第58話 空のボトルに想いを込めて

 エラさんの話を聞いた上に、その所属が私を拉致した組織の可能性が高いと知って魔法少女の皆さんはとても憤ってましたが……。

 「でも、今私達にやれることって、特に無いんじゃない?」という白さんの至極冷静な一言で不承不承といった感じではありますが落ち着きを取り戻しました。

 というか、相手は大国の秘密組織ですし、どうあっても人間相手の戦闘になるのは確実なので魔法少女達に戦闘させたくないんですよね。

 この子達が人殺しになるのは絶対に嫌ですから。

 手を汚すなら大人の方が適任でしょう?


 一応、ミラさんにはエラさんに会ったこと、教えてもらったことは秘密にしてあります。なんだかんだ、エラさんの身柄を人質に取られている(と思っている)事が逆に心の支えになってるようにも見受けられますからね。

 助けようとしてる人が既に死んでいるとなれば、自暴自棄になって言えば死ぬ秘密とやらを打ち明けようとする可能性も低くないでしょうし。


 そんなわけで、ミラさん周りの状況については新しい情報が入って動けるまで「魔法少女達」は今まで通りの対応という形になりました。

 まあ、魔女わたしは動きますよ?根源というか、魂を持ったまま血液だけの存在になってしまっているエラさんをどうやったら生き長らえさせることが出来るのか、ちょっとイツァナグイと相談しないといけないですからね。

 何も案出さなかったら加工して財布にでもしてやりましょうかねあの蛇。


 で、今は何をやっているかと言うと……。

 「波ァー!」

 白い喪服姿となったパトリシアさんの、世界で一番有名なエネルギー波放出技の構えから放たれたビームは空の果てまで続く滅びの光線を描き出しました。

 「これは……ダメなんじゃと言わざるを得ねえですわ。流石に何でもかんでも分解する超ビームが射程無限は危なすぎて使えねーんですわよ。イ○オンソードじゃあるまいし」

 「むぅ、難しい、デスね」

 パトリシアさんのまともに使える魔法を作ろうと頑張っているわけなんですが……。


 剣の形に力場を生成する案は、成形は出来たものの本人の運動神経がちょっとこう、お世辞にも褒められたものではなくて……。

 触れただけで何でも砂にする剣を振り回す運動音痴って怖くね?という話になってボツになりました。

 投げれば良いのでは?という意見があったので投げてさせてみた所、重さの概念はあったのか数メートル先で地面に突っ込み、そのまま周囲を砂にしながらどこまでも埋もれていきました。

 いや、これ都市部で使っちゃダメでしょう。地下のケーブルとか地下鉄とか全部分解しながらどこまでも落ちていく剣とか怖すぎてアウトです。


 剣が花びらみたいになって空を飛んで敵を斬るヤツがかっこいいとのことだったので真似させてみた時は、まず、花びらが形成出来なくて雪みたいな白い何かがふわふわしてる状態になりまして。

 いや、この時点で何となく嫌な予感はしてたんですが、飛ばしてみたらこう、まともに制御できてる雪が3つぐらいしか無くてですね……。

 じゃあ、逆に3つに絞って私の七翼の飛刃イペタム・ヴルンツヴィークみたいな運用をすれば良いのでは?と使わせてみると、まず、速度が目で見て普通に避けられる程度の速度しか出ない事と、制御中は本人が全く動けないことが判明してボツになりました。


 じゃあ、自律型の使い魔か何かを生み出してそれに終末の力場を纏ってもらって、攻撃してもらえばと伝えれば「みんな、なります、近距離パワー型……」とオラオラ言いながら殴りそうな射程の短そうなのしか想像できないと言われ……。

 そろそろ案がなくなってきて「波ァー!」してもらったのが今になります。


 一応、他にもいっぱい案は出たんですが、魔法ってなんというか、根源さんと折り合いがつかないとまず形にならないんですよ。

 こんな魔法にしたい!って思っても根源に響かないと発動イメージが描けないと言うかなんというか。

 多分ですけど、魔力根源って自分の深層心理的な何かだと思うんですよね。それにビビっと来る何かじゃないと魔法として性質を纏めることが出来ないんだと思います。

 案を出されるたびに考えて、用途としては実用に耐えなくてもいくつも魔法を生み出してるパトリシアさん、これでかなり優秀ですからね?

