第52話 リトルウィッチとバーバ・ヤガー

 私の初出勤、出勤……なんですかね?お給料出ないのに?

 ……よし、考えないことにしましょう。

 とりあえず、あれから3日後、今日は2人の海外勢をお迎えする日です。

 今、ザマさんが空港まで迎えに行ってますがどんな子が来るのでしょうか?

 いや、プロフィール自体は先に資料で配られたので確認したんですが、やっぱり人となりが気になるじゃないですか。


 「だから、活性魔力の密度の取得に培養した魔法少女の角膜を通して観測出来ないかってアプローチがあって、でも結果が出なくて、だけど、セヴンスさんが言ってた非活性魔力から活性魔力へのインフレーション、これが起きる時にヒッグス粒子の干渉を受ける可能性があって……」

 で、それはそれとして。

 「だけど、運搬できる観測機だとヒッグス粒子の干渉を観測する精度は出ないから、別の素粒子にも影響を与えてないかの調査が……」

 はい、なんというか、月ヶ瀬さん……というかもう雛ちゃん呼びで良いですね。なんかもう子犬にしか見えませんし。

 完全に懐かれました。すごいふんすふんすしながら魔力関連の研究に関する情報を教えてくれるのですが、私!商学部卒!趣味は宗教神話関連の本の読書!文系!むつかしいことわからん!ってなってます。

 ヒッグス粒子って何!?ウェッジと一緒に出てくる召喚獣に消される帝国兵か何かですか!?


 「雛さん、ほら、セヴンス様が困っておられますから……」

 普段は一人で部屋の隅でパソコンを弄るばっかりだったという雛ちゃんの懐きっぷりに理珠さんもちょっと困惑しつつ、私が頼られてるのがなんとなく嬉しいって顔してましてこの……。

 「でも、教えてくれた理論でどれだけ進んだのか教えたくて……」

 「いや、私も聞いた話を教えただけなので私は何もすごくないですからね?」

 ここはブレーキを掛けておかないと非活性魔力を私が発見した扱いにされかねないです。うう、尊敬のキラキラした視線をこちらに向けるのやめてー。

 「じゃあ、セヴンスさんに教えた人を紹介してほしい!」

 うーん、人じゃないんですよねぇ……。


 と、魔物の発生も無いのでみんなでワイワイ騒いでいるとザマさんが2人の少女を連れて入室してきました。

 一人はストロベリーブロンドの髪をポニーテールで括った、なんとなくやつれた印象を受ける女の子でした。なんか、TVとかのアメリカ人でよく見るTシャツとスキニージーンズという恰好なんですが、猫背でどこかおどおどしてて見てて心配になってきます。

 もう一人はアッシュブロンドの髪をきっちりとした三つ編みにしてる警戒心バリバリって感じの子ですね。身長は白人にしては低め……でしょうか?白さんと同じぐらい?

 服装はカジュアル寄りのパンツスーツで、人が入れそうなサイズのスーツケースを引きずってるのが気になりますね。もう一人の子を見るに、荷物は先に部屋に置いてきてるっぽいんですが。

 あと、目つきも動きもキリっとしてて、まあ自衛隊基地がすぐそこにあるからわかるのですが、明らかに軍人として教育を受けましたって感じです。


 「はーい、ちゅーもーくって言わなくてもガン見してるか。予てから連絡していた通り、アメリカとルーシャから各1名ずつ魔力保有者を受け入れることになりました。で、あー……とりあえず自己紹介してもらいましょうか。まずパトリシアさんから!」

 英語圏の名前なのでストロベリーブロンドの子の方ですね。

 「アー、パトリシア・ガーフィールドです。話せます、日本語、なんとか。リトルウィッチネームはエンドブリンガー、です。よろしくおねがいします……」

 あ、根源の説明が無かったですね。えーっと、資料曰く「終末」の根源らしいです。うーん、強そうな魔力根源っぽいですが、なんであんなにおどおどしてるのでしょう?本国でも立場が悪かったみたいな話ですし、後で聞きに行きましょう。


 「はい、じゃあ次はミラさん」

 で、次は軍人っぽい子というか、あの国だと多分魔法少女というかバーバ・ヤガーですか、は軍人扱いなんでしょうね。

 「ミラ・ナツメヴナ・リトヴィンツェヴァ。魔力根源は人形遣い、魔法名はマリーツァ・マリオニェトゥカ。仕事はする、だけど、馴れ合うつもりはないから業務以外で話しかけないで。連絡は父が日本人だったから日本語でいい」

 おおう、これは……ツンデレさんじゃな!?

 明らかに近寄るなオーラを出してますが、この明らかに何か事情を抱え込んでそうな暗い表情!これ、解きほぐした時がかわいいやつですきっと!

 近寄らないor籠絡しろなら籠絡する方を選びますよコレは!


