第68話 流石に無茶じゃないですか?

  ──お願いします。ミラを、姉さんを、生贄ジェールトヴァに居る女の子達を、助けて下さい──


 「ってメッセージが残されてたんだけど、一応聞いておきましょうか。これから調査・立案するミラさん及び生贄ジェールトヴァに囚われている魔力保有者達の救出作戦に反対の人いる?反対じゃなくても、わざわざ私達がやらなくてもよくない?程度の奴でもいいから。ほら、一応彼女、魔生対で扱ってた機密情報を持って逃げたわけだし?」

 

 クマ騒動の翌日、会議室に集められた私達はミラさんが機密情報を盗んで失踪したことを告げられました。

 まあ、それ自体は予想の範囲内だったんですが、手口まで予測してたザマさんはミラさんが去る前に言葉をかわす機会があったらしく、その際に操作していたパソコンに残されていたメッセージが最初の奴だそうです。

 

 「あ、ちなみにその組織、セヴンスさんを拉致して実験してたとこなんだけど、当然まだ組織に囚われてる女の子たちは非道な人体実験の被験者として──」

 ガタッと音を立てて勢いよく立ち上がったのは白さんでした。

 「彩月さん、それは卑怯なんじゃない?この中でセヴンスに感謝してない魔法少女は一人も居ないし、命を助けられた子も何人も居るのよ?本人を前に言うのはちょっと恥ずかしいけど、セヴンスのためなら命を賭けるぐらいは当たり前でしょうってみんな思ってるの、それをダシにされたらみんな断れないじゃない!」

 

 ……そう言ってますけど、そもそも白さん助けに行くの絶対断らない側なんですよねぇ。

 自分はどうせ行くから良いけど、迷ってる子は無理に駆り立てるなって所でしょうか?

 「いや、まあ、ダシにするも何も私がその組織に誘拐されて実験されて、結果今の状況になってるのは事実なので……。ちなみに、今回ミラさんが潜入してたのも私の情報を持ち帰るためだったらしいですよ?」

 あ、ちなみに私が神造ゾンビであることは理珠さんとザマさんにしか教えてないです。他の子には人体実験の結果、魔力で生きてる謎生命体になったみたいな説明になってます。

 「まあ、そもそも、ミラさんの救出と囚われてる女の子達の救出が同じ作戦になるとも限らないわけですし、そこんとこどうなんです?羽佐間室長?」

 

 恐らく、あの大量のツキノワグマを操ってたのが今回の黒幕であろう魔物になったエヴゲーニヤ博士なんですよね。そんな彼女が日本まで来ていたのに本拠地まで戻って情報を分析するなんてまどろっこしい事はしないと思うんですよ。

 多分、前回の襲撃でこちらの戦力とかもある程度把握したでしょうし、情報を分析したら今度は確実に私の身柄を押さえる行動を起こしてくると予想が出来ます。

 正攻法の力押しで来てくれるんなら楽なんですが、人質との交換やらテロを仄めかせて脅されたりするとちょっと困るんですよねぇ。


 「それはそうなんだけど、みんな一丸になってくれたほうが扱いやすいかなーって……。というかそもそも、ミラさん救出作戦に乗らないって人居る?」

 ザマさんの問に顔を見合わせる魔法少女達。

 猫科のどうぶつと化したミラさんかわいかったですもんね。あんな子が既に死んでる姉をまだ生きてると思い込まされて酷いことされてるっていうんですから助けたいに決まってるじゃないですか。


 「これは、小細工しなくても良かったんじゃないのかい?羽佐間室長」

 「そうみたいね。まあ、とりあえずみんな、ありがとうね」

 思わず、と言った感じでザマさんと如月さんが苦笑してました。

 「ではまず、わかってる情報を公開します」

 そういって配られた資料は生贄ジェールトヴァの概要と規模、所有してると思われる装備に所属していると思われる魔力保有者の主な魔法。そして、首魁である魔物と化した科学者、エヴゲーニヤ博士の情報が記載されていました。

 ……いや、これ機密じゃないです?私達に見せて良い資料です?

 ミラさんがこれを見ていたら……、いや、情報漏れてるのならその方が助かると思ってそれをバラしたりはしないですね。


 「はーい、この資料実はみんなに見せる許可出てない情報だから、見たって誰にも言わないでねー?下手すると私が左遷させられる可能性もあるからねー?」

 やっぱり機密じゃないですか!

 ザマさん、相変わらずやりたいことがあると規則とかすっ飛ばして必要だと思った作業を開始するので、現場は有り難いんですけど補佐する人とかはフォローが大変なんですよね。

 魔生対の事務仕事やってる方々には正直、色んな意味で頭が下がります。


 「羽佐間室長、ミラさんの場所どうやって?発信機使えない」

 雛わんこ相変わらず言葉足りませんね。

 「魔物の側に居るなら発信機も使えないし、どうやって現在地を調べるのかって話だろう?そのための仕込みは既に済んでいるさ」

 それに対して、メガネをキラーンと光らせながらニヤリを笑い返したのは如月さんでした。

 都市伝説を具現化する魔法で、なにか追跡に向いたやつってありましたっけ?メリーさん?

