第72話 こうして、悪い魔女は魔法少女に……

 作戦会議の翌日は決戦前夜ということで、初動対策課の面々は英気を養う為のお休みということに成りました。

 今日だけは、余程のことがない限り魔物が出現しても地方所属の魔法少女たちで対処する方針だそうです。

 魔物の艦隊に関しては米軍と自衛隊がチームを組んで24時間体制で監視しているそうで、加速して到着時間が早まったり急に方向を変えたりと妙なアクションがあったら連絡が来るようになっているみたいです。

 

 しかし、よく考えると魔物の艦隊は24時間……、いえ、発見から到着予想時刻の明日の19時まで70時間ぐらいの間ずっとミラさんの魔法で動いているわけです。

 魔力を消費することである程度までの疲労なら無視して行動できる私だって、常に魔法を使いながら数日間も休まず、なんてやったことはないですし、やりたくもないです。

 しかも、使わされている魔法は自らの扱える魔力を大きく超えるもので、外部から魔力を注がれながら無理矢理使わされているものなんです。

 ミラさん、大丈夫なのでしょうか……。


 「明日の事を不安に思っておられるのですか?」

 思い悩む私のことを心配してる理珠さんに後ろから抱きしめられました。

 小柄な理珠さんより更にスモールな私を包み込むように。

 「いや、明日はどうせ私達が勝ちますよって思ってるので問題はないんですが……。ミラさん、何日もぶっ通しで身の丈に合わない魔法を使わせられ続けているじゃないですか。大丈夫なのかなって思いまして」


 「……優希さんは、いつも他の方の心配をしてばかりですね」

 理珠さんが不満げに膨らませた頬が私の顔に軽く当たります。

 「たまにはご自身の安全についても考えて頂けませんか?今回の件、敵の本来の目的は優希さんなのですよ?」

 理珠さんの私を抱きしめる力が徐々に強くなって身動きが取れなくなります。

 あれ?もしかして理珠さんそこそこ怒ってませんか?


 「最後に優希さんの提案された作戦。アレもわたくし納得しておりませんからね?なんですか、酸素の魔物を確実に倒すにはこの方法が一番効率が良いって!優希さんの負担と危険が大きすぎます!」

 うぐぐ、体勢的に呼吸が徐々に苦しくなってきましたが、流石に普段から心配掛け通しな自覚はあるので甘んじて受け入れます。


 しばらくそうしていると、ふっと拘束が緩み、耳元で……。

 「わたくし、優希さん無しではもう、いくつもの意味で生きていられないのですから。ご自愛くださいね?」

 なんて甘い声で囁かれた後、耳に息をふーってされました。

 思わず腰砕けになって理珠さんにもたれかかってしまいます。


 ……理珠さんの根源って、ちゃんと藤花と静謐で合ってますよね?どっかでサキュバスの魔力根源とか拾ってきたりしてませんよね?

 ってまってまってまって!そこで耳を甘噛みしない!

 ぬおおおおお!理性もってくれよ!貞操拳3倍だー!

 ちょ!待って!私の手を服の隙間に招かないで!?

 うっわ、肌がもちもちさらっさらですね!


 はあ、はあ、小一時間にわたる長い攻防いちゃいちゃの末、私の理性がなんとか、紙一重で勝利しました。

 「ダメです!ここまでです!今日はこれまで!つ、続きをやるにしても明日の戦いが終わってミラさんを助け出してからです!」

 だから、そんな寂しそうな顔をしてもダメです!

 ダメったらダメですー!


 ……ふう、何とか勝利さきのばしにすることが出来ました。

 その後はまあ、平和なおうちデートでした。

 熱帯雨林プライマルで私が死んでる間に公開された映画を見たり。

 アレですよ、シンがタイトルに付くシリーズですよ。

 シリーズ最終作の、「シン・福音」とか、「ああ、監督これで自分でかけた呪いから開放されたんだなぁ……」ってちょっとしんみりしました。

 ハリウッドのスーパーヒーロー時空の奴はなんか、知らない間にめっちゃ派生作品が出てて、流石に1日じゃ追いきれないと思ったので積みました。まあ、そのうちですね。

 

 で、2人で夕食を摂って……。

 理珠さん、あの小柄な身体でめっちゃ健啖家なのでちょっとびっくりする量のお皿が食卓に並ぶんですよ。

 というか、こんな量の食事を毎日食べてあの細身なの得心ゆかぬです。

 肉もつかない、身長も伸びない、見て分かる範囲で筋肉が付いてるわけでもないと……。

 その、召し上がってる大量の食材達は何処に消えているんでしょうね?


