第76話 音喰みの樹龍

 先行してこちらへと向かっていた有象無象の魔物の群れをふるいにかけ終えた頃、その後ろから迫っていた魔物空母が致しました。

 『我々は機械を侵食する魔物の群体である。貴殿らの国を我らに侵されたくなくば、救世主の根源のバーバ・ヤガーを引き渡してもらおう!さもなくば、この原子力空母にて貴国に上陸し、可能な限りの破壊を尽くすものと知れ!』

 接岸と同時に、なにやら魔物の空母の方から恐らく不愉快な内容であろう戯言が垂れ流されておりますが、残念ながらわたくし、ルーシャ語はさっぱりなのです。

 要求を通したいのならば、せめて相手の国の言語を学んでおくべきなのではないでしょうか?そもそもテロリスト相手の交渉は下策とされておりますので無意味だった可能性も非常に高いと存じますが。


 しかし流石に、サイズが巨大だと動きが遅く見えたとしても一歩一歩が大きい分、見た目以上に早く進むものですね。

 動きを止めるならそろそろ頃合い、でしょうか。

 わたくしと優希さんの根源から湧き上がる魔力を混ぜ合わせ、魔法の発動に向けて魔力を溜め始めます。

 

 しかし、優希さんの、魔女セヴンスの7つの魔法ですが、いずれも強力かつそれぞれの魔法の得手とする相手が違っており、どれほど魔法創成のセンスが優れているのでしょうと感心しておりましたが……。

 まさか、根源の方にその理由があったなどとは思いも寄りませんでした。

 流石に想定外というものでございましょう?魔力根源だなんて。

 今はわたくしもその恩恵にあずかっておりますが、正直に気持ちを吐露させて頂けるならば「ちーと」も良いところでございますからね?

 

 魔法の創成とは、例えて言うなら見知らぬ街で地図も持たずに、北の方や南の方といった非常に大雑把な情報だけを頼りとして目的の店舗を探し出すようなものでございます。

 想定した消費魔力量よさんの都合がつかなかったり、魔法が発動しないおみせがみあたらないといった試行も多く発生いたします。

 魔法が最低限、使用可能な形になるのが10回に1回程度。最初に創りたいと思っていた魔法に至るまで100回以上試行するなんて場合も珍しくはないでしょう。

 試行毎に精神的な疲労も相当量溜まりますし、自分の魔法の新たな可能性でも見つからない限り、正直なところあまりやりたくない作業なのでございます。


 ですが、この意思の疎通が出来る根源なんてものが有れば話は全く変わってくるのです。

 先程の例で例えるならば、その街に精通した友人が常に傍らに居る状態……でしょうか?

 あやふやなイメージうろおぼえのおみせでも対話を通じて何が必要で、何処を目指せば良いのかを明確にすることが出来ますし、魔力量よさんに対して最適な効果量しなものを教えていただくことができます。

 あまつさえ、どういう意図で魔法を創っているのかを汲んで、別の実現方法こっちのおみせの方が目指す効果に対して効率が良いなんて提案すら出してくるのです。

 わたくし達の、普通の魔法少女の努力は一体何だったのかと、優希さんの根源を利用して魔法を創った際には思わず天を仰ぎました……。


 失礼しました、思考が横道にそれておりましたね。

 魔力も十分確保できましたし、そろそろわたくしの「中二病」を具現化させましょう。

 「1番、ルーチェ☆!いきまーす!」

 おや、青杜さんに先を越されてしまったようですね。

 「収斂せよ、収斂せよ、其は流星にあらず、其は隕にあらず、其は破壊を振りまく彗星にあらず。収斂せよ、収斂せよ、其はただ一点を貫く箒星ほうきぼし。尾を引く竜よ、地に落ちよ!かの地の破壊をただ一点に!ピンポイント・ツングースカぁぁ!」

 空が歪み、赤熱する彗星が高速で飛来して前右脚部となっているイージス艦を真上から貫きました。

 結果は当然、熱と衝撃による完全破砕。

 範囲を限定してあるが故に、逆にその空間内での破壊力が最大化された魔法少女ルーチェ☆メテオリーテの最大火力が魔力によって強化された軍用艦を一撃で崩壊せしめました。

 凄まじい威力ですが、青杜さん、最初これを原子炉が搭載されている空母に直撃させるおつもりだったのですよね?ちゃんと考えて発言されておりましたか?

