第55話 諜報戦を破壊した女

 あたしの自室、転移室から奥へ進んだこの部屋はあたし以外だと羽佐間室長しか入ることが許されていない。

 というか、まず常に鍵かかってるしね。あたしも転移で入っちゃうから何年も鍵なんて使ってないし、失くしちゃってるんだよね。多分部屋のどっかにはあると思うんだけど……。

 まあ、羽佐間室長は鍵を持ってるはずだし、今日来る予定の客人も使から問題ないんだよねー。


 魔物の出現アラームも鳴らないし、動画関連の仕事も特にないからって無駄に大量にあるケーブル類を整理していると、アイツがやってきた。

 鍵を解錠した音も、扉を開いた音さえ無くあたしの聖域に入ってくる無礼者が一人。

 やっていたゲームのアバターそのままが戦闘法衣バトルドレスになったとかいう、思いっきり引きずって歩く長さの黒いウェディングドレスと頭から生える捻じくれたヤギの角、薄い紫から白へとグラデーションしていく地面まで届くほどの長い髪(いや、ここは人のこと言えないんだけど)。

 何より、笑顔を浮かべているはずなのに伝わってくる酷薄な感情。

 こいつが、スパイ天国とまで言われてた日本の諜報戦を一人でぶっ壊した、あたしと同期の、あたし以上に危険な魔法少女。

 追憶と再演の魔法少女、セピア・フィルム。


 「やはー、みっちゃん元気だった?こっちはずっと公安と内調に行ったり来たりで大変でさー?ほらー、最近中東の方がきな臭くなってきたからさー?そっち関連の裏付けとってくれーってあっちもこっちも飛び回って大忙しなのさー。流石に忙しすぎて報酬にちょーっとわたしが生まれる前の雑誌を1冊探してきてほしかったのに見つかりませんでしたとか言ってさー、こっちが欲しい報酬を用意できないのに仕事させるなって話なんだけどさー。ねーきーてるー?」

 この、出会い頭から喋りっぱなしのおしゃべり女は、魔物に対して一切の戦闘手段も、逃走手段も持っていない。

 代わりに、情報を扱う分野においてぶっ壊れとしか言いようのない性能の魔法で、機密だろうが解錠不能の金庫だろうがなんでもかんでも暴いてしまうんだ。


 この部屋の扉を開けたのだってこいつの魔法。

 『追憶世界再演グリーディ・リバイバル』とかいう、過去に起こった状態を再現するとかいう応用力がバグってる魔法の効果なのだ。

 さっきの場合は、「前にこの扉が開いた時」を再現して鍵を無視して入ってきたわけだ。


 この追憶世界再演グリーディ・リバイバル、もうほんと頭おかしいとしか言いようがないんだけど、例えば毎日パスワードの変わる機密情報のデータが入ったパソコンがあるとするでしょ?

 普通なら、頑張ってその日のパスワードを探り当てて~って手順が必要なんだけど、こいつの場合「このパソコンのパスワードが解除された状態」を再現する方法、「今日、誰かがパスワードを打ち込んだ瞬間のキー入力」を再現する方法、「必要なデータが画面に表示されている瞬間のディスプレイ」を再現する方法などなど、無数の情報入手経路を繰り出してくるんだ。

 

 当然、どっかで秘密の会談とかあっても、現地で「その時の会話の音声」を追憶世界再演グリーディ・リバイバルで呼び出してしまえば全部筒抜け。

 焼いたり破いたりした資料だって、「それの前の状態」を再現してバレバレ。

 流石に、「何がどこにあるのか探す能力」は無いけれど、正直やりたい放題好き放題のチート魔法だと思ってる。

 一応、魔力消費はかなり大きいらしくて長時間使用は出来ない、ぐらいの制限はあるけどね。

 あ、ちなみに魔法少女の戦闘動画撮影で謎とされている「現地にカメラが無かったのに映像がある」時の動画の撮影担当だったりもする。

 カメラの映像にのみ過去の光景を再現する、とかほんと意味わかんないでしょ?

