第18話 魔物の7割は触手が生えてる
今日も今日とて魔物から魔力を吸収するために現着すると、先着した理珠さんが場を固めた後でした。
今回の魔物は両手両足の代わりに触手の生えた亀ですね。
……なんであんなに触手率高いんですかね魔物って、体感7割ぐらい触手生えてるんですよアイツら。
で、所謂勝ちパターンに入ってる感じですね。
理珠さんは藤棚の中から一方的に弓を放ち、亀の魔物はそれがどこから着弾してるのかも理解できずに四肢の触手だけ失っていく感じです。
というか、すごいんですよ理珠さんの弓。
あれ、藤の木で出来た矢らしいんですけど、射出した後思い通りに動くらしいんですよ。しかも命中するまでずっと。
射程は相手が見えている限りで、矢の飛翔時間は理珠さんの魔力が尽きるまで、だそうです。
理珠さんの実家の弓術、役に立ってますそれ?
しかし、絶対に発見されないスナイパーが、絶対に命中する射撃をしてくるなんて相手からしたら悪夢以外の何物でもないですね。
んー、でも……。
「硬そうな相手ですね。お手伝いいります?」
返答代わりに、理珠さんの白い指が普段より太く長い矢を放ちます。
静寂の魔法が付与されているのか、無音で飛翔した矢は伏せた亀の甲羅に突き刺さり……。
「お願いしてよろしいでしょうか?この通り、刺さりはするのですが効果は薄いようなのです」
突き刺さったは良いのですが、甲羅が分厚いのかそれを貫通できずに停止しました。
「継矢が叶えば多少はダメージが入りそうなのですが、狙ってやるのは神経を使いますので……。セヴンス様に何か有効な攻撃があれば代わりに仕留めていただきたく存じます」
最初の頃に比べ、声音がかなり親しげになった理珠さんが困ったように眉を寄せました。
あ、継矢っていうのはアレです。刺さった矢に更に矢を刺して深く突き刺していくみたいな超絶技巧です。
いくら誘導が出来ると言ってもソレで致命傷になるまで傷を与え続けるのは、それは精神を削るでしょうしねぇ……。
しかし、やっぱり亀といったら装甲特化ですよね……。上から踏んだら倒せたりしないでしょうか?ヒゲを生やしたイタリア人男性じゃないと無理ですかね?
「とりあえず、やってみますね」
理珠さんの藤棚が私の存在を完全に隠しているので、特に気負いもせずとりあえず、で亀にワイヤーを巻き付けて黒雷を流します……が。
亀に到達する前に
「魔力減衰能力の高い魔物ですか。稀に出現するのですが、実体化した肉体も硬いというのはなかなかに厄介な組み合わせですね」
「こういう相手の担当って、鬼巫女さんとか、穿貫さんとかでしたっけ?」
魔法少女データベースサイト曰く、パワーが高くて頑丈な相手が得意な魔法少女さんだそうです。まあ、この2人にはまだ会ったことがないのですが。
「そうですね。普段なら硬そうな相手とならば穿貫、デア・ペネトレイターが真っ先に手をあげるのですが、本日は休暇を取っておりましたので……」
ちなみに、鬼さんは日本の3人のエースの一人で近接戦闘と継戦能力最強だそうです。
「それで、如何しましょう?セヴンス様に手が無いならわたくしが継矢を繰り返してダメージを与えてみますが……?」
む、これは私の魔法がワイヤーと雷と影移動しかないとか思ってる顔です?
中二病患者舐めんなですよ。『セヴンスジョーカー』なんて魔法少女名が付いてるんですから、名前にちなんで切り札を7枚は持たなきゃ嘘です。
装甲が固くて魔法が通らない?いえいえ、対策はいくらでも思いつきますとも。
例えば、中二病的には防御を貫通する一点突破の超威力攻撃か、もしくは……。
「装甲が邪魔なら、装甲を無視すればいいじゃないですか。まあ、任せてください」
そう、装甲が硬い相手なら、それが役に立たない攻撃をすれば良いのです。好戦的に微笑んで、掌を天に掲げます。
イメージするのは何者にも傷つけられないとされた神を殺した槍、誓いを逃れた一本の
「
黒く、細い、禍々しい枝が幾本も絡み合い、細く長い槍を形成します。
これが、高防御の相手用に作った魔法、中二病的なおしゃれ防御無視攻撃!
攻撃能力の発現に魔力リソースを割り振りすぎて投擲武器なのに誘導性能とか一切つけられなかったので地味に使いづらいのですが……。
槍に魔力を通し、亀に向かって射出します。流石に、亀の魔物相手に外すほど低い命中精度ではないのです。
甲羅を貫通するように着弾、しかし、亀の魔物は己に刺さった槍に何のリアクションも見せません。
なぜならば、あの槍は姿こそ確認できますが、半分だけ別の次元にズレて存在しているのです。現段階ではこの次元の物質には一切干渉しませんし、魔力反応すら無いので、実は私以外認識できてない可能性があります。
ですが……。
『
私の宣言と同時に実体化します。
元の次元に戻った槍は、その存在と重なる部分を「押しのけて」現出。
別次元からの強制的で悪質な「割り込み」に、ただ硬いという装甲は意味をなしません。
そして、実体化した樹槍は食らいついた獲物の魔力を使って無数の枝を伸ばします。刺さりきったその体内で。
結果……。
聞くに堪えない悲鳴を響かせながら身体の内側から無数の黒い枝を生やし、魔物は奇怪なオブジェと化して絶命しました。
……いや、ここまでエグい見た目になるのは想像してなかったので自分で使っておいてドン引きです。
「うっわエグっ……」
「えっ!?」
コレを実行しておいてそんなことを呟いた私に、理珠さんも間の抜けた声を漏らします。
「あ、いや、この魔法を作った時にここまでヤバい見た目になるとは思って無くてですね……」
口から目から、穴という穴から木の枝を生やして血みどろオブジェとなった魔物を見ながら言い訳しますが、返ってくるのは冷たい視線だけでした。
あ、槍引っ込めればいいだけじゃないですか。
「セヴンス様?魔物は倒せるのが一番ですが、わたくし達の戦闘は映像が公開されるのです。あまり見た目のよろしくない攻撃は控えたほうがよろしいかと存じます。結構ネットで話題にされるのですよ……」
存在が崩壊し、風に溶ける魔物を眺めながら理珠さんが疲れたようにこぼします。
あ、これ誰か頻繁にやらかしてる人が居る感じですね……。
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