第39話 魔女
影の中を移動する数分の間すらもどかしく、私は現場に到着しました。
戦闘に参加しているのが2人しか居ない様子に焦りを覚えますが、奇襲を掛けられるというアドバンテージを捨てて飛び出していくわけには行きません。
まずは状況の把握が第一です。
理珠さん……は、倒れていますが変身は解除されてません。
ちょっと、表現しようのない焦りと怒りが湧き上がりますが気合で押さえつけます。おさえ、つけます。
詳しい状態はわかりませんが、メリクリさんとアインハンダーさんが必死に魔法を使ってる様子で、きっと何らかの処置が行われてると思われます。
変身が解けてないということは魔力による生命維持がまだ有効と言う事なので最悪の事態にはなっていない……のだと思いたいです。
ただ、この距離に来るまで私が感じられないぐらいの魔力しか残っていない様なので制限時間が迫ってるかも知れません。
敵は……エロい格好したあの女ですね。
魔力量やっばいですね。これ何人食べたんでしょうね?
白さんと、如月さんでしたっけ?が頑張って魔法を放ってますが……。
魔法消去の魔法みたいなので攻撃が通ってないです。
魔法無効化系の能力って普通は主人公側の能力なのでは?
詳細はよくわかりませんが、魔法消去自体の射程距離は存在しそうな様子ですね。
まあ、何にしろ、人の姿をしてくれているなら人体としての致命傷を狙って攻撃するのが正攻法でしょう。
首を、刈りましょう。迅速に、最速で殺します。
都合よく、私が隠れているのは痴女の真後ろ20メートル程にあるひっくり返った車の影です。
ええ、全力で首に一撃を叩き込みましょう。
ああ、自分の身内を痛めつけられた怒りってこんなに熱いんですね。
我慢するのはここまでです。
死ねよクソ野郎。
背後から、影の中から、全速力で飛び出しその首筋に
しかし
「硬った!」
刃は確かに首に食い込みましたが、断ち切る前にその勢いを失いました。
人肌に見えて随分頑丈じゃないですか、お肌が乾燥して角質が鱗にでもなってるんですか?手入れが足りて無いんじゃないですかこの非モテ女。
ですが、破断することが出来なくとも私の得物は鎌です。
骨にあたる器官は断ち切れませんでしたが、少なくとも人間なら頸動脈損傷で致命傷となるぐらいのダメージは与えることが出来ました。
驚愕に眼を見開くクソ女の反撃が来る前に、速やかに距離を取ります。
「セヴンス!ウィステリアが!」
駆け寄ろうとする白さんを手で制し、私を狙って放たれた魔力の飛礫を
「詳しい状況は後で。とりあえずあの魔物を倒してしまえば良いのでしょう?」
どういう状況なのか詳しい説明を受けたいのが本音ですが、アレを倒さなければ治療もなにもあったものではないでしょう。
「貴様、何者だ」
少女の皮を被った魔物が口を開きました。まあ、随分可愛い声をだすじゃないですか。警戒して気が立ってる辺りが最高ですね。
「
答える必要性も感じませんし、問答する時間ももったいないです。
しかし、斬りつけたはずの傷口は塞がってしまいましたか。再生能力が無くてもこれだけの魔力が在るなら無理矢理治癒することも可能でしょうし、しょうがないです。
時間を置けば
仕方ありません。本当の切り札ですが、今が切り時でしょう。
眼帯をむしり取るように引き剥がし、右目に魔力を『喰わせます』。
私は7つ目の魔法を、解き放ちました。
「
銀の瞳に魔力が集まり、その在り方を変質させます。
変質した眼がどういった様子に見えているのかはわかりませんが、きっと禍々しく輝いてくれている事でしょう。
「もうよい、名のりもせぬ無作法者は死んでおけ」
警戒も露わに、どす黒い魔力をまとった魔物女の右腕が突き出されます。
よく見れば、その右手から滴る血から理珠さんの魔力を感じるじゃないですか。
心臓をぶち抜くなんて随分な事をやってくれやがりましたねぇ!
──
それだけで魔物数体分に匹敵する魔力を乗せて、避けることの出来ない即死の魔法が放たれます。
大丈夫です、回避や防御の必要すらありません、私には効果がありません。効果がない事を識っています。
私の魔法、相対する全ての死を視てきたケルト神話の魔神・バロールの魔眼が、相手の死以外の未来を否定し続けた魔眼が、私の希望する結果以外の未来を
「なるほど?魔法少女の魔法を殺す魔法に、魔法少女であれば防御も回避も不能な心臓を抉り出す魔法と?まあ、随分と特化した魔物ですね。残念ながら私には効果がないみたいですが?」
──指定因果への乱数策定・代入、
アカシックレコードにアクセスし、数多の未来の中から指定通りの条件を満たす未来を探し、それ以外の未来を否定し、世界の枝から切り落とします。
指定するのは、クソ女の魔物が死に、理珠さんが何の後遺症もなく傷が治り、私も生きている未来。
ペネトレイターさん、真割さんの
あいつは殺しますし、理珠さんの傷は治させますし、私が死ぬ未来も選択させません。
乱数の代入と共に、膨大に枝分かれした未来とその知識が流れ込んできて頭が張り裂けそうに痛みますが、痛いだけなら問題ありません。痛みに耐える程度で理珠さんと笑いあえる未来が手に入るなら実質タダみたいなもんじゃないですか。
「何故これで死なぬ!魔法少女であるなら
そうですよね、魔法少女に絶対勝てる能力を持って、魔法少女しか居ないはずの場所に来て好き勝手やろうとしたら、それが効果のない相手がいるんですから動揺もしますよね。
──
ああ、望んだ
あとは私が出力された行動の通りに動ければ問題ありません。
現実はゲームの乱数と違ってフレーム単位の精度で行動を要求されるわけでもありませんし、アイツは死んで私と理珠さんの無事は確約されたようなものです。
依然として燻るような怒りは感じますが、多少溜飲は下がりましたし、この返答を含めて
「私はセヴンス、『魔女』セヴンス。お前を殺した、魔法少女の成り損ないです」
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