第37話 ごらんの有様だよ
魔生対本部では、出撃の指示が貰えなかった魔法少女達がわたくしを含めて落ち着かない様子で待機しておりました。
月ヶ瀬さんが転移してから30分程経過したでしょうか。月ヶ瀬さんの支援に向かった3人の乗ったヘリも飛び立ってから暫く立っており、こちらに何かあっても戻ってくるまでにはかなりの時間がかかります。
つまり、何か仕掛けてくるには絶好のタイミングが今なのです。
セヴンス様ほど感知の範囲は広くありませんが、わたくし含め、皆が必死に周囲の魔力を探っているのが感じられます。
「来たね……」
如月さんが呟くと同時に、おぞましいほどの巨大な魔力を持つ何かが現れたのを感じました。
次いで、自動車の急ブレーキ音と重なる破砕音……。
窓から見える交差点にて、複数の車両が何かを避けるような形で事故を起こしておりました。恐らく、中心に今回の謀り事の主犯、知性を持った魔物が出現しているはずです。
「転移の魔法少女以外、札月さん含めて全員で出てください。現場に一般市民の要救助者も居るはずだから、札月さんの魔法で処置できるならそれでお願い。現場での治療が難しければなんとか敵を移動させてください。後はこちらでなんとかするから!」
彩月さんの指示に、わたくし達は即座に動きました。
来るタイミングは予想がついておりましたので、既に全員変身を済ませてあります。
ただ、この場合全員で走って向かうというのは最善とは言えないでしょう。
この強大な魔力。正攻法で正面から戦闘しては周囲にどんな被害が出るか予想がつきません。
ならばどうすれば周囲の被害が少なく、目標を最短で撃破できるのでしょうか。
「御簾に隠れて参りましょう。全員の射程に目標が入った後、各々が最も効果的であろう魔法を使用し奇襲をかける形が最も効果的だと考えますが、如何でしょうか?」
わたくしの隠しの藤御簾の中から全員で絶え間なく高威力の魔法を放ち続けるのがやはり最善でしょう。
「概ね賛成だけど、あの藤棚ってどれぐらいの速度で移動させられるの?あんまり遅いと事故で怪我した人が死ぬ可能性が出てこない?」
「いや、白君の懸念は最もだけど、ここは魔物の撃破を優先するべきだと思うね。そもそも、戦闘中に負傷者の救出に手を割く余裕が出来るかもわからないからね」
「大丈夫です。藤御簾を展開したままでも普通に歩く程度の速度での移動ならば問題ございません。決定でよろしいでしょうか?」
急ぐ必要がある今、これ以上の案は誰も思いつかなかったのか、わたくしの案で行く事になりました。
──見るも
祝詞が響き渡ると同時に、わたくしを中心に藤の花が咲き誇り結界を成します。
以後、この藤棚の中を見通すことが出来るのはわたくし達に悪意を持たぬ存在だけです。
足並みをそろえ、わたくし達5人の魔法少女は出撃いたしました。
事故現場に近づけば近づくほど、あまりの魔力濃度に鳥肌が立ち、本能的な恐怖からの震えが止まらなくなります。
どれほどの人間を餌食にすればこれほどの魔力量まで魔物が育つのでしょうか。考えるだけでも恐ろしくなります。
何処まで近づいたでしょうか?
その魔力の発生源を、知性を持った魔物の姿を、ついにわたくし達はこの眼に捉えました。
ソレは、人の姿をしておりました。
ソレは、長い髪をしておりました。
ソレは、その魔物は、幼い頃幾度もニュースや写真で見た……。
「最初の魔法少女」の姿をしておりました。
子供の頃、その戦う姿を見て憧れ、焦がれ、わたくし達は今魔法少女として在るのです。
討つべき魔物が、その憧れと同じ姿をしていることに対して動揺が走ります。
しかし……
「いや、どう考えても本人じゃないから気にしないで行きましょう?大方、最後に最初の魔法少女が負けた魔物がアレだったとか、魔力を搾り取る過程で姿も写し取ったとかそういうオチなんでしょ?
あんな見え見えな精神攻撃に動揺してどうするのよ。ってか、本人だったらあんな服着てる時点で逆にイタすぎて駄目でしょ」
こういう時に至極冷静な言葉で皆を落ち着かせてみせるのが七尾さんの素晴らしい所です。
言われてみれば、確かにあの服装は魔法少女として「無し」です。
申し訳程度にフリルをあしらって魔法少女の要素をかろうじて残した、ギリギリで局部が見えないだけのラバー素材のような衣装。たしか、ボンテージという名称があった気が致します。
あの服装で人前に出なければならなくなったら、わたくしは羞恥で死んでしまうかもしれません。
「ま、まあそもそも本人だとしたら今27か28だからね。元の魔法少女衣装で出てきてもイタすぎて駄目だったと思うよ……?」
ああ、如月さんは御本人と面識が在るのでしたっけ。
何にしろ、七尾さんのお陰でわたくし達の動揺は治まりました。
そろそろ全員の魔法の射程に偽物の魔法少女が収まるはずです。
皆が、己の最も威力を発揮する魔法を放つために魔力を練り始めました。
「まあ、見えぬが、そこにいるのだろう?」
不可知の結界の中にいるはずのわたくし達に向かって、ソレが、意思を持つ魔物が、魔法少女の写し身が声をかけました。
見えぬ、と本人が発言しておりますし、なぜわたくし達の存在に気づいたのでしょうか?少なくとも、わたくしの藤御簾は問題なく花を咲かせておりますのに……。
「ああ、答えても聞こえぬだろうから勝手に話すぞ」
交差点の中央、事故を起こし動かなくなった車両の中心からソレがこちらに顔を向けます。
いえ、向きは少しずれておりますし、視線は何かをずっと探しておりますので本当に見えてはいないのでしょう。
「貴様らがここに来ているのは、藤の花の娘の魔法と、突然消えた貴様らの魔力の反応から逆算すればわかる事だろう?
なるほど、確かにわたくし達の失策です。相手もわたくし達を観察しており、わたくし達と同等の思慮を有するならば、あの時点でわたくし達の痕跡が消えれば戦術の予測を立てるのは確かに可能です。
しかし、完全な奇襲とは行かなくなりましたが、ここから5人の魔法少女による最大威力の魔法連撃を受けなければならない状況には変化がありません。
わたくし達は視線を交わし、札月さん以外の魔法少女はそれぞれの魔法を解き放ちました。
『次は赤マントが鬼だから』
おどろおどろしい口調でつぶやきながら、抱えた大きなくまのぬいぐるみを包丁で突き刺す
片膝を付いてロケットランチャーを発射するバニーガール。
「雷属性の双腕!FGA MK.I!ダブルライオット!」
魔法で作り出した機械の両腕から放電を開始する義肢の少女。
そして、もはや矢とは呼べない槍ほどの藤の樹を弓につがえるわたくし。
傍から見れば混沌とした絵面を生み出しながら、わたくしたちは魔法を解き放ちました。
くまのぬいぐるみが赤いマントを纏った怪異へと変貌して
ロケットランチャー弾頭が風を裂いて飛び
雷撃が空気を焦がし
槍矢が音もなく螺旋を描いて襲いかかります。
ですが……。
「
全ては、魔物が口を開いた瞬間に虚空へと溶けて消えました。
「ああ、そうだ、せっかくだから自己紹介とやらをしておこうか。
貴様らが魔法少女である限り、全ての魔法は
まあ、なんだ
ごらんの有様だよ」
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