第30話 たわわに埋もれて洗濯板でこすられる

 自己紹介が終わり自由行動となった瞬間、最初に突っ込んできたのは札月さんでした。

 「わ、わーい、セ、セヴンスさんですー!」

 前方から巨大なクッションを押し付けられたと思った瞬間、なんの衝撃も無くするりと身体が入れ替えられて気がつけば西瓜と西瓜の間に頭を入れられて抱きすくめられていました。


 いや、え?今の動き何!?地味にこの子古武術とか習ってたりしませんか!?

 「ふわー、髪さらさら、お肌ひんやりですねー。ひ、冷え性だったりしますか?」

 しかもスキンシップ激しいですね!?

 

 「駄目ですよ札月さん。セヴンス様はうちの子なのです。お持ち帰りは許容しかねますからね?」

 そして前から迫るは洗濯いt……ではなく、慎ましやかな体型の理珠さん。

 理珠さんっていつも、もんのすごくいい匂いがして近くにいるだけで強制リラックス状態にされるのですが、この場は他人の目がありますし気をつけなくては!

 アラサー的に年下の女の子に骨抜きにされる醜態を大勢の眼に晒すわけには行かないのです。


 ちなみに、持ち込んできたのか元から設置してあったのかは不明ですが置いてあるカラオケで白さんが熱唱中です。

 ってか歌上手っ!高音ぱねぇです。

 いやまあ、寝てる(死んでる)間に出た曲でしょうし、全く知らない曲なのが残念です。

 一文字さんと真割さんが反応してますし、特撮系の曲あたりでしょうかね?


 アインハンダーの九條さんと露出狂の依霞さんはテーブルの端で何やらカードを広げて話し合ってますね。

 裏面がちらっと見えましたが、多分パチモン、パチットモンスターのカードゲームです。

 ……国産TCG、だいぶ淘汰されたと思ったんですがまだ生きてるゲームあるんですね。アクエリとか葉っぱファイトとかやってました。今どうなってるかなって調べたら死んでましたが。

 

 「いやあ、魔女君人気だねぇ」

 「見てないで助けてくれるとありがたいんですがぁ」

 爆貧サンドイッチにされてる私を笑いに来たのは都市伝説フォークロアの如月さんですね。

 「まあ、撫で回してる2人は楽しそうだからそのまま玩具になっていても良いんじゃないかな?

 で、質問なんだが、私は根源が都市伝説これだろう?大学での専攻も民俗学でね。まあ、神話やらおとぎ話は普通の人よりちょっと詳しいんだ」


 「おー、神話とか私も大好きです。面白いですよね神様の話!」

 このお姉さん、ガチ文系のかほりがします。

 私は商学部卒なんですが、本当に行きたかったのはそっち系なんですよね。

 ほら、神話とか伝説とかってオタクの必修科目ですし、それ系統なら楽しく勉強できるかなって……。まあ、受験失敗して滑り止めに入ったわけですが。


 「わかるよ。というか、君の魔法の名前を聞けば解らないほうがおかしいよ?

 じゃあ、私がこういう興味を持つのもわかるはずなんだが、教えてくれないかな?

 君の魔力根源、一体何なんだい?」

 おっと、なんかみんなが気を使って聞いてこなかった事を突っ込んできましたねこの方。いや、専門が私の趣味と被ってるから気になってしょうがないんでしょうけど。

 あ、タブレットで選曲してる白さんと、いつの間にやらデュエットしてる一文字さんと真割さんコンビはともかく、九條さんと依霞さんの手が止まって聞き耳を立てているのがちらっと見えました。

 なお、爆貧コンビはどうせ聞こえる距離にいるからと私を撫でくりまわし続けています。私、特に反応返してないんですが、楽しいんですかソレ?


 しかし困りましたね。

 いや、別に魔力根源は中二病です!ってお伝えしても私が恥ずかしい以外のデメリットは無いんですよ。

 世の中、色んな魔力根源の方が居ますし?

