第56話 終末、どうしましょうか?使いづらいですか?改造してもいいですか?
アレから丸一日、ミラさんは部屋から出てきませんでした。
まあ、出てきたと思ったら食堂に直行してすごく美味しそうにご飯を食べていたそうなので多分問題はないでしょう。
あとで、ザマさんから聞いた話ですが、ミラさんの部屋のゴミには大量の携帯食料的な何かが入っていたそうです。
……多分、まともなご飯を食べた衝撃で味覚が戻っちゃって受け付けなくなっちゃったんじゃないですかね?
そのミラさんなんですが……。
なんか未だにツンケンはしてるんですが、必ず私の視界に居るようになったというか、話しかけたりはしてこないんだけど付かず離れずぐらいの距離を維持するようになったと言うか。
あ、でも話しかけようとすると逃げるんですよ。ミラさんの方を向いて距離を詰めようとすると、さも何か用事があったみたいに部屋を出て行って、しばらくすると何事もなかったかのようにまた微妙な距離に居座っているという。
……荒んでる野良猫を餌付けしてる最中みたいな気分になってきました。
なんというか、安全な相手なのか確認しようとしてる的な?子供かな?とちょっと思いましたが、育った環境が劣悪だったと考えると、本当に精神が子供から成長してない可能性はあるんですよね。
さしあたって今はこちらから何かアプローチを掛けても逃げられるフェイズだと判断して様子を見ています。
ザマさんがあちこちに働きかけて、背後に居る組織の情報を探っているらしいのでそれの報告を待つ必要もありますからね。
で、今何をしているかと言うと。
魔法少女さん達、週何回かは夜勤担当の吸血鬼さんが出勤してきた後に魔法の訓練とか使い方の模索とかしているそうなんです。
それで、それを知った終末の……パトリシアさんでしたね。が、自分の魔法をなんとかしてくれって白さんに泣きついたらしく。
とりあえず、見てみないとなんとも言えないので使ってくれって話になりましてですね。
最初、みんなが普通に訓練に使ってるお隣の自衛隊基地内の施設を使おうとしてたんですが、当のパトリシアさんから「ダメデス!もっと広いデス、私のMagic。出来ないデス、狭く、範囲」とか言われまして……。
「広い場所って言うからとりあえず、しばらく使わない予定の滑走路借りてきたのだけどこれでいいの?」
いつも訓練を見守ってると言うか、お目付け役的な名目で目の保養に来てる自衛隊の方(なお、人気の仕事らしく担当者を決める時はそれなりに揉めるらしいです)に白さんがお願いして、場所を借りてきてくれました。
「アー、壊れます。滑走路。すごく。芝生、隣の。イイデスか?」
どうやら、滑走路でもダメらしく隣の空いてる芝生部分で魔法を使うようです。
「Metamorphose!Endbringer!」
あ、トランスフォームじゃないんですね。
光の球に包まれて、ゆっくりとその球体が崩れ落ちると中から変身したパトリシアさん。リトルウィッチ・エンドブリンガーが現れました。
くすんだ、白いヴィクトリアンドレスに顔を覆う長いヴェールの付いた帽子……。
あ、これ色こそ白いですが喪服なのでは……?なんか、根源の終末といい不吉さを感じさせる要素が多いですね。
そういえば、アメリカのリトルウィッチってスポンサーが付いたらそのステッカーとかロゴが衣装に付いてるんじゃなかったです?見た所一切そんな様子が無いんですけど……。
「ねえパティ、アメリカのリトルウィッチってスポンサーのロゴとかが衣装に入ってるって聞いていたのだけど?貴女のスポンサーは?」
おおう、白さんズバっと行きますね。
「うー、無いデス。スポンサー、私」
どういうことでしょう?
「わかりマす、見れば、魔法、私の」
とりあえず、距離をとってくれという彼女の指示に従って10mほど離れますが、もっともっととジェスチャーで指示され続け、気がつけば30m以上は離れた状態になっていました。
「いきマス!」
そして、掛け声とともに魔力がパトリシアさん、リトルウィッチ・エンドブリンガーへと集中し……。
『Tarminus damnation』
一瞬、白い光が漏れたかと思うとパトリシアさんを中心とした20mいや、もう少しですね。25m弱ぐらいの範囲の物体が全て、予兆や過程など一切無く砂と化しました。
いや、砂と化したという表現は正確ではないかもしれません。なんというか、元からそうだった場所と入れ替わった様な、あまりにも一瞬の変化だったので脳がそれを認識できていないような感じを味わいました。
近づいて触ってみれば、これ以上無いぐらいのきめ細かい砂ですね。
……あ、地味に滑走路の一部が範囲に巻き込まれて消失しています。お目付け役の自衛隊の方の顔が青くなってますが大丈夫でしょうか?