 ……いや、なんとなくわかってはいるんですよ。

 その痩身がいけんに反してめちゃめちゃ力が強い事とか、大体いつも温かい手のひらとか、お風呂に入るとわかるびっくりするほど浮かない身体とかで。

 体質なんでしょうけど、筋密度が高いがゆえに細く見えるそれが、実際は一切の無駄を削ぎ落として鍛え込んだ芸術作品みたいな肉体だってことは。

 だから、休眠変身状態で普段より力が強いはずの私が理珠さんに力負けして組み敷かれる流れになるのは不思議ではないです。

 決してつよつよ顔面で甘い言葉を囁かれながら迫られて、力が入らないわけではないです!ホントですよ!?

 あと、そんな肉体なのに最低限の脂肪も残してあって、触ると柔らかいのずるくないです?

 

 で、2人でゆったりとお風呂に入って……。

 寝る前には明日使う予定のお互いの新魔法についての確認と軽い検証ですね。

 え?私が8つ目の魔法を使えるのはおかしいんじゃないかって?

 いえいえ、『魔女セヴンス』は7つの魔法しか使えないってだけの話です。

 どういうことかは当日をお待ち下さいってヤツですね。

 イツァナグイすら聞いたことがないっていう特殊な現象を見せてご覧に入れますよ。


 そうして、夜11時には床につきました。

 個人的には寝酒を1杯やりたいところですが外見年齢的にちょっと問題がありすぎるので我慢です。

 というか、このゾンビぼでーは酔えるのでしょうか?謎です。

 しかし、布団には入ったものの、なんとなく明日の事が気になってなかなか寝付けませんね。

 理珠さんもそれは同じなのか、寝返りをうったり布団から足を出してみたり、落ち着かない様子です。

 

 と、日付が変わった辺りでしょうか?

 理珠さんがですね、急に私の服を脱がし始めたんですよ。

 ……え?いやマジでなにやってるんですか!?

 目を開けてみれば、漫画だったら瞳孔がハートになってるような表情をした理珠さんの姿が……。

 「優希さん、わたくし思ったのです。明日の戦いが終わってから続きをしましょう、というのは俗に言う死亡フラグというものなのではございませんか?」

 あ、いやまあ確かに?

 「ですので、今から続きをして、死亡フラグを破壊したく存じますのでご協力頂けますか?」


 ちょうど、別の部屋の柱時計が日付の変わる音を奏でました。

 「ほら、優希さん。今日はここまで、とおっしゃいましたけど日付も変わってしまいましたし、良いですよね?」

 え?マジで言ってます?ちょ、ちょっと待って下さい、冷静になりましょう?ね?

 「そもそも、ずっとわたくしがお誘いしているのに一向に据え膳を食べてくれない優希さんが悪いんですよ?」

 月明かりの中、妖艶に微笑む理珠さんにちょっとゾクっと来てしまいました。

 あれ?これ、もしかして本格的に逃げられない流れじゃありませんか?

 

 「ですから、悪い魔女は、わたくしが、食べてしまいますね?」

 

 あ、えー?あれ?私の心の準備がですね?あの?

 あっあっ、ちょっ、えっ!?力つよっ!って、そんなのどこで知ったんですか!?

 まってまってまってそんな上手いのおかしいでしょう!?あーー!!!



 こうして、悪い魔女は魔法少女に食べられてしまいました。

 めでたしめでたし。

 ……めでたいです?ほんとに?


☆★☆★☆★☆


ゆうべはおたのしみでしたね。


基本的に、作品内のキャラが勝手に動く時は止めない作風なのですが

書き始めた時から一番勝手に動いてるのが理珠さんだったりします。

今回も一線超えるまでやる予定じゃなかったんですYO!

なんで貴方の方から手を出しちゃってるんですか!


あ、ちなみに理珠さんは作中で一番むっつりスケベです。




 


  

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