第67話 魔物の艦隊
「あっははははは!見なさいなディミトリ!このバーバ・ヤガー、他人に治癒魔法の指導までし始めたわよ!自分で使えないものの指導なんて出来るはずないし、当然これ、自分でも使えるのでしょう?そう思うわよね?」
狭い室内で、半透明の姿で宙に浮かんだエヴゲーニヤ博士がミラの持ち出した資料の映像データを見ながら終始馬鹿みたいな笑い声を響かせている。
ディミトリと呼ばれた男は日本語で書かれた文書から魔女セヴンスに関する記述を探して翻訳する作業をしている。
「こんなに、知ってさえいればあからさまな根源なのに、マセイタイで候補とされてる魔力根源はナントカって病気ですって?確かに、EUにペストのが源の娘が居たし、病気が引き起こした社会現象を由来にした魔法さえ使ってたけど、えーと、そのチュニービョウとかいう病でこのバーバ・ヤガーの魔法を説明しきれるとは思えないわ」
「これに関してはマセイタイ側も未確認であるようで、こっちの文書の記述を見る限り断言しちゃ居ないようですね。他に考えられる候補が無いが、なんか違うだろうってのしか思い浮かばなかったんじゃないですかね?なにせほら、あの国は原罪教の浸透率が極めて低い特殊地域ですんで」
中二病……確かに、言われてみればセヴンスのセンスはネット上で揶揄されるその病気の患者そのものだったけど、いやまさか。
魔生対側もセヴンスの使った7いや、蘇生を含めて8つの魔法全てを使える根源が思い浮かばなかったから、ネットで冗談半分に言われてる説を書き込んでみただけ……だと思う。
流石に、無い……はず。中二病表現が活発な作品で、死から蘇るなんて描写は……いや、困ったことに沢山あったけど、本当にそれで蘇生してたらいくらなんでも無法がすぎると思うもの。
というか、もし本当に中二病を魔力根源としているとしたら、救世主の根源を持っていると予測して、国家の機密機関が総出で動いているこの状況が完全に喜劇に成り果ててしまう。
……うん、でも、そうなったら最高かもしれない。全部空振りだったってわかった時の博士の顔、見てみたいじゃない?
「映像を見る限りでも、魔法の性質を考えても、救世主で間違いないでしょうねこれは。戦力分析の方は?」
「終わってます。上位陣の4人が突出してるだけで、後の連中はルーシャの軍属バーバ・ヤガー共と同じかちょっと強いかぐらいですね。通常兵器との戦闘経験は無し。殺人の経験も無し。
確かに、彼女たちは軍人ではないし、人々を魔物から助ける「正義の味方」だ。人間が銃を持って襲ってきた場合は対処が遅れる可能性が高い。
人質も有効だと思う。……ミラにその価値があるかもしれないって事に気が付かれないようにしたい。
「忌々しいわね。政府からの命令が無ければ今すぐにでも一般人を支配して奴らの本拠に襲撃を掛けたい所だってのに」
「まあ、ここしばらくは諜報活動以外で成果が出せておりませんでしたから。ここに来て、日本からの魔力新理論とそれを実証する魔力可視化装置の発表と来たら我々の研究に出資するより諜報・破壊工作機関としての運用をしたほうが効果が高いって見切りつけられたんじゃないですかね」
あ、その発言は……。
言外に、日本の研究機関のほうが博士より有能だと言ったとも受け取れるディミトリの顔が苦しみに歪む。
そう言いたくなる気持ちはわかる。というか、そもそも魔物になってからの博士は自分で魔力が見えるようになって今までより研究が楽に進められるはずなのに既存の理論や装置の新しい活用法しか発表していない。
まるで、魔物になった事で脳が発想を失ったかのようだと言われているが恐らく事実なんだと思う。酸素の魔物である博士があの気体の身体で以前と同じ脳のパフォーマンスを発揮できていたなら、そもそも自分が生き返るための魔法なんて探し求めていないだろうから。
怒りに任せて、数分間脳への酸素供給を絞られたディミトリが失神する。
一応、組織の構成員の能力はまだ覚えているらしく、変えの効かない人間を殺しはしないぐらいの理性は残っているみたいだけど、正直それも時間の問題だと思ってる。
下手をすれば八つ当たりで殺されかねないこの場を逃げ出したいけど、生憎とここは
博士がここから自由に出ていけない代わりに、中にいる人間は博士に逆らうことが出来ない最悪の檻の中だ。
まあでも、海底に着底させた状態で乗員が全員自殺すれば博士を、数十人の魔力保持者から3年にわたって魔力を吸い続けた凶悪な魔物を封印できると考えれば、政府もちゃんと仕事をしているんだなと思う。