「私の魔法、コレだけデス。範囲の中のモノ、物質としての終着点変わりマス。都市、使えマセン。被害大きい。スポンサー、付きませんデシた」
なるほど、使える魔法がこれのみだと、確かに都市部で使うと被害が大きそうですし、自分中心の範囲のため魔物に接近する必要があるのも使いづらそうです。
活躍する見込みのない上に、下手をすると周囲に大損害を与えかねないリトルウィッチにスポンサーは付きづらいでしょう。
本国で扱いが悪かったっていうのもまあ、「使えないやつだから」だったんでしょうね。
「じゃ、その魔法、改造していきましょうか」
サクッと提案した白さんに、パトリシアさんは顔を伏せて首を振りました。
「無いです。小さくする、形変える、ダメでしタ」
んー、改造ってそういうのではないのでは?
「いや、範囲を小さくしたりする改良じゃなく、ビームにするとか弾にして飛ばすとか力場を剣にまとわせるとか、そんな感じの改造であって、根っこから別の魔法に作り変えるって話ですよね?」
思わず口に出した私に、白さんが深く頷きました。
「そ。自分中心の魔法なんて使いづらいじゃない。パティ、身体強化は強い方?ふーん、弱い方か。ならなおさら魔物に近づかずに処理出来る魔法作らなくちゃ。こんなに威力が高そうな魔法なんだもの、有効に使わないともったいないじゃない。こういう時はね、好きなキャラクターの攻撃方法を真似ると上手くいきやすいの、試してみましょう?」
自信満々に言いきった白さんに対して、依然パトリシアさんは暗い顔です。
「あう、アニメ、映画、見せてもらえなかったデス、暴力的って。だから、良くワカラないデス」
あ、これ根が深いやつです。
あっちでグループに入れなかったのも話題が合わないとかそういう理由もあったんじゃないでしょうか?
というか、逆に何を見て育ってきたんですかこの子!
あ、あっちだとカートゥーンとか子供に見せる専用のチャンネルがあったりしたんでしたっけ?いやでも高校生ですよ?制限し過ぎじゃありませんか?
「あら、なら話は簡単じゃない。見せてもらえなかったのなら、今から見ればいいのよ。見て、楽しんで、そこから気に入った要素を取り入れましょう?ドリ……
そして、そんな事を一切気にしないで前向きな話に持っていくのが白さんなんですよね。
「面白そうですね。ミラさんもご一緒しませんか?」
とりあえず私は、終末の砂に気を取られてこちらに気がついていなかったミラさんを捕獲します。
「ミラは、そんなのに興味無……い……ことも、ない。見たこと、無いから……。セヴンスが行くなら、ミラも……行く」
あー、そうですよね。ミラさんもまともに娯楽を享受したことがないですよね。
一応、
「じゃあ行きましょう!私のおすすめ、教えてあげますね!」
その後数日に渡って夜のアニメ・映画鑑賞会が開催されました。
私の死んでいた間に放映された分は流石に把握しきれてませんでしたし、私としても大変楽しい時間でした。
なお、私が持っていった赤いコートの超かっこいい吸血鬼が出るOVAは魔法少女全員から「吸血鬼関連は死ぬほど見せられたからもう良い」と言われて不評でした。
確かに、根源が吸血鬼の人がいるんですから予想しておくべきでしたよねー。
☆★☆★☆★☆
終末さんが使いづらい魔法を披露する話。
鑑賞会は「バトルがメインの作品」縛りで行われました。
当然のように真割さんは部屋主権限でグレンラガンを上映しました。
どうでもいいですが、赤いコートの吸血鬼の漫画。
作者の推しはベルナドット隊長です。
この話を書きあげ、予約した後に次話のタイトルだけ決めて寝たら、どうやら下書きじゃなくて公開になっていたようで
お騒がせして申し訳ありません(´・ω・`)
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