第74話 きっと来るー、きっと来るー
夜の帳が完全に降りきり、港を照らす明かりが人工の光のみになった頃、それはやってきました。
自衛隊の設置した無数のサーチライトで照らされる7隻の無人艦隊。
いや、実際は1人だけ、ミラさんだけが乗っているので完全に無人というわけではないのですが……。
一応、風鳴港の水深は深い方で接岸は出来なくてもそれなりの場所までは空母でも航行が可能になっていると、作戦資料には書いてありましたが……。
港に入ってすぐ、魔物の艦隊の横に張り出しているミサイル駆逐艦が思いっきり引っかかりました。
そりゃそうですよね。どんな港だって、船が真横を向いて入ってくるような設計にはなっていないはずです。
んー、しかし、なんか魔力の反応が複数あるような気が……。
沖合いで煽ってたときはミラさんとエヴゲーニヤ博士の魔力しかなかったはずですよね?
「なんで?甲板の上、いっぱいいる」
鬼巫女に変身済みの雛わんこがそういって私に双眼鏡型の魔力可視化装置を渡して来ました。
とりあえず覗いてみれば……。
現在進行系で甲板の上に発生し続ける魔物の群れが。
あー、そうか、確かエヴゲーニヤ博士が作ったゆらぎ消滅装置の失敗作で、結果的にゆらぎ発生装置になったってヤツがありましたよね?
博士の無駄に大量に蓄えられた魔力を使ってゆらぎを発生させて無理矢理魔物を量産してるんじゃないでしょうか?
沖に居た時にそれをやらなかったのは魔物を発生させるだけの思念が確保できなかったからでしょうね。
見てる端から、わっしゃわっしゃ増えていきますねこれ。
「多分、エヴゲーニヤ博士が作ったっていうゆらぎ発生装置で魔物を生み出してる感じだと思うんですが、これどうします?」
あの数の魔物の相手をしながら対空火器を潰して、脚3本を折るって流石にしんどくないですか?
あと、まだアメリカのエース級リトルウィッチさんとやらが到着してないんですがどうしましょうね。
「あら?あの魔物の群れ、前に倒した顔ぶれが雁首揃えてやがるように見えるんですけど、ワタクシの勘違いだったりします?」
「勘違いではなくってよ。私がダンスパートナーを努めた魔物も何匹か招待状を受け取ったようですし、他の魔物も皆さんなんとなく見覚えがあるのではなくって?」
ふむ?確かに、よく見ればなんか倒した記憶のある形状の魔物が多いですね。
……いや、当然といえば当然ですね。周囲の民間人が避難を終えている今、あの魔物の群れを発生させるための思念はここにいる魔法少女達の思念なんですから。
何かと記憶に残ってる魔物が再度現れても不思議ではないです。
となると、アレは人型だったので小さくて確認できないでしょうが、理珠さんの心臓をぶち抜きやがったブサ女がいる可能性もあるわけですね?
「私ね、リベンジしたい相手が居た所なのよ。多分、私達が脅威と思った魔物、苦戦した魔物が呼び出されているわけでしょう?なら、当然私がこの手で倒してやりたかったあのクソ女もあそこに紛れてるってワケでしょう?なら丁度いいじゃない、まとめて倒してやりましょうよ。なにより、再生怪人は一瞬で倒されるものって相場が決まってるのよ」
そう言って、構えた銃に銃剣を装着する白さん。
なるほど?新しい魔法、新技、その他色々用意してきたのは私達だけじゃなかったって事ですね?
ある程度数が揃ったのか、甲板の上にうごめいていた魔物の群れが飛び降りてこちらに向かってきているのが見えます。
……あの、空母の甲板って結構高い場所にあって、そこから何も考えずに飛び降りたら、あっ!
なんか、数匹海面激突から霧散して行きましたが見なかったことにしましょう。
というか、そもそも水に浮かない系の魔物が沈んだままだったりしますが、きっと気にしたら負けです。
というか、魔物はどうしてミラさんに襲いかからないのでしょうか?
別の魔物ががっつり抱え込んでると縄張り効果的なヤツで他の魔物が手を出せなかったりするのでしょうかね。
気にはなりますが、検証しようにも1回検証する毎に魔力保有者1人が犠牲になりますになりそうでちょっと無理っぽいです。
魔物を降ろし終えたのか、空母も変形を開始しました。
物理的には全く何の接続もされていない6隻の軍艦が空母の喫水線辺りに魔力で無理矢理接続され、空母本体を持ち上げていきます。
流石に構造上無理があるのか、脚となっている6隻は船首が重量で潰れて行っていますが魔力で補強でもされているのか船体が太くなる部分辺りで崩壊が止まりました。
「とりあえず、向かってくる有象無象を
そうかっこよく宣言して前に出たのはでっかい三角帽子が目立つ如月さんですね。
背後には事前に設置されていた巨大なスクリーン。
アレ気になってたんですよね。何に使うのでしょうか?
「この怪異は有名なホラー映画をモチーフにしたものでね、出現するサイズはモニターの、映像が写る物体のサイズに比例するのさ。だからこうして映画の屋外上映用のスクリーンを設置してもらったというわけだね」
言いながら、熊のぬいぐるみに包丁を突き刺す如月さん。
『次は井戸の怪が鬼だから』
声と同時にぬいぐるみがかき消え、スクリーンに不気味な映像が映し出されます。
それは次第に鮮明になり、最終的に古い井戸を映した場面に成りました。
あっ、これは……、輪っかですね!
恐らく日本で一、二を争うほどには有名なホラー映画の一幕です。
ほら、井戸に手がかかって、髪の長い女が這い出してきます。
……劇中では、ブラウン管TVから出てきていたので人間サイズでしたが、そうですか、スクリーンから出てくると巨人になるんですねこれ。
いや、魔法でそう設定してるだけかもしれませんが。
そういえばこの貞……じゃなくて井戸の怪ってヤツ、どうやって戦闘するんでしょう?
スクリーンからずるりっと抜け出してきた巨大で不気味な女性はそのままゆっくりと入水し、魔物の群れに対して……。
徒手格闘を開始しました。
……えー?しかもなんかカンフーっぽい動きですよこれ。君、映画とキャラ違いすぎません?
しかし、その攻撃の威力はサイズに比してかなり強力なようで、有象無象クラスのさして強力でもない魔物は一撃で消し飛んでいます。
でも、万能ってわけでは無い様子で……。
一撃では倒されなかった魔物、そもそもサイズが小さくて格闘の
というか、井戸の怪本体も無数の魔物に群がられてそのうち消えそうな勢いですね。
まあ、露払いとしては十分以上な仕事をしてくれたとは思うのでお疲れ様でしたと言っておきましょう。
「セヴンス様、ではわたくし達もそろそろ……」
袖をクイッと引っ張られる感触振り向けば、やる気に満ち溢れた理珠さんの顔が間近に。
ん、理珠さんこれ、新しい力のお披露目を早くやりたいと地味にウズウズしてますね?
じゃあ、期待に応えて新要素の公開といきましょうか!
「わかりました、じゃあ、行きましょうか」
私の答えに対して被せ気味に私を抱きしめて大胆に唇を重ねてくる理珠さん。
……あの、昨日から急に積極的になりすぎじゃないですか?
いや、まあ確かに必要な工程ではあるのでいいんですけどー。
というか、なんか昨日あったあれこれの刷り込みで抵抗するって考え自体が湧いてこなくて怖いんですけどー!
粘膜を介して、自分の身体に巡る魔力がほとんど相手のものになってしまうまでお互いに魔力を注ぎ合います。
魔力が抜けていく心地よさに、ちょっとだけ昨日の夜の事を思い出して身震いしますが深く考えたらきっと負けです。というかもう負けてるので考えるだけ無駄です。
さて、準備は整いました。
これは、イツァナグイですら確認した事が無いという私と理珠さんだけが可能な奇跡。
他人と臓器を共有などという不可思議な関係から生まれた驚異。
毎日の魔力交換によって「お互いの根源が共有」されるなんて前代未聞の現象から生まれた新しい力!
さて、満を持して、その名を宣言しましょう!
「「
☆★☆★☆★☆
普段は朝書き上げて、読み直して確認してから寝るのですが
色々用事があって書き上がったのが20時過ぎててギリギリです。
間に合ってよかったー。
ということで、魔法少女モノで2期と言えばの強化形態です。
お披露目自体は次回ですが、どういうものになるか予想して待って頂けるとよろしいかと。
あとまあ、ずっと前から設定だけあったいどまじんが出せました。
魔法、色々設定してあっても出す機会が無いヤツも多いんですよね。
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