第85話 知らない天井だ

 空母の甲板からずり落ちながら気絶して、それからどれぐらい経ったのでしょうか?

 酷い空腹を感じて目を覚ました私の視界に映ったのは、白いシーツと、私の寝かされているベッドにもたれかかるようにして眠る理珠さん、そして……。

 あ、これは私と同年代のオタクなら一度は言いたいあのセリフを使うチャンスですね!

 「知らない天井だ」

 よしっ!ノルマ達成です!


 しかし、真面目にここ何処なんでしょうかね?

 家具の配置とか病院っぽく無いですし、かといって水流崎のお家の部屋にしては色々安っぽいですし。うーん、魔生対か、お隣の自衛隊基地の仮眠室辺りですかね?

 寝ぼけた頭では起きてしまって良いのかわからないので、とりあえず理珠さんの頭でも撫でておきましょうか。

 ……って、私どれだけ寝てました!?理珠さんの心臓大丈夫ですよね!?

 

 と、焦りながら起き上がって気が付きましたが、私の服、同調再臨で変身した時のままじゃないですか。

 そっか、私の体質せっけい上、自分で変身状態を変更しようと思わない限りは魔力が尽きない限りその状態が維持されるんでした。

 同調再臨状態なら、私の魔力を理珠さん側が勝手に使うことも出来るのでゾンビ心臓の維持には問題なかったはずです。なんだか、それなりに消費したはずの魔力もたっぷり貯まってますし……。

 しかし、地味に焦りました。

 魔法の使い過ぎで気絶してたら大事な人が冷たくなってましたとか最悪にもほどがありますからね。


 というか、血とエヴゲーニヤの塵の上をずり落ちてきたので酷く汚れてたと思うんですが綺麗ですね?

 服はまあ、戦闘法衣バトルドレスなので魔力的なクリーニング作用で綺麗になったんじゃないかとなんとなくわかるんですが、私の身体とか髪とかベッタベタになってたと思うんですけど、一通り洗い流してからベッドに突っ込んだんでしょうか?

 戦闘法衣バトルドレス、自分で脱ごうとしない限りは脱げない仕組みのはずなので、私の身体拭くのとか大変だったんじゃないですかね?

 ……いや、理珠さんと魔力や根源が共有されてる関係で、理珠さんの手でなら私の戦闘法衣バトルドレスを脱がすことが出来たり?

 ふ、深く考えると深淵を覗きそうな気がしてきたのでこの辺でやめておきましょう。


 目も覚めてしまいましたし、特にここから二度寝する気も起きないので理珠さんの髪を撫で始めて……多分10分ぐらいでしょうか?

 「んぅ……、まだして欲しいのですかぁ……?……っ!?」

 寝言の途中で目を覚ましたのか、理珠さんがすごい勢いで起き上がりました。しかし、どんな夢を見てたんですかねぇ?

 「優希さん!目を覚まされたのですねっ!」

 うおあっ!結構な声量で声を上げながら理珠さんが飛びついてきました。

 普段の理珠さんならやらないリアクションにちょっとびっくりです。

 「えーっと、もしかして私、結構な時間寝てました?」

 これ、数時間とか半日とか寝てたときの反応じゃないですよね?


 「優希さんはあれから5日も目を覚まされなかったのですよ?わたくしが、皆さんがどれほど心配したかおわかりになりますか?」

 あ、これ理珠さん激おこモード入ってますね。ヤバいです、目が警戒色です。

 「優希さんはいつもそうです。御自分の身の安全や苦痛を考慮せずに人を助けに向かう姿はとても尊いと、美しいと本心から思っております……。しかし、優希さんが傷つくことが何よりも苦痛と感じる人間が居ることをお忘れになってはおりませんか?」

 ……いやだって、あそこは私が無茶しないとミラさんの命がですね?

