第48話 生きていたの!? と言われましても

 「じゃあ、理珠さん行ってきますね」

 魔生対の実務上の責任者が恐らく私の友人であると判明した翌日、シフトの都合でお休みだという理珠さんに魔力供給あさのあいさつをした後、私は単身で魔生対本部へと向かいました。

 ちなみに、理珠さんにその事をお話した所。

 「外見通りの年齢ではないことは薄々気がついておりましたが、そこまで年上の方だとは思っておりませんでした。せめて同い年か一つ年下ぐらいかと……」

 と、私の大人だという自負にそこそこ大きいダメージを与えて下さいました。

 大人なんですから、上手にリードしてくださいね?とかその後めっちゃからかわれましたし……。これ、私が駄目なのか理珠さんが地味に魔性属性なのかどちらなんでしょうか?


 まあ、気を取り直して魔生対へごーです。

 時刻は8時過ぎ、出勤にはちょっと早い時間ですし流石に人の気配の少ない魔生対本部の中を影から影へと移動して部長執務室へと侵入します。

 で、持ってきたかるかんの箱にメッセージを添えてデスクの上に置き、私は現在の小柄ぼでぃを利用してデスク下の空間に潜みます。

 椅子がちょっと変な位置になっちゃいましたが、まあ多分大丈夫でしょう。


 しかし、魔生対の責任者の方々。一応、顔役の政府関係者は居るのですが、その方を除いて現場で魔法少女と接触する立場の人ってほぼほぼ非公開なんですよね。

 まあ、多分、魔法少女への不特定多数の人物の接触を防ぐための措置なんでしょうけど、そのせいで友人との再会が2ヶ月ぐらい遅れたと思うとちょっと恨み言を言いたくなります。


 いや、魔生対の前身である「不明現象生物対策室」の立ち上げの時は報道含めて色んな情報がちゃんと公表されてたんですよ、新聞にも載ってましたし。

 でも、上記の組織は魔物に対する国内での自衛隊運用の為の組織であって魔法少女支援組織として作られてはいなかったので、現在の魔生対の形式になる際に魔法少女保護と国防措置としての情報漏洩防止の為、情報非公開となったみたいです。


 む、階段を登る音が聞こえます、主観時間では3カ月ぶり、実時間では10年ぶりに顔を合わせる時が近づいてきました。

 「あ゛あ゛ー、しくじったー。知らない扱いってのも建前なんだからどっかで挨拶しとくべきなのよねー。今度どっかのカフェ……じゃ人の目があるか、なんかいい場所に水流崎さんと一緒に呼び出してみたほうが……」

 あ、相変わらず独り言がデカいですね。声から10年経っても変わってなさそうな性格が伝わってきてちょっと安心します。


 さて、せっかくの再会ですが今日は認識阻害魔法の実験も兼ねてちょっとからかってみるつもりです。

 いや、10年ぶりといっても私の主観だと3ヶ月程度会ってないだけなので感動の再会って気分にはならないんですよね……。


 扉が開き、目的の人物が部屋へと入ってきました。

 机の上の不審物に気が付きましたね?足が止まりました。

 私のメッセージでどこまで気がつくでしょうか?

 『ザマさんへ。昨日九州へ出かけたので好物をおみやげに買ってきました。牛乳と一緒にお召し上がり下さい。──魔女セヴンス』

 今となっては私しか使わないあだ名と、よほど親しい人しか知らないそれを食べるときの組み合わせ。

 さて、認識阻害を貫通できるのでしょうか?

 

 「は?」

 ちょっと表情が見たいので顔だけ出してみましょう。

 こっそりと顔を出して表情を伺うと、ちょっとシワの増えた見慣れた友人が豆が鳩でっぽう食らったような顔をして呆然としていました。

 あー、認識阻害とこの呼び方をするのは私だけだという認識で脳が混乱しちゃってる感じです?

 顔をのぞかせた私にもまだ気がついてないみたいです。


 「やっほ、10年ぶりですね?」

 やっと気がついたのか、こちらを見ましたが……。

 なんか、こう、すごい顔ですね?

 主に、眼がこう、見開かれたり泳いだりで思わず笑いそうになってしまいます。

 「ザマさん?大丈夫です?PS2の開閉ボタンが壊れてブシ○ーブレード専用機になったときと同じ表情してますよ?」

 さらに私とザマさんしか知らない出来事で追撃します。

 

 するとザマさん、おもむろにスマホを取り出して私の顔を撮影。いや、そんな近くで撮らなくてもズームすれば良くないです?混乱っぷりでやや行動がおかしいのがなんとも言えず楽しいです。

 「髪、黒くして、濃いクマつけて……。ちょっと、猫背になってくれる?」

 言われるがまま、なんか今の姿だとちゃんと背筋を伸ばして立っていましたが、死ぬ前の私っぽく猫背で曖昧な笑みを浮かべてみます。


 「………………はっ!?スネ希じゃん!!!!!!!」

 おお!すごい!認識阻害魔法貫通成功です!

 いや、でもいきなり人のあだ名を大声で叫ばないでもらえますかね?

 「おー、流石ザマさん。ちゃんと気が付きましたね。ぱちぱちぱち」

 ちなみに、スネ希というのは中学の頃からのあだ名で「スネーク優希」の略です。

 運動会の時にひょっこり現れたアオダイショウを素手で捕獲した挙げ句、ペットにしてることがバレてなんかそんなあだ名になりました。


 「あんた、生きてたの!?」

 「いや、死んでますよ?理珠さんから報告行ってますよね?」

 はい、無事だったわけでも、運良く逃げ出したわけでもなく、死体になった後にイツァナグイの気まぐれでゾンビ化しただけですからね。生き別れという言葉が使えない状態でございます!

 「あ、死んで……そうだった、死んでるんだ。てか、感動の再会って場面なのに会話の腰折るのやめなさいよ!なんかこう、抱きついて嬉し泣きーとかそういう空気じゃなくなったじゃない!」

 「いや、感動の再会って言われても私の主観時間だと3ヶ月程度しか経ってなくてですね?」

 「うるさい!スネ希はちょっと黙って!」

 理不尽!?

 

 「こっちはねぇ!あんたが魔物に連れ去られて死んだと思って、同じ様な被害者を出さないためにって必死こいて法律通して、制度作って、組織作ってここまで突っ走ってきたの!」

 ぉぉぅ、本当に私が原因でこんなとこまで出世してきたとか、流石私の親友すごいですね、鼻が高いです。なお、本人は何も知らずにゾンビ化して帰ってきてから好き勝手やってました。良心は痛いです。

 「しかもこないだ、失踪の原因ががルーシャの工作員の仕業だったって判明して色々無茶して外務省に圧力かけて動かしたとこなのよ!?急に本人が帰ってきて、しかも何の心の準備もなく再会とか、私の感情がジェットコースターに乗っちゃってるんだけど!?どうしてくれるのよ!?」

 

 いや、だってそんな状態になってるとか思わないじゃないですか。

 と、私が戸惑っていると今度はザマさん、声を上げて泣き出しちゃいました……。

 「うぁぁぁぁぁ……いぎでだぁ……」

 「いや、なんか、ほんとごめんなさい」

 「ぅぅぅぅぅ……だって、魔物にやられて死んだって、あんた身寄りがないから葬式だって上げられなくて、だから私ぐらいは白井優希って人間を覚えててやらなきゃって……」

 

 そうですよね。確かに、私も逆の立場だったらとても悲しんだでしょうし、毎年お墓参りも欠かさず行っていたはずです。

 駄目ですね、これは10年の歳月を私が軽く考えすぎていました。

 主観だと数ヶ月しか経過してないからって相手も同じ気分のはず無いじゃないですか。


 「ありがとうございます。ザマさんも頑張ってくれたんですね。10年もずっとがんばってたんですよね、流石です、流石私の親友です」

 いつまでも泣き止まない親友の頭をぎゅっと抱きしめます。

 いや、身長が足りなくて机の上に乗って膝を立てながらというのがどうしても絵面的にしまりませんが。

 

 ところで、魔生対は朝礼とか無いんでしょうか?

 これ、涙で濡れた上に私に抱きしめられてるせいでお化粧ぼろぼろになってると思うんですが、大丈夫です?

 

 その後、時間になっても朝のミーティングに現れないザマさんを心配して様子を見に来た月ヶ瀬さんは「あっ… (察し)」みたいな感じでフェードアウトしていきました。

 あらぬ誤解が発生してたりしません?私の評判とか心配になってきました。





☆★☆★☆★☆


かんどうの さいかい

なお、主人公視点だとほんとただの数カ月ぶりなので、いつものように巫山戯た結果、えらいことになりました。


蛇、ペットとしては餌代安い手間かからない懐かない動かない夏でも冷たい と面白いですので興味があったら調べてみると良いと思います!

なお、餌は冷凍ネズミなのでこれが大丈夫じゃないと多分ダメです!


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