第28話 良家のお嬢様膝枕耳かきASMR

 「こんしんかい……?」

 夕食とお風呂が終わり、理珠さんに髪を乾かしてもらいながらうつらうつらしつつ適当に相槌を打っていたところ、そんな単語を耳が拾い上げました。


 「ええ、ですから水銀の魔法少女のメルクリウス・アルタリアさんのための初動対策課就任の歓迎会をすることになったのですけれど……。魔法少女が大勢集まる場は少ないですし、せっかくなら皆様、セヴンス様にはいつも助けられておりますのでその感謝を伝えたいから是非招待してほしいとの要望を受けておりまして、よろしければセヴンス様も懇親会にご参加頂けないかと」


 うーん、私陰キャなのでそういう集まりは苦手なんですよねぇ。

 会社の飲み会とかでは端の方で一人淡々と焼酎を飲み続けて会話に巻き込まれるのを避けていましたし。

 ちなみに、酌をしろと押しかけてきた上司に対しては、お互いに飲んでいるお酒を注ぎ合う事で度数の高いお酒ストレートの焼酎を大量に飲ませて潰して逃げるという手段で渡り合っていました。

 これ、同じ手段を使う度に上司が近寄ってくる頻度が減るので、お酒の強い方にはおすすめです。


 ……お酒も呑みたいですね。この外見だと、生き返って更に7~8年ぐらい待たないといけないとか正直しんどいです。


 あれ?でも懇親会ってことはみんな変身せずに集まるんですよね?だとしたら、初動対策課の魔法少女達の変身前の姿が見られるわけです。

 きょ、興味はありますね。主に今回の本来の主賓のメリクリさんとか。

 あの胸のスイカは変身前から同サイズの物を装備しているのかとか……。

 私が素顔を確認したのって理珠さんとペネトレイターさんだけですもんね。うーん、でも大勢集まる場所だと上手く会話出来ない気も……やっぱり参加は見送りましょう。


 「後は、セヴンス様用のスマートフォンが用意できたので懇親会に参加頂けるならその場でお渡しする予定だと彩月さん……、魔生対の室長が仰っておりました」

 そうきたかぁ……。

 見事な餌です。こんな餌に釣られクマーってやつです。


 いやね、ネットはもう開通して色々調べられるじゃないですか。となると、当然ペケッターやなんか見てると情報が入ってくるわけですよ、スマホのゲームの。

 なんですかアレ、完全に携帯ゲーム機の一種と化してるじゃないですかスマートフォン!

 10年前のPCゲームより明らかに美麗なグラフィックをこの、手持ちサイズの電話が描画できるとかもう意味がわからないレベルですよ。


 流行ってるゲームもまあ、調べたというか自然に情報が入ってきましたし。

 なるほど、ホワイトラビットさんもバニーと言ったら重火器なんて考えになりますよアレは。

 あと、聖杯争奪戦絡みのお話が未だにオタク界隈の先頭付近を走り続けてる事にびっくりしました。だってアレ、シリーズ最初の作品の発売が確か、私が大学生の時ですよ?

 それと、剣の英霊の方と同じ顔がなんかめちゃめちゃ居るんですけど、今どういう設定なんですか!?後輩の子と同じ顔のキャラも月でバトってた時代からめちゃめちゃ増えてる気がするんですが!?


 おっと、失礼、取り乱しました。

 しょうがないですね。今回は餌につられて参加する事にしましょう。

 「わかりました。参加、参加します。ところで、私がまじるとその集団が魔法少女の変身前の集団だってバレたりしそうなんですけど、ソレは大丈夫なんですか?」

 というか、理珠さん普段着から着物ですし、真の中二病患者とも言えるシュネーさんとか私よりゴスっとした衣装だったりしても可笑しくないですし、めちゃめちゃ目立つ集団になりそうだと思いました。


 「いえ、セヴンス様が一緒に行動するとわたくし達との関係性も予測されそうですので、移動は貸し切りのバスで行いますし、お店の方も貸し切りというか、店舗だけ借りてパーティー用の料理などを作り置きしていただいて退去していただく予定だそうです」

 でも、それまでの移動で私注目されてるでしょうし、魔法少女マニアの方がペケッターとかで情報共有して追跡してきたりしませんかね?


 「で、申し訳ないのですがセヴンス様はお店に到着した後に魔法で合流していただくわけにはいかないでしょうか?」

 あー、まあ、そうなりますよね。

 「あ、では私が登場して良くなったら理珠さん変身してもらっていいですか?私の魔力感知の能力がちょっとおかしいと言っても、流石に変身前の魔法少女の居場所は把握できないんですよ」


 そう、魔力感知範囲の件は既に理珠さんに相談済みです。

 なお、「素晴らしいことではないですか。その能力ちからのお陰でわたくしは命を救われたわけですし、他にも貴女に感謝している魔法少女は沢山いらっしゃいます。その力でセヴンス様が困ることが無いのなら問題はないのではないですか?」

と諭されてしまいました。


 まあ、私がイツァナグイに作り変えられた人造……人?蛇?いいや、改造ゾンビ人間だって事を考えなければただの都合の良い特殊能力って印象でしょうし、そういう感想になるのはしょうがないです。

 でも、謎の上位存在っぽいヤツに改造された結果、あっちも把握できない能力が生えてたとかもう完全にホラーなんですよ。


 「承知致しました。髪は乾きましたので、次は耳かきを致しますね。お膝に頭を載せて頂けますか?」

 しかし、知性を備えた魔物とかいうボス枠っぽい存在が居るというのが判明したというのに、懇親会とかやってて良いのでしょうか?

 あ、いや、違いますね。ボス枠との戦闘で変身が解除されてしまっていた場合でも、その子が魔法少女だと私に認識させるための顔合わせの機会としての集まりとかですね。


 あ゛~っ、理珠さん耳ふーってする前には言ってくださいって前に言ったじゃないですかゾクってしましたゾクって!

 「りーずーさーん?」

 恨みがましい視線を向けても、理珠さんは楽しそうに笑ってました。


 ……いや待って、すごくナチュラルに女子高生に膝枕で耳かきされてますけど、というか既にコレが日常になってるんですけど、よく考えたらなんか可笑しくないです?

 「はーい、次は綿棒でちょっと奥の方をお掃除いたしますので、動かないでくださいね」

 あっあっ、それ気持ちいいんですけど、それされると思考がまとまらなくてですね……。

 「次は反対側を致しますね。わたくしのお腹の方に顔を向けて頂けますかー」

 あ゛~、耳元で囁かれると脳が溶ける~……。


 

 その後、思考が完全に溶けて理珠さんの膝枕の上での就寝となりました。

 ……翌朝目覚めたときには理珠さんの隣のお布団で寝てましたので、寝てる私を運んでくれたのだと思うのですが、何故か歯磨きも終わってるっぽいんですよね。

 寝てる他人を起こさないまま歯磨きをするとかそういう超絶テクでもあるんですか……?


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