第27話 踊って進まなかった会議の報告

 「というわけで、魔生対と魔物の行動学を研究してらっしゃる学者さん達との会議の結果を伝えます」


 緊急招集を受け、本部に集合した私達魔法少女の前で彩月さんが疲れの見える声を張り上げます。

 先日の魔物の連続出現、また、魔力災害に合わせた様な魔物の同時出現、これらの異常現象の発生を受けて魔生対の大人の方達は自体の原因究明のために連日の調査と会議を繰り返しておられました。

 とは言いましても、わたくし達魔法少女の面々も、魔生対上層部の方も皆予想はついてございます。


 『魔物の行動を操作、統率出来る何者かが現れた』


 問題は、その「何者か」が魔物なのか、人間なのか、それとも別のまだ観測されていない存在なのか、それが分からないのでした。

 その解明のため、あらゆる角度からの予測と検証が行われました。しかし、そもそもが捕獲も死体の検分も不可能な魔物の事でございます。

 幾度話し合えども結論を出すことは叶わず、結果、「こうである」と仮定するしか無いという考えのもとで対策を立て、行動する事になりました。

 結論は出ずとも、推測された可能性は全て検証せねばならず、毎日深夜まで会議に検証にと忙しく立ち回っていた彩月さんも疲れの色が濃く浮かんでおります。


 現場指揮官でもある彩月さんはむしろ、行動方針が決定してからが主たる仕事だというのに、この段階で疲弊させるとは上層部の方は何を考えていらっしゃるのでしょうか?

 「魔生対としては、他の魔物を統率・指揮出来る知性を持った魔物が誕生した、と仮定して行動する事になりました。今後、それを踏まえた対策、行動等を指示するケースがありますので、普段と違う要求をされても混乱しないように」

 「具体的に、どんな行動が指示されたりするわけ?今までの初動対策にこれ以上バッファをもたせるとか無理だと思うんだけど?」


 七尾さんが疑問の声を上げますが、わたくしも同様の意見です。そもそも、魔物が出現してからの受動的な行動しか取ることが出来ないわたくし達にどういった対策が可能なのでしょうか?

 「決まってないのよ……」

 彩月さんが喉から絞り出すような、底冷えのする声で返答されました。


 「そんなこったろーと思いましたわ。相手がどんなヤツかもわかんねーのにその対策をしろだなんて無理に決まってるのではねーですか?」

 「私も何度もそういったんだけど、何も出来ないって結論で会議は終われないのよ。結果、相手がなにかしてから対策するっていうのを婉曲に、さも何か案を出しましたって文章にして終わり。それで私の残業時間がどれだけ増えたと?」


 あ、これはもう駄目です。彩月さんの眼が完全に何かヤる時の眼になってらっしゃいます。

 いえ、彩月さんは魔法少女が一番大事の考えは絶対に曲げませんのでわたくし達に被害が及ぶことは無いのですが、何かしらの面倒くさい行動をする前兆なのです。


 「ということでー!新たな敵と戦うためには魔法少女の団結は必要不可欠!外部から協力してくれている謎の魔女との友好も当然深めなければなりませーん!よってー!国に金を出させて、おしゃれなお店を借り切って、懇親会をやろうと思いまーす!まあ、初動対策課としても新戦力の札月さねつきさんが加入したわけだし、歓迎会としてもやっぱり1回騒いでおいたほうが楽しいと思うのよ」


 札月さん、札月絢さねつきあやさんですね。先日岡山支部から異動になった水銀の魔法少女さんの事ですね。

 大質量の水銀を操って闘う魔法少女で、魔物の連続襲撃の際に治癒の魔法が発現したとの報告があり、大騒ぎになった記憶がございます。

 やや内向的な性格でいらっしゃるようで、待機時間や休憩時間には大体持ち込まれた本をお読みになってらっしゃいます。

 あとは、足元が見えづらい性質らしく、よく転ばれることでしょうか?理由についてはまあ、よく実ってらっしゃいますのでね……。あれではきっと、胸当てすら着られないので弓は無理でしょうね。

 というか、あれほどのサイズだと羨ましいとかそんな感情すら湧いて来ません。……湧いてきません。良いんです、あの胸では着物が似合いませんし!


