第63話 調査報告を読みましょう
──ルーシャ連邦国防省 魔力開発特務機関『
同機関は、201○年、魔物による被害が増加する中、重犯罪者や他国から拉致した女性を外的要因によって魔力覚醒させ、文字通り魔物に対する生贄に使用する事を目的とする特務機関として設立された。
設立当初は魔力や魔物に対するデータがそもそも不足しており、魔力覚醒の年齢分布やそれに対するアプローチ方法などに混乱が見られる……と。
いやあ、最大限控えめに言って、クソじゃないです?
魔力覚醒させて戦闘してもらうんじゃなくて、そもそも魔物に差し出す生贄要因として私拉致されたんです?
しかも多分、覚醒の年齢制限がわかんなかったから手当たり次第に拉致した人間の一人なんですよね。こう、無駄に死んだ感すごくないです?
──設立より1年後、魔力覚醒した実娘・リーディヤを実験対象から外すことを条件に素粒子物理学博士エヴゲーニヤ・トルスタヤ・リトヴィンツェヴァ女史が加入。
同博士の素粒子学方面からの研究と、娘であるリーディヤの観測により一部の魔力の挙動や性質が解明され、魔物の発生原因である「ゆらぎ」を抑制する装置の開発が開始される。
なお、研究過程で政府より「供給」された魔力保有者に対し非人道的な実験及び、薬物の使用による脱走及び反抗の抑制が行われていた──
えーっと、薬物の資料は……これかな?
遅効性の毒を食事に混ぜて、後で解毒剤を与えることで脱走は死に直結すると思考に刷り込むとかアホじゃないんですか?あ、家族を人質に取ってると脅したり中毒性のある薬物の方も使ったりしてたと。いやこれ、私逆に速攻で死んでて良かったまで無いです?
あと、このエヴゲーニヤ博士の姓がミラさん達と一緒なのが気になりますね。
娘さんの名前はリーディヤさんな様ですし、どうなってるんでしょう?
──設立より3年、ゆらぎ抑制装置の試作品が完成。複数回の実験を行い成果を上げたとされているが、装置の作動には魔力供給が必要であり、後述の事故から予想するに魔力保有者達が結束し、実際とは逆の結果を報告していた可能性が高い。
娘であるリーディヤが現場での実験は危険が伴うとして試作段階での実験への参加を妨害されていた事からも、本来の結果を隠そうとする意図が見受けられる。
ゆらぎ抑制装置のお披露目となった魔力災害に対する効果確認実験ではリーディヤ・マカーロヴナ・リトヴィンツェヴァ他3名が魔力供給を担当し、装置の正常な稼働により拡大したゆらぎから発生した魔物により全員が死亡している──
そりゃ、酷い目に合わされてる人間が協力的なはず無いですよね。
自分たちの仲間にしか観測できないので嘘をついてもバレない、開発が失敗すれば組織の評価はガタ落ちと考えれば、ある意味刺し違える覚悟で一丸となって虚偽の報告をするぐらいはやるんじゃないですかね。
で、博士の娘さんが亡くなったと。あー、じゃあミラさん達はこの後に引き取った養子とかですかね?いや、でも養子とは言え引き取った子にあんな酷い生活させます?
──ゆらぎ抑制装置の実際の挙動はゆらぎを発生・拡張する効果を発生させるものであり、破棄される予定であった。しかし実験の結果、未成年の女性に対し装置を起動し体内にゆらぎを発生させることで低確率ではあるが、強制的な魔力覚醒を行わせることが可能と判明。ただし、魔力覚醒に失敗した女性は体内から発生した魔力に耐えられず死亡している。
以後、ルーシャ国内の孤児はこの装置の実験のために
ああ、これがエラさんの言ってた自分以外みんな死んだ実験とやらでしょうね。
体内にゆらぎを作って魔力を刺激して強制的に覚醒させるとか、逆に何を食べてれば思いつくんでしょうねこんな酷い事。
しかも、エラさんの話だと幼すぎると身体が魔力に耐えきれないみたいですし……。
──事故原因の調査と、それに付随する魔力保有者への対話によりエヴゲーニヤ博士は
今まで行われてきた非人道的行為を知り、魔力保有者の現状改善と組織の健全化へ着手。一部の魔力保有者と共謀し、旧体制の幹部陣を一掃し
姉からの根源移植により魔力保有者となったミラ・ナツメヴナ・ライコフ他数名の孤児を養女として引取る。
局長の親類としての待遇改善を目論んだものであったが、前幹部の部下であった管理責任者は数名のみの待遇改善をあたかも全体に適用したかのように報告し、費用を着服し数年後に失踪している──
あー……。
善意が何処にも届かなかった感じが酷いですね……。
多分、このエヴゲーニヤ博士ってめっちゃ真面目な研究者で、自分の仕事にかかりっきりになってたタイプですよね。
部下からの報告を信用して、視察して良くなってる箇所だけ見せられて騙されて。
研究者としては一流だったようですが、それ以外の分野に全く向いてなかったような感じでしょうか?
