第24話 壊されても強化されて蘇るのが合体ロボのお約束
「
口火を切ったのはシュネーさんの銃撃でした。
精緻な彫刻を施された古式拳銃から発射されるのは黒く禍々しい弾丸。
それは、合体ロボの左腕に着弾し闇色の靄をまとわりつかせます。
今まで、軽快に両腕を振って走っていたロボの左腕の挙動が明らかにおかしいです。
「呪いの類いは多少効果があると言って良いのかしら。これ、並の魔物なら一撃で動けなくなる黒死病を模した呪いなのだけれど……」
随分物騒な攻撃魔法ですが、流石に無機物っぽい要素の強い合体ロボ相手には効果が薄かったようです。
「では、次は私が……」
宙を舞う7本の刃が、幾何学的な模様を描きつつロボに襲いかかります。
狙うのは、シュネーさんの呪いで動きの鈍くなった左腕の接続部!
3・2・2のグループに分かれた剣の群れが真上から、落下の速度をも加速に利用して斬撃を敢行します。
最初の3連斬が関節を覆う装甲を切り裂き、続く連撃が接続部を断ち切り、最後の斬撃がその傷跡を乱雑に斬り広げます。
通常の再生能力型の魔物であれば、これで腕の再生が制限されて妙な形の腕が生えてきたり、切断面を綺麗にするための自切が必要になったりとかなりの妨害になるのですが……。
合体ロボは切断され、落下して地面に転がる腕を右腕で掴み天へと掲げました。
集まる魔力と共に左腕パーツの残骸が光を発し再生成されます。
再生成された左腕には元の腕の面影がありませんでした。
肩の、接続部を守る装甲は過剰なまでに増設されており、さらに目を引くのはその肘から先の形状。
こちらが遠距離攻撃を続けて行ったことに対して反応したのでしょう。左腕は、一門の巨大な砲身となっていました。
いや、そのメカ鳥ヘッドで武器腕はデザイン的に微妙なのでは!?
私がそんな事を考えながら飛刃でちまちま攻撃しているうちに、砲身がシュネーさんへ向けられました。
背後にはパイルバンカーへ魔力を充填しているペネトレイターさん、避けられるポジションではありません。
ま゛っ!
声とも岩のきしみとも判別しづらい叫びとともに、砲身から岩の弾丸が発射されました。
……ビームではないんですね。
「小癪でしてよ」
発射された巨大な岩の砲弾に対して、シュネーさんはその場でくるりと華麗に一回転し、「後ろ回し蹴り」でそれを蹴り砕きました。
……え?
いや、その手に持った剣で弾丸を斬ってこう、背後の二箇所で着弾の土煙が上がるとかそういう演出する場面じゃなかったんですか今の?
まあ、ドレス姿での後ろ回し蹴りとかスカートがぶわぁってなってたのはすごくかっこよかったのですが。
しかし、攻撃に反応して成長するタイプの魔物って事なのでしょうか?ならば遠距離で攻めると相手も遠距離でって事になり、ペネトレイターさんに流れ弾が当たる可能性が出てきますね。
シュネーさんに目を向けると、恐らく同じことを考えていたのでしょう。目が合いました。
「近接攻撃主体で、ということでいいでしょうか?」
「ええ、フォックストロットは踊っていただけないみたいですし、
くっそう、言い回しもいちいち拗らせた感じで来るなこの人、中二病的には多分大差で負けてます。いや、私自身は別に中二病重症者というわけでもないのでいいのですが、うーん、根源さんそこのところどうです?
あ、フォックストロットを踊るって言い回しはアレですね、西部劇とかで足元を銃撃されて驚いてその場で足をわたわたさせる感じのやつです。雑魚がよくやる感じの動きですね。
──対象因果律暫定代入 結果事象推定 致命因果と断定 必要魔力量の逆算・抽出開始──
それはそうと、背後のパイルバンカーから聞こえてくるアナウンスの内容が、その、おおよそ杭打ち機から流れてくる内容じゃなくて怖いんですが……。
「あの、ペネトレイターさんが言ってた『必殺技』って、もしかして本当に『必ず殺す』の方のひっさつわざだったんですか?」
「ったりめーですのよ!こんのなっげぇチャージが終わったときがアイツの最期でしてよ!」
わー、テンション高いなぁ……。
まあ、止めは彼女に任せるとして、私達は引き続きあのロボの足止めを続けるとしましょうか。
しかし、いつもの
ならどうするか……。
こうするのです!
