第47話 アシナシトカゲと鬼火とかるかん

 鬼火の魔法少女 ウィスプオブレッド、19歳蟹座のB型。

 青いパーカーとデニムパンツを戦闘法衣バトルドレスとする、いやどこが魔法少女なの?という出で立ちの少女。

 まあ、振り袖とかニチアサヒーローの変身スーツとか謎の力で剥がれない霧とか同じ様なツッコミを受けそうな人は結構いるのですが……。

 炎のように揺らめく赤いベリショの髪が唯一それっぽさを表してる気がします。

 得意な魔法は、そこそこ威力がある上にホーミング性能付きの鬼火を300個も同時に展開する執念深い鬼火ヴィンディレクティブ・ウィスプ


 と、ここだけ見てると強そうなのですが、鬼火の移動速度が大体時速1キロと速めの亀に抜かされかねない鈍足っぷりなのと、300個の鬼火を生み出さなければならないため、魔力の消費が大きく、執念深い鬼火ヴィンディレクティブ・ウィスプ発動後にはちょっとした身体強化をする程度の魔力しか残らないというなんともピーキーな性能の魔法少女です。


 それでまあ、理珠さんと一緒に影から顔を出して見れば……。

 「おいゴラァ!暴れんなよ……暴れんなよ……っ!」

 ジリジリと迫りくる鬼火の群れを背に、鬼火の魔法少女は細長い姿の魔物に馬乗りになって格闘戦を挑んでいる最中でした。

 「っあーっ!逃げんなコラァ!」

 頑張って拘束しようと抱きつく炎色の髪の少女を半ば無視して、アスファルトの道路に何の抵抗もなく水に潜るように姿を消す魔物。

 「あれは……蛇の魔物でしょうか?」

 まあ、知らなければそう見えますよねぇ……。

 「あー、いや、頭の形状や地面に潜る能力から考えて、恐らく『アシナシトカゲ』の魔物ですね」


 アシナシトカゲ、主に地中で生活するトカゲで、日光浴による栄養合成の時間以外はほぼほぼ地中に潜りっぱなしの、飼育者から「土を飼ってる気分になる」と大好評?の爬虫類です。

 あんまりにも長いこと地中で生活するので、地中を移動するのに邪魔な手足を無くすという進化を経て現在の、顔はトカゲなのに手足がなくて蛇みたいな不思議生物となっています。

 なお、トカゲなので尻尾を捕まえると自切します。

 寿命が50年ぐらいとめっちゃ長く、結構な確率で飼育者より長生きするのも特徴です。

 いやしかし、アシナシトカゲ型の魔物が発生するぐらいアシナシトカゲに対する思念が集中したってことですよね?一体何があったんでしょう?

 

 「足無しトカゲ……アシナシトカゲ??」

 ネーミングに納得がいかないのか、頭に疑問符を浮かべてしきりに首を傾げる理珠さんがちょっとおもしろいです。

 今度、『トゲアリトゲナシトゲトゲ』を教えてあげましょう。きっと楽しい反応を見せてくれるはずです。(実在の昆虫です)

 

 「いや、見てないで手伝えよおめーら!」

 ウィスプオブレッドさんが怒ってますが、コレは魔物の特性を見定めていただけでサボっていたわけじゃないのでセーフ扱いしてほしい所です。

 恐らく、あのアシナシトカゲの魔物は地中やら壁の中やらを自由に移動できる感じの創作物で結構見かけるタイプの能力なのではないでしょうか?

 まあ、幸いここは大通りの中心なので壁からの奇襲は警戒する必要が無いでしょう。

 となると、地面から飛び出してくる感じの奇襲になると思うのですが、どの手で対処しましょうかね。


 「セヴンス様、せっかく連れてきていただきましたし、今日はわたくしに一手ご披露させて頂けないでしょうか?」

 お、理珠さんがなにやらやる気なので任せてみましょう。

 「あー、潜ったヤツな。アレ鬼火の向きみればどこに居るかわかるからヨロシク。執念深い鬼火の名前はダテじゃねぇから、あれ当たるまで何があっても別の次元に逃げても負い続けるから」

 ウィスプオブレッドさんから助言をいただけましたが、いや、そこまでの追尾性能つけたせいでリソースが足りなくなって速度が出なくなったのでは……?


 「では、行きます」

 理珠さんが弓ではなく、帯に刺さっていた扇子を抜き取りました。

 「疾走はしれ、影無き木々の根よ。影藤の絡み根!」

 ふわりと扇子から種が地に落ちると同時に、黒い幹を持つ蔓が地を走って覆い尽くしました。

 魔力の感じからアレですね、これも魔物から見えないタイプのやつです。

 拘束用の魔法でしょうか?


