第80話 垂直軍艦ボルタリング
さて、これから脚部となっている水面に対して垂直に突き立った……あ、一番前の駆逐艦は既に地面に到達してますね。
まあ、艦首が多少潰れてる状態で垂直に立ち上がっている100メートル以上ある構造物を命綱無しでボルタリングしながらCIWSだの対空ミサイルだの黙らせる必要があるわけです。
先頭の駆逐艦を担当する初雪さんなんか、それに加えてトマホークミサイルの発射口やら艦載砲やら近接兵装である重機関砲なんかも処理する必要があるわけで……。
何か特殊な魔法でもないと相当苦労する感じだと思うんですよ。
「では、私はこの子を躾けて来ると致しましょう。セヴンスさんも、ペネトレイターもアインハンダーも、被弾は致命傷となるのですから十分にお気をつけくださいな」
配置上、一番近い前脚の担当である初雪さんはそう言って垂直に突き立ったミサイル駆逐艦の甲板を普通に歩いて登っていきました。
いや、確かにビルの壁面とかを歩いて散歩する吸血鬼とか漫画とかでそこそこ見ますけど、実際にさらりとやってのけられるとこう、中二病的にかなり負けた気分になりますね。
うわ、重機関砲の一斉射を涼しい顔して血の剣で切り払いながら前進するのマジかっこいい、ずるい。中二病の根源魔法より中二病してるのほんと何なんでしょうねあの人。
というか、個人の携行火器じゃなくて軍艦の武装ですよ?
なんで全弾切り払いとか出来るんですか?魔力で強化された私の視力を持ってしても剣の残像しか見えないんですけど!?
反射神経と言うか、時間分解能力というか、そのへんのステータスどうなってるんでしょうね。少なくとも専用の魔法でも作らないと私には真似できないです。
で、次のイージス艦はドリルと義手ペアの担当なんですが。
こちらは極力安全策を取るようで、船底側というか、喫水線付近に工業用ドリルを突き刺して足場を作りつつ、甲板を覗き込んでは射程内の兵器を破壊していく作戦を取っています。
流石に甲板より下に張り付かれても攻撃できる兵器なんて普通は搭載していませんからね、反撃を受けずに一方的に破壊が出来るクレバーな戦術ってやつです。
というか、初手で破壊したCIWSのファランクス砲を九條さんがコピーした時点で火力面でも何の問題も無くなってますしね。
落下しないように真割さんに抱き支えられながら超密度の弾丸を撃ち続ける様子はとても楽しそうでした。
……あと、私達以外の燃料で百合ピッグさん達が騒ぎ立てそうで、それはそれで私達に対する注目度が下がっていいかなぁと思わないでもないです。
私?私はほら、ずるい魔法がありますので。
「
夜ですし、むしろ影じゃない場所のほうが少ないぐらいですからね。
甲板上の死角へにゅるっと移動します。
垂直の壁を登るとかそんな面倒くさい作業、私には必要ないのです。
後は兵器類の破壊ですが、ちょっと困ったことに元の私の7つの魔法だと効率がよく有りません。
となればまあ、根源共有形態の今しか使えない魔法を使えば良いわけですね。
そもそも、音喰みの樹龍の超音波メスブレスを考えたのは私ですし、何かに音を利用した振動を付与して攻撃する魔法をお手本として作ってみせましたからね。
何を作ったって?そりゃ、SF作品で有名な剣の切れ味を上げる奴ですよ。
「
まあ、名前からして「ななほんがたな」って言っちゃってますからね。
で、SF作品で金属でもスパスパ切り裂けるって言ったらレーザーブレードか高周波ブレードか単分子カッターかの3択ですよね。
はい、名前からもう大体バレちゃってそうですが静謐+中二病で高周波振動ファンネル剣のエントリーです。
一応、原理的に高周波振動剣って刃を構成している物質よりも硬い物体を切断することは出来ないんですが(SF作品では結構な勢いでスパスパやってますが、演出上の嘘ってやつですね)この刀は魔法で作ったマジカル金属製ですからね。
日本刀という形状からくるイメージ補正も合わせて、多分ダイヤだろうがタングステンだろうがスパスパ行っちゃうんじゃないでしょうか?
