第22話 魔力災害の対処法
「魔力災害ってーのは、「ゆらぎ」に一定以上の魔力が溜まってかつ、魔力に方向性を与える人間の存在しない場合に発生するヤツですわね。「ゆらぎ」は魔力を延々と集め続ける性質もありやがるので、方向性を与えて魔物化しないと無限に魔力を溜め込んでいくことになりますわ」
「それが空間の許容量を超えてしまうと、「ゆらぎ」に閉じ込めきれなくなった「魔物の性質を持つ魔力」が恐ろしいほど広範囲にばらまかれてしまいますの。「魔物の性質を持った魔力」は、普段の魔物程度の魔力であれば電波を妨害する程度で済むのですけれど、高濃度になると電子機器自体に損傷を与えてしまう。それを防ぐのが今回の私達のお仕事になるかしら?」
いや、魔力災害については図書館で調べたので知っているのですが……。
確か、一番大きな被害を出したのがアメリカの山中で発生したケースで、発生した州全域でパソコンやスマートフォン、更に言うなら固定電話から洗濯機までありとあらゆる電子機器が停止。
そのうえで、前日からの大量の降雪で交通機能が麻痺していたため、電子機器の停止で発生した様々な二次災害をどこにも伝えられないまま状況が悪化し多数の死者を出したとかなんとか……。
そんな魔力災害という現象に3人でどうやって対処するというのでしょう?
「ああ、ごめんあそばせ。知りたいのは対処の方法についてだったのかしら?」
「はい、破壊したらなんか、結局周囲に魔力をばらまきそうですし、どう処理するのかなって……」
吸血鬼の魔法少女、シュネーさんは気遣いが上手いのか私の表情を読んで的確に話を進めてくれますね……。
「簡単ですわ。方向性が決まらないから魔物になれねーんでしたら、方向性を与えて魔物になってもらってから処理しちまえばいーんですわよ」
豊かな胸をばばーんと張って、楽しそうに笑うペネトレイターさん。
え?何ですかその脳筋対処。
あ、でも魔物を現出させるきっかけになる思念を選べるって事になるんですよね?なら、居合わせる魔法少女にとって相性のいい魔物を選べるわけで、存外良い対処法なの……でしょうか?
「ペネトレイターがいらっしゃるのですから、硬くて遅い魔物が良いのでしょう?存分に穿てますものね。岩の魔物なんて如何?」
「いいじゃねーですか、まかせろですわ。もれなく全身穴だらけの前衛芸術にしたてあげてぶっ壊してやりますわ」
岩、岩ですか……。
いや、私は妨害に徹して火力は張り切ってらっしゃるペネトレイターさんにおまかせしたほうがいいんじゃないですかね。
吸収が通るなら
「セヴンスさんも異論は無いようですし、では、日付が変わる前に片付けると致しましょうか」
まあ、そういう事になりました。
山中の工事現場を十数分ほど進むと、遠くにそれらしき魔力の塊が見えてきました。
黒く歪んだ、形の定まらない半透明で不気味な裂け目とでも表現すればいいのでしょうか?
「そこそこでけーですわね」
「まあ、今日は3人で事に当たれるのですから気楽に構えてよろしいのではなくって?」
始めての魔力災害を目にして緊張している私に対して、魔法少女2人は終始お気楽な会話を続けています。
魔力量としては、多分初日に相手をしたクラゲの8~9倍の魔力量でしょうか?結構強かった落下の魔物の3倍ぐらい。
最強の魔法少女(夜間限定)である吸血鬼さんでも特性次第では相当苦戦しそうな魔力量だと思うんですけどね。
「さて、この辺りが思念に反応する境界なんじゃねーかと思いますわ。多分」
おもむろに、お二人が足を止めました。
確かに、ここから先に空気の違いというか、なんというのでしょう、活性魔力の濃さの違いとかなんでしょうか?圧力を感じます。
「では、セヴンスさん。岩に関する怖い話などを思い浮かべながら近づいてくださいまし?落石や子供の頃に石で怪我した思い出とかございましたらそれで」
「なんだったらゲームとかで岩が強かったり邪魔だったりして嫌な思いをした事でもいーんですわよ。通路塞いでたり邪魔なことが多いと思いますわ。」
ああ、フラグ建てるまで消えない、なんか邪魔な岩が設置してあることありますよね、卵を拾うと急に生えてくる岩とか。あと、あからさまに設置してある入口の階段上の岩に押しつぶされて仲間が死ぬイベントとか。
最初に火属性のトカゲを選択してしまったために苦戦する岩タイプのジムのアレとか、自爆呪文で急に全滅の危機を発生させてくる岩モンスターとか。
おっといけません。やっかいな岩を想像してしまうと魔物にその能力が備わってしまうかもしれないのでなるべく無害な岩で邪魔な岩を想像しなくてはですね。
「はい、準備できました。行きましょう」
動きは遅いけれどやたらと頑丈でめんどくさいゴーレムっぽいものでも思い浮かべながら行きましょう。
理不尽に岩へのヘイトをためつつ、3人で魔力災害の元へ向かいます。
道中で聞いた話ですが、魔法少女の思念には魔力が乗るので魔物の方向性に影響を与えやすいらしく、普通の方が同じように狙った魔物を現出させるためには数十人規模で同じ脅威を想像しないと無理なんだとか。
まあ、それでもやっかいな思想を持つ集団が魔力災害を利用して都合のいい魔物を生み出すのを避けるため、この対処法は一応秘密らしいです。
私達が近づくに連れて黒い魔力の裂け目は変形し、実体を取り始め……。
薄っすらと岩石がゴーレムっぽい人型を取り始めた時でしょうか。急に、魔力災害の側で別の空間の歪みが発生しました。
「魔物の出現前兆?なんだってこんな時に起きやがるのです?ってーか、魔力災害が発生するほどの山ん中ですわよ?ありえねーでしょう!?」
魔力災害の対処へ派遣される魔法少女を狙ったかのような魔物の発生。しかも「ゆらぎ」が魔物の形態に受肉出来ないほど思念の薄い山中で。
先日の連続発生もそうですが、明らかに魔物側の行動に何かしらの意思を感じざるをえません。
更に、異常事態は加速します。
空間の歪みから姿を表すのは「2体」の魔物。
メタリックな輝きの毛並みを持つ青い肉食四足哺乳類の魔物。形状的にジャガーが近いでしょうか?
そして、もう1体は熱を発しているのか赤熱する翼を持つ朱の猛禽。
「なあに?連続発生の次は同時発生?アポイントメント無しでのご来場は歓迎致しませんのに」
3体を相手にする状況になってなお、吸血鬼の魔法少女はドレスを翻し不敵に微笑みました。
くっそぅ、ナチュラルエレガント中二病かっこいいなぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます