第50話 変身ヒーロー、ニューヨークで斯く戦えり

 『ヘイ、マホウショウジョ!Gは問題ないか?』

 「英語わかんないけどおーけーおーけー、多分到着したとかって話だよね!?」

 戦闘機の後部座席からパイロットさんへ返事を返したけど、これ大丈夫だよね? 

 各国で魔力保有者を交換派遣するという話があって、日本はアメリカと一人ずつ派遣し合うって話になったんだけど、日本からはボクが選ばれた。

 いや、選ばれたっていうか立候補したんだけど。ヒーローの本場だとみんなどういう活躍してるのか気になっちゃって!

 でも、英語話せなくてコミュニケーションが大変なんだよ!


 『安心しろよワンハンドレッド、東海岸最強のリトルウィッチであるこの私が付いてるんだ。どんなヘマでもカバーしてやるさ!』

 ワンハンドレッドはわかった!100って意味だからきっとボクの事だよね!?

 一人用の複座に無理矢理2人で入ってるからちょっと苦しいけど、ボクのことを心配して付いてきてくれたクイーンオブシャークさんに文句は言えないよね!

 でも使える魔法の確認とかやらずに到着当日に魔物の相手させる判断がまずおかしいと思うんだけどね!?

 あと、現場についたら脱出装置みたいなヤツで射出されるらしいんだけど、二人分の重量支えてくれるのかな?ちょっと心配。

 


 『F-15イーグルのゴキゲンな翼から配達終了のお知らせだぜ!カウントゼロで射出するぞ、アーユーレディ?』

 あ、カウントゼロとあーゆーれでぃは聞き取れた!到着したんだよね?

 「おーけーおーけー!今日のボクは無敵だから何時でも大丈夫だよ!」

 衝撃に備えて身体に力を入れる。

 パイロットさんのカウントと同時に座席が戦闘機から射出されてパラシュートがばっと開いた。

 って、座席に固定されてなかったクイーンオブシャークさんふっとばされちゃってるんだけど大丈夫なの!?


 慌てて周囲を見渡すと、なんかでっかいサメが滑空してて、その背中で長い綺麗な金髪をなびかせながら仁王立ちしてるクイーンオブシャークさん。

 ……え?なんでサメが飛んでるの?アメリカのサメって飛ぶの?

 というか、ビキニの水着に浮き輪にレインコートっておおよそ戦いに行く格好じゃないよね!?……と思ったけど、ドレスとか全裸とか巫女服とか、ボクの同僚も大概だったね。


 あ、現場が見えてきた。

 えーっと、セントラルパークって言うんだっけあの公園。

 そこに、警察の人が銃で気を引いて誘導してるみたい。

 いくら魔物に非魔力攻撃が効きづらいって言っても効果がゼロなわけじゃないもんね。ちゃんとした武器が有れば気を引くぐらいは出来るんだ、かっこいいじゃん警察官!

 魔物は、えっと、なんか移動中に無線で解説されたんだけど全然聞き取れなくてよくわかんない。姿はでっかいイカ?だと思うんだけど、何やってくるかさっぱり。

 でも、今日の姿なら太陽が見えてる限り負けは無いよね!


 まだ地上までかなり距離があるけど、パラシュートのベルトを外して空に飛び込んだ。

 おー、これがスカイダイビングかー、これ癖になるよ絶対!超楽しい!

 なんか、サメの上でクイーンオブシャークさんが焦った顔で叫んでるけど大丈夫だよって両手でサムズアップしてアピールしておいた。

 さて、今のボクはマスクドライバーだ、キックの衝撃に耐えられずダメージを受けるなんて魔力根源君が絶対許さないし、ボクの頭の中のヒーロー達だってそんな無様はさらさない。

 だから、この自由落下の加速を全部キックのエネルギーにして初手から大ダメージを狙っちゃおう!


 黒いボディスーツにエネルギーが満ちて、真っ赤な眼を模した髪飾りが光を放つ。

 両足を揃えて身体を捻って威力を一点に集中させて、さあ、いくぞー!

 「アーエ゛ッ・キーック!」

 真上からのキックの衝撃でイカの魔物は地面にめり込んだ後跳ねるように吹っ飛んでいった。

 突然吹っ飛んでいった魔物と、それをやったボクの登場に周りの警官たちが歓声を上げて騒ぎ立ててる。なるほど、こうやって直接応援されるのも気持ちがいいね!