  

青杜さんの目標は破壊されましたし、次はわたくしが中段左のミサイル駆逐艦をお相手致しましょう。

 「沙漠の麦穂、沙羅蛇の献身、人の血、龍の血、藤の花。音亡き音にて誅敵を屠る、八岐やまた従えし絶禍ぜっかのくちなわ。来たりて吼えよ、音喰おとはみの樹龍!」

 詠唱うたと共にわたくしの周囲に広がり続けていた藤樹の森が蔦を伸ばし、絡まり合い、高く高くその身を伸ばして巨大な龍の似姿へと変じます。

 

 いえ、その、どうにもわたくしのイメージが悪いのか、造形のセンスが足りないのか、龍の姿がどうしても異形というか、巨大すぎるを持ち、眼を持たず、腕すら存在しない怪獣と呼ぶ方がふさわしいような様になってしまうのですけれど……。

 樹龍の周囲には8本の肢龍が侍っており、これが造形に失敗していつも消えてしまう腕の役割を代替しています。

 

 正直に言いまして、わたくしとしてはとても龍には見えない造形なのですが、優希さんには「この異形感が素晴らしいです!最高のデザインですよ!」と絶賛して頂けましたので良いのです。……良いのです!


 それでは、わたくしの担当する脚部の破壊に向けて進軍を開始いたしましょう。

 わたくしの指示に従って音喰みの樹龍は一切の音を立てずに侵攻を始めました。

 突如出現した巨大な異形に、魔物の空母から対空火器による集中砲火が浴びせられますが……。

 龍の姿を模してはいても、あくまで藤樹の蔦の集合体でございますので?

 臓器は疎か骨も血も無い樹龍に対しては、生半なまなかな攻撃では徒労に終わるのみでございます。

 例え胴に大穴が空いたとして、周囲の蔦が伸びればすぐに塞がってしまいますので。

 多数の対空ミサイルやCIWSのガトリング砲による射撃を受けつつも、全くの無音のまま樹龍は歩みを進めました。


 あちらも巨大ですが、こちらの樹龍もさるもの。巨体同士が前進すれば攻撃開始までさしたる時間はかからぬものでございまして。

 目標とする左中脚部が射程に入りました。

 そう、射程でございます。

 音喰みの樹龍、全長は100メートル前後と巨大ですがあくまで植物であって鉄の船体を砕く様な格闘戦など出来ようはずもありません。

 この巨体は別の、コレほどの巨体が必要な魔法の発射台なのです。


 海底につけた脚の一つより大量の砂を吸い上げ、水分を取り除き、魔力を付与しながら樹龍の喉へと送り届けます。

 静謐の根源の邪道なる運用。優希さんの、中二病の根源より提案されたわたくしの魔法の中で最も高い破壊力を誇る魔法。

 これまで周囲で生まれた音を、その名の通り喰らい続けていた樹龍によってもたらされる滅びの吐息!

 「目標設定、距離よし、障害物無し。さあ、受けて頂けますか?これがわたくしの全力全開!なれは断ち切る音をあらわす破邪の剣!」

 溜め込まれていた音が魔力によって姿を変えます。可聴域を超えて更に高く鋭く……。

 この魔法はその振動を、超音波を、砂に付与して放つ全てを断ち切る無音の刃!


 「韴霊剣ふつみたまのつるぎ!」


 樹龍の巨大なから放たれる白く光る吐息は、空母の脚であったミサイル駆逐艦を鮮やかな切れ味で断ち切りました。

 優希さん曰く、超音波メスと呼ばれる攻撃だそうです。

 かなりの魔力を消費するとは言え、砂と音で鉄の軍艦を断ち切るなどという芸当が可能だとは正直思っておりませんでしたし、樹龍という発射台が必要とは言え、この魔法がほとんど静寂の根源からの魔力で成立しているなど、今でも信じられません。

 

 これで、わたくしは役目を果たしました。

 対空砲火も引き付けましたし、接近は容易になったはずです。

 アメリカのエース級リトルウィッチさん。

 次は貴方の魔法、見せて頂けますか?


☆★☆★☆★☆


ということで、理珠さん大暴れ回というか、空母ロボVS怪獣回というか。

元ネタについてはわかり易すぎるのでノーコメントで。

そして、共有されて初めておかしいと指摘された中二病の根源の謎回でもあります。

あ、魔法の詠唱は基本的にイメージを固めるためと、あったほうが魔力消費が下がりやすい的な要素なので実は毎回セリフが違っても成立します。

近接戦闘メインで一瞬で発動させたい魔法とかには詠唱ありませんしね。


次回更新予定は1月31日21時の予定です。

どうかよろしくお願いいたします。

サメ回ですよサメ回!




最新話までお読みいただき、感謝致します。


このお話を少しでもおもしろいと思ってくださった方は、


・「★で称える」の+をお好みの回数押して「★」で評価


もしくは


・作品フォロー


等の方法で、応援していただけると励みになります。



どうかよろしくお願いいたします。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る