 「ええ、ミラさんの命を救うために必要だったというのは存じておりますし、優希さん以外に成し遂げられないことであったのも事実です。正直に言って、この怒りが八つ当たりであることもわかってはいるのです」

 あ、不味いです、これはダメです。

 急いで手を伸ばして理珠さんの頭を抱き止めます。

 「でも、貴方の受けた苦痛を同調によって全て知りえたわたくしが、血と塵で身を汚しながら甲板を転がり落ちる貴方の姿を見てどれだけ心配したか、どれほど、どれ……ぅあぁぁ!!」


 ほら泣かしたー……。

 そうですよね、同調で表面的な思考は全部伝わっちゃうんですから私が割れるような頭痛をやせ我慢していた事も、ミラさんを酷い目に合わせてくれやがったエヴゲーニヤに対する怒りも、出すとヴィジュアル的な威圧感が減るかっこわるいという理由でめちゃくちゃ頑張って鼻血だけは出さないように踏ん張っていた事も伝わってますよね。

 脳に障害が残りかねないとか感じた事も全部伝わっちゃってるんですから、そりゃ5日間も意識を取り戻さないとか心配するどころの騒ぎじゃないですよ。

 んー、でも、次に同じような状況になったとしても、気軽にほいほい無茶をしてしまうのが私の性分だと思うので、えーっと、どう謝りましょう?


 「あー、えっと、私が自分の怪我とか、苦痛とかを考えて行動出来ないタチなのは知ってますよね?だから、私が頑張れば、我慢すれば誰かを助けられるって状況になったらきっと深く考えずにまた簡単に命を賭けてしまうと思うんです。ごめんなさい、コレに関しては多分、どうしたって変えられないです」

 私の胸で涙を流し続ける理珠さんを撫でながら言葉を重ねます。

 「ですから、えーっと、次にそういう場面が訪れたら理珠さんも一緒に考えて下さい。私が無茶しなくても状況を打開する方法を。その上でどうしても無茶をする必要があったら、今度は二人で無茶しましょう。それなら私が一人で突っ込んで行くより納得というか、許せると言うか、そんな気がしませんか?」

 理珠さんと一緒に行動するなら私だけ突っ走るわけには行かなくなりますからね。私の暴走を防ぐにはそれしか無いんじゃないですかね?


 「なんですか、それは?優希さんは本当に、本当にダメな人なんですから……」

 って、胸に顔を押し付けたまま笑われると吐息がくすぐったくてですね?

 「そんな事を言われてしまったらわたくし、どんなときでも貴方から離れられないではないですか。無理をする優希さんを止めるためにはその場に立ち会わなくてはならないという事ですものね?何時暴走するかわからない貴方ですもの、文字通り四六時中見張っていなくては安心できませんから」

 まあうん、そうなりますよねぇ……。今とあんまり変わらない?それはそう。

 

 「でも、本当にわたくしも皆さんも心配したのですよ?優希さんの寝ている間にも色々ありましたし……。ミラさんなんて……」

 と、理珠さんが言いかけたタイミングで勢いよく扉が開いて真っ白い布の塊が突っ込んできました。

 「セヴンス!やっと目が覚めたのね!」

 声はミラさんですね?ってその角度で抱きつきに来られると胸の純魔結晶がおぶぁ!

 ダッシュの勢いが思いっきり乗った硬ったいクリスタルが私の頬へと突き刺さりました。

 いや、一応変身状態で身体強化の魔力も纏ってるので血が出る程ではないですがそこそこの勢いでぶん殴られたぐらいの衝撃でしたよ?

 ミラさんの方もだいぶ痛かったのかその場で蹲って呻いていますね。

 あ、理珠さん?理珠さんはちゃっかりしてるので突っ込んでくるミラさんを認識した瞬間に退避してました。


 しかし、その真っ白いドレスは一体?

 いや、待って下さい。今、ミラさんは根源核とやらの損傷と肉体的なアレコレでしばらく変身解除不能なはずです。んでんでんで、ミラさんの戦闘法衣バトルドレスってあのかっこいいオリジナル軍服なはずですよね?

 というか、よく見たらこれ真っ白いドレスというか完全にウェディングドレスですよね!?

 一体どういう事なんです!?



☆★☆★☆★☆

イチャイチャ回というか、反省回というか。

あれから寝てる間に5日経過しました。をイチャイチャさせながら書くだけで1話埋まってしまうのはバグでは?


あと、ドレス着てるキャラが多すぎ?

ロングスカートひらひらさせながら派手なアクションするのって最高だと思いません?

思いました?じゃあ許して下さい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る