そんな思惑に気づいていない博士は潜水艦なんて便利なものが与えられたって喜んでいたしね。
数分後、目を覚ましたディミトリは博士への謝罪を済ませて作業を再開した。
「しかし、本国もあんまり戦況が良くないのかもしれないわね。日米関係に軍事的緊張を起こして戦争支援を打ち切らせろなんて曖昧な指令を投げてくるなんて。しかも数ヶ月以内を目処に、失敗すれば
「実際問題、どうするんです?あの2国、数十年前に戦争してたってのを覚えてないのかってぐらいに後腐れなく手を結んでるんですが、何か考えはあるんです?」
……多分、基本的には実行不可能。万が一にでも策が成功したら儲けものぐらいの考えで解体予定が立っている組織に指令を投げただけだと思う。
博士はそれにも気が付けないぐらい、人間の思考から離れてきてしまっているのかも。
「ええ、21と合流できた事で1つだけ実行可能な作戦があるわ。要はアメリカの兵器で日本を攻撃してしまえば良いことでしょう?それも、原子力空母から行った上でその船をあの国の中で破壊してやれば、核アレルギーのあの国にはかなりの効果があると思うわ」
魔生対では呼ばれなかったミラの番号が博士の口から出た。
これは良くない流れな気がする……。
ミラの予想が正しければ、その空母の奪取をミラの魔法でやらせるつもりなのではないだろうか。
「アメリカの第7艦隊。アレの旗艦を21の魔法で操ってトウキョウを襲撃しましょう?ああ、せっかくだから魔女セヴンスの身柄を渡せば攻撃しないとか言っておけば私の目的も叶うじゃない。名案だわ!」
名案どころか、まず実行不可能だ。ミラの魔力では空母の掌握なんて出来ない。
それに、ミラの魔法で操作して東京に攻め込むとして、在日米軍や自衛隊の攻撃をどうするのだろう。どう考えてもそのかなり前の段階で撃沈させられる予測しか出来ない。
それ以前に、それが成功したとしてミラの姿が見られた時点でルーシャの関与が確定してしまうし、何を持って名案だと言い切ったのか。
「ふふふっ、21。貴方、自分の魔法じゃ無理って思ってるわね?後は、東京到着前に撃沈される可能性とか、自分の姿が見られたらルーシャの関与がバレるんじゃないかとか。その程度考えてないとでも思った?」
エヴゲーニヤ博士が、形容しがたい無機質な笑顔を浮かべる。
悪寒が走る。言いしれぬ恐怖と嫌な予感に背筋を汗が伝う。
「バーバ・ヤガーはね、人格ごとに……いえ、魂ごとにかな?別の認識阻害がかかっているって知らないでしょう?だから、私が貴方の身体を乗っ取って変身すれば別の人間に、別のバーバ・ヤガーに見えるわけ。魔力も、貴方のその貧弱な魔力じゃなくて溜め込んできた私の魔力を使えるし、私の魔力を纏った艦隊は魔物の魔力を纏った艦隊になるのよ?だから、その身体貸して貰うわね?返せるかどうかわからないけれど」
魔物の魔力を纏った艦隊。
通常兵器の威力を大幅に減衰させ、ミラの傀儡の魔法の特性上多少の破損を問題とせず動き、周囲の電波を撹乱するのでレーダーやGPS誘導等様々な機械の動作を妨害する。
しかも旗艦は原子力空母だ、下手に破壊すれば周囲に汚染を撒き散らすことに成りかねない。
それに、そんなものを操れるほどの魔力を注ぎ込まれるミラはどうなってしまうのだろうか。
何より、魔物の魔力を纏った艦隊を破壊するために魔法少女が戦力として投入されるとしたら?
ミラの意思ではないとはいえ、ミラの魔法で彼女達に銃口を向けるの?
そうして、最悪を想像するミラの肺から博士の魔力が身体に侵入してくる。
全身を苛む不快感と共に、徐々に意識が薄れていく中で強く思う。
なんとしても、彼女達に兵器を向けるのだけは防ぐと。
博士に、魔物なんかに意思の全てを塗りつぶされてたまるものかと。
☆★☆★☆★☆
時間とスケジュールと体調がギリギリだったぜ回
後で弄るかもしれませんが大筋は変わらないはずなのであまり気にしないで下さい。
何も蟹も風邪引いたのが悪かったです。
ということで、ボスキャラ回
空母って全長300メートル以上あるんすよ。
1期の巨大モンゴリアンデスワームより確実にでかいですね?
しかも原子炉あるのでちゃんと考えて攻撃しないと不味いというアレ。
博士は酸素でした。
傷口から流れた血には居ても、流れ落ちる前には剥がれて移動してたから血溜まりには魔力がなかったんですねーというアレ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます