第51話 魔力研究の現状って?

 「ということで、今日からスネ……セヴンスさんが魔生対に出入りして良い事になりました。まあ、もう全員顔見知りだとは思うから紹介とかは無しね。誰か質問はある?」

 ザマさんに仕事しろって職員の方が苦情を言いに来たので、じゃあ仕事するかーという流れから私の紹介しておくべきだね?って話になって、今紹介されているわけですが……。

 

 「質問以前に今、学生達は授業中じゃないのかい?私と月ヶ瀬君しか居ない状態で紹介して何の意味が?」

 「ん……」

 中途半端な時間だったせいか、待機室には如月さんと月ヶ瀬さんの2人しか居ませんでした。

 いや、如月さんは大学生らしいですし、今日は講義が無いかサボって良いコマをサボったとかなのでしょうから良いんですが、月ヶ瀬さんは授業受けなければいけないのでは?


 「いや、誰か一人でも居るなら後は流れでなんとかなるかなって。そもそも水流崎さんが大体の所知ってるし?あ、事情は話さないけど、セヴンスさんは授業受けないからよろしくね。で、私は仕事に戻るから後は仲良くやって」

 去っていくザマさんの背中に、居合わせた魔法少女2人がやや怪訝な視線を送っていますが、多分私の扱いが「なんか雑」だからなんじゃないですかね?


 「で、えっと、私は何をしたら……」

 というか、私にも何しろとも言わずに行っちゃいましたからねあの人。

 ちなみに、普通にテーブルで読書をしてる如月さんは良いのですが月ヶ瀬さんはなんか端っこで床に座って一心不乱にパソコンいじってるのが気になるんですよね。

 「あー、月ヶ瀬君が気になるかい?なんで授業を受けてないのかとか」

 全くその通りなので頷いておきます。


 「いや、彼女ね、一言でいうと天才なんだよ。学校の授業で習う範囲はもう履修済で難関大学の入試問題もサラッと片手間に解いてしまう程度には。それだけなら良いんだけど、彼女は魔力の研究者でもあってねぇ。ほら、自分で魔力を扱える研究者な人材なんて世界中探しても何人も見つからないじゃないか。だったら、特別措置で授業免除して魔力の研究に時間を使ってもらったほうが人類全体の利益になるって話さ」

 なるほど?天才……?

 その天才の戦闘スタイルが魔力で強化して物理で殴れば良い、なのが色々アレなんですけど……。いや、魔力根源との相性を考えたら最適解がそれだったって話だとは思うんですが。

 

 とりあえず、近づいて月ヶ瀬さんのパソコンを覗き込んでみます。

 『魔力保有者と不明現象由来生物の保有魔力量の傾向について』

 おおう、ちゃんとしっかりとしたレポートっぽいものが書かれています。

 「あ、これ、見て」

 あ、内容を解説してくれるみたいです。

 「魔物は範囲から、魔法少女は曖昧だけど、感じ取った感覚。ずっと増えてる」

 えーっと、ここ5年のデータで魔物の平均魔力量と魔法少女の平均魔力量が両方とも右肩上がりで増加してるって事ですね。

 「原因は大気中の魔力量?どこから?ずっと増えてて、どこまでかわからない。困ってる……」

 流石に研究関連になると翻訳が難しいですね!

 活性魔力がずっと増え続けてる理由が分からなくて、かつ、どこまで増えるのかがわからないって感じですかね?

 あれ?もしかして不活性魔力の存在が立証されてない?


 よく考えれば、イツァナグイも不活性魔力は外部からの働きかけに一切反応を返さない、質量もない、存在を知らないと検知不能のエネルギーって言ってましたからね。

 多分、そういうものが存在するかも知れないという仮説ぐらいは出ているでしょうけど主流派では無いので考慮外な感じでしょうか?

 あれ?思ったより魔力に関する研究って進んでなかったりします?


 とりあえず、月ヶ瀬さんに不活性魔力の存在と活性魔力との関係性を説明しましょう。

 しかし、確かによく考えたら魔力の研究ってすごく難しいんですよね。

 まず、研究したくても普通の研究者の人には視認できません。

 魔物から魔力の研究をしたくても、倒すと即消滅する、長時間拘束しておく手段がないという問題により魔物の実物を使っての研究はほぼ不可能です。

 じゃあ、魔法少女の研究をするかとなっても、まず絶対数が少なくてかつ大事な対魔物兵器なので研究専門に回せる人材はほぼ居ないでしょう。

 うーん、私を拉致した国が即座に他国からそれっぽい人を拉致してきて人体実験!と舵を切ったのは研究の効率という面だけを考えれば最適解だった可能性が出てきました。


 「不活性魔力!ゆらぎはインフレーションの過程で出るバグ!最終的には全魔力が活性化して魔物の出現確率は極小化する!すごい、セヴンスさんすごい!」

 んんんん?私は不活性魔力という定義を教えただけなのに理解力高すぎじゃないです?ゆらぎの発生理由とか教えてないですよ!?

 というか、急にテンション高くなりましたねこの子。

 「活性魔力が増えてるから、発生する魔物もそれを取り込む魔法少女も魔力容量が増え続けてる理由の説明が付く!活性と不活性を転換する際に生じるエネルギーを私達は使ってるとすれば……」

 

 あ、なんかスイッチ入れちゃった感じです?

 すっごいテンション上がった感じでキーボードカタカタしてるんですけど?

 これ、アニメとかで見る天才ハッカーがッターン!ってエンターキー叩くやつです?

 

 と、月ヶ瀬さんを観察してたら授業が終わったのでしょうか、魔法少女が何人か待機室へやってきました。

 「あれ?セヴンスが居るの?なんで?」

 白さんが部屋に入るなり駆け寄ってきて隣に座りました。

 月ヶ瀬さん、私、白さんと3人で床に座ってる状態がなんだかおかしいです。

 「えっと、今日から魔生対に出入りして良いって事になりまして……」

 「あら、よかったじゃない。じゃあ放課後にみんなと何処かにでかけたり……は無理か。セヴンス目立ちすぎるのよね」

 うう、そんなJKライフに混ざるのは楽しそうですが変身解除イコール死の状態が解除されるまでは無理なんですよねえ。


 「魔女セヴンス!?なんでここに!?」

 おや?見覚えのないサイドテールのお嬢さんが一人。

 えーっと、確か初動対策課の中で一人だけまだ顔合わせが済んでなかった方が居た気が……。

 「私は流星の魔法少女、ルーチェ☆メテオリーテをやってる青杜架夜あおもりかやです!みんなを助けてくれて、特におつるさんの命を救ってくれて、本当にありがとうございます!」

 ハイテンションでサイドテールに括った黒髪をぶんぶん振り回しながら頭を下げる流星の魔法少女さん。

 あー、あの角度のすごいハイレグ衣装と申し訳程度についてる特に意味のないスカートっぽいひらひらの鼠径部に視線が集中しがちな子ですね……。


 「それで!あの!ファンなんです!サイン下さい!」

 ぐいぐい来ますねこの子。というかサインとか考えてないですよ無理ですって!

 「ちょっと架夜、セヴンスが困ってるからやめなさい?そもそも魔法少女としてファンサとかする必要のないセヴンスがサインとか考えてるはず無いでしょう?」

 ……そういえば、クリスマスとか魔法少女がイベントやるって話がありましたね。

 「え?もしかしてみんな自分のサインとか考えてある感じなんです?」

 「自分で考える子も居るし、デザイナーさんに頼む子も居るし、そもそもサインお断りの子もいる……って感じね。おつるさんとかサインお断り勢だったと思うけど」


 まじですかー。あ、でも私未登録だしイベントへの参加義務は無いですよね!

 なんか、キャラソンとか歌ってた子も居ましたし魔法少女って普通にアイドル扱いなんですよねぇ。いや、変身すると本人に最も似合うと思われる化粧がされて、私でも美人美形の仲間入りを果たした気になってしまうレベルなのでアイドル扱いなのもよくわかるのですが。

 というか、理珠さんがイベントで歌うなら私も最前列でサイリウム振りたいです!


 「とりあえず、サインはわかりました諦めます。でしたら、せめてご飯一緒に食べませんか!?食堂のご飯、かなり美味しいんですよ!」

 ぐいぐいくる青杜さんに押し切られて、ご飯をご一緒することになりました。

 あ、食堂併設なんですね?まあ、魔法少女が外食にでかけてる間に魔物が発生したりすると手間ですしさもありなんですね。


 なお、食堂に行くと即座に理珠さん隣に座り、対面に白さんが座り、注文をするまえに今日食べたいなぁと思ってたたらこスパゲティが配膳され、青杜さんは隣のテーブルから楽しそうに私達を見つめていました。

 まだ1席空いてるのに何故?と思いましたが、なんとなく理解しました。

 これ、推しがてぇてぇ時の視線だ……。


 ちなみに、月ヶ瀬さんはみんなの授業が終わって帰宅する時間になるまでずーっとパソコンと向かい合ってました。

 そうやって夢中になってご飯抜いたりするからあんなに肉の付いてない身体だったんですね……。

 今度何か片手で食べられるお弁当を用意して押し付けましょう!健康に悪いぞ!


 


☆★☆★☆★☆


一緒にごはん!と誘っておきながらも同じテーブルにはつかない(恐れ多くてつけない)ファン精神


地味に世界で(公式には)数人しか居ない魔法少女かつ研究者な鬼巫女ちゃん。

魔力の研究は10年経過しても(表沙汰になってる部分では)ちょっとしか進んでません。 

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