 そして、懇親会はまあ、それなりに必要性があるとして……。

 お店を貸し切りにするのはわたくし達とセヴンス様が共にいると、容易にわたくし達の変身後の姿と結び付けられてしまうからでしょう。

 急な思いつきに見えて、しっかりわたくし達の事を考えた提案をなさるあたり、とても彩月さんらしいですね。


 「で、参加は自由ですが、不参加の魔法少女は本部待機の重要なお仕事がありますのでその辺を考えて決めてね。札月さんと水流崎さんは必ず参加すること。今回の懇親会の目的は友好を深めることもですが、魔法少女である貴女達の変身前の姿をセヴンスさんに認識してもらうことも目的の一つとしてます。

 これは、セヴンスさんが駆けつけた際に何らかの理由で変身が解かれていた場合に、既知の間柄なら優先的に助けてくれるでしょうという打算からの考えです。

 札月さんの歓迎会ではあるのだけど、貴女にはもう一つ仕事があって……、まあ、後で指示します」


 「その日がシフト上休日の子はどうするの?あとそもそも、セヴンスが参加したくないって言ってきたりしたら?あの子の性格上そこそこ可能性ありそうなんだけど?」

 む、七尾さんがいつの間にかセヴンス様を呼び捨てにしています。確かに?セヴンス様と共に戦った回数は七尾さんが一番多いのではございますが?

 ……そして、その度にお食事を共にして、最近ではゲームセンターで遊んでいたりと言う話も聞いた覚えがございますし、もしかしてかなり仲が良いのではないでしょうか?

 確かに、七尾さんは自分の考えをしっかり持っておられて頼りがいがありますし、セヴンス様も身近な年上の女性を慕いやすい年齢ではございますし……。

 いやしかし、毎日夕食もお風呂も寝室も共にするわたくしの方が近しい関係にあるはずなのです。なのにこの妙な焦燥感は何なのでしょうか。


 「シフトに関してはこっちで調整するから大丈夫。あと、セヴンスさんを釣る餌は用意してあるから。ほら、彼女が欲しがってた連絡手段。今回の無意味な対策会議の裏でしっかり書類通しといたから!」

 ああ、セヴンス様もやっとスマートフォンが持てるのですね。我が家で買い与えても良かったのですが、魔生対から支給された場合2台所持することになり無駄になるかもしれないと悩んでいたところでした。


 ちなみに、魔生対から支給されるスマートフォンは特別製で、転移の魔法少女が常に場所を認識できるようになっています。そう、例え異界に持ち去られたとしても。

 ただ、流石に異界から持ち主を転移で奪い返すことは不可能らしく、可能なのは魔法少女が連れ去られた現場から異界への扉を開くことぐらいだそうで、転移の魔法少女本人の異界侵入は禁止されていることもあり、拐われた魔法少女の救出までは最低でも数時間はかかる見込みのようです。

 異界で魔物に数時間嬲られるとあれば、もはや女性としての尊厳は……。

 魔法少女からの魔力吸収による魔物の強化を防ぐのが目的もあり、しないよりかは救出に動いたほうが遥かに良くはあるのですが、なんとも、やりきれないものでございます。


 転移の魔法少女さん、重要度があまりにも高いため本名は疎か魔法名すら世間には公開されていないのですよね。わたくしも出動の際にお顔は拝見するのですが、実は声を聴いた事すらございません。

 彩月さんから聞いた話では、戦闘訓練の成績は特定の相手に対して非常に優位に戦える魔法を持っているらしく、その相手に対する切り札としての役割も期待されているそうです。


 魔法少女が生まれて10年、加齢により魔法の力が消えたという話は寡聞にして聞きませんし、戦場に出ないのであればきっとこの先も転移の魔法少女は日本の平和の為に力を尽くしてくれるでしょう。

 ……なにせ、お給料がとても高いので。


 ああ、セヴンス様がスマートフォンを持つ前に「かきんガチャ」に対して教育をしなければ。七尾さんも偶にそれでお金が無くなったと嘆いてらっしゃいますし、10年前だとセヴンス様は課金ゲームなどご存知ない年齢でしたでしょうし。

 あ、メッセージアプリなんかの使い方も教えてさしあげましょう。そうすれば待機中にお話できますし。

 懇親会でセヴンス様が喜ぶ姿が見られそうで楽しみになってまいりました。


 「じゃ、そういう事で日程調整してくるから、今日は解散!水流崎さんもセヴンスさんに懇親会の話しておいてね。じゃ!私は寝るから!」

 言うが早いか彩月さんは仮眠室へと向かい、会議は解散となりました。


 なお、よほどお疲れだったのかこの後12時間、仮眠室の扉は開きませんでした。 



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