……あれ?でもこのエヴゲーニヤ博士が秘密を喋ったら死ぬような何かをミラさんい組み込むでしょうか?やりそうにないですよね?
──
同年、エヴゲーニヤ体制を嫌う旧派残党によるエヴゲーニヤ博士の暗殺計画が実行され、良識派の幹部数名とエヴゲーニヤ博士が死亡している──
え?博士死んじゃってるんですけど?
じゃあ、ミラさんに何か仕込んでるのは別人ですか?
いや、でも別人ならこの博士の事をこんなに調べて来ないですよね?
と、とにかく続きを読みましょう。
──死亡時に、彼女自身の指示で複数の魔力保有者の手によって自身を対象にゆらぎ生成装置の起動を指示しており、その結果、世界初の人工的な手段で発生した魔物となった。
正確な能力は不明だが、ガスの様な不定形な身体を持ち、他者の思考を操作する能力及び、命令を破ったものを殺害する能力を保持している。
恐らくであるが、自身を構成するガス状の物質を対象の体内へ侵入させることでこれを行っている可能性が高い。
魔物化以後、生前の性格から逸脱した行動が多く見られ、時間が経過するごとに頻度が上がり続けている。
また、
今際の際に、魔物になって生き延びる手段を思いついて実行したら半分成功して半分失敗した感じでしょうか?
復活自体は出来たけど魔物としての本能に自我が上書きされてるっぽい感じに読めますね。
あと、ミラさんを縛っているのはこの魔物としての能力ですかね。
うーん、エラさんの存在が無ければ私の
──また、魔物化以降、蘇生魔法の存在を探し求めており、今回ミラ・ナツメヴナ・リトヴィンツェヴァを送り込んだ理由も魔女セヴンスの持つ蘇生魔法の調査のためであると思われる。注意されたし──
なるほど?私が使った蘇生魔法と……。
魔法じゃないんですよねぇ、魔法じゃないから調べても無駄ですよとか言っても、ミラさんはともかくガスの魔物になっちゃってるエヴゲーニヤ博士さんは信じてくれませんよね。
いやはやどうしたものでしょう?
と、悩んでいたら電話が鳴ってますね。
『優希さん、緊急の連絡です。魔物……いえ、魔物化した熊の大量発生が観測されました。今回、日本海側の複数の県で確認できるだけでも300匹が確認されております。至急、魔生対までお越し頂けないでしょうか?』
「はい、了解です。すぐ向かいますね」
300匹!?いや、大量発生にも程があるでしょう!?
……いや、というかコレ、この熊の群れ、エヴゲーニヤ博士に思考を操作された熊の群れですよね多分。
傷口を流れる血液には魔力を感じ取れたのに、地面に流れ落ちた血からは感じられなかったのは血液から分離して逃げたから?
血液に溶け込むガス状の魔物。
なるほど、正体が見えてきましたね。
とりあえず、まずは熊の対処に向かいましょうか。
最低でも300匹とか、どんだけ長丁場になるのやら……。
☆★☆★☆★☆
善意は届かないし悪意は刺さるし、でも研究だけは上手くいくという
多分魔生対で研究してればみんなを幸せにできたんだろうなというエヴゲーニヤ博士
ままならないものです。
そして始まる300匹熊さん大行進。
混沌としてまいりました。
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