 

 「形にはなるけど、運用するとなると難があるものばっかりよね。魔法の特定の性能が高すぎるっていうのも時には障害になるのね」

 白さんも額に手を当ててかなり悩んでます。

 「本人が接近する必要がなく、制御が簡単であり、効果範囲を限定出来る攻撃……となると、かなり限られてしまうのは致し方ないかと。終末の盾という身を守る手段を見つけられただけでも僥倖だと思うのですが」

 理珠さんもそう言ってため息をつきます。


 そう、地味に一つだけ実用に耐えそうな魔法を創れたんですよ。

 剣を作った時に、攻撃に使えないなら防御に使えばいいじゃんという話になりまして、終末の力場を盾の形に形成してもらった所、銃弾だろうが電撃だろうが盾に触れた瞬間消滅する最強の防御手段となりました。

 魔力で形成されたものにも終着点ってあるんですねぇ……。


 と、思考の迷路に突入していた私達に突破口をもたらしたのは意外な人でした。

 「ねえ、なんで全部魔法でやろうとしてるの?ミラみたいに道具使ったらダメなの?」

 変身もせずに、色々試行錯誤をする私達をぼーっと眺めていたミラさんの一言に全員の動きがピタっと止まりました。

 いや、初動対策課の魔法少女ってスペックが上澄も上澄なので、魔法と、魔力で作った武器でフルスペック発揮できちゃうんですよね。

 なので、魔法少女だからって全部を魔力でやらなくても良いってことをすっかり忘れてました。


 「銃!銃使いましょう?弾丸に魔力を込めて、着弾したら弾けるようにすれば範囲も威力も絞れない?距離だって接近しなくて済むようになるし、良さそうじゃない?魔力で弾丸を作っちゃうと多分また、何でも貫通するヤバいヤツになりそうだけど実銃なら!」

 普段から魔法で作った銃をぶっ放しまくってる白さんが最初に我に返って提案しましたが……。

 「いや、日本国内で未成年の外国人に銃器の所持の許可って降りると思います?」

 「あっ……」

 絶対降りませんよねぇ。うーん、他に何か……。

 「弓は、如何でしょうか?わたくしの個人的な印象かもしれませんが、魔力も込めやすいですし……」

 「アノ、私、見てもらった通り苦手デス、運動。弓、ちゃんと当たる、無理デス」

 そこは魔力で誘導するなりなんなりすれば良いんじゃないかという気もしますが、あの雪みたいなヤツの操作を見てると厳しそうな予感がします。


 「なんで元から殺傷力のある物に拘ってるの?魔力を込められて、範囲の想像ができれば良いんだから、別にコレとかで良いんじゃないの?」

 再度、助け舟を出してくれたミラさんが手に持っていたものをこちらに投げてよこしました。

 あ、これは、水流崎のお家から上映会用の差し入れとして持ってきたちょっとお高いジュースが入っていた瓶!

 「割れたら効果が出るのも、サイズで範囲が変わるのも想像しやすいと思うし、後は遠くに飛ばす手段さえ有れば使い物になりそうだと思うんだけど……」

 「オ、お、おおおー!good ideaデス、ミラ!コレなら出来マス、私にも!射出するslingshotは魔力で作レそうデスし、marvelous!デス!」

 

 すごい勢いでミラさんに向かって走り寄って掴んでブンブンと振り回すパトリシアさん。テンションが上って所々英語が混じり始めてるのが微笑ましいです。

 そして、地味に照れて顔が赤いミラさんも見どころですねコレは。

 すぐさまパトリシアさんがかなりでっかいパチンコを作り、魔力を込めた瓶を射出した所、いい感じに着弾点から数メートルの範囲だけが終末化しました。

 いや、待って下さいそのパチンコ、めちゃめちゃ有名な鼻の長い海賊が使ってるものとだいぶ似てません?大丈夫です?


 これで、パトリシアさんが戦力に数えられるようになりました。

 動く相手に対しての命中率とかどうなの?って話はあったのですが、なんかこう、服装に似合うようにスリングショットのデザインを改造していくうちに微妙に誘導性能が付きまして……。

 停止している的ならほぼ確実に、動いている相手にもまあ、それなりの精度で当たるように成りました。

 本人も、コレで帰国したら活躍してスポンサーを付けるんだと張り切っていましたし、いい仕事したと思います。主にミラさんが、ですが……。


 まあ、一応実戦で様子見てから今後の訓練内容を考えましょうか。

 日本での戦闘なら私と理珠さんがフォローに入れますからね。

 問題点があるなら今のうちに見つけられたほうが良いでしょうから。



☆★☆★☆★☆


ということで、擲弾投擲兵的なポジションになったパトリシアさん回でした。

最終的には必殺 終末星!になったわけですが。


今回は投稿失敗してないな、ヨシッ!


 

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