第34話 鬼巫女と中二病
いや、今日は朝から忙しない一日だなぁと思ってたらコレですよ。
朝から3体ばかり魔物を倒して、水流崎家の私の部屋でゲームのデイリーを回しながらPCでペケッターを眺めていたら、めっちゃデカい魔力の集団を感知しました。
方向的に海の上だったので、直行して様子を見るというわけには行かないということでTVやらネットやらの反応を見て上陸地点を確認しようと思っていた所に、臨時ニュースでそいつらの映像が送られてきたわけですよ。
でかーい、説明不要。
いや、説明要りますよこれ絶対。
怪獣映画サイズの触手ミミズが魔物をわんさか抱えながらどんぶらこですよ。
何アレ?うしおとくまに出てきませんでした?海で死んだ魂の集まった妖怪とか言って。
いや、あっちは数キロサイズとか言ってたはずだから流石にこっちの触手ミミズのが小さいですね。
えーっと、上陸予測地点は浜岡原発付近……?
ちょっと何言ってるかわかりませんね。魔物の主目的って魔力保持者を拐って魔力を搾り取ってーの自己強化と自己保存じゃありませんでしたっけ?
原発壊して魔物に何の得が?
魔物的にも人類が減って損しかないので、アレ実際は脅しじゃないんですかね?
となると、あっちに戦力割かせて本命がどっか狙う構図ですね。
知性の芽生えた魔物さん、芽生えたてにしては狡猾すぎやしません?
でもまあ、私にとっては稼ぎ時のフィーバータイムですね。
ここで一気に稼いで脱ゾンビを目指しましょう。
っと、危ない。理珠さんに参戦する旨をお伝えしておきましょう。
対策会議中とかそういうのやってる最中に電話すると空気読めって感じになりそうですし、メッセージアプリで伝言を残しておきましょう。
怪獣映画の撮影現場に行ってきます。っと。
そういえば理珠さん、最近元気が無いんですよね……。
いや、元気がないと言うか反応が鈍いんです。
いつもと変わらず撫でくりまわしてきますし、いつもと変わらずシャンプーしてお風呂入って髪乾かしてー耳かきしてーのルーチンは変わらないんですが、話しかけてもいまいち返事してくれないと言うか……。
そのくせ、体調が悪くないかとか、何処か調子悪くないかとか過保護なぐらいに聞いてきますし、最近だと耳かきやらマッサージやらで寝落ちしたら一緒のお布団にinなんて状態になってますし。
やっぱ、ボス格の魔物が居るってわかって警戒して疲れてるんですかね?
サクっと倒して安心させてあげたいですね。
はい、というわけでやってきました浜岡原発!
の、敷地内に勝手に入ると守衛サンとかが大変そうだと思ったのでその近場の海岸にやってきました。
一応、この原発は今動いていないらしいので、最悪防衛に失敗しても普通ならちょっと放射性物質が漏れるかなー程度で済むと思うのですが……。
相手は魔物ですからね。地味にあの水棲モンゴリアンデスワームにくっついてる魔物の中に核分裂の魔物とかが居て、急にチェルノったりしてくる可能性も否定できません。
なんて考えていると、砂浜に人影が見えました。
巫女装束に、神事の際に纏う上着の千早まで身につけています。
まあ、そうですよね、一般人なはず無いですよね。魔法少女ですね。
というか、なんか今まで一度も会ったこと無いんですが有名人なので私でも名前を知ってる方です。
鬼の根源を持つ魔法少女の鬼巫女さんですね。
右側だけを長く伸ばしたショートボブの髪の、伸ばした側の額から生えた1本の立派な角が根源はコレだぞ!と主張しています。
全国の魔法少女オタの集合知であるデーターベースサイト曰く、暴力の化身、魔法少女(物理)、魔力をまとって物理で殴れば良い、等と呼ばれている日本の3エースの一人だったはずです。
「はじめまして鬼巫女さん。今日はお一人で?」
私のフランクな挨拶に、返ってきたのは無言でした。
……いや、無言と言うか、口の中めいっぱいにキャロリーメイトを詰め込んでもぐもぐされていらっしゃいました。
そして、微妙に困っているような顔をされてます。
あ、これさては口の中の水分が全部吸われて飲み込めない感じかつ、飲み物を持ってきてない感じですね?
