第45話 魔生対室長 羽佐間彩月の胃痛

 「……となります。なので、セヴンス様がご自身の抱える身体的問題によって死亡、ないしは魔物化することは無いと考えてよろしいかと存じます」

 わたくしの説明を受けて、彩月さんは頭を抱えて机に倒れ込みました。

 「ちょっとまって、情報量が多すぎて受け止めきれないから整理させて?」

 げんなりした表情で呻くようにおっしゃいますが、わたくしも通った道ですし大人ですのできちんと受け止めていただきましょう。


 「えーと、まず上位存在に作られた動く死体ってのは本当に?」

 「上位存在と申しますか、人類より遥かに強力な力を持つ精神生命体だそうです。シアシャル・グラゼ……という発音が人類に可能な最も本来の名前に近い発音だとか。セヴンス様を蘇らせたのは、人類とのコミュニケーションのために作られた蛇のような生物で、イツァナグイと名乗っておられるようです」

 もはや魂の抜けた表情でほへー、と返事を返されますが理解は追いついておられるのでしょうか?

 「何のために蘇らせたっちゃろか……」

 彩月さん、あまりの事に方言が出ておられます。

 「何かの実験ついでに、と笑いながら言われたとセヴンス様からお聞きしました。どうにも、端末となっているヘビ型の存在、イツァナグイは感情豊かで世話焼きで苦労人だと仰ってましたから、自らの実験に使われた存在を哀れに思って手を加えて蘇らせたのではないかと……」


 「そんげなこつぐらいで人ひとりいっかえらせっとか、そんイツァナグイとかいうやつてげおじいっちゃけど……」

 ちょっと方言出し過ぎではないでしょうか?あの、何を仰ってるかわからないのですが……。

 「んっんん。ごめんなさいね、ちょっと動揺でお国言葉が……。大した内容じゃないから気にしないで。で、魔物の魔力を吸収して溜め込めるような体質で造られたから、セヴンスさんが参加した戦闘では魔力妨害による電波障害の解消が早かったと」

 「はい、魔力はわたくしも初めて知ったのですが、魔法少女が衣装や装備を収納しているという異空間があり、そこに貯蔵してあるので見た目の上では通常の魔法少女と大きく変わらない魔力量にみえているそうです」

 

 「で、それが一定以上溜まると蘇生魔法が起動できるようになって生き返ることが出来ると。この前貴女の心臓を再生させたのはその魔法の応用……ということでいいのね?」

 正確にはわたくしの胸で鼓動を刻んでいるのは優希さんの心臓なのですが、そこまで説明する必要はないでしょう。

 いえ、その、全てを説明するとわたくしと優希さんの就寝前と起床時の日課まで説明する必要が発生しそうでその……恥ずかしいではないですか。

 

 「はい、ですので魔生対登録時の各種身体検査によってご自身の状態がバレて、実験動物扱いになることを心配されて、魔法少女としての登録を避けておられたようなのです」

 「あー……、そりゃあの体温と脈拍だと精密検査に回されて、詳しい状態が判明するまで入院で……。最悪の場合魔生対には重篤な病が判明したので緊急入院させますって通告だけ来て実験動物扱いも有り得る話か。死んでも生きたいご老人方がこんな珍しいサンプルに対して我慢できるとは思えないしなぁ……」

 

 優希さんが懸念されておられたのはまさにそこですね。

 拉致されて実験施設に入れられて死亡し、幸運にも生き返ったと思ったら再度実験施設で監禁されるなど誰だって許容しがたいでしょう。

 「うあー、これどうしよう。身体データは流石に関わる人間が多すぎて隠しきれないし、かといってやせいのまじょがとびだしてきた、をずっと続けるわけにも行かないし……」

 彩月さんは悩んでらっしゃいますが、多分優希さんは現状のままでもお気になされないかと思うのですよね。毎日楽しそうに魔物の対処を手伝ってらっしゃいますし。

 ……いえ、彩月さんが気にしてらっしゃるのはそこではなく、働きに対して正当な対価を支払うことが出来ない事に対しての悩みなのでしょうけど。


 わたくしとしましては、現状のままの生活が続いても何の問題もないのです。最近になってやっと、少しづつ欲しい物を仰ってくれるようになりましたが、優希さんが使われる個人的な用途のお買い物も微々たるものですし、食事も少食で負担にはなりません。

 魔生対に登録されて、個人のお部屋を与えられて今の生活が崩れるほうがその……、寂しいですし……。


 「うー、胃が痛くなってきたから考えないようにしましょう!セヴンスさんが生き返ってから正式登録!それでいいじゃない!上位存在その他の情報なんて知らない!知っててもなんにも出来ないし関係ない!おk!」

 彩月さんの中でも現状維持で落ち着いたようです。

 実際、イツァナグイやシアシャル・グラゼに対してわたくし達が出来ることは何も無いのですよね。

 優希さんの話ですと、魔物の存在自体が上位存在達にとってもイレギュラーで対処に困っているそうですし。


 「まあ、でも派遣されてくる2人にどう説明するかって問題が在るのよねぇ……」

 「派遣されてくる2人?」

 「そ、この前の魔法少女型の魔物で「魔法少女」って呼称に対する絶対有利な特性の魔物が出てきたじゃない?それを受けて、各国で魔力保有者を交換しあって今後同系統の魔物が出た時にも対処できるようにしようって話があったの」


 確かに、優希さんが倒したあの知性を持った魔物は魔法少女という存在に対して徹底的な対策をしておりました。魔法少女の魔法を根本から打ち消す魔法、魔法少女を殺す魔法、優希さんが居なければわたくしを含め何人が犠牲になっていたことか。

 動画で、わたくしが倒れた後の戦いを見て優希さんが居てくれたことに心から感謝いたしました。それに、怒りの沸点を通り越して逆に冷静に、冷酷になっておられた優希さんがその、かっこよくて……。

 

 「で、アメリカから一人、ルーシャ連邦から一人派遣されることになったの。こちらからは100号戦士さんがアメリカに派遣という形ね。ルーシャはほら、セヴンスさん絡みで調べてた時に色々判明したでしょ?アレの絡みで、交換ではなくてあちらからの一方的な派遣って形になったみたい」

 なるほど、そのお二人に対して優希さんの身体の事を隠して今の立ち位置を説明するのは……かなり難しいのでは?

 「どうあっても戦いに出ればセヴンス様と出会うのは避けられませんし、説明せずにいてセヴンス様を捕縛するなどの行動を起こされても問題ですし、確かに困りましたね」


 「うーん、いっそ半公式みたいな扱いにして、身元が確認取れずに未登録状態になっているけど魔生対としては正式に戦力として数えているみたいな扱いだったって事にして口裏合わせてもらうとか……」

 「あの、口裏も何もほぼ現状そのままなのでは……」

 そもそも、連続発生の時に魔生対からの要請で優希さんお一人で向かわせた戦闘がある時点でただの外部協力者扱いでは済まなくなっていると思います。

 「いや、まあ、そういわれるとそうなんだけど……。あ、そうだ。ついでにセヴンスさん、魔生対の施設使えるように通達出しちゃおう。いちいちメッセージアプリでやり取りするのも面倒でしょ?ほぼ全員顔合わせも済んでるわけだし、待機室とか好きに使ってもらって良いことにしましょう。待機室で顔合わせて本人と話しておけば現場でのいざこざは起きないでしょ!」

 

 あ、それは有り難いです。それなら一緒に帰宅することも出来ますし、帰り道で寄り道や買い物もご一緒することが出来ます。

 「あ、でも部外者が仮にも国家防衛に関連する施設に出入りするのってどうなの?うーん、出入りしてるのを私が知らないってことにすればイケる?実際、私ほとんど待機室には行かないわけだし……。うう、あれもこれも解決しなくて胃が痛い……」

 彩月さんがストレスで苦しんでらっしゃいますが、優希さんとわたくしの幸せのためです、頑張っていただかなくては!


 あとで、よく効く胃薬でも差し入れておくべきでしょうか?




 

☆★☆★☆★☆


隙あらば惚気ようとする理珠さん

キャラが勝手に動く枠に入ったので暴走が止められなくて笑ってます。

あと、急に宮崎弁が出てくる彩月さん

悪役国家の名前は変えておけ理論に従い、北の大国のお名前はちょっと変わってます。



 

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