第59話 夜に口笛を吹くと蛇が出る
真夜中、理珠さんを起こさないようにこっそりと布団を抜け出した私は、人気のないビルの屋上で何をするでもなく夜風を浴びていました。
……すいません、カッコつけました。嘘です。スマホでゲームのイベントクエストを必死にやり込んでいます。
ふと、なんとなく感じた違和感に手を止め隣を見ると艶の良い黒い蛇がとぐろを巻いていました。
「イツァナグイ、お久しぶりですね」
「うむ、久しいな。やはり、お主を観察しておるのが一番面白くての。ずっと見ておったぞ」
うーむ、やはりこの蛇、私を娯楽としか思ってませんね?
「いやぁ、蘇生機構の悪用からの他者との内臓器官の魔力的共有とか、わしでもそうそう思いつくものではないぞ?他にも幾人か蘇らせて見たが、お主ほど好き放題やっておるものはおらぬわ。あ、褒めておるからな?与えた機能をどう活かそうがわしが咎めることは無いから安心してよいぞ」
む、だってほら、大事な人が死にかけたんですよ?使えるものがあったら何でも使うじゃないですか。
というか、
というかこの蛇、私以外にもゾンビ化させて観察してたんですね。悪趣味……でもないですね。一応生き返るチャンスを与えているわけですから、お互いに利益のある取引と言うヤツです。
「お楽しみ頂けたようで何よりですー(棒)。じゃあ、私が何のために貴方と会おうと思ったかわかりますよね?」
色々考えてみたんですが、私達の知恵ではエラさんを助ける方法を見つけられませんでしたし、コイツに知恵を借りるしか無いんですよ。
「うむ、わかっておる。あの、血に込めた魔力と魂だけになっておる哀れな
「その通りです。思いつかないとか言ったら皮を剥いでなめして財布にしますからね?」
半ば本気の私の発言に、イツァナグイはカラカラと笑いました。
「手はある。条件も揃っておるが、実際にやれるかどうかはわからぬぞ?」
む、蛇のくせに真面目な表情してやがりますよコイツ。素で美人……美蛇なのでこういう表情するとかっこいいんですよね。
「きーわーどは血じゃ。というか、血に魂も魔力も全て入っておるのでコレを妹から分離出来んことにはどうにもならん。じゃからな、まず血を扱う魔法を使える魔力保有者が必要じゃな」
いや、いきなり難題ぶち込んで来ましたね?
「魔力の宿った血さえ分離出来るなら、少量の血に全ての魔力と魂を宿して抜き取り、あー、妹のほうが傀儡の根源持ちじゃったろう?人形にでも仕込んで、傀儡の魔法で動けるようにすればよかろう」
なるほど、魔力として魂ごと同化される危険があるのはミラさんの血液として体内に存在していることが原因なので分離して別のものに入れてしまえという至極単純な解決法ですね?
……いや!その程度はなんとなくわかってるんですよ!ソレ、誰がやれるんですかって話で困ってるんですよ!
「いや、悩むまでもないじゃろ。お主の知り合いでめっちゃ血ぃ使って攻撃しとる魔法少女おるの覚えておらんのか?」
え?
「さっきも戦闘しとったぞ?血で剣を作って巨大な狐の魔物を膾斬りにしておったわ」
あ!そうですよ!居るじゃないですか!
吸血鬼なんて、血に関する専門家じゃないですか!
しかも血を吸う専門家ですよ!?
きっと、シュネーさんならミラさんの血からエラさんの構成要素だけを抜き取ることが出来るはずです!
というか、出来るって今イツァナグイが言いましたしね。
「後はアレじゃな。血液が循環する仕組みを持った
また、微妙に難しいことを言ってきますね。
というか、お金のかかる案件は私個人でどうこうできないので困っちゃうんですよね。
……最悪、私が水流崎のお家に身売りすればお金は出してもらえるでしょうか?