 どう見てもネタとしか思えない根源なのにめっちゃ強い人とか居ますからね。

 右ストレートの魔力根源で笑ってたら、何でも消滅させる超パンチで無双してる映像が出てきてお茶吹き出しましたからねこの前。

 

 うーん、でも恥ずかしいのは本当に恥ずかしいんですよ。

 最初ひとしきり笑われた後、ネタにされるか腫れ物の様に全く触れられなくなるかの二択だとは思うんですが、その後カッコつける度に「でもこいつ中二病だしな」って思われるんですよ?キツくないです?

 やっぱり、なんか適当に誤魔化せませんかね……。


 私が言い淀んでいると、如月さんはメガネをクイっとやりながらしたり顔で頷きました。

 「言えない事情がある、ということかな?

 一つの可能性として、そう考えれば辻褄が合うという仮定として議論されてる話だと、魔女セヴンスは『7人分の根源が混ざっている』なんて話があるんだけど、もしかして事実だったりするのかな?」

 

 なんですかそれ!?

 あー、名前からそういう連想されたって事でしょうか?

 と、私は驚きに目を見開いただけだったのですが……。

 「なるほど?その反応、やっぱりそうなのかな?魔法の名を伝承や神話に出てくる武具の名で統一してはいるけど、君の魔法は全くと言って良い程に統一感が無い。

 あまりの統一感の無さに、ネット界隈では「中二病が魔力根源」なんじゃないかって言われてるほどさ。

 ああ、大丈夫。答えは求めてないさ。返答しなくても君の反応がすべてを物語っているからね」

 と、勝手に納得してしまわれました。


 というか、集合知ってすごいですね。中二病、まさかの的中ですよ。

 いや、まあ、どう考えてもワイヤー使いもゴスロリ大鎌も中二病それ全開ですからね。

 言動から行動から、もっと中二病な吸血鬼さんが居ますが彼女は魔力根源が明確ですからね。中二病言動も吸血鬼ロールプレイから外れてるものではないですし。

 変身前でもあの言動なんでしょうか?私が心配することじゃないとは思いますが周囲から浮いてたりしません?大丈夫です?

 あれ?「7つの根源が混ざっている」では無く、なんで「7人分の」って言ったのでしょう?


 とか考えていたら、突如強くなる前後からのサンドイッチですよグエー。

 でも、後ろが札月さんなのは僥倖ですね。理珠さん正面なら呼吸が詰まる事はありませんから。逆なら幸せ窒息で意識を失ってる可能性すらありますからね……。

 いや、魔力でなんやかんやされて窒息しなかったりするのでしょうか?微妙に便利ですからねこのゾンビぼでー。

 しかし、札月さんやたら肌に触りたがりますね。首筋とか手首とか。撫で回すと言うよりぺたぺた触ってくる感じがこそばゆいです。

 理珠さんはいつも通り頭と耳とほっぺ中心なのでまあいいです。いや、良くはないですが問題もないので。

 んー、地味に札月さんの足に私と理珠さん2人分の重量かかってると思うんですが大丈夫でしょうか?超軽量級2人だから良いのかな?


 と、くんずほぐれつしてると横からマイクが差し出されました。

 「セヴンス、せっかくだからアンタも歌いなさい。曲はこの前そっちから振ってきたゲームのやつだから知ってるでしょ?」

 白さんのマイク、思わず受け取ってしまいましたが何の曲入れたんでしょう?

 ちなみに、如月さんはちょっと離れた所でさっき聞き耳を立てていたコンビに質問攻めにあってるみたいです。


 あ、曲が始まりましたね。

 なるほど、ゲーセンのUFOキャッチャーにフィギュアがあったのでワイワイ言いながら白さんと一緒にお金をつぎ込んだゲームの曲です。

 私の愛バがぴょいしてだっちするやつです。

 よし、いっちょお姉さんが大学時代に毎週カラオケに通ってた喉を披露してやりましょう!

 ヒトカラダッタケドナー。


 その後はなし崩し的にカラオケ大会になりました。

 正直、最近の曲全く分からなくてコーラス入れたりオタ芸ったりは全く出来なかったんですがとても楽しめました。

 あと、今歌っても全員歌えた街狩人のエンディング曲すごいな!

 全員でアスファルトがタイヤを切りつけましたよ。

 あ、私としては急がずにありのままKISSする曲のほうが好きです。


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