 ザマさんがなんか意味ありげな視線をこちらに向けますが、笑顔でサムズアップを返しておきます。盛大にため息をつかれましたが、気の所為でしょうきっと。

 「じゃ、交流を深めておくように。あんまりあれこれ質問するのは失礼に当たるかも知れないからそこんとこ空気読んでねー」

 微妙に私に釘を刺されたような気がしますが、やり過ぎなければOKというお墨付きが出たとも言えます。

 

 ザマさんが執務室に引っ込んだので早速ミラさんの方に突撃……しようと思ったら理珠さんに袖を引かれて止められました。

 むぅ、何やら心配げな表情ですね。浮気とかじゃないから安心してほしい所です。

 「あの、セヴンス様がかの国から派遣されてきた方と接触するのは、その、危ないのではないかと」

 あ、そういう……。

 「うーん、私一人で居る所をどうこうって可能性はありますが、逆を言えば人が多い場所だと何も出来ないでしょうし、理珠さんがいつも一緒に居てくれれば多分問題ないですよ?」

 そもそも、私、変身解かないので捕獲とか難しいと思うんですよね。休眠変身状態でも消費がちょっと大きいだけで普通に魔法使えますし。

 「大丈夫、水流崎さんが授業中のときは私が居る。ずっといる」

 こう、雛わんこも主張しているし大丈夫ですよきっと。


 「はじめまして、魔女セヴンスです。本名はまあ、秘密で。魔力根源もちょっと言いづらいので秘密です。今日からよろしくお願いしますね?」

 「同じく、お初にお目にかかります。わたくしは魔法少女ウィステリア・ヴェール。水流崎理珠と申します。以後お見知り置きください」

 『魔法少女・鬼巫女のヒナ・ツキガセ。はじめまして!』

 ……いや、雛ちゃんの口からとても流暢なルーシャ語が飛び出してちょっとびっくりなんですが!?

 

 「何?……って、ええっ!?あっ……。ミ、ミラは業務以外で話しかけないで言ったはずなんだけど?」

 ん?なんか私を見てびっくりしてませんでした?

 んー、まあいいですそこは今は気にしません。問題は、この、この見た目と性格で自分のことを名前呼びっていうギャップですよ!

 これ、内面相当歪んでる感じじゃないです?ルーシャ連邦さん、前線で戦ってる少女たちのメンタルケアとかちゃんとやってます?

 とりあえず、業務以外で話しかけないでと言われたので業務の話から距離を詰めていきましょうか! 

 

 「いや、お互いの魔法を知って連携を考えたりするのは業務のウチですよ?ですから、ミラさんの魔法とか戦い方とか、好きな食べ物とか、趣味とか教えてもらえませんか?」

 「趣味とか好物とかは連携に関係ないでしょう!?」

 あ、ツッコミ属性だこの人。

 「セヴンス様はよくお巫山戯になられますので、解答の必要がないと思われましたらお答えにならなくても大丈夫ですよ。むしろ多少無視したほうが反応がおもしろ……いえ、なんでもございません」

 『ゼヴンスさん、言いたいこと全部わかってくれる。とても助かる。困ったら頼ると良いと思う』

 うーん、理珠さんがだんだん本性を出してきてると言うか、イイ性格になってきてるんですよねぇ。いや、終始ボケ倒してる私も私なんでしょうけど。

 雛ちゃんは何言ってるかわかんないです。ミラさん日本語話せるんだから日本語で話しちゃっていいと思うんですが。

 

 「はあ、資料に書いてあるって言っても答えないと開放してくれないんでしょう?」

 ミラさんよくわかってらっしゃる。こういうのは本人の口から聞きたいんですよね。

 「ミラの使う魔法は……」

 

 ──大阪、堺市にて魔物発生。第一種群体5体、虎型。魔力保有量から、特殊能力は無いと思われます。解析班からの指名はありません。魔法少女の皆さん、対処をお願いします──


 と、都合が良すぎるタイミングで発生する魔物。

 いや、マジで出待ちとかしてませんでした?

 「……はあ、派遣されたバーバ・ヤガーとして実績は出しておいたほうがいいものね」

 ミラさんはそう言って立ち上がり、あのでっかいスーツケースを手に取りました。

 「ミラが出撃したいと思いますが、問題は?……無いですね?じゃあ、ミラの魔法、実戦で見せてあげる」

 

 ……そう言ってビシっとキメたまでは良いんですが、魔生対の出撃システムを理解してなかったミラさんは雛ちゃんに説明されて、変身して、転移室へ案内されて、と、微妙に緩んだ空気の中で出撃していきました。

 じゃ、私も現地へ向かって魔法を見せてもらうとしましょうか!

 あ、理珠さんも来ます?



☆★☆★☆★☆


海外勢登場。

あと、案の定懐いて尻尾ブンブンの鬼巫女ちゃん

そしてツンデレさんの登場。

攻略する気まんまんのセヴンスさん

混沌としてきました。

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