第41話 風に負けないハートのかたち

 邪魔者の排除が確定した時点で、あのクソ痴女が消失する様子すら確認せずに急いでメリクリさんとアインハンダーさんが延命治療を施している理珠さんに駆け寄ります。

 大丈夫、確実に殺しています。目を離した隙に何らかの方法で復活とかそういうルートはありません。死んだと識っているから最期を確認する必要がなかっただけです。 


 しかし、理珠さんを失ってしまう別の現実みらいで教えてもらったので彼女達がどうやって心臓を喪失した彼女の命を繋いで居るのか識っていますが、延命に携わってる2人は本当に今回の一連の襲撃でのMVPをあげたいぐらいに素晴らしい発想で魔法を使っていました。

 

 メリクリさん、札月さんが水銀を心臓の形状に成形し、アインハンダーの、九條さんでしたっけ?が義肢の魔法を応用して、水銀の心臓を人工心臓と定義して稼働させる事実上の合体魔法とか、地味にめちゃめちゃ高度な事やってます。

 ただ、相当な集中力を必要とするようでふたりとも汗で髪の毛が張り付いて酷い有様です。そして、それを気にした様子もなく理珠さんの命を一秒でも長くと必死に魔力を注いでくれているのです。


 私も急いで駆け寄り、理珠さんの様子を確認しました。

 「あ、あの、ウィステリアさんの心臓が魔物に抜き取られて……」

 「大丈夫です。この効果ちからで現状と、今後どうなるかを識ってます。安心してください、ウィステリアさんは死にませんよ、私が死なせません。

 ですが、助けるのに必要な、ちょっとした裏技を使うのにもう少しだけ時間がかかるんです。その間だけ、後少しだけ頑張ってくれますか?」

 私のお願いに、識っている通りに怯えたような表情で頷く札月さん。


 後で知ったのですが、この事象剪定の瞳バロールズ・オキュラス発動中の右目なんですが、底の見えない不気味に光る伽藍洞がらんどうに見える様で、もんのすごく人外っぽさがあって怖いらしいです。明らかに私の頭のサイズを超えた光る謎の穴が眼の場所にあったらそりゃビビりますよね。

 違和感で寒気がするそうです。実際、私も後で映像を見て穴の深さと頭のサイズの矛盾に対して謎の恐怖感を覚えましたからね。


 「はやくしてくれると助かるます。流石に本来の用途から外れた魔法の使い方過ぎて私の魔力消費がストレスでマッハなので……」

 九條さんが絞り出すような声でそう言って汗を拭いました。

 実際余裕は無いのでしょう。理珠さんの心臓の位置へ置かれたメカニカルな右腕が時々ブレるように生身の手へと戻っているのが見えます。

 

 じゃあ私もチャートの最終段階へ入りましょう。

 流石に私も欠損した臓器まるごと回復させるなんて魔法を今から作り出せたりはしません。というか、多分好き勝手に作れるのは本当に、本来の私の名前であるセヴンス・ジョーカー、7枚の切り札の通り7つまでなのだとなんとなく認識しています。

 じゃあ、どうするのかと言うと……。


 えーと、手順はどうなってますかね?

 まず、粘膜同士を接触させて理珠さんの身体に私の魔力をほとんど全部流し込みます?

 ……ちょっと待って?粘膜接触?え?どうして粘膜接触?

 あ、流し込む際に皮膚接触よりロスが少なくて効率が良いと、今回の治療プランチャートだと魔力に余裕が無いからそこは譲れないと。


 えーと、となると口から……?

 いや、でも勝手に理珠さんの(推定)ファーストキス奪うの不味くないです?

 人工呼吸と一緒でノーカンにしてもらいます?

 というか、粘膜同士の接触なら別にキスじゃなくても大丈夫ですよね?

 眼球舐めたり鼻に舌突っ込んだりはどうでしょう?

 

 急ぎながらも、なんとか接吻回避の方法を模索していると、ちょっと離れた横転した車の中から、へこんだ車体に挟まれて身動きできなくなったおっきなお友達がスマホのカメラで思いっきり撮影しているのが目に入りました。

 あー、いや、まあ、避難するにも動けない状況ですし、何処かに電話をかけたりして不安を紛らわすことも魔物の発する電波妨害魔力のせいで不可能ですし、せっかくの機会だし撮影するかーってなるのは、うん、わかりますよ?

 しかしですね?今からの私の行動も撮影されるわけですよ。

 心臓を抜き取られて倒れ伏した魔法少女に対して、鼻に舌突っ込んでねぶり回したり、眼球ペロペロしたりする映像が拡散されるのちょっとご勘弁いただきたくないです?これ、キスしてグッバイするほうが風評的にだいぶマシですね?


