第79話 真っすぐ行ってぶっ飛ばす。

 魔物の群れを片付け、魔物空母本丸の攻略を開始しようと私達が前に出たその直後でした。

 何か巨大な物体の飛来する音に身構えた瞬間、私達の10メートル程左にソレが着弾、爆発しました。

 「ちょっ!?攻撃用の火器の類はミラさんが頑張って動かねー様にしてるんじゃあありませんでしたの!?」

 真割さんが驚きの声を上げますが、着弾した物体の破片を見れば何が飛んできたのかは一目瞭然でした。

 「攻撃用の兵器類じゃないです!アイツ、パイロットが居なくて役に立たないからって、戦闘機をとしてカタパルトでふっ飛ばしてきたんですよ!」


 何っっっって無駄な使い方をするんですか!

 飛んできたのがF-18として、お値段が大体90億円ですよ!?

 そりゃ、武装も燃料も積んであれば地面に当たって大破して爆発するでしょうけど、そんな使い方しますぅ!?

 あまりの事態にドン引きですが、魔物空母は3本になった脚を細かく動かしをこちらに合わせてきています。


 「終末の瓶が割れてしまえば私達も全滅ですし、ここは隠れてやり過ごすと致しましょう。見るもあたわず、識るもあたわず、隠せ、かくせ、御簾の中──」

 確かに、あのデカい瓶が割れたらパトリシアさんの終末の魔力がこの場で炸裂して私達全員一瞬で塵になります。それだけはなんとしても避けないとですね。

 理珠さんも焦っているのかいつもより詠唱がだいぶ早口です。


 藤御簾を展開してしまえば、中にいる私達を狙おうとしても無意識のうちにその場所を攻撃範囲から除外してしまうので安全なはず……でした。

 間をおかず発射された次弾が私達のすぐ後ろで爆炎を上げるまでは。

 「なんでよ!この藤棚の中にいれば魔物からは見えないはずでしょう!?」

 着弾位置を確認して、再度細かく照準を動かす空母。

 「わかんなくなった時点で照準を動かすのをやめてそのまま発射したのかも知れないですよ!ちょっとあっちの方に動いてみましょう!」

 他に対応策も無いので、青杜さんの提案に乗って藤棚ごとのそっと動いてみますが……。

 

 「ちょとsYレならんしょこれは……?」

 今度はもう、直撃コースで飛来する90億の弾丸。

 『クッソもったいねぇ!コレ1機でサメ映画が何本取れると思ってんだよ!』

 あわや全滅の危機、と思った瞬間。横(いや、どう考えても地面なんですけど?)から飛び出してきた巨大なサメが空中で戦闘機を咥えてその場で爆散することで直撃を防ぎました。

 「……わかった。ミラさんが見てる」

 必死に瓶を守っていた雛わんこの呟きで私も理解しました。

 「なるほど?憑依してミラさんを操って、その操ったミラさんが空母を操作してる以上空母側の知覚はミラさんが行ってる……ということですか。今のミラさんが私達に悪意も敵意も持ってるはずは無いですから、確かに隠しの藤御簾で隠れても意味は無いですね」

 

 しかし、理屈はわかりましたが藤御簾でも隠れられないとなるとどうすれば良いんでしょうか?

 フル装備じゃなかったとしてもF-18って20トンぐらいはあるはずなんですよね。

 そんな重量の物体を高速で発射されたとなれば無限の縛糸グレイプニールをどれだけ重ねれば受け止められるのでしょう?

 いや、それ以前に何もない空中には無限の縛糸グレイプニールを展開する手段が無いんですよね。

 これ、地味に大ピンチだったりしませんか?

 防ぐ手立てがない以上、ここから退避しないと不味いのですが……。

 影から脱出出来る私と理珠さん、なんだかんだ高速移動の可能な雛わんこと白さんと初雪さん。アレが直撃したとなれば生き残れるのはこのメンバーぐらいでしょうか?