 「セヴンス様の鋼糸の魔法がとても便利そうに見えて、その、真似をしてみました。お嫌では無いですか?」

 あー、無限の縛糸グレイプニールの理珠さんエディションってことですね。

 無限の縛糸グレイプニールは非実体化した魔力なのでタネが割れているとちょっと頑張れば感知できてしまうのですが、多分この影藤の絡み根とか言う魔法、理珠さんの「静謐」の根源から来る魔力の動きが感知できない性質も付与されていて、魔物からは全く感知できないのではないでしょうか?

 根だけに地上限定ですし、良いアレンジじゃないです?

 「いや、私の魔法とはまた方向性が違いますし、いい魔法だと思います。多分これだいぶ強めに拘束しますよね?私の無限の縛糸グレイプニールより拘束に特化した感じで面白いと思います」

 

 そんな感じ会話をしていると、鬼火の群れの方で、まあ多分挑発するためとかそんな意図で顔を出したのであろうアシナシトカゲ君が根っこに絡まって転がってました。

 というかこの魔法、獲物が絡まった瞬間に展開していた根っこ全部が集まってきて雁字搦めにするとかいうえっぐい性質が付与されてるんですが?いや、流石エース級の魔法少女、効果がしっかり実用的です。


 一方、ロマンを求めた魔法の方は……。

 「あー、いい場所で絡まりやがったなアイツ、ちょっと待てば全弾直撃のきれいな花火があがりそうじゃんか」

 ウィスプオブレッドさんの言う通り、もうガッチガチに絡まって全く身動きの取れないアシナシトカゲ君にじわりじわりとにじり寄る300個の鬼火。

 大丈夫?恐怖で泣いてない?

 と、魔物を哀れんでいると初弾が着弾。以後、続々と鬼火がアシナシトカゲの魔物を仕留めんと300の鬼火が炎を上げて殺到し……。

 「っしゃあ!いーい花火だっただろ!気持ちいいじゃんか!」

 魔物と、拘束していた藤の根を跡形もなく焼き尽くしました。


 「えっと、じゃあ魔物も倒せたんで解散って感じでいいですかね?いや、私はウィステリア・ヴェールさんと一緒に移動して出てきただけで何もしてないんですけど」

 まあ、拘束したもの理珠さんですし、とどめを刺したのはウィスプオブレッドさんですし、実際何もしてないのである。

 「いんじゃね?ウチも帰るし。あー、戦った後は温泉とか入りたくなるよなぁ」

 それは同意なんですが、私の素肌のパッチワークがアレなのであんまり一般の方に見せるわけには行かないんですよねぇ、変な憶測が飛び交いそうで。

 「セヴンス様のお肌を不特定多数に見せるのはわたくし、反対いたしますよ?」

 ほら、理珠さんも反対みたいですし。

 そうだ、せっかく九州まで来たんですから魔生対の責任者に渡す菓子折りでも買っていきましょうか。友人の好物だったお菓子が鹿児島名物だったはずですので。

 

 「あ、ちょっと買い物したいので鹿児島に寄ってからの帰宅でいいですか?せっかく九州南部まで来ので、かるかんって名前の美味しいおまんじゅう買っていきたいんですよ」

 現在時刻はまだ19時前、まだ薩摩スチーム屋の店舗は開いているはずです。

 「かるかん……ですか?たしか、彩月さんも好物だと仰っていたような……」

 ん?彩月さん?

 「あ、彩月さんはいつも話題出している魔生対の上司の方でございます。確か、宮崎出身でいらっしゃったはずです」

 んんんんん?宮崎出身で、かるかんが好物の彩月さん?

 いや、まあ、落ち着きましょう。かるかんはとても美味しいので、九州南部の出身であれば好きな食べ物として挙げられても違和感はありません。さつき なんて名前の人はそれなりにいるでしょうし、まさか名字が羽佐間だったりはしないでしょう。

 

 「あーっと、羽佐間部長……いや、室長って呼べって本人は言ってるんだっけ?最近さー、薩摩スチーム屋が通販でかるかん売ってないから現地で買って送れってメッセージが時々跳んできてさー」

 ……いやいやいやいやいや、えー?いや、マジで?

 宮崎出身でかるかんが好物の羽佐間彩月さん?流石に同じ条件の同姓同名がそんなにいるとは思えません。え?私の中学からの親友の名前なんですがそれ?

 確かに、バリキャリで官僚やってるぜーとは本人言ってましたけど、え?そんなことある?マジで?

 これ、是が非でも顔を合わせて挨拶しなきゃならなくなりました。

 しまったな、魔生対の立ち上げ人員じゃないからか見落としていました。

 とりあえず、かるかん買ったら明日にでも挨拶にいきましょう。

 


 ……まさか、友人が魔物に連れ去られたのが原因で魔生対に入ったたとかそういう話はないですよね!?





☆★☆★☆★☆


薩摩蒸気屋のかるかん、とても美味しいのでおすすめしたいのですが

通販サイト見たら原材料の不足で通販停止になっていました。悲しい。



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