少なくとも、現状このイージス艦の武装を構成しているアルミ合金、ジュラルミン合金辺りなら熱したナイフでバターを斬るが如くです。
CIWSを根本から切断し、艦対空ミサイルの発射台を蜂の巣を模した前衛芸術へと変えつつ細かく影を移動して取りこぼしがないように甲板上の兵器類を完膚なきまでに破壊しました。
コレで残るは空母本体の対空火器と酸素の魔物のみ……だと思うんですけど、艦載機をそのままぶん投げるような発想をする相手ですし、なんだかんだそれだけじゃ終わらない気がするんですよねぇ。
なんて思っていたら、先に登りきったのでしょう。
艦首の方から何重にも重なった銃声が聞こえてきました。
いや、艦首側ということは初雪さんだと思うのでなんだかんだ普通に物理で攻撃して倒せるとは思いませんけど。
念のため、
なるほど……、空を飛ばして魔法での制御範囲外に行ったりしなければ戦闘機群は自由に動かせるということでしょう。
順当に甲板を登って行くと最初に顔をのぞかせるだろう場所に複数の戦闘機の機銃が照準を合わせています。
いや、これ最初に登頂したのが初雪さんじゃなかったらふっつーに蜂の巣になって死んでますよね?
まあ、見えてないだけで初雪さんも蜂の巣になってた可能性がありますが、彼女それぐらいじゃ死にそうにないので。
とは言っても、義手ドリルペアは機動力防御力どちらも足りてると言い難いという事で空母攻略には不参加の予定ですし、穴だらけになってたかもしれないのは主に私ですね。
というか、ご丁寧に艦上のあらゆる構造物を利用して角度をつけてしっかり甲板ぎりぎりを狙えるようになっている辺りが殺意高いですね。
……あれ?私の身柄が目的って聞いてたんですけど、これで私が死んでたらどうするつもりだったんです?
何にしろ、ネタがバレた不意打ち用の仕掛けなんて脅威でもなんでも無いですね。
無視してもいいのですが、対空兵器の破壊中にこっそりこちらに向けられて機銃を撃たれたり方向だけ合ってればいいやとミサイルを発射されたりすると危険きわまりないので車輪まわりだけ破壊して方向転換出来なくしておきましょう。
F-18にそれなりにダメージが入るとは思いますが質量弾扱いされて大破するよりはだいぶマシでしょう。少なくとも、修理可能なダメージで済むはずですし。
さて、後は大したことない作業ですね。不用意に戦闘機の正面に出ないように気をつけて対空装備をサクっと破壊していくだけです。
初雪さんはさっきの斉射が余程嫌だったのか、もう直接CIWSの真上に霧となって移動して斬り掛かってますね。
というか、ドレスにも傷ひとつ無いんですが不意打ちの一斉射全部回避しきったんですか?それとも身体の傷が治る時にドレスも一緒に治る感じだったりしますか?
恐らく、こうも簡単に動きが止められて船体に取りつかれる予定ではなかったんでしょう。
対空装備の破壊もさしたる妨害もなく終わりました。
後は原子炉を消滅させて、どうしようもなくなった酸素の魔物からミラさんを助け出すだけですね。
《理珠さん、対空装備の破壊完了しました。1分で退避しますので雛ちゃんに瓶の投擲をお願いしてください》
「シュネーさん。後1分で終末が着弾します。退避急ぎましょう」
根源共有状態特有のテレパシーで理珠さんへと合図を出し、私と初雪さんは余裕を持って空母から距離を取りました。
いやほら、原子炉を無力化したら電気を血として、魔力の伝達経路として扱えなくなるので空母が100メートル以上自由落下するんですよ?
乗ってたら大怪我しかねないじゃないじゃないですか!
☆★☆★☆★☆
サクっと風雲空母城攻略戦でした。
現代兵器、基本射程こそ正義の設計なので直接乗り込んだりすると途端に抵抗する手段がなくなるんですよね。
で、次回なんですが。
このままのスケジュールで投稿するとクライマックスのドシリアスな場面にバレンタイン閑話が挟まる形になって微妙な感じになるので、バレンタイン用の話をフライングすることにしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます