第二期 中二病の魔法少女ゾンビ でゅお
第44話 研究所跡にて
北方のとある研究所廃墟にて、電気の供給が絶たれ放棄されたその場所で蠢くいくつかの影があった。
「ここが報告にあった?」
スーツの男の問に、薄汚れた白衣の男が答える。
「え、ええ、データの回収と施設の隠滅のために訪れた際に、その、発見しまして……」
「とにかく今は現場を見たい。案内してもらえるか?」
「ああ、はい、あの、こちらです」
通されたのは、棺のような細長い装置の並ぶ区画。
電源が落ちて機能が停止し、本物の棺と成り果てた装置の列にただ一つ、蓋が開きもぬけの殻となった不可解な状態のものが鎮座しており研究員と思しき白衣の男たちが群がっている。
「ひ、被検体の名前はユーキ・シライ。廃棄時の年齢は27で、データでは特に魔力の発現が見受けられなかったため治療を放棄し、仮死状態で冷凍と……」
「施された施術のデータは?」
「申し訳有りません。昨日爆撃の被害にあった区画にあり、現在捜索中です」
「魔力の確認は誰が?」
「最初期の施設ですからね、博士自らが訪れて娘に確認させています」
厳重に施錠され、誰にも発見されないよう厳重に隠蔽された施設から消失した死体。
露見すれば重大な国際問題に発展するのは間違いない非道な実験施設での事とあり、研究組織の幹部はそれがどういった現象であるのかの調査に躍起になっていた。
なにせ、魔力、魔法と科学では未だほとんど解明できてないものを研究していた施設だ。何が起きて、どうなっているのか、確認と検証をせざるを得ない。
「死体になったはずのバーバ・ヤガーの成り損ないがどこに消えた……?」
電源停止前は全装置正常に稼働していたというデータは残っている。ならば、棺を開いて中身が逃げ出したのは装置が停止し、仮死状態を維持していた氷が溶けて死亡した後となる。
何者がか死体を回収しに来た?
いや、おそらくそれはないだろう。施錠した扉はそのままだったと報告があるし、死体を1体持ち去って何をしようというのか。そもそも、今は戦争中だ。ただ死体が欲しいだけなら調達先などいくらでもある。
では一体何が……?
「データが回収できました!こちらを!」
瓦礫の中で必死にデータを纏めていたのであろう、土と埃で酷く汚れた白衣の男から端末をもぎ取り確認する。
実験内容は、バーバ・ヤガーからの根源移植・覚醒実験。10年前の研究なので多少解明が進んだ今の視点から見ると無駄としか思えない項目が多数並んでいる。
そもそも、二十代後半の女に根源を移植しても覚醒などするはずがない。
多数の臓器や眼、血液、様々な臓器がバーバ・ヤガーの娘と交換されて魔力がどう変化するかを観察されたとなっているが当然魔力には何の変化もなく、身体はショック状態に陥り治療を放棄されて冷凍されている。
強いて言うなら、臓器やらなんやらを植え付けた程度でバーバ・ヤガーを増やすことは出来ないという結果は得られただろうか。
苦労させた割には意味のない資料だったと、データを閉じる直前に臓器を提供したバーバ・ヤガー側の資料が目に入った。
『魔力根源:救世主』
男の背筋に寒気が走った。
何か、とてつもなく重要な情報を見てしまったような……。
「誰か、この消えた死体の実験に使われたバーバ・ヤガーの事を知っているものは居るか?」
反応があったのはシワの多い年配の男だった。
「ああ、随分と『元気』な個体だったんで覚えておりますよ。覚醒したはずなのに魔法が一切使えず、そのくせ自分は救世主の根源に覚醒めたと喚き散らしておりましてな。根源なぞ、他人からは確認できないもんですし、主張するだけならタダですからな。おおかた珍しい根源を持ってるぞと主張すれば死なずに済むとでも思っとったんでしょうなぁ」
周囲の研究者たちも話を聞いて酷薄な笑みを浮かべているが、男にはそれが理解できなかった。
救世主の根源である。
バーバ・ヤガー本人の主張が真実であったなら?
もし、根源の移植が成功していたとしたら?
それが、特定の条件下でのみ効果を発揮し始める魔法を持つ根源だとしたら?
「なあ、世界で一番有名な救世主は、死んだ後どうなった?」
男の言わんとする事を察した数名の研究者が顔を青くする。
コツコツと、抜け殻の棺を叩きながら言葉が重ねられる。
「こいつに、この検体に、根源の移植が成功していたとしたら、電気が止まって死んだ後どうなったっと思う?」
──あの方は、ここにはおられない。かねて言われていたとおり、復活なさったのだ──
「くそったれな原罪教の聖典のとおりだよ!生き返りやがったんだよ!博士の求めていた蘇生魔法を持つ根源だ!探せ!なんとしても捕らえろ!」
組織のトップである「博士」が数年前から探し求めている魔法の使い手が現れた。それだけならいい。吉報だ。だが、知らずにそれを逃してしまったのだ。
この失態が判明して博士に伝わったら八つ当たりで何人死ぬか……。
「あの、逃げ出したバーバ・ヤガーもどきに心当たりが……」
声を上げたのは、まだ年若い日本のサブカルにどっぷりハマっていると言っていた研究者だった。
「これをみてください」
無遠慮に突き出されたスマートフォンから再生された動画では黒い衣装のバーバ・ヤガーがキモノ姿のバーバ・ヤガーと唇を重ねているシーンだった。
「サカってるレズビアンを見せて、何がしたい?」
「いえ、このキモノの女。心臓を魔物に抜き取られた直後なんです。なんだったらソッチの映像もあります。それを、このゴスロリの女が治してしまった場面なんです」
町並みの様子から日本であることはわかる。
消えた検体も日本人だったはずだ。
「こいつが、逃げ出した検体だって考えた理由は?」
「このセヴンスってバーバ・ヤガー、日本のマセイタイに登録してないようなんです。あの国、バーバ・ヤガーの連中を手厚く保護してるはずなのに避けてるんですよ、それを。怪しいと思いませんか?」
たしかに怪しいが、怪しいだけで他国で目立つ人間を掻っ攫うわけにもいかない。
どうするべきか。
そうだ、単一名称の魔力保有者だと特定概念を否定する魔物に対しての防備が弱くなるのを防ぐため、各国でバーバ・ヤガー共を交換するって話があったはずだ。
それに関して政府から、拉致の発覚で借りを作る羽目になるのは避けたいし、バーバ・ヤガーの派遣で多少負い目を軽減しておきたいから1体引き渡せとも言われている。交換ではなく一方的な派遣になるらしい。
なら話は早い。こちらの手駒を送り込んで動いてもらえば良い。
「いい手が見つかった、すぐに本部に戻る。傀儡と血のバーバ・ヤガーを呼んでおけ」
救世主の根源持ち、お前に恨みはないが博士のためにその身体を使わせて貰おう。
☆★☆★☆★☆
ということで、第二章開始です。
最初に登場したのは今回の
はてさてどうなることやら
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