鎌を脇に構え、私は合体ゴーレムに向かって突撃します。
走りながら、ゴーレムを撹乱していた飛剣から6本を呼び戻し……。
3対の翼として、私の背中に『装着』します。
6本の飛刃の推進力を自らのものとして急加速、私の接近に気がついたロボの叩きつけるような腕の振り下ろしを飛刃翼への魔力供給によるさらなる加速でくぐり抜け、脚部パーツに深々と傷を付けました。
そう、この7本の遠隔操作刃。私の高速機動用装備としても運用できるのです!
まあ、私を常時空に飛ばすほどの推力はありませんし、基本的には通常出力での速度増加と魔力噴射による緊急回避が主な用途ですが。
「あら、便利ですのねその魔法」
シュネーさんが反対側の足に斬撃を浴びせながら感心したように呟きました。私が走り出した時、ほぼ真横に居たんですが私の高機動モードと同じ速度で走れるんですね……。
豆知識ですが、レイピアは刺突のみの剣だと思われていますが普通に斬る能力も高い剣です。
と、両足を傷つけられてバランスが取れなくなったのか、ロボゴーレムがその場に崩れ落ちます。
倒れ込む先には追撃の為に体勢を整えていたシュネーさんが……。
危ない!と警告するよりも早く、ゴーレムが接触する寸前に霧へと姿を変えて退避するシュネーさんが見えました。
いやまあ、「吸血鬼」ですもんね、そりゃその能力もありますよね。
そして、霧となり消えた吸血鬼はゴーレムの頭上で再び像を結び……。
「ダンスは途中でしてよ。腰砕けになるにはまだ早いのではなくて!」
その真紅の刃で頭部の鳥パーツを切り落としました。
しかし、足の獣パーツは多分機動性とかが上がってたんでしょうけど、あの頭の鳥パーツには何の意味があったんでしょうか?鳥さん、実は吸収され損なのでは……?
まあ、切り落とされようが壊されようが、魔力が切れるか存在核が破壊されるまでは進化再生を続けるのが今回のこの合体ロボゴーレムです。
深く傷つけられた両足は明らかに金属感のする材質の素材に換装され、頭部の鳥パーツも龍の顔で再生されました。
あの、硬くなってそうな足はともかく、頭のデザイン面が強化されても脅威は一切増えないんですが、本気で鳥の魔物の立場が……。
再生したゴーレムは、目の前で無防備に立っていたシュネーさんへ右ストレートを叩きつけます……が。
「ごめんあそばせ、正直、芸が単純で飽きてしまいましたの」
剣と銃を収納したシュネーさんがその拳を真っ向から受け止めてしまいました。
いやいやいやいや、魔力災害から発生した上に2体の魔物を取り込んだ凶悪な魔物であるはずのゴーレムロボのパンチを受け止めるって……。
えーと、血液の武器化とコウモリ化と霧化と怪力、多分今回は無傷なので見られてないですけど再生もあるでしょうし……。
考えてみれば、伝承やらアニメやら漫画やらの吸血鬼の能力全部使える可能性があるんですもん、そりゃ夜なら世界最強とか言われますよ。
「破壊される度に強化して再生する能力、確かに強力でしてよ?でも、強化の方向が一辺倒で面白くありませんの。もう面倒なので、そのまま時間まで動かないでいてくださいますかしら?」
ぎりぎりとゴーレムロボが前傾姿勢になり力を込め続けますが、対するシュネーさんは涼しい顔でそれを押し留めています。
まあ、それでも物理法則的にすごい質量がシュネーさんの足元にかかっているわけで、その両足は足場にしていた岩を砕きながら地面にめり込んでいるわけですが。
んー、壊すと強化されるわけですし、シュネーさんが相手の動きを封じてる格好になってる現在、私のやることって無いんじゃないでしょうか?
とりあえず、
一応、私にもアレを倒す手段はあるのですが、ここで倒してしまうとペネトレイターさんからもんのすごく怒られる気がしてなりません。
というか、ぶっちゃけこれ、私必要なかった感じですよね。多分シュネーさん一人で一方的に勝っちゃうヤツです。
魔力災害を魔物として固定するのにもう一人必要だっただけで、魔物の処理だけなら例えさっきの3匹の状態で相手取ったとしてもシュネーさん一人で片付く様子が想像できる程の力量差を感じます。
──規定魔力量への充填完了 アカシックレコードへの事象刻印成功 スティンガー射出処理終了しました──
どうやら、ペネトレイトさんの『必殺技』の準備も完了した様です。
……いや待ってください、アカシックレコードへの刻印とか物理攻撃系魔法から聞こえてくる単語じゃないんですが!?
アカシックレコードっていうのはアレです。宇宙の始まりから終焉まで全ての事象の記録とされる概念事象です。つまり、逆説的にアカシックレコードへ刻まれた事象は必ず発生するということになるのです。
え?パイルバンカーですよね!?一体何が始まるんですか!?
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