第78話 バニーガール・アクセルフォーム

 いろんな要因で被害を受け、数を減らしながらも上陸してきた魔物の群れに対して。

 「乱戦になる?k、じゃあ、デバフ撒く。くれぐれもふっ飛ばさないこと!」

 打ち合わせ通り、最初に依霞さんが動きました。

 戦闘開始からこれまで、酸素の魔物による憑依を避けるために雛わんこが魔力可視化装置で周囲を監視していたのですが、流石に敵味方入り乱れての戦闘となるとソレも難しくなるだろうという事で、憑依攻撃対策には依霞さんがあたることになりました。

 ……しかし、ちょっと前の魔物の群れとの戦闘の時に青杜さんに霧をふっ飛ばされまくったのだいぶ根に持ってますね?


 「十重とえに、二十重はたえに、けぶれ、ただれよ。見渡す限り、彼方まで。魔喰まぐいの浅霧・広域版!」

 霧というよりはもや……いや、かすみいえ、今は夜だからおぼろと呼ぶのが正しそうな程の薄さで、魔物だけを溶かす霧が展開されました。

 なんでも、酸素の魔物は他の生物を使役する能力に特化しているため構造が脆弱で、この程度の濃さの霧でも突破するのに多大な被害を被る程貧弱なのだそうで。

 ちゃっかり、この前の魔操種熊大発生の時に実験は済ませているそうです。

 さすが、抜け目がないですね。


 じゃあ、私もちょっと支援をしましょうか。

 一応、私と初雪さんは空母制圧要因として魔力を温存するという名目でお手伝い程度のお仕事ですが。

 ……まあ、私が消費する魔力は現状酸素の魔物の魔力なので使ったほうが得なのですが、あまり暴れて、何かの要因で魔力盗みがバレても損ですしね。

 あと、常に絶視無影ぜっしむえい黒雷鎚くろみかづちを維持している関係上、魔法を扱う脳のリソースがそれなりに圧迫されているのもあります。

 ではでは行きましょう。魔物にとっては邪魔で邪魔でこの上ないであろうこの魔法。潜影操手カルンウェナンの悪質改造品!

 「神威変性ディヴィニタス・ディジェネラートゥム鬱森濃樹うつりんのうじゅ日陰藤ひかげふじ

  

 薄っすらと、本当に薄っすらと見える程度に透けた、酷く濃く生い茂った藤の蔦と花が私達と魔物の群れの間に生い茂り……。

 私達から見ればそんな、ちょっと微妙な背景レイヤーが一つ追加された程度の変化ですが、これが魔物側から見ると真っ黒い影で出来た密度の高い茂みが生えてきたように見えるのです。

 しかも、影で出来てるから触ることも出来ず、触れないので当然払い除けることも出来ず、魔力を纏った遠距離攻撃は影の世界へご招待という。

 生死をかけた戦場で、こんな、FPS系のゲームで存在したらクソゲー確定なオブジェクトを生み出したらどうなるでしょうか?


 突然目の前に現れた鬱蒼とした茂みに魔物たちの足が止まりました。

 そりゃ、なんかよくわかんない魔法で障害物が発生したら警戒して止まりますよね?

 でも、その選択は悪手中の悪手なんですよ。

 「よくわからないけど、要は撃ち時って事でしょう!?」

 白さんが腰だめに構えたミニガンが。

 「破壊力ばつ牛ン!」

 前回の熊の時にコピーした九條さんの大量の銃火器が。

  「螺旋の一刺しスティングスパイラル!」

 地面から生える、真割さんの生み出した大量の工業用ドリルが、動きを止めてしまった魔物の群れに襲いかかりました。

 

 ここに到着するまでに、巨大いどまじんと戦闘し、爆破毒をばら撒く蔦の猛禽に襲われて消耗していた魔物達の大多数は、この一斉射に耐える事ができずに倒れ伏し、塵と化していきます。

 ……でもまあ、当然倒れないボスクラスの再生怪人もいるわけで。


  「縺翫↓縺上◆縺ケ縺溘>まほうをころすまほう


 私の鬱森濃樹うつりんのうじゅ日陰藤ひかげふじも、工業用ドリルも、銃弾の雨もそれが最初から存在しなかったかのようにかき消えました。

 

 そりゃ居ますよね、私達の思念がゆらぎに影響を与えて生み出された魔物なんですから、『前回のボスモンスター』は混じっていて当然です。

 ただ、能力自体はかなりパワーダウンしているようで「魔法によって生み出されたモノ」は消せても前回のように「使用されている魔法そのもの」を消すことは出来ないようです。