 「怪談の中にはさ、自分の存在を知っている人間を追い続けるって奴が居てね。まあ、怪談としては知ってる奴を増やして自分の所に来る確率を少しでも下げたかった、巻き込んですまないねってオチが付くやつなんだけど、それをアレンジしたヤツが私の魔法にあるのさ」

 

 そう言って立ち上がり、何処からか取り出した巨大な三角帽子をかぶる如月さん。

 「本来は、魔物に連れ去られた空間で魔法少女を探すために作った魔法なのだけれど、まさかこっちの世界で発信機代わりに使うことになるなんて思わなかったねぇ」

 魔力が満ちて、変身が始まります。

 「私は語られざるを語る者。紡がれざるを紡ぐ者」

 詠唱と同時に何もない空間から夜空色のマントを取り出し、翻すとそこには、既に変身の済んだ如月さんの姿が。

 「都市伝説の魔法少女・クリーピーパスタ。此度は何を語りましょうか」

 うーむ、シンプルであっさりとしながら、でっかい三角帽子に巨大なくまのぬいぐるみを抱えた魔女って感じの衣装と相まってこれはこれでかっこいい変身ですね。

 

 「じゃあ、早速魔法を使っていこうか。はい熊くんに包丁グサーっ!」

 そして、おもむろに手に持った包丁で突き刺しました。って何してるんです?

 『次は、辿の番だから』

 そして、おどろおどろしく熊のぬいぐるみに言い聞かせるように言うと、ぬいぐるみの姿が髪の長い、顔を伏せた女性の姿に変わりました。

 あ、これ魔法そのもののモチーフは一人かくれんぼなんですね?懐かしい!

 

 「あ、誰か、日本地図を広げてもらえるかな?」

  あの、顔を伏せた女性の怪異が怖いのか、ちょっと遠巻きにしつつ机に地図を広げる白さん。

 まあ、わかりますよ。元になった話はよく出来てますし、結構怖いですもんね。

 「じゃあ、『辿り着くもの』。ミラ君が何処に居るか教えてくれるかい?」

 そう言われた怪異の女性が指さしたのは、小笠原諸島・大戸島の近海でした。

 あれ?海に出てるとしても、本国に近い日本海側だと思ったんですが予想外の場所に居ますね?

 というか、こんなところまで何を使って移動したんでしょう?

 少なくとも、外洋まで出られるちゃんとした船が必要ですよね?


 「なんか、だいぶ遠くにいる気がするんだけど……」

 みんな予想外の場所だったのか首を傾げています。

 「あーれ?私てっきり、東京近郊の何処かに潜んでて、次は人間を操ってテロとかそういう方面で来るんじゃないかなーって思ってたんだけど……」

 「ワタクシは政府のおえらいさんを操ってセヴンスさんを差し出させる手なんてやってくるんじゃねーかと考えておりましたわ」

 「わたくしとしては、ミラさんや他の一般の方々を人質としてセヴンス様との交換を迫るなどされたら困るのではないかと思っておりましたが……」

 これ、なんの意図でこの場所に居るんでしょうか?

 

 と、まあ割と重要ではないことで悩んでいた所でザマさんのスマホが豪快に鳴り響きました。

 「緊急回線?ちょっとみんな静かにしててね」

 ……これ、なんかすっごい嫌な予感がするんですが。

 ミラさん、というか、その黒幕のエヴゲーニヤ博士がこんな遠くで何かやってたであろう事とめっちゃ関係してそうじゃないです?この緊急通話。


 「はい、はい、……通信途絶?海上でということですね?だとすると偶然発生した魔力災害の可能性が……申し訳有りません、一応途絶前の艦隊の位置を確認させて下さい。……はい、北緯、東経、大戸島近海……ですね。至急調査します。はい、承知いたしました」

 不穏なワードが満載だったんですけど?

 電話を終えたザマさんが真っ青な顔を上げて……。

 「アメリカ第7艦隊が大戸島近海で、魔力障害が原因と思われる通信途絶だって。ところで、ミラさん。魔法で機械を操作できるって情報があるんだけど……」

 なんて爆弾を投下しました。


 いや、現代兵器相手に戦闘とか、いくら魔法があっても無茶じゃないですか!?


 

☆★☆★☆★☆

『辿り着くもの』

の元ネタは「自己責任」って洒落怖の話です。

結構いい感じに怖い話なので興味があればぐぐって読んでみて下さい。

他に、個人的に好きなのは「猛スピード」「猿夢」「フタ」です。


体調がどうにも回復しない今日このごろ。

今年の風邪は咳が酷い感じなのでみなさんも気をつけてくださいね。

一応、ペースを守って投稿する予定ですが予定通りの日程で話がUPされなかったら

あ、こいつ体調が戻りきらなかったな?と思って下しあ。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る