第60話 そんな餌で釣られクマー

 はい、やってきました秋田県。

 えっと、秋田中央インターチェンジって標識が見えますね。

 現在ここがどうなっているかというと……。

 えー、見えません。

 いや、しょうが無いじゃないですか。霧の魔法少女である依霞さんが先に出撃していた現場ですよ?視界なんて効くはず無いじゃないですか!


 まあ、愚痴っていてもしょうが無いので依霞さんと合流しましょう。

 うーん、霧に魔力が付与されているせいで肝心の熊の魔物の位置が判別できません。このままではフレンドリーファイアというか、一般参加猟友会の方から熊と間違えて撃たれかねません。

 幸い、依霞さんの魔力ははっきりとわかるのでそちらへと影から近づきましょう。


 依霞さん本人の影からにゅるっと出現した所、突然現れた何かに驚いたのか周囲に居たおっちゃんにーちゃん達がばらばらと私に猟銃を向けますが人間だと気づいて警戒を解きます。

 というか、対山装備の男衆の中にほぼ全裸の依霞さんがいる絵面のエロゲー臭がすごいです。

 

 「あ、セヴンスだ。こんー」

 ネトゲプレイヤーみたいな挨拶に答えて、とりあえず見えてる範囲の様子を確認します。

 とりあえず重症者とかは居ない模様。んー、じゃあこの駐車場の地面に散らばってる血は熊の血?

 なんか、めちゃめちゃな量飛び散ってますけど……。

 「こんばんは。状況はどんな感じです?」


 「着いて早々に魔物だけを溶かす霧を撒いた。効果なし。頭撃ち抜いても動き止まらないし、魔物なのに血も消えない。新種かも?行動は熊そのまま」

 こ、この子はこの子で報告が端的というかなんというか、不足は無いんですが必要なことしか喋ってないですね。

 「普通に電話通じるから、指示仰げる。熊の半径3メートルぐらいが妨害域。感知は匂いと目視。魔力には寄ってこない。霧で目も鼻も塞いでるから今は動けないはず」

 ふむふむ。いや、魔力に寄ってこない時点で魔物かどうかが怪しくなってきますが、電波妨害域を持つならやっぱ魔物なんでしょうか?どうにも現物を見ないとなんともですね。


 「あ、いが……じゃなくて、ドーンストライダー・ヘイズさんってちゃんと自衛手段ありますよね?魔物にしか効かない魔法しかないってわけじゃないですよね?」

 危ない危ない、猟友会のおっちゃん達の前で本名で呼んでしまうところでした。

 「んp、酸の霧でも毒の霧でも、やろうと思えばいくらでもある。心配しなくていいから、好きに動いて」

 しかし、なんかこの子と思考回路が似てるのか意思疎通がすごく楽です。まるでMMOゲームの上手い人のパーティに入った時みたいに!

 ……いや、この微妙な言葉の省略加減から見るに、まさにMMOの上手い人そのものなのでは?

 いや、よしましょう、私の勝手な推測でみんなを混乱させたくありません…。


 「じゃあ偵察行ってきます。何かあったら連絡ください」

 「k、頼んだ」

 キーボードチャット用短縮言語の使い手ですしゲーマーなのは間違いないですねぇ。

 しかし、魔物?相手の戦闘で連絡しあえるってのがなんか変な感じです。

 とりあえず、無限の縛糸グレイプニールを木の枝に引っ掛けて樹上からあちこち見回ってみましょうか。


 


 むぅ、失敗しました。

 偵察しますと勢い込んで出てきたものの、夜の森が思った以上に真っ暗でぶっちゃけ偵察も何もあったものではないです。

 魔力感知で探ろうにも、薄く広がった依霞さんの甘い匂いのする霧の魔力に紛れて熊の魔力を掴むのは至難の業です。

 不味いです。このままでは「何の成果も得られませんでした」なんて悲しい報告をせざるを得なくなります。

 ソレは大人としてちょっとばかり恥ずかしいので可能なら避けたい所です。

 何とか1匹だけでも見つけて仕事した感を出さないと……。


 うーん、とりあえずスマホのライトでも点けてアッピルして囮作戦でもやりましょうか。

 名付けて、そんな餌に釣られクマー!作戦です。

 木々の間に無限の縛糸グレイプニールを張り巡らせ、スマホのライトを点灯します。

 ほーれほーれ、間抜けな餌が無防備にぼーっと突っ立ってますよー。

 

 と、しばらく待つと視界の端に何か動くものが映ったのでそちらへと向き直ります!

 ……んー、ぽんぽこ狸さん。残念、今君には用が無いんですよ。

 っと、今度は背後で物音がしました。

 今度は何でしょうかねと振り返った瞬間にライトが照らし出す黒くて大きな獣!

 って、クマ!速っ!近っ!!!

 咄嗟に無限の縛糸グレイプニールを実体化させて巻き付けますが思ったよりも動きが速く腕のみの拘束に留まりました。


 いやこっっっっわ!!