 「ああ良かった。あの弾幕で死んでたらどうしようかと思っていたところなの」

 クソ痴女のエントリーに、嗜虐しぎゃく的な笑みを浮かべる白さん。

 「前回はセヴンスが倒してしまったせいで、私の鬱憤は全く晴らされていないのよ」

 構えていたミニガンを虚空へ溶かし、のアサルトライフルをいつも通りの二丁拳銃にして悠然とした歩みで前に出ます。

 「貴方は私達の想像から生まれたコピーで、本人じゃないってのはわかってるのだけれど、私の八つ当たり、受け止めてもらうからね」

 

 「ショウダウン!兎の疾走ラピッドラビット・ダブルダウン!」

 白さんが加速の魔法を使うのと同時に、魔法少女メタの再生怪人が黒い魔力を纏った右腕を掲げました。

 って、劣化しても即死魔法は使えるんですね。どうやら知能は普通の魔物と同等まで落ち込んでいるようですが、これが前と同じ状態だったら結構ヤバかったんじゃないでしょうか?

 小さいから魔物の群れの中だと目立ちませんし、その状態から急に即死魔法を使って来られていたら防ぎようがありませんでしたし。

 助けに入ろうかと構えましたが、白さんに視線で止められました。

 どうやら、何か対策があるようです。


 ──■■■■■■しょうじょのおわり──


 どす黒い魔力が開放されるのとほぼ同時に、白さんの姿がかき消えました。

 姿は見えず、わかるのはあちらこちらで着地の衝撃でえぐれる地面や壁の跡だけ。

 ……いや、普段の加速魔法からしてめちゃめちゃ速いと思っていたんですが、これ大丈夫です?ちゃんと自分の位置とか速度とか認識できてます?

 「その魔法、視界に入った相手、しか、狙えないん、でしょう?認識、出来ない、速度で、動き回られたら、どうするつもり?」

 白さんの声がとぎれとぎれにドップラー効果を残して聞こえるの、とてもシュールです。

 いやしかし、あの即死魔法って視界内限定だったんですね。発動条件を絞り込むまで白さん何回あの動画みたんでしょうか?


 白さんが認識できない速度で動き始めたので諦めてターゲットを変えたのか、今度は九條さんを見ながら手に黒い魔力を纏わせ始める魔法少女の天敵。

 当然、そんな隙を白さんが見逃すはずもなく。

 「だーめっ。貴方の相手は私なはずでしょう?目移りなんてゆるさないんだから」

 コンクリートの地面を砕くほど激しいブレーキをかけて痴女の魔物の前で急停止すると、魔法を発動しようと開いていた魔物の口に両手のアサルトライフルに装着されていた銃剣が突き刺さりました。

 

 「はい、チェックメイト。……弱体化してたのもあるんだろうけど、思ってたよりあっけないものなのね。肩透かしも良いところよ」

 口に突き入れられた銃口から弾丸が斉射され、魔物の頭部を吹き飛ばして止めをさしました。

 多分、以前と同じ様な知性があれば移動経路と思しき場所を黒いビームで薙ぎ払ったり、そもそも燃える水で行動範囲を狭めたり、獣を呼んで盾にするなりやってきたんでしょうけど、最大の特徴であった知性がコレだと即死魔法以外に脅威がないそれなりに強い雑魚でしか有りませんでしたね。


 「せっかく新しい魔法3つも作ったのに、1つ目で終わりなんて消化不良も良いところじゃない。……貴方達、私の鬱憤晴らしに付き合ってもらうけど、良いかしら?」

 まだ生き残っていた数体の魔物は、目的の相手の手応えがなさすぎて不満げな白さんのストレス解消のまとになってしまいました。

 白さん、装甲をまとった兵器の破壊にはそんなに向いてないので後は護衛の仕事しかないからここで暴れておかないとですもんね。相手をした魔物さん達に合掌です、なんまんだぶなんまんだぶ。


 さて、後は残った脚を登って空母を制圧するだけですね。

 ミラさん救出までもうちょっとです。

 気合を入れて頑張りましょう。




☆★☆★☆★☆


という事で再生怪人回

バニーガールアクセルフォームで瞬殺でした。

再生怪人ですから、あっさり死ぬのは宿命みたいなものですね。




 

 

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