いや、魔生対側でもお金出してくれるとは思うんですが、ほら政府機関ってどうしても予算がついて動くまでに時間が掛かるじゃないですか。
「で、これだけ案を出せばわしを財布にするのは勘弁してもらえるかえ?」
「ええ、十分というか、期待以上ですよイツァナグイ。流石、魔力に関してはプロですね」
ちょっと褒めてみたらめっちゃドヤ顔しがやりますねこの蛇。
「で、そんな魔力のプロにちょっとお願いがあるんですが……」
まあ、せっかくなので雛わんこの研究を手伝ってもらいましょう。
「ほほう、不活性魔力の概念を伝えるだけでゆらぎの発生原因から最終局面まで即座に予想したと、ふむふむ……だいぶ興味深いし、会って見ても良いかもしれんの」
お?だいぶ前向きですね?
「いや、わしも何故魔物の魔力が電波を遮るのか、どういう条件で意思を受け取って形態が決定するのか、といろいろ悩んでおるからの。建設的な意見交換が出来るなら万々歳じゃて」
なるほど、イツァナグイ的にも得るモノのある取引になっていたようです。
と、話がまとまりかけた所で私のスマホから着信音が鳴りました。
この音は、確かザマさんに設定していた音楽でしたっけ?
今からアイツをこれからアイツを殴りに行く曲です。ザマさん、毎回カラオケで最初に歌うので……。
というか、深夜2時ですよ?こんな時間まで仕事してるんです?
「はい、こちら労働環境相談センターです。どうなさいました?」
あ、噎せた声が聞こえました。
『ボケなくていいから。ちょっと緊急事態なんだけど大丈夫?濡れ場とかだったりは……』
「ボケるなって言っって置いて自分でボケるのは無しなのでは?随分余裕のある緊急事態ですね?」
未成年に手を出すのはどうよって言ってたのザマさんじゃないですか!
『いや、まあ緊急事態というか、緊急事態かもしれないから様子を見てきてほしいって話なんだけど……』
ふむ?要領を得ませんね。
「あ、なるほどのぅ。これは確かに不可解じゃ」
イツァナグイも何かに気がついたようです。
『今、秋田の方で群体型の発生っていう連絡が入ってるんだけど、魔力、感じる?』
え?魔物の魔力反応?あります?
言われて、魔力感知の感覚を研ぎ澄ませて見れば確かに、複数の魔物の魔力を持った存在が移動しているのがわかります。しかし……。
「魔力弱すぎませんか?コレ、本当に魔物なんですか?」
そう、魔力がめちゃめちゃ低いんです。群体型にしたって、感知出来る魔力を全部足しても通常の魔物の1/3にも届かないぐらいの魔力しか感じないんですよ。
『一応、地元の猟友会が対処に当たってるんだけど、近づくと電波が使えないし、異様にタフだしで困ってるらしいの』
ん??猟友会??
『とにかく数が多いらしくって、とりあえず
「ちょ、ちょっと待って下さい。その、大量発生した魔物ってどんな姿をしてるんですか?」
『それが、外見上どこからどう見ても、普通のツキノワグマなの』
熊?普通の?
『普通の熊にしか見えないのに、いくら撃っても動きが鈍らなくて魔物なんじゃないかって……。とりあえず、現地で見て判断して貰って良い?どうにもよく分からなくって……』
「あ、はい、わかりました」
イツァナグイの方を見ると、「いや、わからんて」という感情を全身で表していたのでスルーして影に潜ることにしました。
しかし、1体に付き魔法少女の攻撃魔法1発分にも満たなそうな魔力しかない存在って、本当に魔物なんでしょうか?
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久々のイツァナグイ登場回
血液にしか存在が記録されてないなら血ごと分離させればいいじゃないby蛇
救出方法のプランがアンロックされ回かつ、謎の熊の襲撃。
はてさて、その正体とは・・・
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