ちょっと影のあるダウナー系美人といった出で立ちの女の子が口に食べ物をぱんぱんに詰め込んだ挙げ句、飲み込めないと困った表情を浮かべてるのはちょっとギャップが大きすぎて思わず笑ってしまいます。
「お水飲みます?」
最近持ち歩くようになったバッグから水のペットボトルを取り出してみれば、コクコクと頷いて手を伸ばしてきました。
私より身長高いくせに小動物感が強いですねこの方。
「助かった。思ったより飲み込めなかった……」
この状況で真剣な表情でお礼を言われて、笑わないほうが無理というものではないでしょうか?
「む、何か変なことした?あ、自己紹介。自己紹介だ」
急にキリッとした表情でこちらに向き直る鬼巫女さん。
「魔生対初動対策課所属、
……それは本名なのでは?
「……あ、まちがえた。やりなおしていい?」
なにこの可愛い生き物。高校生ですよね?行動が子供にしか見えないんですが?
「魔生対初動対策課所属、鬼の魔法少女。魔女セヴンスさん、よろしくおねがいします(キリッ」
「はいっ、よろっ、よろしくおねがいしまっ、します。」
くっそう、笑いをこらえながら返事したら変な感じに。
しかも、それをよくわかってないって表情で首を傾げる鬼巫女さんで更に笑いが……。
「霧と流星と
水平線に蠢くものが見えてきた辺りで、鬼巫女……いいや、名前聞いちゃったし名前で呼びましょう。月ヶ瀬さんはそう言って、なにかを引き抜くような動作をしました。
何も無いはずの空間から抜刀されたのは、無骨も無骨、分厚い刃と60cm程の長さの大鉈でした。
しかし、なんというか、言葉が足りない感じの子ですね?
多分、援軍が有象無象を相手にする予定なので自分があの水棲モンゴリアン触手ワームと闘う予定ですって感じの意味だと思うんですが、その単語の選び方じゃ伝わらなくないです?
「あ、ごめん、わかった?いつも言葉が足りないって言われる……」
しゅんとしながらこちらを伺ってきますが、その言い方も何がわかったのかが抜けてて解りづらい辺りが言葉足らずっぷりを表していますね。
「大丈夫ですよ、ちゃんと伝わりましたから安心してくださいね。あ、水上戦闘は出来ないので、魔物が上陸してから戦闘開始って事で大丈夫ですよね?」
「ん、私も水の上は走れない……。伝わってた。よかった」
そう言って、にへらっと笑って喜ぶ月ヶ瀬さん。
水の上は走れないから上陸して戦闘で大丈夫って事ですね。
多分、彼女の頭の中では色々考えているのでしょうけど、その考えが共有されてる前提の会話を組み立ててしまっているという感じでしょうか?
頭がいいけどコミュニケーションが下手な子にありがちなタイプと言えるでしょう。生前の会社では同僚がこのタイプで苦労しました。頭は良いので仕事は出来るんですが、何やってるのか周囲が理解してあげないと勝手に色々背負い込んで潰れちゃうんですよね。
ん?ということは、逆説的にこの子頭いい方なんです?
しかし、近づいて見て思ったんですが、この子細すぎません?
さっきのハムスター状態が印象深くて食いしん坊っぽいイメージを勝手に持ってましたが、手とか、ちらっと見える足の細さ考えると脱いだらあばら骨浮いてるレベルですよ多分。いや人のこと言えませんけど。
その不健康そうな細さで大鉈担いでるギャップと来たらもう、これはこれで中二病的にゾクゾク来るというかなんというか。
とりあえず、あの触手ミミズを月ヶ瀬さんがお相手するなら援軍到着までその邪魔をさせないのが私の仕事って事ですね。
流石に水上での戦闘は不可能なので、上陸したミミズ野郎から分離して動き出したヤツを狩っていく流れでしょうか?
まあ、魔物を倒せば魔力を補充できる体質的な優位点もありますし、最初っから全開で色々ぶっ放していきましょう。
それに、作りたくてずっと考えた魔法が最近やっと使えるようになったところですからね。
「ん、もうすぐ浅瀬。水際でやる」
はいはい、もうすぐ浅瀬で、地面に接触できる分進行速度が上がるから戦闘準備してください、上陸する時に仕掛けます。ですね?
この子、連携とかいつもどうしてるんでしょう?
あ、戦績見るとほぼソロで撃破してきてるんでしたっけ……。
アシスト1位の理珠さんと対極に位置する感じでしたね。夜間無敵の吸血鬼さんは別枠として。
おっと、地面に接触したのか泳ぐ動きから這うような動きに変わって加速しましたね。開戦はもうすぐです。
では、私も初手から新技と行きましょう!
「
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