだいぶ普通じゃないんですけど大丈夫なんですか?
「ほら、ミラも一緒にお願いしよ?うん、えっと、こう言うんだよね?ふしだらな妹ですが、どうかよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
不束かですから!ふしだらじゃないから!間違ってますから!間違ってますよね?
あーもー、ミラさんもそんな捨てられた猫みたいな目で見なーい。
これ断れないじゃないですかぁ。
「わかりました。わーかーりーまーしーたー。所有物とかはちょっと嫌なので、そうですね、私の妹としてなら、その、受け入れてもいいです。エラさんと私と理珠さんがミラさんのお姉さんになるんです。楽しそうじゃありません?ね?」
うん、これが私の出せる最大譲歩ですね。妹分から妹へのランクアップ。
いや、いきなりご主人様とかそういう扱いされても困るんですよ。
それに、夜も……、とか言ってましたけど夜になったらそのご主人様は理珠さんの玩具ですからね?ミラさんも一緒に理珠さんに弄ばれてみますか?新しい扉が開きますよ?
……いや、その場合は理珠さんの助手と化したミラさんが二人で私を嬌声しか上げない楽器にしてきそうな未来が容易に想像できました。流石に恥ずかしいのでその流れは回避したいところです。
「良かったねミラ、家族が増えたよ!」
「セヴンスとリズが、姉さん?家族……?ミラの、家族……?」
あれ?なんかミラさん呆然としたままめちゃめちゃ泣き出しちゃったんですけど?
……ああ、そうか。
ミラさんって、ずっと一人だったんですよ。
エラさんも、ミラさんが寝てる間しか
魔生対に派遣されてきてから、やたらとチョロいなって思ってたんですけど、純粋に人恋しかったんですね。
思春期真っ只中の多感な時期を姉を救うため、組織のため、生き残るためと一人で頑張ってきて、それを誰にも褒められずに、僅かなぬくもりを与えられること無く生きてきたんです。
それが、急に同年代の人間に優しくされて、褒められて、可愛がられて。
最終的に命を危険にさらしてまで自分を救うために頑張ってくれたとなれば、その相手に対する感情を処理できなくなってもおかしくないです。
そんな相手から、家族なんていう最初に無くした大事なものを与えられるっていうんですから、それまで耐えてきた分の涙がこぼれたって不思議ではないです。
うん、私がヘタレっただけなんですけど、結果的に一番良い関係になれたような気がします。
だからそこ「ミラ、義理の妹って属性的に最強って漫画に書いてたしこっちのルートでも勝ち目はあるよ!」とか言わない!
というか、ミラさんもそこでハッとして頷かない!!
なお、理珠さんは
「これからよろしくお願いね、リズ姉様」
って上目遣いに言われた瞬間堕ちました。一人っ子は妹キャラに弱い、コレ常識。
……いや、私がセヴンス呼びなのに理珠さんがリズ姉様呼びなのおかしくないです!?
☆★☆★☆★☆
サブタイトルはソシャゲ界隈に良くいる姉を名乗る不審者から。
セヴンスさんが想定よりヘタレてミラさん妹扱いになりました。
これでミラさんには、姉と義姉が増えたわけですね。
なお外見年齢。
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