第35話 物理と毒と触手の狂宴
どぷり、と、私の構える深紅の大鎌を赤い液体が覆っていきます。
赤く澄んだ液体が、同じく深紅の宝石刃を沈めることで刃そのものが液体になったようにみえるはずです。
毒の刃、コレが私の6つ目の魔法。
まあ、毒属性が中二病かどうかというのは色々考えがある所だとは思いますが。
でもそれが、「魔力を糧に動いているモノならば生物・無生物関係なく侵す毒」となればどうでしょう?
ほら、中二病っぽくなったと思いませんか?
特に無生物にも効果があるって辺りに。頑張りました。
いや、実際作るの大変だったんですよこの魔法。
毒属性にしよう!って決めたはいいんですが、そもそも魔物に毒が効果あるのかって話になりまして。
魔力根源さんと相談しながら、こう、毎回鎌でザクザクする度にちょっとずつ魔力構造を分析してですね……。
で、こうして出来上がったのがこれ、
いや、フルンティングさん。毒と血を煮詰めて創った剣とかいう中二病な設定のわりに出典である「ベーオウルフ」では敵に毛ほどの傷も与えられずに折れてお亡くなりになるという全く何の仕事もしてない剣なのです。
その設定だけはかっこよかったので、お名前頂戴しました。
赤い弓兵の人が使うとちゃんと仕事するんですけどね。描写的に。
毒の実態は、生物学的な毒だとロボの魔物とかああいった無生物系にダメージが入らない原典と同じく可哀想な子になってしまうので、必ず効果を発揮する事目指した結果……。
魔物を構成している魔力を衝撃で炸裂する魔力爆弾に変質させるとかいうとんでもねーモノが出来てしまいました。
しかもこれ、魔力爆弾に変質した魔力が元となった構造体を侵食・変質させ続ける効果まで付いてるんで、ちょっとかすり傷が付いただけでそのうち体全体が爆弾になり、爆散してゲームオーバーとかいうだいぶあかん感じの魔法となっております。
徐々に奇妙な冒険の第四部ボスですかって言われても言い返せない感じです。
まあ、その分発動時の魔力消費がえらいことになってますが、今回はどうやっても収支がプラスにしかならない戦場なので問題なしです。
さて、眼前に迫った巨大触手ワームが保持していた魔物をぼろぼろと落としながら鎌首をもたげました。
いや、流石に威圧感パないですね。
「じゃあ行く」
月ヶ瀬さんはそれだけ言うと、浜辺で助走をつけて飛び上がりました。
飛び上がったと言うか、もう発射されたとかそういう表現のほうが似合いそうな動きなんですけどね。
持ち上げられた触手ミミズの頭部へと一直線に飛翔した月ヶ瀬さんはそのまま大鉈で逆袈裟に斬りかかりまして……。
結果、刃を突き立てたままの月ヶ瀬さんが肉をえぐりながら数メートルは突き進み、過程で切断された触手がびたびたと浜に落下してきます。うーん、なんかばっちぃですね……。
しかし、さすがは魔法少女(物理)なんて呼ばれてるだけありますよ。
パワーだけで考えれば余裕で夜間のシュネーさん以上です。
……まあ、異常な身体能力強化の代わりに一切の魔法が使えないのが鬼の魔法少女なのですが。
おっと、私もお仕事しないとですね。
浅瀬から浜辺までまんべんなく落下してきた魔物が、触手ミミズに損害を与えた月ヶ瀬さんを脅威と認識してタゲを向けています。
邪魔をさせないよう、横合いから殴りつけて差し上げましょう!
「
七本の剣を最初から刃翼状態で呼び出し、砂浜を飛ぶように駆け抜けます。
いや、だって浜辺走ると砂に足を取られてめっちゃ疲れるじゃないですか……。
とりあえず、最初に目についた羊頭のくせにネコ科っぽい骨格の魔物へ一撃を入れます。浅く背を薙いだ程度の傷しか与えられませんでしたが、
次いで、私に気がついて飛びかかってきた巨大な鹿の魔物を魔力放出による加速で回避、その際に設置した
戦場を駆け抜けながら毒刃を閃かせていると、波を伴って轟音とともに迫る触手ミミズの胴体!
「なんとぉ!」
直径5メートルぐらいありそうな胴体の薙ぎ払いを背面跳びのフォームでギリギリ回避……したつもりでしたが、こいつ長い触手が体表にびっしり生えてるんですよ!
困ったことにガッツリ捕まりました。ミミズと触手の隙を生じぬ二段構え、ってボケてる場合じゃないですね。
幸い、背中にくっついているのはただの翼ではないので、刃翼の接続解除からの斬撃で私を拘束している触手を切り払います。
しかし、流石の鬼巫女と言えどもこの巨体相手は苦戦している様子です。
上体を撓ませて、勢いをつけて放たれた突進は見事な姿勢の回し蹴りで先端部を蹴り飛ばされて明後日の方向へ。
ならばと、長大な身体で周囲を囲い、巻き付きと言うかサイズ的には押しつぶしに近い攻撃をかけるも、地面に叩きつけられた鉈の一撃で出来たクレーターの様な穴から脱出して回避。
途中で幾度か触手が巻き付いて動きを阻害しようと試みていますが、暴れる月ヶ瀬さんの膂力で無惨に引きちぎられる始末。
前言撤回です、これ苦戦してません。
これ、周囲の魔物からの妨害が入らなければこのまま倒しちゃうんじゃないですかね?
まあ、妨害なんてさせないんですが……と、言う事が出来ればかっこいいのですが正直そんな余裕無いんですよね。
ざっくり数えた結果50匹前後の魔物が居るんですが、コレ普通に普通の魔物なんですよ。いや何言ってるかわかりませんって感じでしょうけど。
ほら、場面的にこれだけ数が居るとどうしても雑魚がいっぱいみたいな印象を受けるじゃないですか。困ったことにそうじゃなくて、いつも倒してる単体で結構やっかいな魔物が大量にって感じなんですよ。
ちょっとでも気を抜くと奇襲を掛けてくるんですよ、こんなふうに。
お尻を向けて突進してきたエビの様な魔物に鎌を引っ掛ける形で引っ張ってもらって緊急回避。
さっきまで私の立っていた砂浜が大きく窪み、砂中から蟻地獄の魔物がひょっこり顔を出します。
というか、浜辺の砂の中って普通ほぼ水中みたいなものだと思うんですが。蟻地獄が行動できる環境じゃ無いんじゃないでしょうか!?
んーしかし、妙に魔物同士の攻撃が綺麗に畳み掛けるように襲ってくるのが気になります。普通、これだけの集団が好き勝手に攻撃したら味方に当たったり、そもそも味方を巻き込む想定で大技ぶっ放したりが多発するはずなんですけど……。
でも、開戦から今まで行われているのはタイミングを合わせたり等の連携はしてこないものの、ずっと途切れない連続攻撃です。正直、ゾンビボディじゃなければ息が上がって被弾していても可笑しくない密度の。
となればやはり、指揮官的な能力の魔物が居ますね。
んー、そろそろアレの時間でしょうし、そこで動揺するようなら様子を探ってみましょうか。
戦闘開始からそろそろ20分ぐらい経過したでしょうか?
数十体の魔物からの息をつかせぬ連続攻撃と、時折襲ってくる怪獣決戦の余波をさばくのが精一杯で、正直倒せた魔物の数は片手で数えられる程度でしかありません。
が、ほら、一太刀でも浴びせられた魔物の数は正直数えてられないほど居るわけですよ。
流石に一度しか攻撃できてなかったので時間はちょっとかかりましたが、そろそろ相手の戦線崩壊が始まる頃な気がします。
ぼぼんっ!と、ややコミカル気味な音を立てて最初に一撃を入れた羊猫の身体が爆散しました。そこから、さして間を置かずに各所できたねぇ花火があがります。
逃げながらもちまちま攻撃していた甲斐があったようで、そこそこの数の魔物が塵に還っていきます。
そして、幸いと言って良いのか、魔物達は素直な反応を示しました。
いや、動揺したからって一斉に同じ方を向いて指示を仰ぐみたいな行動するのはどうなのでしょう?いや、まあ、動物並の知能しか無いのでしょうがないんでしょうけど……。
見れば、魔物の群れの端。
ずっと目立たぬように攻撃に参加せず、隠れて指揮に徹していたと思われる魔物を見つけました。
人の頭を持ったムカデ……。なるほど、特定の人物への感情も魔物を実体化させる要因となるということでしょう。あえて名付けるなら「将軍の魔物」と言ったところでしょうか?
確かに、他の魔物を使役出来そうな要素が見受けられます。
さて、アレを倒せば多少は楽になるでしょうか?
7枚の刃翼に魔力を叩き込み、「将軍の魔物」へ向けて全力で加速します。
そう遠くない距離で、こちらに向かってくる3人分の魔法少女の魔力も感じますしここが正念場と言った所でしょうね。
さあ、もうひと働きしましょうか!
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