 しかし、蹴ってみてわかったけどこの魔物やっぱりでっかいなぁ。

 目算だけど、10メートル以上はあると思うんだよね。

 そしてやっぱり、サイズに合わせた耐久力を持ってるみたいで、イカの魔物はふらつきながらも起き上がってきた。

 でも、正直隙だらけだし、今のうちに必殺技の準備をしておくべきだよね!


 腰に巻かれたメカニカルなベルトの前に手をかざすと、光を放つ最強の武器が現れる。

 「ボルの杖ボルケイン・改!」

 まあ、ケインって名前が付いてるけど、どう見ても剣なんだよねこの武器。

 さて、後はかっこよく必殺技を決めてとどめを刺すだけ!

 ボクはイカの魔物へと駆け出した。


 幾分か体勢を立て直したイカの魔物が苦し紛れでぶっとい触手を振り下ろして来るけど、身体能力に任せて腕さえつかない側転で回避!

 そして、すかさず距離を詰めて体の中心に杖の切っ先をドーン!!

 太陽の光を受けて無限に湧いてくるエネルギーを魔物が破裂する限界まで流し込んだらOKだ。

 「ボルクラッシュ・改!」

 杖を引き抜き、何一つ欠る事のない完璧な決めポーズを取るボクの背後でイカの魔物はびっくりするほどの大爆発を起こして消滅した。

 

 『すげーじゃんかワンハンドレッド!あのサイズを瞬殺とか、流石は日本のマホウショウジョだな!』

 空から振ってきたサメ(多分ホオジロザメだと思う)がズシャァァァァクってなんか特殊な効果音を立てながら着地すると、クイーンオブシャークさんが大げさに両手を広げて駆け寄ってきて抱きついた。

 褒められてるのはわかるけど、こっちの国の人は感情表現がオーバーだなぁ。


 ちなみに、クイーンオブシャークさんの戦闘法衣バトルドレスであるレインコートには複数の企業のロゴが貼り付けてある。一番でっかいロゴはなんだっけ、映画の会社だったかな?アサイ衝角?

 なんかね、日本と違って接近制限がゆるいみたいで普通にTV局のヘリとかが僕たちの戦闘を撮影してるんだけど、魔法少女……こっちだとリトルウィッチだね、として戦った事によるお給料の他にスポンサーが付いてて、戦闘に参加して映像が配信されると広告費が払われるんだって。

 虎さん&ウサちゃんで似たようなシステム見た気がするよね。

 

 あ、魔物が倒されたのを確認してヘリが降りてきたみたいだね。

 って、カメラ全部ボクの方向いてるんだけど、どうしたらいいの!?

 『ヒーローインタビューだ、答えてやりなよ』

 あ、ヒーローインタビューは聞き取れた!んだけど、英語話せないから答えようが無いんだよ!

 ボクが困っておろおろしてたら、クイーンオブシャークさんが肩をたたいて笑ってた。安心しろって感じの意味だと思う。

 『やっぱり日本人はシャイだな!私が代わりに答えておいてやるよ』

 何言われたかわかんないけど、多分おーけーおーけー言っておけば良いはず。

 うう、後で通訳さんに会話の流れ教えてもらわなきゃ……。


 『ハロー!全米のヒーローガールマニアック共!今日活躍したこいつは日本のマホウショウジョ、マスクドライバーNo.100!今日到着したての期待の新人だ!見ての通り私ほどじゃないが超強いから、スポンサー契約するなら急いだほうが良いぜ!』

 ん?スポンサーって聞こえたけど、日本の公務員って副業とかそういうのの収入って大丈夫なんだっけ?

 いや、そもそも魔法少女って公務員じゃないんだっけどうだっけ?未成年の特別協力者でーとか彩月さん言ってた気がするけど意味わかんなかったから聞き流しちゃったんだよね。


 その後、クイーンオブシャークさんと二人でサムズ・アップしてる写真が新聞の一面を飾って、ボクでも知ってるぐらいの大企業から複数のスポンサー契約の連絡が来たらしくって通訳さんが目を回してた。

 あの、ボクって多分世界で一番強さが不安定な魔法少女なんだけど、これ色々大丈夫なのかな?

 とりあえず、日本から持ってきたマスクドライバーシリーズを見てもらって説明しよう!

 上映会、させてくれるかな?




☆★☆★☆★☆


 完!全!趣!味!回! 一欠

 アメリカに派遣された100号ちゃんのお話です。

 サメは飛ぶもの、OK?


 あと、ボルの杖・改をリ・ボルケ(ry と読んではいけない

 クイーンオブシャークさんの根源は「サメ映画」です。サメじゃなくてサメ映画。

 だから大概なんでも有りです。タコとくっついたり頭が増えたり核だったり幽霊だ   ったり。

 

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