第21話 金のドリルと吸血鬼

 結局、あの後も魔物は出現し続け、最終的に13体の魔物が処理されました。

 組み上げた防衛システムの許容量を上回る魔物の襲撃に、流石に全く被害を出さず……とは行かず、合計で4人の一般女性が魔物に拐われてしまいました。

 魔法少女達にも何人か怪我を負った子が出たのですが、治癒の魔法に覚醒めたメリクリさんが一日で全員治してしまいました。

 なお、治癒の魔法の件でメリクリさんは即日本部所属となり、転送の魔法少女と同じく本部常駐の特別枠の魔法少女となるそうです。


 また、民間人に被害が出たことによる非難は魔生対や魔法少女には向かず、魔物にシェルターを破壊されての被害だったこともあり、避難設備を整備した自治体や、未だに魔法少女に頼らなければ魔物に干渉することすら出来ない研究者などに大半が向かいました。

 まあ、終盤の、見るからに疲労困憊の様子で魔物との戦いに向かう魔法少女の戦闘映像を見て、あえて批判する人は少ないはずです。


 私自身は無傷で凌ぎきったとは言え、最後の4体目との戦闘では流石に疲れて、策も何もないあらん限りの無限の縛糸グレイプニールでの拘束からの吸魂の雷刃ストームブリンガーで吸い殺しました。アレが通る相手で良かったです。


 ……そう言えば、私が傷を負った場合ってどうなるのでしょう?ちゃんと傷は治るのか、そもそも出血等自然な反応をするのか等、不安な点が多々あります。

 ここは一度軽い切り傷でも作って実験するべきでしょうか……?

 いや、毎日一緒にお風呂に入ってくる理珠さんの目から傷口を隠せそうに無い気がします。些細な指の切り傷すら問い詰められそうな予感がしますし、やめておきましょう。

 色々聞きたいことが出てきましたし、そろそろイツァナグイに会いたいですね。

 こちらからコンタクトを取る方法が無いのがもどかしいところです。


 ちなみに、翌日からは魔物の出現頻度は従来の頻度に落ち着きました。

 アレが連日続いたりしなくて本当に良かったです。

 連続出現から5日が経過しましたが、理珠さんは毎日実家に帰ってきて私にお風呂と寝室のシェアを要求してきます。

 本部まで通勤1時間以上かかるはずなんですが、色々周りに迷惑かけてらっしゃったりしないでしょうか?あ、お嬢様は毎日帰宅してくれたほうが家の者としては嬉しい?なるほど。

 しかし、私が魔法少女ゾンビになって半月とちょっと。生き返るまでどれぐらいかかるのでしょうかね?


 さて、その翌日の宵の口辺りの頃です。

 理珠さんは夕方に魔物の処理に参加した絡みでまだ帰宅していません。

 私がパソコンでオタクのライフワークをこなしている時に、割と近場で強力な魔力の反応を感知しました。

 というか、私これ何の魔法も使ってないんですけど、誰よりも早くどこで魔物が発生したか察知できるんですが何なんでしょうね?最初は魔法少女の基本性能みたいに思ってたんですが、理珠さんとか現場で出会った魔法少女の子とかにさらっと話してみても、把握できる範囲は目の届く範囲が限界とかって話でしたし……。

 イツァナグイが私をゾンビ化する時に、魔物を効率よく討伐できるように組み込んだ何かなんでしょうか?


 まあ、感知してしまった以上現場に向かわないという選択肢は私にはありません。

 ただ、魔物が出現した感じじゃないんですよねぇ……。

 疑問に思いながらも、戦闘法衣バトルドレス を纏い、影に潜りました。

 

 魔力を頼りに影を移動して、到着したのは山の中でした。

 何かの施設を建てる予定で頓挫したのでしょうか?切り開かれてむき出しになった地面に、中途半端に組み上がった錆びてボロボロの骨組みがあちこちに見えます。

 ……これ、特撮とかの撮影現場に超向いてる場所じゃないでしょうか?というか、絶対コレ撮影に使われてますよね。またあの場所かぁってなるヤツです。


 と、私が現場に到着したのとほぼ同時に、眼の前の空間に無数のコウモリが集まり、人の姿を取りました。

 現れたのは寒気がするほどの魔力をまとった、小柄な少女でした。

 いや、小柄と言っても私よりは身長ありそうですけど。

 ショートボブの銀髪に、私のゴスロリとは違うシンプルながらも優雅さを具現化したようなナイトドレス、黄金の右目と真紅の左目、そして、挑発的な笑みを浮かべる口の端から除く長い犬歯……。

 ああ、なるほど、彼女が『夜間であれば世界最強』とも噂される「吸血鬼」の魔法少女、シュネーヴァンピーアでしょうか。

 ……いや、銀髪に虹彩異色症ヘテロクロミアにドレスってキャラ被り過ぎじゃないですか!?

