第25話 ぜってぇぶっ殺す一撃
パイルバンカーとは、射出機に固定された杭などの刺突機構を「対象に突き刺した後」に炸薬等で射出し対象の内部に重大なダメージを与える「という名目」で運用される実在しない兵器です。
というか、ぶっちゃけ杭を刺せる推力が確保出来てるなら杭自体を発射した後に爆発させてしまったほうが構造も取り回しも破壊力もパイルバンカーと呼ばれる兵器を上回ってしまうのです。
では、なぜそんな兵器が空想の上とは言え存在して、確固たる存在感を放っているのか……。
答えは単純です。
『かっこいいから』
そう、あのロマンの詰まった杭打機はとてもかっこいいのです。
その、かっこいいだけで実用性の無いはずの武器が頭のおかしい文字列を宣言しながら光を放ちました。
アカシックレコードへ敵の撃破を記述完了してから攻撃する、なるほど、確かに問答無用の『必殺技』です。
なにせ、攻撃する前の段階で既に敵の撃破が確定しているわけですから。
防ぐためにはより強力な魔力でアカシックレコードの記述自体を改変するか、もしくは記録に支配されない別の宇宙に逃げ出す以外に手はありません。
作劇の都合で当たらない必中必殺の槍や、必殺ではあるけど反射されたり弾かれ続けた消滅呪文よりやっかいな原理です。
名前を書くと死ぬノートが一番近い状況でしょうか?「この場面で杭打機に刺されて死ぬ」と書かれた時点で死は避けられません。
必ず撃破できる攻撃なのですから、あとは魔力根源的に自分の内より湧き上がってくる衝動をそのまま表現する攻撃が一番消費が少ないでしょう。
なるほど、形状、効果共に理に叶っています。多分。
「エネルギー充填完了でしてよ。さあ、どブッ放しますわよ!射線上のお嬢様方は退避しやがれですわ!」
ペネトレイターさんがソレを腰だめに構えると、その後部から青白い炎が吹き出しました。
……いや、待ってください。あのとっつき、ペネトレイターさんが取り出したときは身長よりちょっと大きいぐらいのサイズだったと記憶してるのですが、明らかに巨大化してませんか?
太さ長さ共に二倍強といったところでしょうか?青い炎の尾を引いて加速するそのロマン兵器にペネトレイターさんが付属品としてくっついるように見えます。
まあ、恐らく「刺されたら倒される」という条件を満たすために武器のほうが可変するのでしょう。
小さな針でつつかれて吸血鬼が死んだ、よりは胸を白木の杭で貫かれて吸血鬼が死んだ、のほうがアカシックレコードにアクセスする必要魔力は少ないはずです。
ならば、元のサイズのパイルをぶちこまれて倒されるという記述をする魔力より、パイルバンカー自体を巨大化させる魔力のほうが消費が少なければそうなるようになっているのではないでしょうか?
合体ロボゴーレムの魔物も流石に気がついたようで、そちらに顔を向けますが、両腕をシュネーさんに抑えられていて身動きが取れません。
「
さらに、地中から生えた無数の銀針が魔物ロボをその場に縫い付けます。
違いますね、針ではないです。よく見ると細かい螺旋が刻まれているのが確認できます。アレは工業用ドリルというやつでは……?
三角錐でギュンギュン回って何でも砕くドリルとは別物扱いなのでしょうか?
魔物を拘束したペネトレイトさんと巨大パイルバンカーは空中へ舞い上がり、その直上から大気を裂いて急降下。
「ぶっ喰らいやがってくださいまし!」
青い魔力の炎と重力加速、2つの推進力で加速した一撃が巨人の頭を胴体に陥没させる勢いで貫き……。
「
耳を
後に残るのは、存在の核を破壊されて徐々に塵に帰っていく岩の魔物と、完璧なドヤ顔で最初のサイズに戻ったパイルバンカーを天に掲げるペネトレイターさんの姿。
いや、アレは気持ちいいでしょうねぇ……。と思わず感心するほどの一撃でした。
そして、役目を終えて光の粒子となって消えるパイルバンカーと……。
魔力を失って変身が解除されていくペネトレイターさんの姿。
意外や意外、変身が解除された姿は長い黒髪ストレートで女性用のスーツををきちっと着こなした真面目そうなお姉さんでした。いや、私の中の人よりは当然歳下なのですが。
大学生……かなぁ?
「あら、やっぱり強敵ではありましたのね」
それを見て納得したように頷くシュネーさん。
どういうことです?