 こうなればもう、意を決して人工呼吸だと思って口に行きましょう、口に。

 え?魔力伝達効率的に接触面が大きい方が効果が高い?

 ディープキスしろと?意識の無い理珠さんの舌をねぶりまわせと?

 いや、くっつければいいだけでねぶる必要はないんですが。

 ああもう、いいです、しょうがないです、事故だと思って諦めてもらいましょう。

 映像の拡散でネット上に百合の花が咲き乱れそうですが、命に比べればきっと安いものだと思います。死ななきゃ安いの精神です!

 

 「(主に私の心の)準備が整いました。ふたりとも魔法を解除して頂けますか?」

 「は、はい、お願いします!」

 「ん、私ももう無理……、後はお願い。助けてあげて」

 二人が離れ、仰向けに寝かされていた理珠さんを抱き起こします。

 心臓の機能自体は維持されてたとは言え、疑似心臓が作られるまでに相当量の血液を失ったのでしょう、生気を感じない青白い顔に胸が締め付けられるような恐怖を覚えます。

 しかし、助かるのです、理珠さんは何の問題もなく助かるんです。

 唇を合わせ、舌を絡め、魔力を流し込んで理珠さんを私の色に染めます。

 これで、理珠さんの身体は私の一部と誤認される状態になりました。

 後は簡単です。


 ──身体正常化魔法を起動するかの?安全な場所で身体を横たえておるか確認してから再度起動すると術式が起動するぞえ!──


 はい、理珠さんの身体を私の身体と誤認させた状態で蘇生の魔法を起動するだけです。

 異空間に溜め込んでいた私の魔力が、私を素通りして理珠さんの身体に流し込まれます。


 ──身体構造チェック、エラーじゃ。損傷確認、修復後に身体正常化魔法を実行するので安静にしておるのじゃぞ──


 よし、魔眼で見た結果みらいの通り、きちんと理珠さんの身体を私の身体と誤認して回復機能が発動しました。

 失った心臓を再形成するためにものすごい勢いで私の身体を魔力が通り抜けて行きます。

 

 ……が、ここでちょっと困ったことが。

 あのですね、魔力が抜けていく感覚ってどうやら快感として感じるみたいなんですよ。

 いやほら、性的なヤツじゃなくて、ちょっとアレですが身体から何かを出すのって気持ちいいじゃないですか。

 で、現在私の溜め込みまくった魔力がものすごい勢いで私の身体を素通りして理珠さんに注がれているわけですよ。

 なんというかですね、全身が快感で緩むというか、例えて言うならお酒を飲んだ後に温泉に浸かりながらマッサージ椅子に座ってヘッドスパを受けているような快感ですかね。

 油断するとあらゆる体液が漏れていきそうなので必死に我慢します。

 あ、魔物に拉致された魔法少女ってコレを浴びながら肉体的にもネチョネチョされるわけですか、そりゃ壊れもしますよ……。

 

 「へぇ……」

 「これは、なるほど……」

 「うわぁ、うわぁ……」

 「薄い本が厚くなるのは確定的に明らか」

 いや、魔法少女の皆さんもまじまじと見てられてもちょっとその、困るんですが。


 とりあえず、身体正常化魔法の前座の修復魔法は正常に機能しているようで、対象者の私に状況が解るように状態のフィードバック機能があるのですが、理珠さんの心臓がきちんと形成され、失った血液分を魔力で作った疑似血液で増量されているのがわかります。完全修復まで後少しでしょうか?

 完全修復後にちょっと、今回のチャートで最もタイミングが重要になる部分がやってきますので、鼓動の確認のために着物の隙間から手を突っ込みます。

 「ひゃぁああ!」

 「ふーん、ほー、なるほど?」

 札月さん、なぜそこでテンション上がってるんですか!

 白さんは白さんでなんか冷たいオーラを感じますし!

 あ、今です!

 手のひらから伝わる心臓の鼓動を確認した瞬間、急いで唇を離し理珠さんへ注ぎ込む魔力をカットしました。


 ──修復完了したのじゃ。再度身体構造チェックするぞい。異常なし、再度身体正常化魔法を起動するぞえ!──

 

 これで、理珠さんは後遺症もなく完全に回復したはずです。

 少なくとも、私が確認した未来ではそうなっていました。

 後はまあ……。


 ──エラーじゃ!残存魔力量不足で身体正常化魔法の消費量に満たぬ故、術式を中断するぞえ!──


 私が生き返るのがちょっと先になってしまいましたが、理珠さんの命と比べれば大したことはないです。

 まあ、概ね大勝利ですね!





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サブタイトルは、まあ、高音域が出てない某魔砲少女シリーズの元ネタ関連のアレです。


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