 まあ、吸血鬼属性とか中二病の最たるモノなので、ソレを体現した魔法少女なら外見が似るのもなんかしょうがない気もしますが。


 「ごきげんよう、良い夜ですね。初めまして、魔女セヴンスさん」

 柔らかく微笑みながら、シュネーヴァンピーアさんは見惚れるほど綺麗なカーテシーを披露しました。

 ……なるほど、きっと彼女はナチュラルにキザな言動ができる、私みたいな意図してカッコつける必要がない人種です。多分。

 「ドーモ、初めまして、シュネーヴァンピーアさん。セヴンスです」

 なんか気の利いたことを言おうとしたら忍者が出て殺しそうな返しになってしまいました。

 いや、だって本物相手にどう返礼してもかっこよくなるヴィジョンがみえなかったんですからしょうがないじゃないですか!そりゃ動揺もしますよ!


 「噂通り面白い方のようね。この先に用があるのだと思うのだけれど、今日はもう一人来る予定になっているの。少し待ってくださる?」

 「ふむ、どなたがいらっしゃるんですか?」

 私の問いかけに、シュネーヴァンピーアさんは少し首を傾けながら上品に笑って

 「面白い子よ。面白くて、とてもめんどくさいの」

 と、楽しそうに答えてくれました。


 「人のことをめんどくさいとか言えた義理じゃねーのですわ貴方。鏡とか見たことございませんの?あ、映らねーんでしたっけ?」

 ふと聞こえた、ガラの悪いお嬢様言葉とかいう耳慣れない口調に視線を向けると、空間の裂け目から一人の鎧付きのドレスと表現すれば良いのでしょうか?胸甲や肩当てなどの金属パーツが多数付属した白いドレスの魔法少女が飛び出してきました。

 ちなみに、スカートは内側に骨組みクリノリンアリの大ボリュームです。

 しかし、なんと表現すればよいのでしょう。

 それは、豪奢なボリュームのある金髪で。

 それは、全てが美しい螺旋を描き。

 そう、それは完璧なまでにドリルでした。


 「あら、お初にお目にかかりますわ魔女セヴンスさん。ワタクシは穿貫の魔法少女。デア・ペネトレイターと読んでいただけますこと?」

 どこからか取り出した扇子をぶぁさっと広げ、高笑いを始める金髪縦ロールの魔法少女。


 「ふむ?貴方の魔法名はスティンガー・ドリルではなかったのかしら?」

 私が挨拶を口にするより早く、吸血鬼さんのツッコミが入ります。

 ……でも、新聞とかだと普通にデア・ペネトレイターさんで載ってた気がするのですが?


 「はぁ?ワタクシがドリルを名乗るなんて烏滸がましいにも程があるってんですわ。いいですの?ドリルってのは、円錐形でギュンギュン回って如何なるものも砕き散らす無敵の武器でしてよ?

 ワタクシの使えるアレをドリルなんて呼べるわけねーんですわ」

 ……謎のドリル信仰が飛び出しました。いや、確かにかっこいいですけどねドリル。二重螺旋構造のDNAを持っている以上、ドリルをかっこよく思うのは地球の生命体の本能ですからしょうがないです。


 ふんすふんすと鼻息を荒くしているペネトレイターさんを尻目に、吸血鬼さんが解説していただけました。

 どうにも、以前はギュンギュン回る円錐形のドリルを武器とする魔法を使っていたらしいのですが、全力を出しても貫けない魔物と遭遇して、自分のドリルはドリルたり得ないと絶望しての改名&魔法のスタイル変更があったそうで……。

 あー、信念が強すぎて不器用な方なんですね。嫌いじゃないです。


 「魔女セヴンスです。よろしくお願いしますデア・ペネトレイターさん。自分の魔法では理想に届かないと、努力を重ねる貴方の信念を私はとても素敵だと思います。というかドリルかっこいいですものね!」

 私の言葉に、ペネトレイターさんは驚いたように目を見開いて固まってしまいました。

 ああ、自分のこだわりを肯定してくれる人が周囲に居なかった感じですね。他人にとってはどうでもいいことが自分のいちばん大切な要素だったりすること、実はよくありますからね。わかりますとも。

 私の学生時代の黒歴史とか、そういうこだわりの塊ですからね。


 「顔合わせも済んだところで、今日の目標へと向かうことに致しません?」

 おっとそうでした、普段と違う強力な魔力の反応があったのでした。

 「そうですね、そうしましょう。ところで、人の居ないところには魔物は発生しないと思っていたのですが、この先にある魔力反応って一体何なんでしょうか?」

 「ああ、セヴンスさんが活動を始めてからアレが出るのって始めてでしたわね。そりゃ、人里離れたところに魔物の姿を決定する人間の思念なんてねーんですから魔物じゃねーんですわ」

 魔物ではない?ではあの巨大な魔力反応はなんなのでしょうか?

 「ふふっ、魔生対の正式名称を覚えていらっしゃいます?『魔力災害および不明現象生物特設対策本部』。不明現象生物は魔物のこと、では、魔物ではない私達が今から処理に向かうモノが何か、答えは簡単でしょう?」


 『魔力災害』


 魔物に依らず発生する、魔力に寄って広範囲に様々な被害をもたらす現象は、そう表現されます。

 なるほど?え?3人で対処できるようなものなんですか?


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