 私達が生き残っても、原子炉の処理が不可能になりますし、状況的には敗北確定になります。

 最悪、ただ20トンの鉄塊だったりしたら雛わんこがホームランしてくれる可能性があったんでしょうけど、爆発する以上それも厳しいんですよね。


 私達が対処法を考えている間にも、次弾が装填され……。

 『マホウショウジョ!何とかならないのか!?地上サメ系は本数が少なくて残弾がそんなに残ってないんだよ!』

 クイーンオブシャークさんも、あのサメはそう何度も使える魔法ではないのか焦っている様子です。

 本格的にどうしましょうコレ……。

 「んー、お困りですかー?お困りですねー?」

 そんな場面に、場違いに明るい声で紛れ込んできた白いガウンを羽織った女性格闘家っぽい服装で青髪ポニーテールなおねーさんが1人。

 あれ?この方何処かで見たような気が……。

 

 「いやー、久々に現場に出たのでどれぐらいのテンションでイケばいいかよくわからなくなってるんですよねー」

 そう言いながら拳を握って私達の前、戦闘機の砲弾から庇うような位置で脚を止めました。

 ガウンの裾から覗く脚は鈍く光る金属製で……。

 「おー、殴りがいのあるいいサイズじゃないですかー。肩慣らしには丁度いいですねー」

 右利きのボクシングスタンスで構えた脚部から、スタビライザーなのでしょうか?地面に鉄杭が打ち込まれ……。

 「輝けるるみなぁぁす究極の右あるてぃめいたーむ!!!」

 純白に輝く右ストレートが、飛来してきたF-18を一切の痕跡無く消し飛ばしました。

 

 うっわ、この方前に動画で見た右ストレートさんじゃないですか!

 魔物から一般人を逃がす際に建物の倒壊に巻き込まれて両足を失って引退したはずでしたよね!?

 何でも消し飛ばす魔法の右ストレートを放った彼女の脚部から激しく蒸気が排出されます。

 「うーん、やっぱり衝撃吸収能力が足りてないじゃないですかー。これ、私が全力でパンチしたら一発でおしゃかですよー?」

 そして、鮮やかに私達のピンチを救っておきながら、全然本気が出せないと不満げな右ストレートの魔法少女。

 『あー、やっぱ性能足りてないのか?これでも耐久性は最大限強化してあるはずなんだぜ?』

 なるほど、合点がいきました。

 アメリカの機械化リトルウィッチが使ってるサイボーグ義足をクイーンオブシャークさんが持ってきてたんですね?

 ということは、やや遅刻してきた原因もこのをしてきたからでしょうか?

 「もー、全然足りてないですよー。こんな重くっちゃフットワークも刻めませんしー?完全復帰には程遠いですねー」


 「右ねえ。もしかして、復帰するのかい?」

 知り合いらしい如月さんの言葉に力強く頷く右ストレートさん。

 「以前と同様にーとは行きませんけどー、この脚でも十分戦えそうなのでー、よーつーばー、マナ・フルボッコあらため魔法少女シャイニング・ライト現役復帰しますよー。」

 そう力強く宣言すると、再度飛来してきたF-18を再び右ストレートで消滅させました。

 いや、動画でも見ましたが無茶苦茶ですねあの魔法……魔法ですよね?

 これでも現役時代のフルパワーには程遠いとか、さすが元エース級魔法少女と言わざるを得ません。

 

 「ほらー、後輩さん達ー。アレは私が防ぎますからー、本来の作戦忘れちゃダメですよー?今の私だとあの空母の脚は登れないですからねー」

 おっとそうでした。ここを任せて良い強力な助っ人が現れたなら私達は空母本丸の攻略に取り掛からなければなりませんね。

 「偉大な先輩にお礼を申し上げますわ。随分と盛大なオードブルでしたが先輩が片付けてくれましたし。次はメインディッシュの前のスープと魚料理ポワソンに手を付けると致しましょうか」

 

 優雅に一礼して駆け出す初雪さん。

 おっと、私も負けてられないですね。

 作戦の次段階、脚部軍用艦及び空母本体の搭載兵器の破壊。

 ミラさんの負担軽減のためにも迅速に果たすとしましょう!



 

☆★☆★☆★☆


ということで、世界一高い質量弾と右ストレートさんの復帰回でした。

なお、現在の技術では全力輝ける究極の右に耐えられる義足は作れない模様。

あ、サメ映画の魔法、1作品1日1回しか使えない縛りなので特殊なサメの連続召喚はできなかったりします。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る