第46話 その心臓は私の所有物なので……

 「ということで、優希さんも魔生対の待機室や各種施設など利用して良いという事になりましたので……」

 あの百合百合動画大拡散事件から10日後かな?の今日、理珠さんと夕食を楽しんだ後の談笑中にそんな報告をされました。

 ふむ、外国から2人の魔力保有者を迎え入れるから現場で揉めないように先にコンタクトを取れるように的な配慮ですかね?


 「となると、責任者の方に挨拶とか行ったほうが?」

 流石に、未登録の身で公共機関の内部まで入らせてもらうのですから責任者に菓子折りの一つでも持っていくべきでしょう。

 「あの、それが、手続き上の不備で優希さんの登録が止まってるのを『本人が知らずに登録済みと思って利用している』という建前で居てほしいという、なんとも言えない要望でございまして……」

 それでいいのか内閣府直属の国防機関!いや、私が入り込むことによって追加の予算等が発生しないなら処理上は問題ないんですかね?だいぶガバガバな気がしますが……。


 「ん?と言うことは責任者とは顔を合わせずに何食わぬ顔で居ないと駄目なんですか?」

 「あの、わたくしの心臓の事を説明する際に優希さんの身体の事を隠しておくのはとても難しくて、全てをお話した結果、この扱いが一番無難なのではないかという事になってしまって……」

 なるほど、ぞんびぼでーの事を知ってしまったからには登録して身体の各種データを取られるわけには行かないというのを察して頂けたと。えーと、私が研究施設に拉致されて実験体にされてたのもなんか知ってるみたいな話でしたよね。

 私を保護したいけど、大っぴらに保護できなくなったし、かといって完全野放しにも出来ない。苦肉の策で、書類は提出してあるけど何かのミスで申請が止まってる扱いで行こうみたいな感じですね。申請が通ってないのを責任者が知らないはずがないので、顔を合わせてはいけないと。

 実際有りそうなギリギリのラインを攻めてますねぇ、責任者の胃が痛いやつです。


 ……いや、というか顔合わせ云々はただの建前なので別に顔合わせても良くないです?

 うーん、多分情報過多でテンパってて頭回ってない状態で判断したとかでしょうか。確かに急に神造ゾンビとか上位存在とか言われたら普通にキャパオーバーは有り得る話ですね。

 とりあえず一人でいるときを狙って執務室にお邪魔して顔は通しておきましょう。


 んで、明日から一緒に出勤……するとなると、私が一緒にいることで理珠さんが魔法少女だってことがバレかねないんですよねぇ……。

 運転手付きの車通勤とは言え、いつも私が一緒に乗っていたら魔法少女百合百合ネットワークに引っかかってどこかから魔法少女ウィステリア・ヴェールの正体がバレかねないです。ネットの集合知は恐ろしいですからね。

 いや、まてよ?

 「んーと、私がうまい具合に変装すれば一緒に出勤できますかね?」

 単純に、私が私だとバレなければいい話なのでは?


 「変装!良いですね、わたくしとおそろいの着物などを身につければ普段とイメージががらりと変わりますし、良いのではないでしょうか?」

 おー、理珠さんとおそろいの着物とかかなり惹かれますね。

 どんな着物を来ていく感じしましょうか。

 と、ちょっと楽しみになってきた所で理珠さんと私のスマホが同時に鳴りました。

 魔生対本部からの電話ですね。何かあったのでしょうか?

 「はい、こちらセヴンスです」

 

 「お、出やがりましたわね、真割ですわ。久々に魔物が2箇所同時出現しやがりまして、申し訳ねーのですが熊本の魔物の対処の援軍に行ってもらえねーでしょうか?現地の子が対応に手をやいてやがりますの」

 目を閉じて魔力を感じてみれば、確かに北海道かな?と九州の方で魔物の魔力を感じます。北海道の方はこれ、吸血鬼さんが向かいましたね?圧倒的な魔力量でよっぽどじゃない限り楽勝だってのがわかります。

 九州、熊本の方は……多分これ前に一緒になった鬼火の魔法少女さんっぽいですね。

 「熊本の方はウィスプオブレッドさんが戦闘中ですね?良いですよ。食後の運動にちょうどいいですし、ちょっと行ってきますね」

 「恩に着ますわ。今度あった時に雲丹コーンのブルーレイ、まとめてぶん投げて差し上げますわ」

 

 電話を切って顔をあげると、理珠さんの方も私に対しての協力要請の電話だったっぽい感じですね。どうせ一緒にいるだろうからどちらか出てくれれば的な対応でしょうか?

 しょうがないですねという苦笑いを浮かべて私を見つめていました。

 うーん、なんか一人で出ていくのもちょっと寂しい気がするんですよね。

 理珠さんも一緒に行けたらいいのですが……。

 ん?一緒に?


 「ちょっと理珠さん、実験したいことがあるので変身してもらっていいですか?」

 何が?と疑問符を浮かべてキョトンとするのも可愛いですねちくせう。でもちょっとのんびりはしてられないので急いでもらいましょう。

 「私の潜影操手カルンウェナンで、一緒に影に潜ってみたくないですか?本来は私の所有物しか持ち込めないのですが、理珠さんの心臓は私のものなので一緒に行けるのではないかと思いまして」

 「一緒に行きたいです!」

 言うが早いか、立ち上がって魔力を展開する理珠さん。

 言葉遣いがめちゃめちゃ丁寧なので大人びて見えますが、こういうときは年相応の反応なんですよね。

 

 「法衣纏身、咲かせよ藤花」

 服が光に溶け、無数の反物が周囲を舞い、揺り落ちる花びらが白い振り袖を形作っていきます。

 ……うーん、なんかどっかで近いのを見た気が。トムライサルーパーってこんな感じの変身じゃなかったですっけ?

 いや、理珠さんの日本人離れした白い肌も相まってめっちゃめちゃ綺麗なんですけどね?あ、R18ポイントはなんかどの角度からもちょうど花びらと反物で見えなくなってます、多分。

 で、真っ白い振り袖に降り積もった花びらがそのまま藤の木の模様となる……と。

 なんか、脳内でポポポポンと鼓の音が聞こえた気がしました。

 これ、他の子の演出も見てみたくなりますね。いや、100号ちゃんはなんかすごく予想が出来るので見なくてもわかるんですが。どうせ畳を通り抜けたりメダルを並べてスキャンしたりするんでしょう?


 「優希さん、準備が整いました」

 はしゃいでるのがまるわかりの態度でキリっとした表情をされても可愛いだけですよ?

 「じゃあ、潜影操手カルンウェナンを展開する前に、念のためちょっと多めに魔力供給をしましょうか」

 のんびり説明してる時間はないので、不意打ち気味にズキュゥゥゥン!します。

 一瞬だけ驚いたものの、後はなすがままの理珠さんにちょっとアレな感情がわきますが、今は我慢です。ちなみにいつもより多めに注いでる分、我慢出来るギリギリだったりします。


 いや、私の潜影操手カルンウェナンなんですが、影の世界に持っていけるのが私の所有物かつ「私の魔力で満たされているもの」「魔力を発さない手で持てるサイズのもの」という定義なはずなのですが。

 魔力供給って、理珠さんの中にある私の心臓を動かすために毎日やってるじゃないですか。で、特に寝起きの時なんかは一切魔力を消耗してない状態の理珠さんに私の魔力を流し込むわけですよ。

 そうなると、注いだ分溢れた魔力が今度は逆に私の中に流れ込んでくるわけで、私の魔力と理珠さんの魔力が混ざり合っている状態の私が誕生するわけですね?

 これは「私の魔力で満たされているもの」の定義から外れてしまうはずなのですが、試してみたら普通に潜影操手カルンウェナンで移動できちゃったんですよ。

 じゃあ、逆に考えて私の魔力が注がれた理珠さんも潜影操手カルンウェナンで影の中に一緒に入れてしまうんじゃないかと……。

 なにより、理珠さんの身体の中で鼓動を刻んでいる心臓は私の所有物なのですし。

 まあ、入れなくても私一人で影の中に落ちるだけなので理珠さんに危険はないですし、せっかくなので実験しようと思いまして。


 「じゃあ、行きますねー」

 いつもより多めの魔力のやり取りでちょっと放心気味の理珠さんを、影の中で離れてしまわないように抱きしめます。

 普段はゾンビ対応の影移動なので空気とか無視して魔力でなんとかしてましたが、今日は大事な人が一緒なので周囲の空気と一緒に泡のような状態で潜りましょう。

 前に影の中で火を付けられるか試した時に実験したのでやれるはずです。

 いや、影の中で花火やったら綺麗かなと思って……。結果、明かりが出来て影じゃなくなったせいでそのまま地上にはじき出されるという悲しい結果になりましたが。


 「す、少しだけ怖いので、もう少し強く抱きついてもよろしいでしょうか?」

 だいぶ強めに抱きつかれて少々苦しいですが、気にせずサクっとウィスプオブレッドさんの救援に向かいましょう。しかし、理珠さんがもう少しこう、ボリュームがあったら呼吸が出来ないところでしたね!


 「いきますよー!神性具現ディヴィニタス・インカネーション潜影操手カルンウェナン

 水の中に落ちるような感覚とともに、理珠さんと抱き合ったまま影の世界へ潜り込みました。

 おお、成功ですね!じゃあ、いざ熊本へ向けて潜航開始です!

 

 


☆★☆★☆★☆


白黒2人で移動が出来るように成りました回

なお、この2人で出て苦戦する魔物とかどんなのだ?と日々頭を悩ませております。

パワーバランスって難しいですよね。



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