第43話 なまえをよんで
「もう死んでいるというのは、どういう……ことでしょうか?」
理珠さんが愕然とした表情で問いかけます。その瞳には溢れんばかりに涙が溜まっていて……
あ、しまった、早く説明しないとどうでもいいことで泣かせてしまいます!
「えっと、地球で魔法が使える原因になった上位存在絡みの人が実験として死体を蘇らせた的な?で、生き返るために魔物を倒して魔力を集めてるんですよ!」
「生き返るために……っ!?生き返ると、セヴンス様は普通の身体に戻れるのですか!?」
理珠さんのおめめにハイライトさんが帰還しました。
「そうです、生き返ったら何の問題もない健康体になるはずです!虫歯だって治っちゃいます!
で、私が生き返る時に理珠さんの身体も一緒に治っちゃうはずです。
だから、理珠さんは私が死んだら自分も死んじゃうとか、そういう心配はしなくて大丈夫ですからね?
ほら、ゾンビと言ってもなんかこう、人間以外のやばいヤツに作られた魔力が有れば生きられるように改造された死体とかそんな感じの
「良かった……、セヴンス様は死期を悟って無茶をしているわけではなかったのですね……、良かった、本当に……」
私の身体の状態報告に対して、帰ってきたのは心底安心した表情で涙をこぼす理珠さんの震える声でした。
え?いやまって?泣かないで?不安要素は取り除きましたからね?泣く要素は無いですよー?あーもう!
思いっきり庇護欲を刺激され、思わず理珠さんの頭を抱きしめて撫で回しました。
それでもしゃくりあげる声は止まらず、これまでの不安を吐き出すように言葉が溢れます。
「わたくし、セヴンス様のお身体の事を聞いてから、ずっと、ずっと心配で、不安で……。わたくしの命を救って、わたくし達を助けていただいて、でも、何もお返しできてなくて……」
いや、衣食住全て賄って頂いてますし、お返しは十分にもらってると思うんですよね。
「治癒魔法での実験結果を聞いて、でもセヴンス様と出会ってもう1ヶ月以上経っていて、貴女が何時居なくなってもおかしくないと、毎朝、貴女は目を覚まさないのではないかって不安で、どうしようもなくて……」
あー、あの懇親会以来、理珠さんが情緒不安定気味だったのはそういう事だったんですかぁ。うーん、コレはかなり心労をおかけしたみたいで申し訳ないですね。
いやでも、ゾンビ状態が中途半端にバレてるとか思わないじゃないですか……。
「大丈夫ですよー。私は死にませんし……いや、死んでますけどそのうち生き返る予定ですし、その時に理珠さんの心臓も一緒に治っちゃいますし、何も不安は無いですよー」
「はい……はいっ。でも、安心したら、涙、止まらなくて……」
「それだけ私が心配させてたってことですからねー、大丈夫ですよ。ほら、スッキリするまで泣いちゃいましょう。いっつも理珠さんには良いように扱われてますからね。弱ってる時に優しくして、こうやって私も弱みを握っておかないと」
いやほんと、なんか理珠さんに強く出られると断れないと言いますか、されるがままと言いますか、相性みたいなものなんですかね?
「なんですか、それ。セヴンス様が扱いやすすぎるのがいけないんですよ?」
胸の中で、理珠さんがくすりと笑いました。よし、この調子ですね。
正直これ、私が男だったら間違いなく二人は幸せなキスをしてベッド・インですよ。
いや、ベッド・インどころか現状が既に寝起きで布団の上なんですが。
しかし、普段しっかりしてる理珠さんの弱った姿がこう、刺激が強くてですね?
「……えっと、魔力供給、します?」
ゆうべは おたのしみ でしたね。
いや、ゆうべどころか一時間程度しか経過してないです。大丈夫です。まだ理性はあります。セーフです。セーフでした。
で、お互い冷静になった所で布団を畳んで、現状確認です。
「では、セヴンス様を現在の身体にしたのは非人道的な研究を行っていた組織などではなく、その、魔力を齎した生命体によるものだと言うことなのですね?」
「あー、えっと、死んだのは私を拉致した研究機関のせいなんですが、生き返らせようとしてくれたのがさっき言ったイツァナグイってヤツなんですよ」
座卓の同じ側に、隣同士で座りながらノートを広げあれやこれやと説明します。
「なるほど、理解致しました。セヴンス様のお身体の事情も、魔物に対抗する
ちょっと、理珠さんを泣かせてしまったという事実が思いの外大ダメージで、コレ以上の誤解と不安を防ぐために私が知ってる大体の情報と現状を吐き出してしまいました。いや、しょうがないじゃないですか。あんな顔もうさせたくないんですから。
「ああでも、その方が居なければセヴンス様と出会えなかったわけですし、わたくしとしては感謝をするべきなのでしょうか?」
……いや、理珠さん。魔物に心臓ぶちぬかれておいてその上で感謝します?本当に?
しかし、なんかここまで親密になってしまうと気になってしまいますね。
「あの、理珠さん。そろそろその『セヴンス様』ってのやめません?」
ちょっとこう、他人行儀な感じがして距離を感じちゃうんですよね。
今までは色んな情報を探られると身の危険があったのでそっちの名前で通してましたが、理珠さんならもう心臓の魔力的な関係で一蓮托生ですし話してしまっても問題ないはずです。
「では、どうお呼びすればよろしいのでしょう?」
隣を見れば、きょとんとした表情の理珠さん。
あ、地味にコレ私に本名があるの忘れてた顔ですね?
「私だって日本人の名前があるんですよ?もしかして忘れてました?」
うん、表情の変化でその通りですって答えてますね。確かに出会ってから今までずっと銀髪のこの姿ですし、なんとなく日本人っぽい印象が薄れるのはわかります。
「では、あの、お名前、教えて頂けますか?」
「私は、
「しらいゆうき……、どこかで……」
お、行方不明者名簿か何かを調べた時に見かけた感じとかですかね?
まあいいです。理珠さんにだったらロリ化してること含めて聞かれたら全部話しましょう。
「理珠さーん?名前、呼んでくれませんか?」
「はい、優希様……?」
んー!まだ硬い。
「様付け無しにしません?私そんな偉くないですよ。それになんか距離を感じて寂しいですよ?」
「では、優希……さん?」
「はい♪」
あ、なんだかんだ一ヶ月以上名前を呼ばれてなかったんですよね。実際の期間では10年と1ヶ月ちょっとですか。なんか、嬉しくなってきてしまいますね。
「優希さん」
「はい」
「優希さん」
「はい」
いや、理珠さんもそんなに満面の笑みで何度も呼ばなくてもいいじゃないですか。
バカップルじゃないんですから。
「では優希さん。貴女が生き返るまで、わたくしの心臓が戻るまで……。ずっと、ずっと一緒にいてくださいね?」
「はいっ!」
さて、理珠さんの心臓と私の身体で実質2人になったゾンビ。
生き返れるのはいつになるやら……。
生き急いでもしょうがないですしのんびり行きましょうか。
まあ、死んでるんですけどね?
☆★☆★☆★☆
これにて第一章終了でございます。
ここまでお読み頂き、感謝致します。
ここから数話、ちょっとした閑話を挟んで第二章に続きますので。
どうか死人2人が生き返るまでまだまだお付き合い頂けたら幸いです。
また、子の作品が面白いと思って頂けましたなら☆やフォローで応援して頂けると大変励みになります。
どうかよろしくお願いいたします。
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