「あの
で、そこまでチャージされたアレをぶっ放した後は当然魔力を全部食われちまった後ですのでこうやって変身解除されてしまうというわけですのよ。ちなみに、今回はだいぶ豪快に持っていきやがったので回復まで一週間ちょいかかりやがりますわ」
「でしょうね。あの面白可笑しい合体ゴーレム、今回はとても相性の良い即死魔法の使い手が居ましたのであっさりと処理する事が出来ましたけれど、本来なら破壊されるとその部位が強化・再生されるという特性を持った魔物を、相手が再生する魔力が尽きるまで破壊し続ける、なんて酷く効率の悪い作業を延々と繰り返す羽目になっていたかもしれませんのよ。
それも、夜の間に片が付くならまだ私一人で対処致しますけれど、夜明けまでかかるようならどれだけの戦力が必要になっていたのか……」
なるほど、確かにペネトレイターさんの撃破フラグを全無視して問答無用で死をお届けするパイルバンカーが無ければ再生コストが払えなくなるまでアレを倒し続けなければならなかったわけですか。
いや普通にめちゃめちゃ強敵じゃないですか、なるほど、それを全部無視して倒すのですから一週間分の魔力が必要というのも納得がいくというものです。
まあしかし、今回の問題はソレではなく……。
「でも、今回に関してはそこより重要な点がありますよね。そもそも、魔力災害の処理に向かった現場になぜ、突然2体もの魔物が出現したのか……」
合体ロボやら即死パイルバンカーやらの印象で正直ちょっと忘れかけていましたが、本来は人間の思念を受けて出現する魔物がこんな山中に2体も現れたのはいくらなんでもおかしいです。
一度「狩り」が成功して異界へ女性を連れ去った魔物の再出現ならありえなくもないですが、それでも出現の目的は新たな獲物の狩猟ですし、やはりこんな場所に現れる必要がありません。
しかし、ここに「この機会を選んで魔物が現れた」と考えるなら辻褄が合います。
魔法少女は一般の魔力保有女性より遥かに豊富な魔力を持ち、魔物の獲物としてはとても魅力的です。しかし、こと日本においては様々なサポート体制の確立により、自然現象として現れた魔物が魔法少女を異界に拐う事ができる機会は滅多にありません。
ただ、「意思を持ち、思考する魔物が作戦を立てて」魔物を出現させたなら話は別です。
そう、今回のように……。
魔物や魔力災害の処理は、それらが知能を持たないことを前提のマニュアルで処理されてきました。
魔物に対しては、外見や行動などの特徴から特性を判断し、相性の良いと考えられる魔法少女を転送する、倒しきれなければ1時間後に別の魔法少女を増援に送る。
魔力災害に対しては、2人以上の魔法少女を送り込み、その思念で現出する魔物の特性をコントロールし、処理する。
ずっと同じ手段で対処されてきたのです。ここに、思考する魔物が現れたとするならば……。
対処が間に合わない速度で連続して魔物を出現させる事や、2人で処理しに来る現場に3体の魔物を送り込んで戦力的優位に立つ……事を考えてくるでしょう。
実際、私が
そして、今回も私がやってきてペネトレイターさんと一緒に合体ロボなんて想像しなかったら魔力災害の魔物とその他2体の魔物を2人で同時に対処しなければなりませんでした。
これはもう、明確に魔物に指揮者が居ると考えておかしくないでしょう。
となれば、これは大問題です。なにせ、今までのマニュアルが逆用されて相手有利の戦場が作られてしまう可能性があるわけですから。
「これは……流石に問題でしてよ。夜は良いでしょう。私が居ますもの、私に倒せない魔物はおりませんので問題はありませんわ。万が一、倒せない魔物が現れても如何にようにも逃げる手段はございますし?
でも、相性が良いと送り出した魔法少女の元に全く逆の性質を持った魔物が現れても可笑しくない状況になってしまったと言うのはかなり良くない展開なのではないかしら……」
「確かに、こいつぁちょっとやべーですわね……」
でもまあ、ここ数日で連続して大量の魔物を送り込んで全部撃破されてますし、直ぐに大きなアクションは無いでしょう。多分。きっと……。
「まあ、対策は魔生対の偉い人に任せてしまいましょう。私もできる限り現場で手伝いますし、相手も連続して失敗してるわけですからしばらくは大丈夫ですよ」
漠然とした不安を抱えながら、夜は更けていきました。
外見年齢はともかく、中身アラサーの大人としてはなんとかみんなを守りきりたいところです。
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