 何というか、魔物のどこか無機質で機械的な動作ではなく、生の、生物としてのむき出しの殺気が、本能からくる捕食者としての意思がめちゃめちゃ怖いです。

 今も、拘束された腕を引き抜こうと狂ったように引っ張って……って、なんかブチブチ音がしてませんか?

 とりあえず、動物の力如きで千切れるような無限の縛糸グレイプニールではないハズなので少し距離を取って観察してみれば、甘い香りの霧に混ざって届く血の臭い……。

 もしかして、腕を引きちぎって拘束を脱出しようとしてませんか?

 

 野生動物にはありえないその行動に驚きますが、その程度で逃がすほど私は甘くないです。

 無限の縛糸グレイプニールを増量してギッチギチに固めてしまいます。

 はーい、両手両足それぞれを動けなくした挙げ句に複数の樹に重量が分散するように引っ掛けちゃいましょうねー。

 

 しかし、どうしましょうかねコレ。

 依霞さんの所まで運ぶにも女の子の細腕ではちょっと重すぎてムリ寄りのムリなんですよねー。

 さしあたって出来ることをやっておきましょうか。

 私個人として可能な範囲でコイツを分析しましょう。

 あ、念のため木々の間の無限の縛糸グレイプニールを実体化させておきましょう。観察中にどっかから走ってきたクマーに襲われるとかちょっと情けないですし。


 んー、外的変化は多分無い、です。

 常時牙を剥き出しにして何とか拘束から逃れようと暴れていますが。

 ……というか、怒ってる熊って真面目に怖いですね。動けないとわかっていても腰が引けてしまいます。

 魔力は……全身に薄く纏ってる感じでしょうか?

 頭や心臓など特定の部位に多く集まっているような様子はないです。が、先程千切れかけた腕の出血部分、そこから魔物の魔力を感じます。

 

 いや、これは血液が魔力を帯びているのでしょうか?

 ……血液と魔力でミラさんとエラさんを想像してしまいますが、感じるのは魔物の魔力なので彼女たちでは無いはずです。

 ん?あれ?

 傷口からは確かに魔力を感じるのですが、地面に流れ落ちた血からは魔力を感じません。

 はえ?どういうことでしょう?魔力って蒸発するものでしたっけ?


 しばらく悩んでいるとスマホの着信音が鳴りました。

 ってアレ?魔物の魔力の影響範囲に居るはずなのでは?

 とりあえず出ましょう。

 「はいもしもしー」

 『霧の中の動態反応がおかしい。まるでバラバラに動き始めた。そっちは?』

 って、霧の中の敵の位置把握できるんかーい!いや、確かにわかるかどうかの質問してなかったり、事前に魔法の性質を把握してない私も悪いですけど!

 「私、今拘束した熊の眼の前で電話に出てるんですけど、まあ、そういうことじゃないです?」

 『魔力で肉体ごと操作してるにしては動きがイキモノだった。憑依?洗脳?どっちにしろ厄介極まる。サンプルはまだ拘束中?』

 ぬお、この子もいつもぼんやりしてる感じなのに頭いいな?いや、ゲームの攻略法を見つける感じで限られた情報から選択肢を絞る思考回路が発達してる感じですね。

 少ない情報に自分の知識を合わせて考えをタイプの雛わんことはまた別のタイプです。ネトゲ廃人恐るべしって所でしょうか。

 「依然拘束中。分析するなり実験するなりは魔生対の大人と雛ちゃんに任せましょう」

 

 結局、その後魔生対に持ち帰ったツキノワグマのサンプルからは魔物の魔力は一切見つかりませんでした。

 血液に潜む魔物なのか、血液から出入りする能力のウィルスやら細菌やらの魔物なのか……。

 いや、そもそも魔物なら女性をお持ち帰り出来ない熊の集団をけしかけてきた理由が何なのか。

 謎が謎を呼んで答えの出ない出撃でした。

 嫌な予感が膨らんでしょうが無いんですよねぇ……。

 

 なお、拘束を解くわけにも行かず、魔生対の人員が輸送用の檻を運搬してくるまで私は現場を離れるわけにも行かず、朝まで山の中で待機する羽目になりました。

 翌朝、布団の中に私が居ないことに気がついた理珠さんは結構な勢いでお怒りでして……。

 今後、夜中に出撃する時は二人で一緒に、と約束することになりました。



☆★☆★☆★☆


謎が膨らんでしまった熊の襲撃

……いや、この冬の熊の目撃件数はガチでやばそうなので

該当地域の方はお気をつけ下さい。

アレが2/2は嘘だよってなります。


あと、某チンピラ無敵のお嬢様作品の方も仰ってましたが

☆つけてくださるとマジで有り難いです。

PVとかふょろわーの増加数とか、ランキング上の方とそうじゃない時でだいぶ差があるんですよね。

読者様で、そういえばまだ☆つけてなかったなーって方がいらっしゃったら

もう少し下までスクロールして評価して行ってくださるとランキングと作者のモチベがアガります。超上がります。


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