 あと、魔法の性質上ベストなタイミングとカットになるまで何回でも撮り直せるの地味にずるい。そのせいでこいつの撮った動画のほうが評価高いことが多いし……。


 こいつのせいで、日本で我が世の春を謳歌していた各国の諜報機関はそれはもうひどい目にあったわけだ。

 ……いや、まあ、こいつが主犯だけどこいつだけのせいってのは言いすぎたかも。

 こいつの魔法、「のぞき穴」越しでも普通に効果が出るもんだから各国の政府や組織から面白半分……いや、面白8割ぐらいで情報抜きまくって政府に提出したのはあたしも半分ぐらいは悪いわ。

 そんな感じで、日本は各国の政府の機密を覗き放題になって、情報戦において圧倒的な強者になってしまったんだよね。

 

 まあでも、日本の政府としての諜報能力が上がったわけじゃなくてこいつとあたしがやらかした結果だし、あたしは居なくなってもギリなんとかならなくもないけどセピア・フィルムが居なくなると今の状況が一気に瓦解するってんで、こいつに関しては存在を公表することさえ禁止されちゃってるのだ。

 セヴンスさんとは別の意味で「戸籍のない存在」なわけ。

 いや、こいつ魔法少女のくせに身体強化が一切入ってないんだよ?むしろ衣装と髪が行動の邪魔になって変身状態だと運動能力が平時より下がってるのは間違いない。

この前、服の裾踏んでずっこけてたし。

 存在がバレて、暗殺の対象にでもなったら何の抵抗もできずに殺されてしまう可能性がとてもとても高いんだよね。だから、何があってもこいつの存在は表に出せないって訳。

 まあでも、逆に言うとこいつを転移で戦場に送り込むことは絶対にないので、そういう意味で他の魔法少女と違って、貴重な、あたしが普通に会話できる枠だったりもする。


 「でー、みっちゃん。結局私は何の情報を探ってくればいいの?こーやってみっちゃんと話してるのも楽しいんだけどさー、私としてはペケッターを見るなり本を読むなり動画を見るなりしたんだよね?お仕事はお仕事で新しい情報が知れて楽しいからやるけど、待ってる時間は最小限にしたいのさ」

 ええい、この情報中毒め。

 「ほい、資料。口頭よりこっちのが好きでしょ?一応口頭でも説明するけど、読みながら聞いて。セヴンスさんを日本から拉致した組織と、この前から魔生対に派遣されてきてるミラさんの所属が同じ組織らしいのね?正直、だいぶ酷い所らしくて所属してる魔力保有者の扱いも劣悪、人体実験も多分何件もやってて犠牲者も多数。そんで、それに対して羽佐間室長とセヴンスさんがブチギレちゃってねー、何としてでも情報をかき集めて来いってさ」

 

 いやさ、羽佐間室長の執務室呼び出しなんて滅多にないし、何があったんだろ?っておっかなびっくり入ってみたらそれはもう、笑顔で青筋浮かべてブチギレてる室長が居るわけよ。

 元々、セヴンスさんの件絡みで情報が欲しいから調べといてほしいぐらいの軽い指示は受けてたんだけど、そこから派遣されてきたと思しきミラさんがなんかだいぶ酷い状態らしくて沸点超えちゃったっぽくてサー?

 で、公安と内調に話通してセピア・フィルム借りたからなんとかしろって話になったの。

 普段怒んない人が怒ってると怖いよねー。


 「おけまるー。とりま、ルーシャの大統領か国防相辺りから攻める?や、違うな。そっち側は暗号化されたりしててめんどい可能性があるかも。じゃあ逆に考えて戦争相手の隣国なら色んな内情必死に探ってるだろうし、かつ暗号化とかもされてない可能性が高いかな?みっちゃん場所わかる?」

 「あー、大体は。でも戦争中だよ?元の場所はダミーで現在位置は別の場所とかあるくさくない?」

 「大丈夫、それならそれで移動させる時の会話とかリバれば多分わかるから」

 「k。じゃ、とりあえず穴開けてみるわー」

 と、恐ろしく軽い流れで機密情報にアクセスする諜報戦上の悪夢2人。


 さて、怒ってる羽佐間室長怖いし、サクっと調べてレポートあげようか!



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シティアドベンチャー系のTRPGでだいたい卓に一人は居る情報収集特化キャラ

戦闘能力皆無だけど敵に回したくない系


戦闘手段なしとは言ってますが一応、原始地球を過去再現すると溶岩に飲まれて魔物が死にます。

当然、溶岩に飲まれるのは魔物だけじゃなくて周囲と自分もですが。


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